忌み嫌われしジョブ
いつもありがとうございます。
それでは、今回もよろしくお願いします。
「……ん。……うん?」
俺は目を覚ました……はずだった。
目を開けている感覚はあるのに、真っ暗だ。何も見えない。
「なんだ、これ。どうなってるんだ」
訳が分からない。心臓が強く脈打ち、息が苦しくなる。
「ハァ、ハァッ……誰か。誰か!」
俺はできる限りの力で叫んだ。
すると――
「!!」
急に光が差し込み、思わず目を閉じる。
まぶたの裏からでも分かるほどの強い光だ。
少しずつ光に慣れてきたところで、ゆっくりと目を開ける。
「これは……?」
目の前に現れたのは、四角いホワイトボードのようなものだった。
それが光を放っている。
「なんなんだ? いったい……」
訝しんで見ていると――
ザーッ
「!」
光を放っていた部分が、急に乱れ始めた。
まるでテレビの砂嵐のように。
だが、すぐに――
ヴンッ
と何かが映し出された。
「……なんだ? ……何が映ってるんだ?」
映像は映し出されたものの、画質が悪く、ほとんど判別できない。
しばらくすると――
『は……く……』
「! いま、声が……」
映像から、少しずつ音が聞こえ始めた。
『は……く……おれ……してくれ』
『ほか……る……だ!』
『……だ……のむ』
しばしの沈黙。
そして――
『うおぉぉ!』
「!!」
急に大声が響き、思わず耳を塞ぐ。
そして、カッ! と画面が一瞬だけ強く光った。
その直後、映像が消え、再び真っ暗になった。
「何が起こったんだ……」
俺が再び困惑していると――
『……くん。……ゼインくん』
誰かが俺を呼んでいる。
この声を俺は知っている。
何度も何度も呼ばれてきたから。
「リゼ? リゼなのか?! リゼ、どこだ!」
俺は見えない闇の中を見渡す。
どこを向いているのかも分からない。
それでも、俺は必死に周囲を見渡した。
「……!」
すると、遠くに小さな光が見えた。
「リゼ!」
俺は光を目掛けて走った。
走って、走って、走った。
光が少しずつ大きくなる。
そして、手が届きそうなほどまで光が大きくなった。
「リゼーっ!」
俺は思い切り光に手を伸ばした。
今まで真っ暗だった視界が、目一杯の光に包まれる。
「!!」
気づくと俺は、仰向けの状態で天井に向かって手を伸ばしていた。
「ここは?」
状況が飲み込めずにいると――
「おや? 目を覚ましたかい?」
「!」
声の聞こえた方へ顔を向けると、見覚えのある老齢の女性が座っていた。
「コト……さん?」
「うん。顔色も良いし、もう大丈夫だね。ラミネを呼んでくるよ」
そう言ってコトは部屋を後にした。
コトは、この村の治癒師である。
「ここは診療所か」
ようやく状況を把握し始めたところで――
「「ゼインくん!」」
部屋に声が響く。
目をやると、ラミネとローゼスがいた。
「こらこら、大声はいかんよ」
「「す、すいません」」
コトに注意され2人は小声で謝罪した。
「皆さん、痛っ!」
俺は身体を起こそうとしたが、全身を痛みが駆け抜ける。
「ゼインくん、まだ無理してはダメだ」
聞けば、二日間ずっと意識が戻らなかったらしい。
「本当に良かったよ」
ローゼスは優しく笑いかける。
俺も少しずつ頭がハッキリとしてきた。
(そうだ……俺はリゼの声を頼りに!)
「……リゼ、リゼはどこですか!」
痛みを感じながらも、ローゼスに手を伸ばす。
「ゼインくん、落ち着いて。リゼリアなら大丈夫」
ローゼスの横から、ラミネが説明する。
「まだ意識は戻らないけど、命に別状はないわ」
「そう……ですか」
まだ意識は戻らないながらも、リゼは助かった。
それを聞くと、身体の力が一気に抜けた。
「ゼインくん、起きたところ悪いんだけど、何があったのか教えてくれるかしら?」
「はい」
俺は、果物狩りの途中でゴブリンに襲われたこと、リゼが毒矢を受けたこと、そしてジョブを取得したことについて話した。
ラミネとローゼスは、ジョブ取得のところで目を見開いていた。
「なるほど。状況は分かったわ。ゴブリンに関して言うと、スタンピードではないわ」
「そうなんですか?」
「ええ。実はあの日、ゼインくんが見たっていうオーガベアを森の中腹付近で確認して、すぐに討伐をしたの」
「さすがラミネさんですね」
(あんなオーラのモンスターを倒せるなんて……)
「冒険者さん達と一緒だったから、犠牲も出さずに済んだのよ」
ラミネは謙遜するように言った。
「それでね、その中腹でゴブリンの営地と思われる場所もあったの」
それを聞いて、俺にも異変について想像がついた。
「つまり、ゴブリン達はオーガベアから逃げて、反対側の森に来ていたと?」
「正解」
ラミネはウインクをした。
「そうですか。僕がもっと警戒していれば……」
自分に対する怒りが込み上げてくる。
そんな様子を察したのか、ローゼスが口を開いた。
「リゼはあと少し遅かったら、間に合わなかったかもしれない。複数のゴブリンからリゼを守りながら逃げ切るなんて、賭けだったと思う。でも君のお陰でリゼは助かった。ありがとう」
ローゼスは感謝の言葉を述べると、ラミネと一緒に頭を下げた。
「そんな、頭を下げるのは僕の方なのに」
「それは違う。君は、あの状況で最善を考えて行動したからこそ、生きているんだ。誇りこそすれ、卑下することはないよ」
ローゼスは真っ直ぐと俺の目を見ながら語りかけた。
「……ありがとうございます」
少し心が軽くなった気がした。
「でも、ジョブが10歳で取得できるなんて……ねぇ。しかも司祭様なしで。あなた、どう思う?」
ラミネはローゼスに尋ねる。
「……そうだね。信じ難いけど、ゼインくんが嘘をつくとは思えないし、それくらいの奇跡が起きなければ生還できなかったとも思うよ」
「そうよねぇ」
二人は頭を悩ませていた。
「ゼインくん、ちなみに何のジョブを授かったんだい? 剣士かい? それとも魔術師かい?」
ローゼスは俺に質問してきた。
恐らく、ヴァッシュとレリーナのジョブから推理したのだろう。
「僕は『死体運び屋』【ネクロポーター】を授かりました」
「「....」」
そう言った途端、ローゼスとラミネの顔色が変わった。
「【ネクロポーター】? 【ネクロポーター】ですって?」
ラミネにしては珍しく、戸惑っているようだ。
ローゼスも少し下を向いたが、顔を上げて再び俺を真っ直ぐと見据える。
「ゼインくん……なぜそのジョブを?」
先ほどとは違い、言葉に力が入っているようだった。
「【ネクロポーター】は、死者および死に瀕しているモノを運ぶジョブです。あの状況下では、これが最適だと思ったんです」
俺の価値観を述べる雰囲気ではないので、それは隠したまま伝える。
「……そうか。ちなみに、どんなスキルを使ったんだい?」
「スキル……」
(そう言えば、何か発動してたのか?)
「リゼを運ぶのに必死で、スキルを使用した記憶がなくて」
それを聞いたラミネが、
「じゃあ、スキルを見てみましょう」
「スキルを見る?」
「ええ。心の中で、スキルを見るように念じてみて」
スキルを見るという感覚が分からなかったが、
(スキルオープン?)
なんとなくゲームっぽく念じてみると、目の前にAR画面のようなものが出てきた。
「うわっ!」
思わず驚いて声が出てしまった。
「どうやら上手くできたようね。そこに色々と情報が載っているはずよ。ちなみに、他の人には見えないわ。特別な方法を使わない限りね」
ラミネの言う通り、名前や年齢などの情報が載っている。
そして、目的のジョブの欄には――
ジョブ:ネクロポーター
スキル
・運送防御Lv1【キャリアガード】
(死体および死に瀕したモノを運んでいる間、運搬者と運搬対象への一定ダメージ以下の物理攻撃を無効にする)
・不屈の歩みLv1【ネクロマーチ】
(死体および死に瀕したモノを運んでいる間は体力の減少を少し抑える)
2つのスキルが記載されていた。
(なるほど。だからゴブリンから攻撃を受けることもなかったし、村に着くことができたのか)
2つのスキルが作用したからこそ、リゼを助けることにつながったのだろう。
俺はスキルを伝えた。
「……ねぇ、あなた。こんなスキル聞いたことある?」
「いや、初めて聞いた」
ラミネもローゼスも、頭をひねっている。
「でも、このジョブのことは誰にも言わないほうが良い」
「そうですね。10歳でジョブが取得できたなんて、あり得ないですもんね」
俺はローゼスの言葉に応えた。
「確かにそうだけど、特に隠してほしいのはジョブの方さ」
「ジョブですか?」
「そう。【ネクロポーター】は大罪人に付けられるジョブなんだ」
「ジョブを付ける?大罪人?」
(ジョブは自由にできるのか?)
「特別な魔法を用いることで、ジョブを変更できるんだ。しかし、それは犯罪者にのみ実施される決まりになっている」
「犯罪者にだけ……」
俺は少し考えると、答えは簡単に出た。
「犯罪者が強力なジョブを持っていたら、反乱が起きるからですか?」
「概ねその通りだよ。特に【ネクロポーター】は本来、少し体力が向上するくらいしか効果がない」
「なぜわざわざ【ネクロポーター】を? 他のジョブでいいはずじゃ……」
ローゼスは少し間を置いてから答えた。
「大きな戦いでは負傷者が出るだろ? 戦地でそういう人達を回収する役目を与えられるんだ」
「それは……命をかけて、命を救う行動を強制させられると?」
「そういうことだね」
「そうですか」
自分の選んだジョブや価値観に、後ろめたさは微塵もない。
しかし、この世界では【ネクロポーター】は忌み嫌われているらしい。
「とにかく、ジョブの事は言っちゃダメよ」
ラミネからも釘を刺された。
「じゃあ、そろそろお暇するよ。明日には家に帰れるみたいだから、ゆっくり休むんだよ」
「また来るわね」
そうして二人は診療所を後にした。
残された部屋で――
「リゼ……助かったのか」
俺はリゼの存命を確かめるようにつぶやいた。
(リゼも早く目覚めますように)
俺はそう願いながら目を閉じ、身体を休めた。
ゼインが眠りに落ちたとき、診療所を足早に後にする人影があった。
夕刻頃、俺は目を覚ました。
「思ったより、まだ疲れていたんだな」
俺は独り言をつぶやく。
「俺がしっかりと警戒していれば、リゼを危ない目に合わせずに済んだ。明日からまた修行をしないと」
決意を新たにしたその時、来客があった。
「ゼイン、失礼するぞ」
「村長、どうされたんですか?」
「いや、ちょっとな。ゼイン、身体は動きそうか?」
「? ええ。まだ痛みが残りますけど、楽にはなってきたので少しなら」
「そうか」
村長の顔は険しい。
(一体、村長はどうしたんだ?)
俺が不思議に思っていると――
ドタドタッ
と走る音が聞こえ、
「村長!」
ローゼスが息を切らしながら部屋へと入ってきた。
「ロ、ローゼスさん?! どうしたんですか?」
俺は驚きながらも尋ねた。
「ゼインくん……」
ローゼスは俺の名を呼ぶと、怒りの表情で村長に問いかけた。
「村民審判を行うとはどういうことですか? しかも、なぜ被告がゼインくんなのですか!」
ローゼスは声を荒らげた。
赤ん坊の頃からローゼスを見ているが、どんなに記憶を辿っても、彼が怒った姿は思い浮かばない。
すなわち、怒っている彼を見るのは初めてだ。
怒りを向けられた村長は、それを受け止めるように落ち着いていた。
まるで、始めから分かっていたかのように。
「……これは決定事項じゃ。理由は審判の場で行う。ゼインくん。まだ回復しきっていないところ、申し訳ないが、広場まで来てはくれまいか?」
「村長!」
ローゼスの怒りは続いている。
かたや村長は、落ち着いたものだ。
「あの、村民審判って何ですか?」
俺は尋ねた。
「ふむ。村民審判とは……」
村長の説明を要約すると、村で悪事を働いた人間の処遇を決める、村民による裁判らしい。
「なぜ村人で審判を? 然るべき所に任せればいいんじゃないですか? 村人だけで決まったら、何か確執とかできそうですけど」
村長は目を丸くした。
「……昔から思っておったが、ゼインくんは中身が大人みたいじゃな」
ギクッ!
(確かに、今のは10歳らしからぬ発言だった!)
「いえいえ、そんな。おそらく母に似たんだと思います」
苦し紛れの返答ではあるが、
「確かに、レリーナの子であるなら納得じゃ」
どうやら乗り切ったようだ。
「先ほどの質問じゃが、この村は少々特殊での」
「特殊? どういうことですか?」
「……いや、これは関係ないことじゃ。気にすることはない」
村長はこの話題を切り上げた。
(一体、この村に何があるんだ?)
考えているうちに気づいた。
(あれ? ローゼスは裁判の被告が俺って言ってたな……え!?)
「俺が、罪人ってこと!?」
思わず声が出てしまった。
「……そういうことじゃ」
村長は目を伏せた。
「ですから! ゼインくんが何をしたと言うのですか!」
ローゼスも再び声を荒らげる。
「わしもゼインくんが罪人だとは思っておらん。じゃが、村長として村を守るために、やらなければならんこともある。分かってくれ」
村長は俺とローゼスに頭を下げた。
「「……」」
その様子に、二人は何も言えなくなった。
「……分かりました」
俺は審判へ臨む覚悟をした。
「ゼインくん……」
ローゼスは心配そうにしている。
「正直、何も心当たりがないので。容疑が晴れればいいんですよね?」
「ああ。もちろんじゃ」
「じゃあ、準備をして向かいます。20分後でいいですか?」
「ああ。構わない。わしは先に行っておるよ。ローゼス、ゼインくんを任せたぞ」
「……はい」
村長は診療所を後にした。
「ごめんね。ゼインくん。僕達にも理由が分からなくて」
ローゼスも俺に頭を下げてきた。
「いえ。さっきも言いましたけど、身に覚えはないので。それに村長も、自分の役割を果たしただけです。誰かを贔屓してしまったら、それこそ大変ですよ」
「……本当に、大人びた子だね。ゼインくんは」
「あははっ」
軽く身支度を整えて、ローゼスと共に広場へと向かう。
広場には、村民のほぼ全員が集まっていた。
「来たようじゃな。それでは――」
「只今より、村民審判を始める!」
村長の一声で、審判が始まった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回も宜しくお願い致します。




