第四章 三年前の「落下」
期限まで残り三日。
俺は、旧館の資料室で三年前の出席簿と保健室記録を洗っていた。
そこには「自殺未遂」も「転落事故」も、一切記録されていない。
代わりに、二人の名前が突然欠けていた。
一人は当時の担任教諭。
もう一人は、ある女子生徒。
彼女の名前の欄は、ある日を境に空白になり、
そのまま転校扱いとして処理されていた。
放課後、プリンセス棟でその名前を告げると、三人は一瞬だけ息を呑んだ。
「覚えているのか?」
俺が問うと、霧島が唇を噛む。
「忘れたくても、忘れられない。
あの子は、私たちと同じ『プリンセス候補』だった」
ユリアが淡々と続ける。
「ですが、家柄が足りなかった。
本人には知らされないまま、いつのまにか『脇役』にされていた。
……そのことを知ったのは、あの子が屋上から落ちた、あの日でした」
九条院が、机の端を強く握る。
「落としたのは、私たちじゃない。
でも、追い詰めた責任からは、逃げられない」
三人の語る断片から、三年前の出来事が形を取っていく。
プリンスの候補にされた担任教諭は、
「貧しい生徒でも実力でプリンセスになれる」と信じて、彼女を特別に可愛がっていた。
それが、周囲の嫉妬と軋轢を生み、権力争いの道具にされた。
教師は左遷され、少女は屋上から落ちた。
幸い、命は助かったが、重い後遺症を負ったと言われている。
そして、学園から、その存在そのものが消された。
「私たちは、その子に謝ることもできなかった」
霧島の声が震える。
「勝ち残ってしまったプリンセスが、敗者に触れることは許されない。それが、この学園のルール」
そのとき、旧館のチャイムが鳴った。
本来とっくに使われていないはずの、古い鐘の音。
黒板を見ると、新たな紙が貼られていた。
いつのまに、誰が。
「知っていて、黙っていた。
それは、突き落としたのと同じこと。
プリンスは三人の中にいる。
永遠のプリンセスは、永遠に罪人」
その夜、俺は眠れなかった。
三人のうちの誰かが、嘘をついている。
プリンスは嘘つきだ。
プリンスは、三年前の事件の「鍵」を握っている。
期限まで、あと二日。




