17.おいで魔汗
おいで魔汗と、読みます。
津田カナウが通う公立中学校。
四方を高い金網に囲まれた屋上、いつかテレビで見た格闘技のリングのようだと、いつも思う。本来は、飛び降りたいという気持ちを、少しでも起こさないようにするための人道設備。
だが、すでに何人もの生徒が、金網をもろともせず、ここから空へ向かって跳んだ。その都度、金網はたかくなり、頑丈な鉄カゴへと姿を変貌したのだ。今日ー、
カナウは、金網の手前に設置された防護柵にもたれて、ぼんやりと遠くを眺めていた。頬をなでる風が、悲しい。お昼休み、校庭や階下の開け放たれた窓から、生徒たちの騒ぐ声が聞こえてくる。
その中には、遠くから、風と共に流れてくる街の喧騒も、すこしまじっている。カナウがここに立つようになってから、一週間がたった。誰から頼まれたわけではかった。彼女自身の意思だった。
本来、彼女は、彼以外のために力を使いたくなかった。使う気もなかった。
しかし、クラスで一番仲良くしている、真奈美が取りつかれてしまった。
いや、クイモノにされたと、いったほうがいい。
x x x x
中学で、カナウが最初に友達になったのが、真奈美だった。純粋にやさしくて、話していると、春風の中にいるように気持ちがよかった。2年間、ずっと、クラスが一緒だった。
3年目の4月、カナウは、運命の神様に感謝したくらいだった。
神様は、いなかったけどー
カナウの中学校、その校舎の屋上には、化け物が住みついていた。
化け物の名前は、「おいで魔汗」と、いった。
カナウは、 そいつの存在には、入学した時から気が付いていた。
ただ、どうこうする気はなかった。
自分にさえ危害を加えてこなければ、見逃すつもりだった。
おいで魔汗は、カナウの存在に全く気が付いていなかった。
だから、そいつは、平気で校内を徘徊し、カナウの教室にもやってきた。
体の大きさは、縦幅、横幅とも普通の大人より、大きかった。四角い体形で、四隅から手と足がでており、背中にはかめのような甲羅を背負っていた。すっぽんのような顔をしており、校内を二足歩行で移動していた。
もちろん、普通の生徒たちに、その姿を見ることはできない。家に帰って、おばあちゃんに、学校にこんなやつがいると、訊ねたらー。そいつは、『おいで魔汗』だと、教えてくれた。
おいで魔汗は、地域密着型の化け物であった。
おいで魔汗は、ターゲットの意識を吸い取り、精神を支配してターゲットの行動を操る。最終的に、ターゲットを自ら死に至らしめて、その魂を奪う……とても、危険な奴だ。
おいで魔汗の糧は『たまとり』同様、人の魂であった。奴は、かなり前から、その学校に住み着いており、学校からは、めったに外へはでないらしい。
奴が、学校から出るのは、『たまとり』を狩るときのみ。『たまとり』さえも、おいで魔汗の糧であった。少し前までは、プールが奴の住処だったが、今は屋上に移動している。
以前はプールで、生徒を襲っていたのだ。
いまはー
おいで魔汗は、不定期に校内をうろつき、自分の糧になる生徒を探してた。カナウは、奴の後を、ひとりの生徒がふらふらとついていくのを、二度見かけたことがあった。
カナウにとっては、関係ないことだった。その生徒が、屋上から跳んだときいても、彼女の心は動かなかった。どうやら、屋上に、おいで魔汗の棲み処(空間)への出入り口があるーらしい。
カナウは、親しくなった真奈美に、決して屋上にはいかないようにと、告げた。そして、自家製のお守りを渡した。お守りは、おばあちゃんが作り方を教えてくれた。カナウは、真心をこめてお守りを作った。
真奈美は、「ありがとう」と、言ってお守りを受け取りー。カナウをギュッと抱きしめた。そして、「カナちゃんのいうとおりにするよ」と、約束してくれた。
カナウが見る限り、実際にー真奈美は、かなり危うそうに見えた。一途で心がきれいな人間ほど、おいで魔汗に狙われやすい。真奈美は簡単に「おいでませ」のエジキになりそうだった。
それほど、真奈美は、清らで純粋だった。彼女を見ているだけで、こちらの気持ちも浄化された。だから、真奈美が約束をしてくれたとき、カナウは安心した。
だが、最近になってそれを破らせたものがいた。クラス担任の、工藤だった。工藤は、外見は若くはつらつとした、さわやかタイプの教師だった。ーが、実際には、心は卑しくさもしくて、女子生徒を自分の性欲のはけ口としか見ていなかった。
工藤は、屋上の掃除にかこつけてー真奈美らを屋上に呼び出しー。彼のカバンに仕掛けたマイクロカメラで、彼女のスカートの中を盗撮しようとした。
お付き合いいただきありがとうございます。




