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28.ゆうごう

小春とアラヤのナガマサ探しです。

今日もよろしくお願いします。



 女子高生の姿をした小春は、資料館近くのバス停で、バスを降りた。

ーいいかえると、女子高生の姿をしたラブドール・ミドリを、小春とアラヤが動かしている。


 小春とアラヤは、ミドリのなかで、それぞれの意識を共有しあっている。


 だれもが、ミドリ(小春、アラヤ)を人形だとはおもわない。それ程、ミドリは生身の人間に近い。世界最高峰の技術者たちが、金にものを言わせて、リアル女子高生を創造した。


 機能的にも、ふたりが思念でミドリを動かすのに、何の支障もない。だから、はたから見ると、まったく違和感なくー。 制服を着た、普通(?)の女子高生が、舗道を歩いているーことになる。


 バス停から数分のところに資料館はあった。


 ふたりは、入館すると、受付近くにある検索用のパソコンを使って、必要な情報を捜した。約400年前、江戸時代初期ー。日本から東南アジアに渡った武将、ナガマサの出身地や、日本でのゆかりの場所を特定するのが、本日の目的だった。


 カナウが、スマホで探してみたが、有力な情報はなかった。ナガマサは有名な武将ではない。ここで、彼に関連する文献をみつけて、史実や伝承を地道に当たるしかなかった。……今日も時間がかかるだろう。


しかしー、

実体があるというのは、本当に便利だ。小春はつくづく思う。身体を失って、紀彦の守護者になって、三十数年ぶりに身体のある生活にもどった。


 身体がなければ、ないでー。守護者として、どこへでも紀彦についていけた。

今ー、ミドリの身体のときは、どこへでもと、いわけにはいかない。

紀彦の会社勤めに、女子高生が 毎日付き添えないだろう……


 でも、三十数年ぶりに、直に紀彦に触れることができた、抱きしめることができた。小春は、こんな日が訪れるとは、夢にも思ってもみなかった。


     x   x   x   x


 あの日ー


 小春は、守護者として、いつものようにー紀彦について、宮村のマンション(セカンドハウス)まで行った。もちろん、『たまとり』の不意な攻撃から、紀彦を守るためだ。


そこで、「ミドリ」という名のこの人形を見た。


 ひとめで、ふつうの人形じゃないと、わかった。その人形にはー、生きた人間の魂が封じ込められていた。この術が使えるのは世界広しといえど、小春の知るかぎり、ふたりしかいない。ひとりは、彼女の師匠だった。


 師匠は、もうこの世の人ではない。あいつのせいで、魂を、肉体もろとも消し去られたのだ。そして、もうひとりは、師匠の下で一緒に修業したステッパーだった。


 この人形と魂は、ステッパーが、小春のところによこしたものだった。


 そのように、人形がかならず、小春のもとにとどくようにとー。ステッパーの術(旅のおまもり)が、付与されていた。

―さすがだ。小春は舌を巻いた。


 何も知らない紀彦は、宮村から人形をあずかると、専用のインナーラップでくるみー。タクシーにのせて自宅へ持ち帰った。彼は、使っていない部屋のウオーキングクローゼットに、人形(ミドリ)をこっそり隠した。


 紀彦は、この人形のことをカナウに知られるのが、いやだったのであろう。

 その夜、小春は、人形に留置された魂から、精神と意識を解放した。女性の魂だった。それは、アラヤと名乗った。


 アラヤは、日本へやってきた目的と、小春のもとへきた理由を明かした。


 小春は、紀彦と宮村が、同じ会社の同じ部署という偶然に驚いた。何か、因縁じみたものを感じた。そして、小春は、アラヤを通してステッパーから協力依頼を受けた。彼女は、アラヤに喜んで、最大限の協力する旨をつたえた。


 「かならず、ソムサックさんの魂を取り戻しましょう」


 しかし、小春には、紀彦を守護するという使命がある。いつ、『たまとり』が、襲ってくるかもしれない。そこで、小春は、カナウに事情を説明して、彼女に協力を頼んだ。つまりー、


 小春がアラヤに同行している間ー。自分(わたし)に代わって、カナウに紀彦を、『たまとり』から守ってほしいとー。


 カナウに異議があるはずはなかった。多感なカナウは、アラヤから話を聞いて、涙を流して彼女に同情した。

カナウも最大限の助力を、アラヤと小春に申し出た。


 人形の身体全体に、ステッパーの術式が付与されている。この術式により、小春の思念体が、人形「ミドリ」にはいり、アラヤの魂と一体化(ゆうごう)することでー。ふたりは、「ミドリ」を人間のように動かすことができた。


 さすが、ステッパーの術式だけあって、最初から、「ミドリ」は、スムーズに動いた。アラヤも、何の違和感もなく、自分が動けるのを感じてー。あらためて、ステッパーが、彼女の魂を人形に入れて、小春のもとに送ったわけを理解した。


「この人なら、きっと、ソムサックさんの魂を見つけて、取り戻してくれる」

アラヤは、そう確信した。


 その日以来ー、アラヤは小春を「先生(せんせい)」と、よんでいる。


 当然、ふたりには日本語、オロシャ語の言語の壁があるが、人形(ミドリ)の中で一体化(ゆうごう)することにより、思念で意思の疎通ができるようになった。アラヤとカナウも、小春の意識を経由して、思念で会話できる。


 小春は、この顛末を紀彦に説明した。


 紀彦も、アラヤと宮村の関係に驚いたがー。それよりも、人形(ミドリ)が本当に動き出したことに、腰を抜かした。そのあと、彼は、カナウに内緒で人形(ミドリ)を持ち込んだことがばれてー。彼女に、しどろもどろになって言い訳をする羽目になった。


     x   x   x   x


 人形(ミドリ)には、声帯も組み込まれていた。小春は疑似神経を構築して声をだせるようにした。彼女はさっそくステッパーに、国際電話をかけた。ナガマサの出身地等について、詳しい情報を得ようとした。―が、それについては、ほとんど収穫がなかった。ステッパーは、


(ナガマサは、彼を復活させた4体の精霊とー、精霊が保持する十数個の魂とともに、渡り鳥に浮遊して、日本へ渡った。ナガマサは、自分を実体化して、さらなる力を得るためにー。日本でも魂をあつめるだろう)と、みていた。彼女によるとー、


(魂は肉体を離れても、少しの間は、もともとの本質を保つことができる。本質が残っている間、魂は独自の光で輝いている。武将ナガマサは、怨霊としてー復活してから、数か月しか経過しておらず。ー奴は、本質が残っている魂を取り込むことができない) 


 輝きが残っている間はー、精霊たちが、魂を管理している。(しかし、その輝きは時とともに失われてしまう。魂が、本質の輝きを失った時、怨霊に取り込まれるだろう)ーなので、輝きがあるうちに、必ず、ソムサックの魂を捕獲しなければならない。


(精霊たちは、ナガマサを怨霊(物の怪)から『たまとり』に進化させようとしている。『たまとり』になれば、本質の残滓に関係なく、魂を吸収できるようになる) ただ……、それは別に


日本へ来なくも、オロシャ国にいてもやれることだ。


(なぜ、彼らは日本へやってきたのだろうか?)

ステッパーにも、彼らの目的は、分からなかった。がー


「ナガマサと精霊たちは、間違いなく、日本で何かをやろうとしている」

彼女は、そう断言した。

お付き合いいただきありがとうございます。

人形=ラブドール=「ミドリ」……小春とアラヤがはいっています。

渡り鳥…春から初夏にかけて、東南アジアから日本各地へ渡ってくる。

    秋、同じコースを通って、東南アジアに戻っていく。

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