5.出会い
(前回のつづき)
……冷たい風が吹きつけるその顔は、孤独や不安、悲しみでかたまっていた。
紀彦は、カナウに声をかけた。同僚が、手続きを終えるまでの暇つぶしだった。
彼は
「こんにちは」
と、いってみた。返事は期待していなかった。そんな雰囲気でなかったからだ。
ーが、予想に反して
「こんにちは」
と、カナウは返してきた。
そして、不思議そうに紀彦を見た。彼は「おや」とカナウの顔をのぞき込んだ。近くで見ると、顔が日本人離れしていた。ほりが深く、瞳の色はブルーだった。よく通販の写真でみかける、外国人モデルのような女の子だった。
これが彼の第一印象だった。あとで聞いたことだが、この地方にはむかし、ヨーロッパからわたり住んだ人たちが居住していたらしい。この地方から、ヨーロッパへの使節団も派遣されていたそうだ。
中にはーほんとうかどうか不明であるが、 15~17世紀ヨーロッパ中で吹き荒れていた、魔女狩りの嵐をさけて、日本に流れ着いた家族もいるとか、いないとか……
ただ、江戸時代の初期、外国人の家族が暮らしていたのは間違いなく、カナウはその人たちの子孫ということになる。紀彦は支援活動のさい中、カナウ以外に、外国人っぽい顔をした人たちをよく見かけた。
それから、紀彦とカナウとの交流が始まった。次に会った時、彼女は紀彦を見ると、わずかだがほほ笑んだ。去り際には、手を振ってくれた。紀彦はカナウの隣に腰かけて、話をした。
カナウはほんの少し、家族のことを話した。
その次に来たときは、カナウから彼に近づいてきた。そして、小さい手でそっと彼の手をつかんだ。紀彦はカナウと仲良くなった。紀彦は、カナウに対して自然と情が沸いた。彼は、一緒に来ている同僚に内緒で、カナウにお菓子とかあんパンなどを渡した。彼の個人的な好意だった。
休日は、ボランティア活動をするふりをして、カナウに会いに行った。カナウは、彼を見ると顔を輝かせて、飛びついてきた。 ただ、少しこれはまずいなと思って、同僚にはカナウと仲良くなったことを話した。
カナウを世話しているボランティアや行政の人たちにも、そのことを伝えた。
「……よかった。カナウちゃん、食が細くて心配していたんです」
と、素直に感謝された。
―どうか、もっと声かけしてあげてください。きっと、彼女さびしかったんですよ と。
3ヶ月の派遣期間が終わって、紀彦が帰るときがきた。カナウは目に涙をいっぱいためて、自分を一緒に連れて行ってくれと、彼に頼んだ。カナウの親類縁者からの連絡は、相変わらずなかった。行政の方でも、手を尽くして探してくれているようだったが、芳しくなかった。
カナウは紀彦の手を握って、今がだめなら、いつか必ず迎えに来てほしいと、いった。紀彦も彼女と離れがたく、もし、カナウちゃんの親戚が見つからなかったら、迎えに行くよと、約束した。ふたりは、指切りをして再会を誓った。
別れ際ー。紀彦は、自分の連絡先を記入したメモを、カナウと彼女のお世話をしているボランティアに手渡した。ふたりは、南北に別れ別れになった。
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紀彦は長期休暇の都度、カナウに会いに行った。結局、カナウの親類縁者は誰も名乗りを上げず、彼女は施設へと引き取られた。カナウが10歳になった年、紀彦は、行政に申請して、正式な手続きを経て、カナウの里親になった。
彼の両親は、息子の無謀さにあきれ強く反対したが、彼の決心が揺るがないのを知るとしぶしぶ了承した。紀彦は、カナウをき取って、ふたりで暮らし始めた。会社へも、里親になった旨を報告し、彼女を扶養親族扱いにしてもらった。
紀彦は、シングルファーザーになった。
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それから、さらに5年が経過した。
紀彦が所属する部署内ではー。彼が、震災で孤児になったカナウを養育していることを、ほとんどの人が知っている。近所の人たちは、カナウを紀彦の実の子供だと思っている。―仲のいい親子だと。
スマホに『たまとり』よけのお守りをぶら下げた時、そのカナウが声をたてて笑った。
「紀彦ったら、ばかみたい」
カナウは、彼を名前で呼んでいた。そんな間柄だった。
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