11.ステッパーと人形(ラブドール)
再び、舞台はオロシャ国です。
オロシャ国、首都近郊の街。
アラヤが占い師と話してから、数日が経過した。今、アラヤは、占い師の家に向かっていた。
かねてより準備していた人形の用意ができたので、日本へ行く手順を説明する。と、連絡があった。占い師の名前はステッパーといった。遠い昔、今は伝説になっている格闘系霊能力者の元で修業した経歴を持っている。
家に着くと直ぐ、アラヤは地下室に案内された。そこに、ステッパーが一体の人形と彼女を待っていた。人形は、十代の女性を模して制作されていた。
アラヤは、人形を見るなり、戦慄した。
―こ、これは、まさに、いきているような
「おどろいたかな。この人形、今にも話だしそうであろう」
ステッパーは、アラヤの反応を楽しむように、そういった。
アラヤは、震えながら、うなずいた。ステッパーは、この人形の来歴を説明した。
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人形は元々、オロシャ国有数の大金持ちが道楽で制作した、彼専用のラブドールであった。大富豪は、制作にあたり、世界で一番のラブドール制作会社、そこにいるトップの技術者グループと契約をした。
―金はいくらかかってもいい、外見も中身も、本物の十代女性と寸分もたがわぬ人形に仕上げろと、彼は要求した。会社も、技術者グループもその話をきいて、狂喜した。彼らも、人間とおなじ精巧な人形を作ってみたいと、かねてから考えていたからだ。
それを、大富豪が、いくらでも金をだしてくれる。彼らは、さっそく人形の制作に取り掛かった。世界中から、最高の部品が、そのラブドールのために集められた。人工骨、人工皮膚など、部品の多さからいっても、枚挙にいとまがない。人形は、何度も何度も試作を繰り返し、数か月前に完成した。
大富豪は、その人形をみるなり気に入り、歓喜乱舞して、心臓の発作を起こし死んでしまった。人形は、そのまま、大富豪の屋敷の居間に、他の遺品とともにとめおかれた。ーが、暫くして、その屋敷に不気味なうわさが流れた。
夜な夜な、その人形が、屋敷の中を徘徊しているというものだった。噂自体は、よくある、たわいもないものだった。だが、大富豪の家族は大いに気味悪がって、人形を手放すことにした。彼らは、人形の取り扱いにもこまっていたので、ちょうどいい機会だった。
ただ、ここまで、故人の大富豪が、想いのたけを込めて作った人形でもある。彼の強い情念が込められているのは間違いない。それに、オロシャ国には、人形に魂が宿り、粗末に扱うものには祟りがあるという言い伝えがあった。
もし、この人形を手放すことによりー。彼らに、災いが降りかかっても困る。後難を恐れた遺族らは、人形をしかるべき人物に預けて、供養することにした。
そこで、呼び出されたのが、オロシャ国で高名な占い師兼霊能力者のステッパーであった。
ステッパーは、人形を供養するよう、遺族から依頼を受け、莫大な報酬を受け取った。契約上は、人形をステッパーに預ける、というものだったがー。供養がおわったら、彼女が、人形を好きに扱ってもいいと、いうものだった。
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ステッパーは、人形を日本へ持ち込む手順を、アラヤに説明した。
ステッパーの計画は、この人形をステッパーが経営するアンティークショップで売り出し、日本人に買わせて、日本に持ち込ませる、というものであった。
それに選ばれたのが、ミヤムラという日本人だった。ミヤムラは、アラヤがオペレーターとして働く、よろず産業パトナム工場に日本から出張で来ていた。そして、あと一週間もすれば、日本へ帰国する。次の休日、ミヤムラは、オロシャ国首都の歓楽街で、観光することになったいた。
この情報を、ステッパーにもたらしたのはアラヤだった。ミヤムラは、よろず産業グループの社員だった。ミヤムラはそれまでも、年に数回、定期的にこの工場に来ていたのでー。アラヤが、彼の行動予定を知るのは容易だった。
首都の歓楽街には、ミヤムラ行きつけの飲み屋もあった。そして、ステッパーが経営するアンティークショップも、同じ通りにあった。
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翌日、アラヤは、ステッパーが作った「符」(紙片)をミヤムラに見せた。
ミヤムラはパトナム工場出張の際ー、昼食は工場内の食堂でとる。食事の形式は、バイキングで自分の好きなプレートをトレイに乗せていく。
アラヤは、ミヤムラの後ろについて、彼と同じプレートを取りながら、すきを見て、その「符」をミヤムラのトレイに落とした。ミヤムラは、彼のトレイに落ちた「符」をつまんでじっとみたが、もとよりわかるものではない。すぐに笑って、落としたアラヤに返してくれた。
それで、十分だった。その「符」は、ミヤムラに対してのみ強力な暗示の効果を持っている。暗示の内容は単純だった。ミヤムラが、ステッパーが経営するアンティークショップの近くまで来ると、猛烈に店に立ち寄りたくなる。と、いうものだ。
案の定、次の休日、ミヤムラはアンティークショップにやってきた。店主に扮したステッパーが巧みな話術と、強力な暗示を使って、ミヤムラにラブドールを購入させた。ミヤムラは、元来そういう人形に興味をもっていた。
ラブドールを購入したミヤムラは、それを日本に運ぶことになるのだがー。当然、工場出張のおみやげとして、日本へ持ち帰ることは、はばかられる。彼は、それを別便で送るだろう。
その際、よろず産業の物流ルートをとおせば、目立たぬよう安全に日本へ運ぶことができる。人形を工場の製品として、輸出手続きすればー。通関もスムーズにおこなわれ、税関で開梱・検査されることもない。
よろず産業は、いくつもの工場をオロシャ国内にもち、同国の労働者雇用促進、技術力向上、経済発展等に大きく貢献していた。
よろず産業は、オロシャ国の政府高官とも太いパイプがありー。貿易面では、かなりの優遇措置をうけている。それは、日本側でも同じであった。同社は、優良企業に認定されておりー。「輸出入を促進する優良事業者」として、政府より表彰を受けていた。
つまり、よろず産業の輸出入品に関して、オロシャ国側でも、日本側でもー
通関は、形式的な書類審査のみで、現物が確認されることはない。
ミヤムラは、この「仕組み」を利用するだろう……
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結果ー
すべては、ステッパーの思惑通りに運んだ。あとは、人形にアラヤの魂を移すことだがー。それは、人形が日本へ送られる直前、工場の中で行わなければならない。
お付き合いいただきありがとうございます。




