道中での出会い
今回も宜しくお願いします。
「「「だから……また戻って来い(来て)よー!!」」」
そんな言葉を背で聞きながら、振り向くことはなく、俺は手を挙げて応えた。
この先に待っているものは何なのか。不安を抱えながらも、俺は村を去った。
村を出て30分ほどが経った。
村からはほぼ一本道が続いている。
「冒険者になるのは決定として、それまでどうしよう」
ローゼスやラミネの勧め通り、冒険者になることには決めたが、町に行くまでにどうするかを考えていた。
しばらくすると、両側に森が広がる道へと入った。その道に入ったところで、思わぬ人物と出会った。
「え?……村長?」
「……ゼインくん」
「どうしたんですか? こんな所で」
俺がそう尋ねた途端、
「守ってやれなくて、すまなかった!」
膝をつき、地面に頭をつけて謝罪してきた。
「……はっ! 村長、顔を上げてください!」
なにぶん土下座を見たのは初めてだったので、一瞬、呆気に取られてしまった。
何とか村長に顔を上げてもらい、立ち上がってもらう。
「わしは最低じゃ。小さな子ども一人、守ることができなんだ」
村長は大粒の涙を流す。
「村長は村長の役割を果たしたんです。そう卑下しないでください」
俺は素直に思っていることを伝えた。
「ゼインくん……君は本当に立派じゃな。そう言ってもらえると、心が幾分か軽くなる」
村長は徐々に落ち着いたようだ。
「それで、どうしたんですか? こんな所で」
「実はの。伝えたいことがあって待っておったのじゃ」
「伝えたいこと?」
「そうじゃ。ゼインくんが追放されるに至った言い伝えについて。そして、この村について」
「言い伝えと、村について……?」
(言い伝えのことは気になっているが、村について今更なにがあるんだ?)
そう思いつつも、
「聞かせてください」
俺は答えた。
「うむ。まず言い伝えじゃ」
「えっと、『【ネクロポーター】のある所、何も残らない。死体までも消え失せる』でしたっけ?」
俺はトヨが言っていたことを思い出した。
「そうじゃ。それはの、ただの言い伝えではない。本当にあった出来事じゃ」
「本当に……あった?」
「そうじゃ。もう数百年も前じゃが、この付近には儂らの村を含めて7つの村があった。じゃが当時は戦の時代での。多数の死傷者が出た」
ここまでは、よく聞く戦時中の出来事という印象だ。
「しかし、ふとした時にネクロポーターが現れた。かの者が通った他の村は無くなってしまった」
「村が……無くなった?」
「村そのものというより、村人が消えたのじゃ」
「村人が消えた? なんで?!」
「何故かは分からん。じゃが、ずっと昔からこの村で言い伝えられてきたことじゃ」
「……そうですか」
ネクロポーターと村人の消失。一体、なんの関係があるのか。
「確かに、そんな言い伝えがあればネクロポーターを怖がるはずですね」
村の年配の人たちがネクロポーターを恐れていた理由はわかった。だが、一つ気になることがある。
「僕たちの村は無事だったんですか?」
そう。何故、うちの村だけが無事だったのか。今の話を聞けば、うちの村にはネクロポーターは現れなかったのだろうか。
それを聞いた村長の表情は険しさを増した。
「……その答えを、わしの口から話すことはできん」
「! ……そう……ですか」
「じゃから、今から言うことはただの独り言じゃ」
そう言うと村長は、誰かに語りかけるように独り言を話し始めた。
「ネクロポーターが訪れた村は村人が消えていった。そして、彼の者は我らが村にもやってきた。じゃが、我らが村は無事じゃった。何故なら……我が村はネクロポーターの生まれた村だったのじゃ」
「なっ!」
俺は思わず声が出た。村長は気にした様子もなく続ける。
「我が村がネクロポーターの生まれた村だったこと、ネクロポーターが訪れても無事だったこと。そして……ネクロポーターが勇者を殺してしまったこと。この全てが重なったことで、我が村は国から見捨てられ、村人も迫害されるようになった。決してネクロポーターを我が村に入れず、そしてネクロポーターを再び生んではならぬ」
ここで村長は一息つき、俺に視線を合わせる。独り言が終わった合図であろう。
ネクロポーターのギュレットが勇者を殺したと言い残して消えたという話は、マリオルから聞いていた。
(でもまさか、村自体と関わりがあったなんて)
「……村長」
「なんだね? ゼインくん」
「何故、その独り言を僕の前で話されたんですか?」
「……追放に賛成した者たちの想いも知って欲しかったからじゃ」
「……」
「我らが村は長い間、国から見放され、迫害を受けてきた。じゃが、年月とともにその事実を知る者が減り、村への風当たりは改善した。じゃが先祖様は、同じ想いをして欲しくないとこの言い伝えを守ってきたのじゃ」
「そして、僕が現れてしまった」
村長は静かに頷いた。
「そういうことが……。だから村長は、あの時『まさか……また』って言ったんですね」
「聞こえておったのか。そういうことじゃ」
村長は目を伏せた。
「……審判の後、トヨさんからも謝罪されました。でも村長の話を聞いて、皆さんが村のことを想っての行動だということが再確認できて良かったです」
「……そう言ってもらえると、あの者たちも救われるじゃろう」
「ぜひ伝えてください。ショックはありましたけど、リゼを助けられただけでも、僕は良かったと思っています」
「……おぬし、本当に10歳か?」
「ははっ、当たり前じゃないですか」
村長の問いに、俺は軽く返す。
「じゃあ村長。遅くなると危ないですから、早く村へ帰ってください。僕ももう行きますね」
別れを切り出すと、
「ゼインくん」
村長から呼び止められた。
「はい?」
「これを持って行きなさい」
村長は俺にペンダントを手渡した。
どこまでも黒い。漆黒のペンダント。だが、どこか惹かれるものを感じた。
「これは?」
「これは代々、我が村に伝わっておる物だ。せめてもの償いじゃ。持って行ってくれ」
「そんな……こんな大事な物を受け取るなんて」
俺はペンダントを返そうと差し出す。
「いいんじゃ。どんな物か分からない物じゃ。じゃが、それほど綺麗なものなら金銭にも換えることができるじゃろう。持って行っておくれ」
そう言いながら村長は、俺の手にペンダントを握らせた。
「……わかりました。有り難く頂戴します」
「うむ」
俺がペンダントを首に掛けると、村長は満足げに頷いた。
「じゃあ、僕からも一つ。家に母さんが使っていた本が置いてあるので、ローゼスさんに使ってもらってください。もしかしたら、解読のヒントになるものがあるかもしれません」
「おお、そうか。ありがとう。伝えておこう」
「はい……じゃあ、お元気で」
「うむ。達者でな」
お互いに最後の挨拶を交わし、すれ違う。
少し歩いて振り返る。村長は先ほどの場所から、ずっと俺を見送っているようだ。
俺は手を振り、再び足早に歩き出した。
しばらく森に挟まれた道が続いている。
「だいぶ歩いた気がするけど、まだもう少し続きそうだなぁ」
(こんな時にチート能力とかあったら楽なんだろうなぁ)
前の世界で読んでいた小説を思い出しながら歩いていた。
すると、
「ガアァァアア!」
キィィン――!
と、モンスターと思われる声と、金属がぶつかる音が僅かに聞こえた。
「なんだ?……真っ直ぐだな」
俺は音の正体を確かめるため、
「【ファストステップ】【アジリティアップ】!」
スキルを使い、道を進んだ。
すると、3体のモンスターに囲まれた馬車を見つけた。そして馬車を守るように、騎士と思われる者が3名と、冒険者と思われる者が4名。
モンスターは単眼にゴツゴツとした茶色の皮膚、そして身の丈3mはあろう巨体。
「サイクロプス!」
本来は森の奥に生息している魔物で、どちらかといえば大人しい魔物である。
(なんで森から出て人を襲ってるんだ?)
疑問は残るものの、
(まずは人命優先だ)
冷静になり、スピードを落とさぬまま、サイクロプスの後方へ回り、
「【バスタースラッシュ】!」
両手で剣を握り、スキルを発動させ、サイクロプスの頭部めがけて斬りかかる。
ゴリッとサイクロプスの頭蓋骨に食い込む音がする。骨の硬さを手に感じながら、
「ズギュアァァァア!!」
サイクロプスが悲鳴をあげる。
「おりゃぁーー!」
俺はさらに剣を深く斬り込む。頭部の半分まで剣が食い込んだ所で、その巨体から力が抜けた。
そして、その場でドスンと倒れた。
襲われていた騎士は、なにが起きたのか理解できていないようで呆けている。
「大丈夫ですか?!」
俺は騎士に声を掛ける。
「……えっ! あ、ああ」
少し間が空いたが、すぐに気を取り直したようだ。
「なら良かった! 加勢します!」
「な、なぜ子どもが?! 早く逃げるんだ!」
「こんなでも役に立ちますよ!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ!」
言い返されるとは思っていなかったようで、騎士は激しく怒った。
「サイクロプスはあと2体。貴方達も満身創痍だ。なら僕も加わった方が勝率は上がると思いますよ」
「君はまだ子どもだろう!」
騎士はまだ納得いっていないようだ。
そこへ、一人の痩せ型の男がサイクロプスの攻撃をかいくぐり、駆け寄ってきた。
「騎士さんよ、その坊主の言う通りだ! さっきの動きを見ただろう? ただの子どもじゃねぇ! 協力を得るべきだ!」
「あなたは子どもを危険に晒すのか!」
「なに、坊主にはあいつらの注意を逸らしてもらうだけでいい。危険な所は俺等の役目だ! 坊主、出来るか?」
「できます!」
「よし!」
「『よし!』じゃない! 何を考えてるんだ!」
「助かる可能性を探るのは冒険者の基本だ! そして冒険者に年齢は関係ねぇ!」
「そういうことじゃないだろ!」
騎士と冒険者は口論を始めた。
しかし、ハッシュはすぐに声を張り上げた。
「坊主! 時間が惜しい! さっさと決めるぞ!」
「はい! あっちの方から行きます!」
俺は他の騎士が戦っている方へと向かった。
「おい! 君! やめるんだ!」
騎士の声が響くがお構いなし。
「こっちだ!」
俺はサイクロプスの視界に入る。
「ガァアアアアア!」
サイクロプスは俺めがけ拳を振り下ろす。
「【ファストステップ】!」
俺は素早くその場を離れ、サイクロプスの横へ回る。
「グ? グァア?」
俺を見失ったサイクロプスは困惑しているようだ。
そこで、
「こっちだ! 【スラッシュ】!」
軽めにしたスラッシュを足へと当てる。
「ガァア!」
サイクロプスの注意が俺に向いたことを確認し、
「今です!」
騎士の方へ合図を出す。
「あっ、ああ! 【ホーリースピア】!」
「【ホーリーアロー】!」
騎士2人は少し遅れながらも、一人は光をまとった槍で背部から刺し、もう一人は光の矢で後頭部を穿った。
「よし!」
サイクロプスはそのまま前へと倒れ込んできたので避ける。
ズゥウンと倒れたサイクロプスは動かなくなった。
「君! 大丈夫かい?」
「大丈夫です! ありがとうございます! じゃあ、次へ行きますので!」
「えっ! 次って、きみ!」
騎士の声を後ろに聞きながら、次は冒険者達が戦っている場へと向かう。
「よう! 早かったな!」
声を掛けてきたのは、先ほどの痩せ型の男だった。
「ええ。僕が隙を作って、騎士の方々が倒してくれました」
俺の言葉を聞くと、男はニッと笑った。
「なに言ってやがる。ちらっと見てたが、坊主の囮のおかげじゃねぇか。まだガキのくせにやるな!」
男は感心しているようだった。
「僕はちょっとお手伝いしただけですよ。あと、僕の名前はゼインです」
「おっと、こいつは悪いな。俺はハッシュ。このパーティのリーダーだ。よろしくな! ゼイン!」
「よろしくお願いします。ハッシュさん」
一応、戦闘中なので、2人とも敵から目は逸らさず、口早に自己紹介を済ませる。
「おい、ハッシュ! 助っ人ってまさかその子どもがか?!」
「さすがに冗談でしょ?!」
「でも、ハッシュが言うんだし……」
残りのメンバー3人も、戦いながら器用に喋っている。
(実は結構、余裕?)
「なんか余裕じゃね? って考えてる面だな」
「あっ、分かります?」
「ああ。万全だったらサイクロプス1匹くらいどうってことないが、さっきまでに消耗しすぎてな」
さっきまでサイクロプス3匹を相手にし、なおかつ馬車に攻撃が向かわないよう立ち回っていたのだから、消耗するのも当然だろう。
「だが、そこでお前が来た。まさに神の采配だ。さっきのように、撹乱してくれればいい」
「分かりました!」
そう返事をするやいなや、俺はサイクロプスの元へと駆ける。
「ギガッ!」
サイクロプスは俺に気づいたようで拳を振り上げるが、
「させないよ!」
冒険者の放った弓がサイクロプスの右頬に当たる。
さらに、
「どっ、せぇーい!」
大槌を持った大柄な冒険者がサイクロプスの右足首を叩く。
「グゥオォォ!」
さすがのサイクロプスも堪えたようだ。今度はそちらに注意が向いた。
「僕を忘れすぎだよ! 【スラッシュ】!」
俺はサイクロプスの左足首の腱に斬りかかる。
「ゴォォオ!」
サイクロプスの姿勢が崩れた。
「【メガライト】!」
杖を持った冒険者が唱えると、サイクロプスの眼前近くに光の玉が現れた。そして、カッと強い光を放つ。
「グッ、ゴォォオオ」
サイクロプスはあまりの眩しさに目を閉じ、パニックになっているようだ。
「次は俺だ!」
ハッシュが木々を蹴って飛び上がり、サイクロプスの首の後ろへ回り込む。
「くらえ! 【ダガー・フルーリー】!」
ハッシュは持っていた2本の短剣でサイクロプスの首の後ろを縦横無尽に斬りつける。
「ギャアアア!」
「うおぉおおおお!」
サイクロプスの悲鳴に呼応するように、ハッシュのスピードも上がっていく。
そしてついに、
「グッ……ガァ……」
ズシィィンと音を立てながら、最後の一匹が倒れた。
「よぉおおし!」
「「「よっしゃーー!!!」」」
ハッシュをはじめ、冒険者たちは喜んでいた。
騎士達はというと、
「ご無事ですか!」
慌てて馬車へ声を掛けている。
すると、馬車の扉が開き、侍女が一人出て来た。その後ろから、一人の少女が降りて来る。
「私は大丈夫です。皆様は大丈夫ですか?」
少女はその場にいる全員を確認しながら尋ねた。
「……あの、貴方は?」
俺と目が合い、不思議そうに尋ねる。
「僕は、ゼインと言います」
こうして俺は、一人の少女と出会った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今後も宜しくお願いします。




