村民審判
今回も宜しくお願い致します。
「只今より、村民審判を始める!」
村長の一声で、審判が始まった。
「村民審判……?」
「まさか……儂らの代で」
「早く説明して頂戴よ」
そんな声が周囲から聞こえてくる。
子どもはもちろん、大人たちも困惑しているようだ。
(知らない人が多数なのか?)
そう疑問を抱えていると、
「静粛に!」
村長の声が再び響く。
まさに鶴の一声。
皆がシンと静まり返る。
「オホン。皆、急に招集してしまい申し訳ない。宣言した通り、村民審判を執り行う」
皆、村長の言葉に耳を傾ける。
「村長! 村民審判って何なんだ?」
ある村民が尋ねた。
「知らぬ者が多いのも無理はない。古くから村にある掟じゃが、最後に開かれたのは300年ほど前らしい。そして村民審判とは――」
村長は俺の時と同じように、村民審判について説明する。
(というより、300年前が最後? そんな掟を掘り返してまで、何で俺が?)
疑問は深まるばかりだ。
「何でいまになって、そんな掟を……」
「それに、悪いことをした人なんていないじゃない」
再び村民はざわつき始めた。
「静粛に!」
そして再び静まり返る。
村長が続ける。
「いまから呼ばれる者は前に出るように。……被告、ゼイン!」
「!」
村長の声に、少し驚いてしまった。
俺は言われるがまま前に出る。
「ゼインよ。そちらの箱の上に乗るがよい」
村長に促されるまま木箱の上へと乗る。
集まった村民から姿が見えるようにするためだろう。
「被告ってゼインくんが?」
「何かの間違いだろ」
「パパ、被告ってなぁに?」
再び集まった村民たちがざわつき始める。
「オホン!」
そして村長の咳払い一つで、再び静寂が訪れる。
「次に、原告」
そう。被告がいれば原告がいる。
古い掟を使ってまで、俺を被告にした者がいる。
(一体、誰なんだ……)
頭の中を疑問が駆け巡る。
そして、ついに原告が告げられた。
「原告、トヨ!」
「はいな」
「……え?」
原告の名前を聞き、一瞬だが頭が真っ白になった。
村で唯一の治癒師ということもあり、修行を始めた時からとてもお世話になっている。
今回だって。
(トヨさんが、なぜ俺を……?)
そして、治癒師のトヨが前に出る。
「トヨ。そちらの箱の上へ」
「はいな」
トヨは促されるまま、もう一つ用意された箱の上へと乗る。
「両者が出揃った。まずは宣言である。汝らは嘘を申さないこと、そして相応の判決を受けることを神に誓えるか?」
村長が俺とトヨに問いかける。
「誓えますじゃ」
「誓います」
二人とも承諾する。
「よろしい。神の目と耳は全てを受け、神の御心は正しきを決する」
言い終えると村長は目を閉じ、パンッと一回手を打つ。
そして、目を開いた。
「では、原告、トヨ。そなたがゼインを被告とする理由を述べよ」
「はいですじゃ」
村長の言葉に、トヨは返事をする。
(トヨさん、一体なぜ……)
疑問は膨らむ一方だ。
そしてトヨの口から、俺が被告となった理由が語られる。
「実は今日の昼ごろ、ゼインくんの見舞いにローゼスとラミネが来なすった。私は薬茶を振る舞おうと持っていったところ、聞いてしまったですじゃ。ゼインくんが、ジョブを得たと言う事を」
「!」
俺は心臓が激しく脈打つのを感じた。
(まさか……あの時の話を?)
呼吸が早くなる。
そこで村長が尋ねる。
「ジョブじゃと? ゼインはまだ10歳じゃ。そのような年齢でジョブを得たなど聞いたことがない。何かの聞き間違いではないのか?」
「私も初めはそう思いましたじゃ。しばらく部屋の前で会話を聞いておりましたじゃ。そしたら、ジョブを授かったとハッキリと言っておりましたじゃ」
トヨは村長の問いに答える。
トヨの言い分を聞いた村長は、次に俺へ問いかける。
「ゼインよ。トヨの言うことは本当か?」
ローゼスたちからは言わないように釘を刺されていたが、ここまで聞かれていては仕方がない。
(幸い、ネクロポーターのことは出ていない。そこは聞かれてなかったのか?)
俺は深呼吸をして答えた。
「……はい。事実です」
村長の目がさらに見開かれる。
案の定、集まった村民たちもざわつき始める。
「ゼインよ。ジョブの取得の手順は、姉がいるそちなら分かっておるじゃろ。なぜジョブを取得できたのじゃ?」
「……はい」
俺は事件当時のことを話した。
ネクロポーターの部分は伏せて。
「……そうか。リゼリアを守るために。もしかしたら、神が寵愛をくださったのかもしれん」
「そうかもしれません」
俺の応答は終わった。
……かのように思えたが、
「村長。よろしいですじゃ?」
トヨが手をあげる。
「トヨ。申してみよ」
「ゼインくんは、ある事を隠しておりますじゃ。そして、それこそ私が村民審判を求めた理由ですじゃ」
(……まさか!)
落ち着いてきたはずの心臓が再び脈打ち、冷や汗が出る。
「どういうことじゃ?」
「ゼインくんはジョブを得たじゃ。それは――【ネクロポーター】」
「なんじゃと!!」
村長は大声をあげた。
「【ネクロポーター】だって?」
「あの罪人ジョブの?」
「何かの間違いでしょ?」
より一層、村民たちもざわつき始める。
村長は村民たちを落ち着かせるのも忘れ、
「ゼインよ! トヨの言う事は誠か!」
俺に向き直り、険しい表情で問いかけてくる。
俺は……覚悟を決めた。
さっきよりも深く、深く息を吸って吐く。
「はい。事実です」
周囲の空気が一気に張り詰めるのを感じた。
村長は「信じられない」と顔に書いている。
「まさか……また」
「?」
村長のつぶやいた言葉が気にかかった。
そして、
「では、ゼインよ。トヨの訴えを全て認めるのだな」
「……はい」
「なぜ【ネクロポーター】を得たのじゃ?」
「……それは」
俺は【ネクロポーター】を得た経緯を伝えた。
「そうか……分かった。トヨは何かあるか?」
「ないですじゃ」
「ゼインの方は?」
「ありません」
俺たちへの最終確認を終え、村長の声が響く。
「……これより判決に移る! 判決は村民の5割以上の挙手で実施となる!」
村長の言葉で、村民たちは静まり返る。
「判決! 被告、ゼインを……追放とする! 賛成の者は挙手!」
俺の運命は、村民たちに委ねられた。
ざっと見ただけでも、賛成の手は半数を超えているように見えた。
(……決まりか)
そう思っていると、
「ちょっと待ってください!」
「その判決、異議ありよ!」
そんな声が響いた。
声の方を見ると、ローゼスとラミネが立っていた。
「ローゼスさん、ラミネさん……」
二人の名をつぶやいた。
「彼は私達の娘を救うために、そのジョブを得たのです! 人を救った彼が、なぜ追放なのですか!」
ローゼスが力説する。
「しかも、挙手してるのはご老齢の方たちばかりよね。ゼインくんにお世話になってる人たちも多いと思うけど、どうしてかしら?」
ラミネが疑問を呈する。
その問いに答えたのは、トヨだった。
「私達もゼインくんには感謝しておる。じゃからこそ、この判決は私らも苦しいものじゃ」
「だったら何故?」
ラミネも口調は落ち着いているが、その言葉には怒りが滲んでいるようだった。
「それは【ネクロポーター】が悪しきジョブだからじゃ」
「それは罪人につけられるジョブだから? ゼインくんはジョブこそ【ネクロポーター】だけど、罪人なんかじゃないわ」
「そうではない。【ネクロポーター】には、悪しき言い伝えが残っておるのじゃ」
「言い伝え?」
「そう。『【ネクロポーター】のある所、何も残らぬ。死体までも消え失せる』とな」
「っ!……そんな言い伝えだけで追放するっていうんですか?」
ローゼスが語気を強めて問いかける。
「それは、ただの言い伝えではないのじゃ」
トヨは静かに言葉を続ける。
「遥か昔、【ネクロポーター】がある村を訪れた。その村は一夜にして滅んだ。村人は全員が消えた。遺体すら残らずにな」
「……」
その言葉に、周囲から声が消える。
「何故、そんなことが起きたのか……それは、誰にも分からぬ。じゃが、儂ら年寄りはずっと親から聞かされておった。私らの親も、親から聞かされてきたのじゃ」
「だから……ゼインくんも同じだと?」
ラミネが問いかける。
「……分からぬ。じゃが、分からぬからこそ怖いのじゃ。私らは村を守りたいだけなのじゃ」
トヨは涙する。
しかし、その目は力強かった。
そして、追放に賛同しているご老齢の村民たちも、苦悶の表情を浮かべていた。
(彼らは彼らで、村の皆を守ることに必死なんだ)
そう思うと、これ以上言い争う気にはなれなかった。
何回目かの深呼吸をした後、
「ローゼスさん、ラミネさん。ありがとうございます」
俺は二人に声を掛ける。
「「ゼインくん……」」
俺が声をかけたことで、二人も少し落ち着いたようだ。
「村長」
「何じゃね。ゼイン」
「俺は………判決を受け入れます」
「……そうか」
村長は顔を伏せる。
そして再び顔を上げると、
「賛成多数! ゼインは追放とする! 明日中に村を出ることを命じる!」
村長の声を最後に、村民審判は終わりを告げた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も宜しくお願い致します。




