2.『もちぬし』と『たまとり』
・タスク設定
『もちぬし』は、それぞれ「おまけ」をもっている。「好感」や「嫌悪」など
『たまとり』は、『もちぬし』(や人)の魂を奪い、生きる糧としている。
・時代設定
現代です。
「あんた、『もちぬし』だねーそれも、かなり希少だ。『たまとり』に狙われるよ」
津田紀彦は、いきなり物騒なことをいわれた。一か月ほど前のことだ。
そういわれて、少しばかり驚いた。―へえ、普通にわかる人いるんだ、と。
彼にそう言ったのは、人々の住居環境を最適化するアドバイザー、いわゆる風水師といわれる人種だ。その人物は、多少なりとも世間では名が知られていた。そんな人物に会って、紀彦は『もちぬし』だといわれた。そんなこと、いきなりばらされても困る、とも思った。
その時ー紀彦は、『もちぬし』が何であるかーを、知っていた。『もちぬし』とは、いわゆる、世間でいう なんらかの「おまけ」を「持っている人」なのだ。
何の「おまけ」をもっているのかは、『もちぬし』それぞれで違っている。
例えば、「好感」の「おまけ」を持っている場合ー
老若男女を問わず好かれるー、動物からなつかれるー、植物になつかれるーなど。効果の対象が多岐にわたっている。
ちなみに、鉱物や金属のような無機物からも好意をもたれることもある。もちろん、「好感」の『もちぬし』が、対象物を直接見たり、触れたりしなければならない、という条件がある。
好感とは、全く逆の「嫌悪」の「おまけ」を持っている『もちぬし』も、当然いるわけでー。嫌われたい相手には大変有効なのだが、下手をすると一生独身で過ごすことになる。
ほとんどの場合が、実生活に、あまり役に立たない。一生、自分が『もちぬし』だと知らずに過ごす場合だってあるのだ。ただ、『もちぬし』は万人にひとりの器なので、世間からは非常に珍しがられてはいる。故に、バラエティー番組なんかに出演することもある。
ただ、それはごくまれでー。ほとんどの『もちぬし』は、正体を明かしたがらない。その「おまけ」の性格上、という事情がある。『もちぬし』が、非常に有益なおまけを持っていた場合、周りに知られない方が良い場合がある―し、他に、時代背景とか環境などの要因もある。
しかし、一番大きな理由は、『たまとり』に狙われるからー。『たまとり』は『もちぬし』の魂をうばって、生きる糧としている「出戻り人間」なのだ。
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街で見かけるー、宗教勧誘の胡散臭いおばさんのようなーおっさん。これがその時、一緒にいた同僚から聞いたー、風水師の容貌である。
同僚の名前を安田貴弘という。同じ会社の同じ部署に勤めている。年齢は、紀彦よりも5歳年下である。年下であるが、同僚であった。同僚であるが、そんなに親しいというわけではない。
お互いに、困ったことがあれば、相談するぐらいの関係にはなっている。
ーで、実際、風水師に用事があったのは安田の方で、紀彦はただの付き添いだった。
そのころー、安田の実家で不幸な事象が連続して起こった。親父さんが急性の肝硬変で亡くなり、お袋さんが、家の階段から落ちて腕を骨折して入院。妹さんが、勤務先からの帰り道、ストーカーから逃げるときに転んで怪我ー。大学生の弟さんも、アルバイト先の先輩にパワハラを受けて精神的に病んでいた。
これらが、短期間のうちに起きたもんだからー。心配した親類が、家相を見てもらったらと、その筋では有名な風水師を紹介した。それが、件のおばさんっぽいおっさんでー。
入院中のお袋さんに代わってー。安田がご教示いただくための資料(家の間取り図、外観の写真等)をもって、相談に行くことになった。安田はもとより、ひとりでいくつもりであったが、いざ行くという段になっておじけづいた。彼は、初めての状況に心細くなったのだ。
そこで、安田は、同僚の紀彦を同行させることにした。話を聞いた紀彦は、興味本位でその申し出を、一も二もなく快諾した。休日、ふたりは待ち合わせをして、電車で出かけた。
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あちこちに田園風景が残るー、のんびりした地方都市。
かつての門前町。参道の両側には時代遅れの商家が軒を連ねているー、その一角。
風水師の家も古く、昔なにかの商売をやっていたのかー、入口が異様に広かった。地面からは、なぜか醤油のにおいがたちのぼっていた。玄関を入ったところに、これまた広い土間があって、そこに木の椅子が五つ並んでいた。椅子には、薄汚れた座布団が敷いてある。
相談者は、その椅子に座って順番を待つことになる。土間の奥に木の引き戸があって、長いすだれがかかっていた。一応、室内が見えない配慮が施されてる。つまりー、その引き戸の向こうが、風水師と相談者の面談部屋になっていた。ときおり、そこから、微かだが、話声が漏れ聞こえてくる……。
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安田の相談も無事に終わり、帰りかけた時だった。
風水師が、安田を部屋の出口まで送ってきた。紀彦は反射的に風水師をみたー、風水師もつられて紀彦を見た。
そのままー、風水師が紀彦を凝視して
「ちょっと、あんたー」
と、甲高い声で呼んで、彼に手招きをした。
紀彦は漫画のように、自分で自分の鼻先を指さした。
「そう、そこのあんた」
「いや、オレは彼のつきそいで来ただけです」
紀彦は戸惑いながら、安田を前に押しやった。風水師は、紀彦につかつかと歩み寄った。
「いいから、ちょっと来て。すぐ終わるからー」
風水師は、有無を言わさず彼を、部屋の隅っこへ引っ張っていった。
「みなさん、ごめんなさいね。ちょっとこの人と話させてー、この人の人相、だいぶんと気になることがあってー。すぐに終わるから、待っていて頂だい」
風水師は、順番待ちの相談者に頭をさげると、紀彦に向き直った。
「あたしさぁ、わかるんだけどー。あんた、『もちぬし』だね」
―いままで、だれかに、そういわれたことがある?
紀彦は、それには、敢えてこう応える。
「はあ……、一度もありません。オレって、あの『もちぬし』なんですか」と。
風水師は、目を細くして紀彦を見ると、どうみても『もちぬし』だねぇと、呟いた。
「どんな「おまけ」もっているのかー、わたしにゃあ、わからないけどね」
と、そっけなくいったーあと。
彼は、いきなり紀彦に転職をすすめてきた。
果樹農家をやっています。仕事は、ほとんど息子たちがやってます(笑い)
お付き合いいただきありがとうございました。




