3.転職のすすめ
(前回のつづき)
「どんな「おまけ」もっているのかー、わたしにゃあ、わからないけどね」
と、そっけなくいったーあと、彼は、いきなり紀彦に転職をすすめてきた。
「このままじゃあ、やばいよ。あんた、今すぐ仕事辞めて、山伏になったらいいよ。そしたら、世の『たまとり』たちから逃れられるよ。その道の修行が必要だけどー」
―えっ、あのほら貝を吹いている白装束のテングになるの……
紀彦は、あからさまに迷惑そうな顔をした。
「ちょっとちがうけど。それなりに鍛錬して、徳を積みあげる。そう、修験者だよ」
「はあ。それは、ちょっとー、ムリかも」
紀彦は、気のない返事をした。今の仕事を辞める気はない。
辞められない理由がある。
それに、肉襦袢一枚で滝に打たれる気もない。
ーが、風水師は、お構いなしにつづける。
「山伏がいやならー、あんた祈祷師とか、お祓い師のようなことやった方がいいよ」
「えっ、祈祷師ですか」
風水師はうなずいて、小さい子供をおびえさせるように、両手をふりあげた。
「これからー、あんたんとこに『たまとり』がやってくるよ~」
「『たまとり』がくると、ヤバいですか」
紀彦は、知っていて訊ねた。風水師は、なぜか嬉しそうに応える。
「きけんも危険。なんたって『たまとり』は、人間じゃないからね」
ーそう、彼らは出戻り人間だ。人の姿はしているが、いったん物の怪(怨霊)になった後、また人の姿に戻ってきた化け物(怪物)である。彼らは、物の怪だったころの名残で、とんでもない術や技がつかえる。どんな技・術がつかえるかは、それぞれ『たまとり』によって異なるがー。
その主な使い道は、『もちぬし』や人の魂をうばうことだ。
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『たまとり』は、生き永らえる糧として、人の魂や生気・精気エナジーをうばう。
特に、『もちぬし』の魂は、大変貴重だ。苦労して、大勢の人間を狩らなくても、『もちぬし』の魂ひとつで、『たまとり』百年間の寿命を保ち、技・術が使い放題になる。『もちぬし』は、一粒で百箱分みたいな扱いなのだ。
故に、古来より『たまとり』は、いろいろなネットワークをつかって 『もちぬし』をさがしてきた。現代ではパソコンやスマホが、メインのメソッドになりつつある。ーといっても、『もちぬし』はめったに見つからない。希少種なのだ。
『もちぬし』にこだわらずー。自身の技や術を使い、平和的かつ効率的に、人々からエナジーを得る。ー合法的な商売を、やっている『たまとり』がいる。
……よく見かけるのがー
スピリチュアルな道場をつくって信者を集め、信者の皆様から生気・精気を徴収する。 なんでもやります的な便利屋を開業してー。お客のとんでも依頼を請け負い、その報酬としてエナジーを受け取る。 そのほか、占い師やカウンセラーなどの職業もある。
これらの場合、信者やお客には、生気・精気をもらうと、あからさまに伝えていない。口八丁手八丁でまるめこんで、気づかれないようにいただいている、というのがほとんどである。
その一方で、昔ながらのやり方でー
作為的に人間を襲い、無理やり魂を奪う『たまとり』も多い。この場合ー、暴行罪として、刑事事件になり、警察機構が介入してくるーことになる。
しかし、捜査の結果、犯罪が『たまとり』の仕業とわかっても、彼らが検挙されることは…ほとんどない。そして、『もちぬし』は一般の人間より、圧倒的に、『たまとり』が起こす事件の被害者(犠牲者)になりうるのだ。
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「『もちぬし』は、『たまとり』にとって貴重なのよ。魂をとられたら、『もちぬし』はこの世とは、おさらば。生気や精気を根こそぎ抜かれたら、生ける屍だからね」
風水師は、紀彦がすでに知っていることを、勿体ぶって説明したのちー
―わかった。ヤバイでしょ と、一呼吸おいた。がー、
彼は、紀彦の反応が薄いと思ったのかー
「そこで、山伏とか祈祷師の出番になるわけよー」
と、さらに声を励ました。もう、隅でコソコソ話している意味がない。
「……『たまとり』を追い払うために、精神修養が必要になるのよ。そりゃ、修業したからって、直ぐに、超自然的な力を会得するわけじゃないけどー。そういう人たちのもとに身を預けておくのがいいよ。なにかあったら、彼らが、あんたを守ってくれるからー」
「……なるほど」
「いっとくけどさぁ、成形手術して人相変えても無駄よ。その「おまけ」は、あんたの魂に刻まれてるからー、見る人が見ればわかっちゃう」
―わたしみたいにね。と、風水師は、自慢げに四角い顔を前に突き出した。
「……魂に刻まれた「おまけ」……ですか?」
―いったい何が魂に刻まれているのか。―グ〇コのランナーですか
と、紀彦は聞きそうになった。
そんな彼に反して、風水師は大まじめだ。
「よく、考えてー。あんた自身のためだよ」
「僕自身のため……ねえ」
(こ、こいつ、思ったほど食いついてこない)ーと、察した風水師は、仏教に頼った。
「そうよ。自分の身は、自分で守らなくちゃ。お釈迦様もそういってるよ」
確かにその通りなのだが……、その出自はかなり怪しい。
「一端のもんになるには、かなり厳しい修行が必要だけどー。もしよかったら、その道の達人知ってるから、あんたに紹介するけどー。どお、なってみる?」
どお、と言われても、ー実際、無理な話である。
紀彦は、山伏も祈祷師もやる気がなかったと、いうかーもともと転職する気がない。彼は、仕事もさることながら、サラリーマンという今の雇用形態がとても気に入っている。誇りを持っている、とまではいわない。ーが、できるならー、サラリーマンだけは一生続けたいと思っている。
紀彦は、風水師のありがた~い提案を丁重に断った。
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そんなことがあった。ーいい気はしなかったが、かといって深刻になることもなかった。
もともと、紀彦は、自分が『もちぬし』であることを知っている。彼に、そう教えた人がいた。その人のおかげでー、過去なにかがあったわけではない、現状なにかが起こっているわけでもない。ーと、思いたい。
まあ、何かするにしても、山伏の修業はやりたくない。
苦しいのは苦手だ。なのでー、『たまとり』よけとして、ありがたいお守りを、スマホにぶら下げることにした。
社員旅行の時、有名神社で買った『家内安全』のお守りだ。
しかも、神社のマスコットキャラクター『ごあんしん君』の特製イラスト入り。
―気休めぐらいにはなる……
それをぶら下げた日ー
「なに、それー」
といって、カナウに笑われた。その笑顔が、心に染みるくらいかわいい。
説明文に、お付き合いいただきありがとうございました。




