ミリの門出と忍び寄る異変
今回はミリの学園入学試験から、ゼインとリゼの日常を描いています。
ミリが村を出て一週間。
今日は、ついにミリの学園入学試験の日だ。
俺は起床すると、王都のある方角へ向かって静かに手を合わせ、ミリの合格を願った。
その後、日課である訓練へ向かう。
村の周囲を走り込み、いつもの広場へ移動する。
剣の素振りや技の練習を始めたものの、今日はどうにも身が入らない。
頭の片隅には、ずっとミリのことがあった。
「俺に出来ることなんてないのに……」
頭では分かっている。
だが、気にしないようにすればするほど、その思いは大きくなっていく。
「今日は帰ろう」
早々に訓練を切り上げ、家へ戻る。
その日は結局、一歩も外へ出ることなく、落ち着かない一日を過ごした。
ソワソワと過ごすこと三日。
ついにミリから手紙が届いた。
届いた日数を考えると、合否が分かった直後に書いてくれたものだろう。
俺は手紙を持ってリゼの家へ向かった。
リゼはもちろん、ローゼスや村長も家にいた。
皆の前で封を開け、手紙を読み上げる。
「神の手に救われ、その寵愛を受ける」
(……これだけか? 何のことだ?)
意味が分からず首を傾げていると、
「おお! 今日はお祝いじゃ!」
村長が大きな声を上げた。
「ど、どういうことですか?」
戸惑う俺に、ローゼスが笑顔で説明してくれる。
「ミリちゃんは無事に試験に合格したんだよ!」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ!」
「ミリちゃん! やったー!」
ようやく意味を理解した。
リゼもその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、お祝いムード一色になる。
(前の世界でいうところの『桜咲く』ってやつか)
ミリの合格は素直に嬉しい。
だけど、これからミリは王都で暮らす。
今までのように簡単には会えなくなるだろう。
そう思うと、嬉しさの中に少しだけ寂しさも混じっていた。
その夜はリゼの家でささやかなお祝いを開いた。
リゼも明るく振る舞っていたが、どこか寂しさを紛らわせようとしているようにも見えた。
数日後。
ラミネが王都から帰ってきた。
「ゼインくん、おめでとう。ミリちゃんはやっぱり凄いわね」
そう言って祝福してくれる。
「とりあえず王都での生活に慣れるまでは、家政婦さんに入ってもらうことにしたから、ひとまず安心よ」
「何から何までありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
「このくらいどうってことないわよ。それに、やっぱり姉弟ね」
「?」
「ミリちゃんにも同じことを言われたわ」
ラミネはくすくすと笑っている。
「ミリちゃんも頑張ったんだ。僕も頑張らないとな」
そう言って部屋へ戻っていくローゼス。
彼は今もなお、勇者の手記の解読に没頭している。
「じゃあ私はゼインくんとお散歩に行ってくる!」
リゼに手を引かれ、散歩へ出かけた。
「ねぇゼインくん。このブレスレットってどう使うの?」
「俺のブレスレットをイメージしてみて」
リゼは頷き、ブレスレットを見つめながら集中する。
すると、
「あっ! 光った!」
「うん、成功だね。この光の強さが俺の元気具合なんだ。光が弱かったら元気がないってことになる」
「じゃあ、いつでもゼインくんの様子が分かるんだね!」
「そうだけど、毎日顔を合わせるんだから、今はそこまで使うことはないと思うよ」
「一緒にいる時も使うから良いの!」
……リゼなら、本当にやりそうだ。
ミリが王都へ行って四か月。
今も手紙のやり取りは続いている。
王都での暮らしにも慣れてきたらしい。
その内容を読んで安心し、俺もようやく普段の日常へ戻ることができた。
「【スラッシュ】!」
今は森でモンスターを狩っている。
魔人騒動のあと、一時は落ち着いていたのだが、最近またモンスターが増え始めているらしい。
そのため、定期的に数を減らしているのだ。
「ふぅ。これだけ狩れば大丈夫かな」
ラビットモンスターの群れを追っていたら、予定より少し森の奥まで来てしまった。
「日も傾きかけてるし、早く戻ろう」
村へ戻ろうとした、その時だった。
「グゥガアァァァ!!」
「!!」
森中に響き渡る雄叫び。
俺は反射的に身を低くした。
「大物がいるのか……」
声のした方向へ慎重に近づく。
木々の隙間から、その姿を捉えた。
頭には三本の角。
巨大な体躯を持つ熊。
「かなり大きいな……俺一人じゃ無理だ」
離れていても分かる圧倒的な体格差。
そして、全身から放たれる異様な威圧感。
「今は離れることが先決だ」
俺は決して視線を外さないまま、ゆっくりと後退する。
十分な距離を取ると、その熊は再び森の奥へ姿を消していった。
「村長に報告だな」
俺は狩ったモンスターを回収すると、急いで村へ戻った。
村へ戻ると、俺は真っ先に村長のもとへ向かった。
「三本角のクマじゃと? まさか……オーガベアか!」
村長は驚きの声を上げた。
「その特徴なら、オーガベアで間違いないですね」
ローゼスも村長の言葉を肯定する。
「すぐに冒険者ギルドへ調査を依頼しましょう」
ラミネの提案もあり、村長はすぐさま依頼書を書き上げると、騎乗の得意な村人へ託した。
「その……オーガベアというのは、それほど危険なのですか?」
俺が尋ねると、ローゼスが頷く。
「ああ。オーガベアはビッグベアの上位種なんだけど、いつ魔物へと変異してもおかしくない個体なんだ」
「じゃあ、調査および討伐は早いに越したことはないですね」
「そういうこと。ゼインくんも、しばらく森の奥には行かないようにね」
「分かりました」
それから二週間後。
依頼を請け負った冒険者パーティが村へやって来た。
五人組のパーティで、到着するなりすぐに森へ調査へ向かう。
しかし、その日はオーガベアの姿どころか、痕跡すら見つからなかったらしい。
「本当にオーガベアだったのか? ただの雑魚を見間違えたんじゃねぇか?」
パーティメンバーの一人が不満そうに口を開く。
「その可能性もあるじゃろう。じゃが、見間違いではない可能性もある。一日だけで判断するには、いささか危険じゃろう」
村長が静かに答える。
すると、リーダーらしき男性が口を開いた。
「仰る通りです。見間違いであれば、それに越したことはありません。あと三日ほど調査を続けようと思うのですが、滞在させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わんよ。むしろ感謝する」
パーティリーダーが誠実そうな人物でよかった。
「えっと、目撃したのは君かい?」
リーダーが俺へ視線を向ける。
「はい」
「目撃した場所と、その時の状況を出来る限り詳しく教えてくれるかな?」
「分かりました」
俺はその時の出来事を、一つひとつ思い出しながら説明した。
「ふむ……ラビットモンスターの群れか。もしかすると、オーガベアを恐れて移動していた可能性もあるな。情報ありがとう」
「いえ。こちらこそありがとうございます」
森の調査が始まって二日目。
今日は冒険者達と共に、ラミネも調査へ出掛けていた。
そんな時だった。
「ゼインくん、冒険者さん達へ提供する食料が少し足りなくての。すまんが、森へ果実を採りに行ってくれんか?」
村長から頼まれる。
「……分かりました」
「すまんの」
不安がないと言えば嘘になる。
それでも命懸けで調査してくれている冒険者達やラミネのためにも、自分に出来ることはしなければならない。
村長も申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「私も行く!」
リゼが勢いよく手を挙げる。
「えっ!? ダメだよ! 危ないから!」
「そうじゃぞ、リゼリア。モンスターが出たら――」
「私とゼインくんなら大丈夫! ちゃんと訓練してるし。ね?」
そう言ってリゼはウインクをした。
(か、可愛い……)
俺の婚約者ながら、可愛すぎる。
「はぁ……。こう言っては聞かんからな。ゼインくん、お願いできるか? 深くまで入らなければ危険なモンスターは出てこないはずじゃ」
「分かりました。リゼ、危険だと思ったらすぐ帰るよ」
「うん!」
リゼは満面の笑みを浮かべる。
そして、それぞれ準備を終えると、
「行ってきま〜す!」
「行ってきます」
「ああ。気をつけるんじゃぞ」
村長に見送られ、俺とリゼは村を出た。
向かうのは、オーガベアを目撃した森とは反対側の森。
しかし、森そのものは奥で繋がっている。
決して油断は出来ない。
俺はもう一度気を引き締めると、リゼと共に森の中へ足を踏み入れた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回はミリが無事に王立ニフティナ学園への入学を決め、ついにミリは、自分で選んだ道を歩み始めました。
一方、村に残ったゼインとリゼにも、少しずつ新たな変化が訪れています。
この先、ゼインとリゼに何が起こるのか。
ここから物語は、いよいよ大きく動き始めます。
次回も宜しくお願い致します。




