俺に懐く少女は特別な存在?
まだ言葉もおぼつかない中で交わされる想い。
今回は、ゼインとリゼリアの“はじまり”の物語です。
ヴァッシュ達の手合わせを見に行った日以来、リゼリアは村長や両親に抱かれ、毎日のように遊びに来るようになった。
村長の家はそれほど離れておらず、大人の足なら十分とかからない距離だ。
今日は父親と一緒に来たようだ。
「ヴァッシュさんにレリーナさん。いつもお邪魔してしまってすみません」
申し訳なさそうに頭を下げる男性――彼がリゼリアの父親、ローゼスさんだ。
少し茶色がかった髪に眼鏡をかけ、どちらかというと細身の体型をしている。
(なんだか研究者って感じだな)
そんなローゼスに対し、
「気にしないでくれ。同じ村で同じ歳だ。何か惹かれるものでもあるんだろう」
「そうそう。ゼインも楽しそうだし、こちらこそ来てもらって嬉しいくらいよ」
ヴァッシュとレリーナは、いつも通りあっけらかんとしていた。
「そう言っていただけると助かります」
ローゼスは、ずれた眼鏡の位置を直しながら微笑んだ。
当のリゼリアはというと、俺のすぐ隣にいる。
ベッドの上で横並びになり、俺の手をぎゅっと握りながら、じっと顔を見つめてきていた。
「それにしても、リゼリアちゃんは本当にゼインが好きなのね」
ベッドを覗き込みながらレリーナが言う。
「ほんとだな。おもちゃで遊ぶわけでもなく、こうやって手を握ってるだけだもんな」
ヴァッシュも頷きながら同意した。
「本当に不思議ですよ。家族以外にはまだ大泣きするのに、ゼインくんだけは特別みたいで」
ローゼスは腕を組みながら感心したように言う。
「もしかしたらこのまま大きくなって、結婚しちまうかもな! ハッハッハ!」
「あら〜、そうなったらとても素敵ね」
「いやいや! まだリゼリアには早いですよ! ……でも、変な男と結婚するよりはゼインくんのほうが――」
ほのぼのとした会話に混ざりつつ、どこか本気で悩み始めるローゼス。
そんなやり取りの最中――
「じぇ……じぇいん」
隣から小さな声が聞こえた。
声の主はリゼリアだった。
「リ、リゼリアが喋った!?」
最初に反応したのはローゼスだ。
「すごいわ〜、リゼリアちゃん」
「しかもゼインを呼んでたぞ」
レリーナは拍手し、ヴァッシュも感心している。
「ここまではっきり喋ったのは初めてです。ゼインくんがある程度話せるので、その影響もあるのかもしれません」
ローゼスは興奮気味に語る。
「子どもの成長は早いな。そういえばノルドは元気にやってるか?」
ヴァッシュがふと思い出したように尋ねた。
「えぇ。街で衛兵見習いとして頑張っています。ヴァッシュさんに剣を教えてもらったおかげで、上からも一目置かれているみたいで。本当にありがとうございます」
「気にするな。そんな大したことはしてないさ」
少し照れくさそうにヴァッシュは答える。
「いえ、ヴァッシュさんのおかげで剣士のジョブも取得できたんですから。休みが取れたら村に帰ってくるそうなので、ぜひ会ってあげてください」
「おっ、そうか。どれだけ腕を上げたか見てみたいな」
「あら、じゃあリゼリアちゃんとはその時が初対面かしら?」
「そうなんです。人見知りの強いこの子がどうなることやら」
「兄妹なんだから、きっと大丈夫よ」
その会話の中で――
(ジョブ……やっぱりこの世界にはあるのか)
薄々感じていた確信が、はっきりと形になった。
その時、不意に手の力が抜けた。
リゼリアが眠ってしまったらしい。
「よし、じゃあ帰ろうか」
ローゼスは優しく抱き上げ、
「お邪魔しました」
と頭を下げて帰っていった。
「ノルドくんも頑張ってるのね。懐かしいわ」
「あぁ。剣士のジョブを取ってすぐに騎士になるって街へ行ったからな。今度来たときは手合わせをしてやるさ」
二人は懐かしそうに語る。
やがて話題は、俺たち姉弟へと移った。
「この子達はどんなジョブを選ぶのかしら? ミリは服を作りたいって言ってたから、製作系かしらね」
「さあな。憧れなんて変わるもんだ。どんなジョブを選んでも支えてやるだけさ」
「そうね。私たちがやることに変わりはないわね」
(ジョブは選べるのか……?)
そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠っていた。
――気づけば夕方。
目を開けると、近くのテーブルでミリが何かを書いていた。
「ママ、見てみて!」
レリーナに紙を渡す。
「うん、全部正解! すごいわ!」
「やったぁ!」
「これで全部終わったから、魔法教えて!」
「いいわよ。でも魔法はもっと難しいから、これからも頑張らないとダメよ?」
「うん! がんばる!」
(なるほど、これは魔法を教えて貰うための試験か)
(魔法はジョブがなくても使えるのか……?)
そんなことを考えながら、俺は小さく決意した。
(大きくなったら、俺も教えてもらおう)
――翌日。
村長に連れられ、またリゼリアが遊びにきた。
今日も、当然のように俺の隣に並ぶ。
そして昨日と決定的に違うことがある。
「じぇいん、じぇいん」
俺の名前を、はっきりと連呼している。
(もう言えるようになったのか……すごいな)
「昨日、帰ってからずっと練習しておってな。まさか本当に言えるようになるとは」
村長が感心したように言う。
胸の奥がじんわりと温かくなった俺は、
「リゼリア……ありがと」
そう言って頭を撫でた。
すると――
パッとリゼリアの手が離れる。
次の瞬間、がばっと抱きついてきた。
「あら〜、よっぽど嬉しかったのね」
「ワッハッハ! ローゼスが見たら卒倒するぞ! だが、私は歓迎だ!ゼインくん、リゼリアをよろしく頼むよ!」
(よろしくって何だよ……)
そんなツッコミも虚しく、
リゼリアはそのまま眠ってしまった。
それにつられるように、俺の意識もゆっくりと沈んでいく。
――目が覚めた頃には、すでにリゼリアは村長と帰ったあとだった。
けれど。
小さな手で握られていたはずの温もりだけが、まだはっきりと残っている。
(……不思議だな)
たったそれだけのことなのに。
どうしようもなく、心が満たされていた。
この時の俺は、まだ知らない。
それが――やがて俺の心の支えになることを。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
リゼリアとの関係は、この先の物語にとって重要な軸の一つになります。
また、会話の中で出てきた「ジョブ」や「魔法」など、
この世界の仕組みについても少しずつ触れていく予定です。
次回からは時間が進み、物語も少しずつ動き出していきます。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。




