24.おもわく
…紀彦は目を閉じると、こめかみをもみながら、ソファにひっくり返った……
紀彦が、カナウの不思議な力を知ったのは、
彼女と一緒に暮らすようになってからー。
それまでも、彼女が普通の子供じゃないことは、気が付いていた……。
魔女じゃないのか、と疑っていた時期もある。
ーなので、カナウが、ある日突然、当たり前のように小春と話し始めても、あまり驚かなった。彼女は、このマンションに来るずっと以前からー。紀彦と、いつもいっしょにいる小春の姿が見えていた。
カナウが、紀彦と住み始める…少し前、小春から彼女に声をかけた。
カナウが、小春の存在に気が付いていることを悟ったからだ。
カナウが…つらくて泣いているとき、小春が彼女を優しく慰めた。
それが、きっかけだった…。
幼いながらー、小春に肉親のような親近感を持ったのだろうか。 10歳のカナウは、彼女にすぐになついた。小春も、紀彦以外に話し相手、それも女の子ができて、とても喜んでいた。
カナウは、紀彦同様ー小春を「おばあちゃん」とよんで慕っている。でも、その呼び方は、紀彦に倣っているだけでー。実際カナウにも、二十歳前後の丸顔にぽっちゃりの女性が、見えていた。
小春は、カナウの持つちからに目をつけて、その使い方を、彼女にていねいに教えた。カナウは、自分のちからの使い方を、徐々におぼえていった。
年に数度、『たまとり』からの攻撃があるときいている。
今では、カナウも小春と一緒に、『たまとり』と戦っているらしい。
―らしいというは。小春が、紀彦のトラウマにならないように、彼の記憶を、その部分だけ消してきたからだ。そういうことをされていることも、小春から聞いて知っていた。
だから、記憶が飛んでいても、あまり気にしなかった。それが、彼を怖がらせないための、おばあちゃんの思いやりだと、知っているからだ。
x x x x
紀彦は、ベッドに入った。
彼にとって、今回の『たまとり』攻撃は、トラウマになるほど怖い出来事ではなかった。まあ、不思議な出来事ではあったがー。
それより、あの『たまどり』の少年が、積み上げたとかいうー動物か何かの死屍は、完全にトラウマ級だった。思い出すだけで、鳥肌はたつしー。鼻の中に臭いよみがえって、酸っぱい胃液がこみ上げてくる。
あの酒の影響で、今後もあんな記憶が残っていくとしたらー、と思うと、やっぱりやりきれない。
―カナウは、いつも、あんなおぞましい光景を、目の当たりにしているのだろか
今日の彼女を見る限り、死骸の山をみても、顔色ひとつ変えなかった。
―とても、15歳の少女とは思えない……
紀彦はうすら寒くなり、布団にもぐりこんで背筋を丸めた。今更だけどー
―おばあちゃんは、どういうつもりで、カナウに戦い方をおしえたのだろうか。
―幼かったカナウは、どうしてそれを、受け入れたのだろうか。
全ては、紀彦が知らないところで、決まってしまった。
カナウは、中学を卒業したら、紀彦の護衛兼家事手伝いになるーと、決めている。(進学したら)と、紀彦がいくら説得しても、彼女の決心は揺るがない。
そのうえ、両親からは、『カナウちゃんが進学しないのなら、あなたのお嫁さんにしてあげなさい』と、詰められている。ーが、
―正直いって、それは(ちょっと)困る。のである。
紀彦は、自分自身の都合上、カナウを高校に行かせたかった。もちろん、カナウ自身のためにも、その方がいいと思っている。そうするためには……、
彼は、ひとつの案を持っている。
(村上真奈美さんにー。彼女に、頼んだら…なんとかなるのでは)
紀彦は、何度か会ったことのある、ひかえめで清純な少女に一縷の望みを託していた。
カナウは真奈美を、とても大切に思っている。 部屋には、修学旅行でふたりで撮った写真が飾ってあった。カナウが真奈美を語るとき、唯一無二の親友として、信頼し敬愛しているのが伝わってきた。
―あの子が、カナウに『一緒に高校へいこう』と、熱心に誘ってくれたならー
もしかしたら、彼女は考えを翻すかもしれない。問題はー、どうやって、紀彦が真奈美に会って、それをお願いするか、だが……。
それは、カナウに相談できない。
そういえばー最近、カナウが暗い顔をして(真奈美が、ケガをして入院した)と、話していた。紀彦は、詳しい事情を訊かなかった、ーが。
真奈美と会う、いい機会かもしれない。
(今度、カナウちゃんと一緒に、真奈美さんのお見舞いにいってみようかな……)
彼は、そんなことをつらつらと考えながら、眠りについた。
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その夜、カナウは玄関から聞こえるかすかな音で、目を覚ました。
靴を脱ぐ気配、廊下を滑る気配……
―帰ってきたんだ
カナウは、ベッドから起きだすと、紀彦の部屋の様子を窺った。
部屋の気配を読む。 ―よく眠っている
紀彦の立てる規則的な寝息が、きこえる。 ……睡眠は、深いようだ。
カナウは、そっと部屋を抜け出して、廊下へ出た。
暗闇の中、長い髪の少女が廊下から、向かい側の部屋に入るところだった。
少女は、後ろの気配に振り返った。
(カナちゃん、おきてたの)
少女は、カナウの頭の中に話しかけてきた。カナウは、黙ってうなずいた。
(おばあちゃん、お帰り。ーどうだった、何かわかった)
―ただいま と少女が応え、ふたりは、少女が使っている部屋に入って座った。
(うん、おかげさまで、武将ナガマサのことについて、少しだけどーわかったよ)
(そう、よかった。アラヤさんはー)
別の声が、カナウの頭の中にこたえる。
(いるよ。先生のおかげで、ソムサックさんの魂にたどり着けそうだよ)
アラヤは、小春を先生と、呼んでいた。
カナウは、少女に近づき、
(ほんとう、よかったね。アラヤさん)
と、少女の手を握った。少女も、カナウの手を強く握り返す。
(うん、まだまだ、これからだけどー。必ず、ソムサックさんを見つけるわ)
(うん、がんばってー)
(それで、カナちゃんの方はどうだった)
今度は、最初の声が、訊ねてきた。カナウが、おばあちゃんと、呼んだ声だ。
(うん、たいへんだった……)
カナウは今日の午後、あった出来事ー。
学校から帰ってー、紀彦をまっていたら…、
彼のスマホの位置情報が突然消えたこと。大急ぎで、位置情報が消えた路地にかけつけるとー。彼のショルダーが落ちており、その側に不思議な空間をみつけたこと……を、少女ーおばあちゃんに、かいつまんで説明した。
お付き合いいただきありがとうございます。




