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都会に疲れて通販テントで寝たら、異世界最強の安全地帯でした 〜もう一泊で帰れるけど、今日も誰かに眠れる夜を渡しています〜  作者: TimeBender


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第12話 村の食材で、夜を越えるスープを

 リディアが自警団を連れて村の外周へ向かった後、一夜は集会所の前に残された。


 安全地帯の中には、足を負傷した男性。


 その周囲には、こちらを遠巻きに見つめる村人たち。


 そして、一夜の前には大きな問題があった。


「食事を作ると言っても、何があるのか分からないんだよな」


 現代から持ってきた保存食は、自分とリディアが数日食べられる程度しかない。


 村人全員へ配るには、到底足りなかった。


 テントの料理効果が一夜の調理によって発生するのなら、村の食材を使っても問題はないはずだ。


 ただし、何を作るか以前に、村の食文化も調理器具も知らない。


 一夜は安全地帯の外に立っていた村長へ手招きした。


「村長、少しいいですか?」


 エドガーが境界を越える。


「どうした、一夜殿」


「村にある食料を見せてもらいたいんです」


「食料?」


「今夜、集会所へ避難する人たちへ温かい物を出します」


「この人数へ料理を?」


「俺1人では無理なので、手伝ってもらいますけど」


 村長は少し考えた。


「食料庫はある。だが、冬を越えるための蓄えでもある」


「全部使うつもりはありません」


「しかし、今夜の襲撃がどれほど続くか分からん」


「だからこそ、空腹のまま夜を迎えない方がいいです」


 村長は安全地帯で横になっている男性へ目を向けた。


「この天幕の中で食べれば、傷も治るのか?」


「食べるだけで傷が治るわけではないと思います」


「では、何が起きる」


「疲れにくくなったり、恐怖が少し和らいだりします」


「するのか?」


「たぶん」


「たぶん?」


「まだ1回しか試してないので」


 村長の顔に不安が浮かぶ。


「リディアさんには効果がありました」


「副隊長に」


「温かいスープを飲んだ後、手の震えが止まって、体力も少し戻りました」


「その結果、また戦おうとしたのではないか?」


「よく分かりましたね」


「副隊長だからな」


「有名なんですか。休まないことで」


 村長は困ったように笑った。


「責任感の強い方だ」


「それを、休まない言い訳にしてるんですよ」


「本人の前で言わない方がいい」


「もう何度も言いました」


「……勇敢なのか、無謀なのか分からんな」


「戦えないので、口だけです」


「それはそれで、かなり勇敢だと思うが」


 一夜は曖昧に笑った。


「とにかく、食料庫を見せてください」


「分かった」


     


 村の食料庫には、思っていた以上に多くの物が保管されていた。


 乾燥した豆。


 玉ねぎに似た丸い野菜。


 硬い根菜。


 穀物。


 干し肉。


 塩。


 乾燥させた香草。


 棚の上には、大きな黒パンも積まれている。


「十分ありますね」


 一夜は根菜を持ち上げた。


 外見はニンジンに似ているが、色は薄い黄色だった。


「これは、生で食べられます?」


「食べられなくはないが、煮込むのが普通だ」


「味は?」


「少し甘い」


「じゃあ、スープにできますね」


 一夜は次に、玉ねぎのような野菜を手に取った。


「これは?」


「涙玉だ」


「名前が嫌だな」


「切ると涙が出る」


「そのままですね」


「ニホンにはないのか?」


「似たような物があります」


「ならば、なぜ名前を嫌がる」


「もっと遠回しな名前なので」


 村長には理解できなかったらしい。


 一夜は干し肉を確認した。


 かなり塩分が強そうだ。


 水で戻し、スープのだしとして使えばいい。


「大きな鍋はありますか?」


「祭りの時に使う物がある」


「何人分くらい作れます?」


「村人全員へ配れる」


「それを借りましょう」


「どのような料理を作るつもりだ?」


「肉と野菜のスープです」


「先ほどから、スープばかりだな」


「失敗しにくいので」


 大人数の料理で凝ったことをする余裕はない。


 食材を切り、煮込めば全員へ配れる。


 体も温まる。


 料理バフが発生する条件にも合いそうだった。


「それと、黒パンも出しましょう」


「硬いぞ」


「スープにつければ食べやすくなります」


「一夜殿は、本当に料理人ではないのか?」


「1人暮らしが長いだけです」


「ひとりぐらし?」


「家族と離れて、1人で暮らしています」


「なぜだ。家族と仲が悪いのか?」


「仕事場に通いやすいからですよ」


「仕事のために、家族と離れて暮らすのか」


「そういう人は多いです」


「ニホン人は、仕事が好きなのだな」


「それは違います」


 一夜は即答した。


「違うのか?」


「好きだからやっている人ばかりじゃありません」


「では、なぜそこまでする」


 一夜は返事に困った。


 生活するため。


 お金を得るため。


 周囲に合わせるため。


 辞めた後が不安だから。


 理由はいくつもある。


「簡単には、やめられないからですかね」


「騎士の任務と同じか」


「たぶん、そこまで立派じゃありません」


「他人から見れば、どちらも同じなのかもしれん」


 村長はそう言って、食料庫の扉を開けた。


「必要な物を持っていけ。今夜を越えられなければ、冬の心配もできん」


「ありがとうございます」


「ただし、使いすぎるな」


「現実的ですね」


「村長だからな」


     


 集会所の前へ、大きな鉄鍋が運ばれた。


 鍋というより、釜に近い。


 一夜1人では持ち上げられないほど大きかった。


 石を組んだ簡易かまどの上へ載せ、薪をくべる。


 村の女性たちも調理へ加わった。


 だが、安全地帯の外では言葉が通じない。


 一夜は包丁を持ち、切る大きさを手で示した。


「これくらいです」


「――――?」


「だから、これくらい」


 一夜が根菜を切って見せる。


 女性がうなずき、別の根菜を切り始めた。


 厚さが、一夜の倍ほどある。


「大きいな……」


 煮込めば食べられる。


 問題はない。


 次に涙玉を切る。


 名前の通り、目に刺激が来た。


「痛っ」


 涙がにじむ。


 近くにいた少女が、一夜の顔を見て笑った。


 年齢は10歳ほどだろうか。


 茶色い髪を2つに結んでいる。


「――――」


「笑いましたね?」


 言葉は通じない。


 少女は自分の目元を指し、泣くまねをした。


「これは悲しくて泣いてるんじゃないです」


 一夜は涙玉を指す。


 少女は大きくうなずき、さらに笑った。


「分かっててやってるな」


 安全地帯の外でも、からかわれていることだけは伝わった。


 少女は自分を指し、何かを言う。


「名前?」


 もう1度、自分を指す。


「ニナ」


 短い音だけは、一夜にも聞き取れた。


「ニナ?」


 少女がうなずく。


 一夜も自分の胸元へ手を置いた。


「一夜」


「イチヤ」


「そうです」


「イチヤ」


 ニナはもう1度名前を呼び、切った野菜を鍋の近くへ運んでいった。


「言葉が通じなくても、名前くらいなら分かるか」


 一夜は少しだけ笑った。


 その時、村の外周から大きな声が響いた。


 村人たちの動きが止まる。


 見張り台の鐘が、1度だけ鳴った。


「何の合図だ?」


 村長が急いで安全地帯へ入ってくる。


「森の近くで、宵喰い狼が確認された」


「もう来たんですか?」


「まだ1匹だけだ。こちらの様子を探っているのだろう」


「日が落ちる前でも動くんですね」


「最近の奴らはおかしい。以前なら、昼間に村へ近づくことなどなかった」


 一夜は森の方向を見る。


 柵の向こうに、黒い影は見えない。


 だが、確実に近づいている。


「調理を急ぎます」


「自警団から人を回そうか」


「外を守ってください。こっちは人数がいます」


「言葉が通じないだろう」


「身振りで何とかします」


「先ほど、野菜の大きさが全くそろっていなかったようだが」


「煮込めば同じです」


「本当か?」


「たぶん」


「あなたは、よくその言葉を使うな」


「確実なことが少ないので」


     


 干し肉は、細かく切って先に鍋へ入れた。


 塩気が強いため、水は多めにする。


 煮立ってきたところで、根菜と涙玉を加える。


 灰汁を取り、乾燥した香草を少しずつ入れた。


 一夜は木べらで味を確かめる。


「薄いな」


 もう少し塩が必要だ。


 ただし、干し肉から塩分が出る可能性もある。


 一夜は女性たちへ味見を頼んだ。


 スプーンを差し出す。


 1人が口へ運び、首を傾げた。


 塩を指す。


「やっぱり薄いですよね」


 少し加える。


 もう1度味見。


 女性が今度はうなずいた。


「よし」


 ニナが鍋の横から中をのぞき込む。


「危ないですよ」


 一夜は手で離れるよう示した。


 ニナは頬を膨らませる。


 それでも、素直に1歩下がった。


「あなたも集会所へ入るんですよ」


「――――?」


 一夜は集会所を指し、ニナを指す。


 さらに、両腕で自分を抱くようにして座る動きをした。


 ニナは首を横へ振った。


 鍋を指し、自分の胸をたたく。


「手伝う?」


 ニナがうなずく。


「子供は安全な場所へ行ってください」


 通じない。


 ニナは切り終わった野菜の籠を持ち上げようとする。


 重くて動かない。


 一夜はため息をつき、一緒に持った。


「少しだけですよ」


 ニナは得意そうに笑った。


「リディアさんと同じだな」


 無理をしてでも、自分にできることを探す。


 この世界では、誰もが休むことに慣れていないのかもしれない。


     


 スープが完成する頃には、空が赤く染まり始めていた。


 集会所には、すでに多くの村人が集まっている。


 老人。


 子供。


 乳児を抱いた女性。


 武器を持てない者たち。


 外では自警団が柵や家屋の間に配置されていた。


 リディアの姿は見えない。


 村の北側を確認しているらしい。


 一夜は完成したスープを見下ろした。


 大きな鍋の中で、肉と野菜が柔らかく煮えている。


 特別な料理ではない。


 豪華でもない。


 けれど、村全体へ行き渡る量がある。


「これで効果が出るかな」


 安全地帯で調理したわけではない。


 鍋が大きすぎて、半径2メートルの中へ収められなかった。


 ただし、食材を切り、味を整え、煮込んだのは一夜だ。


 誰かに夜を越えてほしいと思って作った。


 条件に含まれるかは分からない。


「試すしかないか」


 一夜は最初の1杯を木の器へよそった。


 安全地帯へ入り、足をけがした男性へ渡す。


「味見をお願いします」


「俺が最初でいいのか?」


「何かあっても、ここなら治るかもしれません」


「不安になる言い方をするな」


「普通のスープです」


 男性は器を受け取り、慎重に口へ運んだ。


「……うまい」


「本当ですか?」


「ああ。干し肉の味が、野菜に染みている」


「よかった」


「だが、少しだけ薄い」


「村長は大丈夫って言ってました」


「村長は薄味が好きだ」


「先に言ってくださいよ」


 男性が笑う。


 その時、彼の表情が変わった。


「どうしました?」


「体が温かい」


「スープなので」


「そうではない。胸の奥が……少し軽くなった」


 一夜は説明書を開いた。


 白紙のページに、文字が浮かび始めている。


【集団調理行為を確認しました】


【調理者の意図を確認】


【対象:夜間避難者】


【初級調理補助を適用します】


【付与効果:微弱な疲労軽減】


【付与効果:微弱な恐怖緩和】


【有効時間:約4時間】


「出た」


「何がだ?」


「このスープを飲むと、少し疲れにくくなって、怖さも和らぐみたいです」


「怖さが消えるのか?」


「消えるわけではありません。少しだけです」


 恐怖を完全に失えば、危険な判断をする可能性がある。


 少し落ち着き、動ける程度がちょうどいい。


 一夜は説明書を閉じた。


「みんなへ配りましょう」


     


 スープが配られると、集会所の空気が少しずつ変わっていった。


 泣いていた子供が器を抱える。


 老人たちが、硬い黒パンをスープへ浸して食べる。


 不安そうに話していた女性たちの声も、少しだけ穏やかになった。


 一夜は1人ずつ安全地帯へ入れることはできないため、テントの入口近くで器を受け取り、スープをよそった。


 鍋自体は安全地帯の外にある。


 それでも、料理効果は失われていないらしい。


 ニナも器を持って並んでいた。


「手伝った人は、最後ですよ」


 一夜が冗談めかして言う。


 当然、通じない。


 ニナは自分の器を差し出し、早く入れろというように上下へ振った。


「遠慮がないな」


 具を少し多めに入れる。


 ニナは器の中を確認し、満足そうに笑った。


「熱いから気をつけて」


「アツイ」


 一夜が驚く。


「今、分かったんですか?」


「アツイ」


 ニナはもう1度言い、器へ息を吹きかけた。


 簡単な言葉を覚えたらしい。


「そう。熱いです」


「アツイ」


「すごいですね」


「スゴイ」


「何でもまねするな」


 ニナは笑いながら、集会所の中へ戻っていった。


 その直後。


 村の北側から、鐘が鳴った。


 今度は1度ではない。


 短い音が、3回。


 集会所の中にいた村人たちが一斉に顔を上げる。


 外にいた者たちの動きも止まった。


 一夜には鐘の意味が分からない。


 だが、村人たちの表情を見れば十分だった。


「始まったのか」


 村長が安全地帯へ飛び込んでくる。


「北の柵に、宵喰い狼が現れた!」


「何匹です?」


「今見えているだけで5匹。森の中にも、まだいる!」


「リディアさんは?」


「北門にいる。自警団を集めている」


 遠くから、獣の声が響いた。


 低く。


 長く。


 それに応じるように、別の方向からも遠吠えが返ってくる。


 村の東。


 西。


 北。


「囲まれてる……」


 一夜は安全地帯の周囲を見た。


 避難してきた人々。


 温かいスープ。


 集会所。


 緑色の小さなテント。


 準備はした。


 けれど、本当にこれで全員を守れるのかは分からない。


 手が震える。


 息が浅くなる。


 一夜は自分のために、残っていたスープを器へよそった。


 ひと口飲む。


 温かさが喉を通り、胸の奥へ落ちていく。


 恐怖は消えない。


 それでも、目の前のことを考えられる程度には落ち着いた。


「俺が怖がってたら、駄目だよな」


 説明書には、料理効果の対象が夜間避難者と書かれていた。


 一夜も、その1人なのだろう。


 遠吠えがさらに近づく。


 村の北側から、男たちの叫び声が上がった。


 一夜は器を置き、集会所の扉へ手をかけた。


「ここを頼むと言われたんだ」


 戦うことはできない。


 それでも、安全な場所を守るためにできることはある。


 ハルト村を襲う最初の夜が、ついに始まった。

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食材の説明してる会話シーンが食料庫内なのか安全地帯内なのか気になりました
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