ミリの旅立ち
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回はミリのジョブ取得と、彼女が歩み始める新たな道のお話です。 それぞれが少しずつ未来へ向かって進み始めます。 楽しんでいただければ幸いです。
季節は巡り、ゼインは10歳になった。 春が訪れ、優しい暖かさに包まれている。
「姉さん、準備はできた?」
「ええ。できてるわ。とは言っても、何も特別に準備することはないわよ」
「それはそうだけど」
ゼインは少しそわそわとしている。
「ふふっ、ゼインくん。なんで私より緊張してるの?」
「緊張だなんて……うん、ちょっとしてる。なんでだろう? 今日は姉さんにとって大事な日なのに」
「ふふっ。それだけ私のことを考えてくれてるってことでしょ? ありがとう。じゃあ、リゼリアちゃん達を待たせるといけないから行きましょうか」
「うん」
そうして俺とミリはリゼの家へ向かった。
トントンと扉をノックし、
「「こんにちは」」
と二人で声を掛ける。
ギィとドアが開き、
「あら、こんにちは。二人とも準備万端ね」
ラミネが出迎えてくれた。
「なんだか緊張しちゃって。約束の時間より早いですけど、大丈夫ですか?」
ミリは申し訳なさそうに話す。
「ええ。大丈夫よ。なんでだかリゼリアも緊張して、早く目が覚めちゃったみたいなのよ」
「ふふっ。実はゼインくんもなんです」
「ちょっと姉さん、恥ずかしいじゃないか」
「あらあら」
顔を赤らめるゼインを見て、ラミネとミリは笑みをこぼす。
するとそこへ村長が顔を出した。
「ほっほっほ、揃ったようじゃな。ちと早いが、遅くなるよりいいじゃろう。早速、向かうとしよう」
「「はい!」」
俺とミリは返事をする。
それからリゼ、ローゼスも準備を終えて出てきた。
これから向かう先は、森の中にある神殿。
今日は15歳になったミリのジョブ取得の儀式の日である。
村を出て森へと入る。
道中、ラビットモンスターが数匹現れたが、俺一人でも十分に対処できた。
「ゼインくんはさらに強くなったね。ヴァッシュを超えるのもあっという間だね」
ローゼスは感心している。
「ゼインくん、カッコいい!」
リゼもゼインに抱きついて喜んでいる。
神殿に到着すると、一台の馬車が停まっていた。
その周りには護衛の冒険者達。
「よう! 早いな!」
声を掛けてきたのは、護衛任務を請け負った【ファーストシード】のリーダー、ガレルだ。
「あなた達もご苦労ね」
「はっはっ! これしき苦労には入らないさ!」
ガレルは相変わらずのようだ。
「神官ならもう中でお待ちだ。来た順に儀式をしてくれるらしいから、今すぐ行っても良し。心の準備をしても良しだ」
「……じゃあ、行きます」
ガレルの言葉にミリは力強く頷く。
そして入口近くにいたアルドに促され、ミリは神殿へと入っていった。
儀式中は神官と儀式を受ける者、そして護衛一名のみしか入れないらしい。
神殿内の護衛はライネの担当らしい。
儀式が終わるまで、しばらく待機だ。
村長、ローゼス、ラミネはガレル達と言葉を交わしている。
「ねぇねぇ」
リゼが俺の袖を引っ張りながら声を掛けてくる。
「リゼ、どうしたんだ?」
「せっかくだからさ、ガレルさん達に修行の相手になってもらえるか聞いてみたらいいんじゃないかな?」
「そうだね。姉さんの儀式で頭がいっぱいだったよ。ありがとう、リゼ」
「どういたしまして」
リゼはニコッと笑う。
ガレル達の会話が一段落したタイミングで声を掛ける。
「ガレルさん。お願いがあるのですが、宜しいですか?」
「ん? どうしたんだい?」
俺は実戦形式での訓練相手になってもらえないか打診した。
「そうだな。今日の儀式が終わったら少し時間が取れるから、その時にやってみよう」
「ありがとうございます!」
「あらあら。この子達、結構手強いわよ。大丈夫かしら?」
「ほぉ。それは楽しみだな」
ラミネの言葉に、ガレルはニヤリと笑う。
「リゼリアもゼインくんも、あまり無理したらダメだよ」
「「はい」」
ローゼスは心配してくれているようだ。
それから十分ほど経つと、ミリが神殿から出てきた。
「姉さん、大丈夫だった?」
「大丈夫って。ジョブ取得の儀式なんだから、危ないことなんてなかったわ」
「それはそうだけど」
「ふふっ。心配してくれて、ありがとう」
ミリはゼインの頭を優しく撫でる。
「さて、ジョブが取得できたら長居は無用じゃな。村へ帰るとしよう」
村長の声で、俺達は帰路についた。
そしてリゼの家へと招かれる。
「さて、ミリちゃんはどんなジョブを選んだのかしら?
ラミネが尋ねる。
「はい。私は【魔法付与士】を選びました」
「「「「「おぉ〜」」」」」
ミリを除いた全員が感嘆の声を上げる。
(【魔法付与士】ってどんなジョブだ? 名前からして物に魔法を付与するのか?)
俺はさっぱり分かっていなかった。ただ周りに合わせただけだ。
「ねぇママ。【魔法付与士】ってどんなジョブなの?」
どうやらリゼも分かっていなかったらしい。
「【魔法付与士】はね、その名の通り魔法の付与を得意とするジョブよ」
「魔法の付与?」
リゼはまだピンとこないようだった。
次にローゼスが説明する。
「物に魔法の効果を付けることができるのさ。例えば、ただの剣を振ると火が出るようにしたり、履くと凄い速さで走れる靴にしたりね」
(やっぱりそういう魔法なんだ)
ローゼスの説明で、自分の予想は正しかったと確信できた。
「支援魔法じゃいけないの?」
「支援魔法は時間で効果が切れるけど、付与された魔法は上書きするか付与を取り消さない限り効果が続くんだよ」
(なにそれ。凄い便利じゃん)
「でも、良い魔法が付与されている物ほど、やっぱり高価なのよ。冒険者時代にいくらつぎ込んだか」
ラミネが遠い目をしながら話す。
「あはは。値段はピンキリだけど、それだけ魔法付与士は多くの方面で必要とされるってことだから」
ローゼスが苦笑しながら説明を続ける。
「ミリちゃん、凄いんだね! 【魔法付与士】って!」
リゼは目を輝かせながら感心していた。
「でも姉さん。なんで【魔法付与士】を選んだの?」
俺はミリに尋ねる。
「えっと、私は支援魔法と相性が良いから、【魔法付与士】も根本的には支援魔法と同じかと思って。それに……」
「それに?」
全員がミリへ注目する。
ミリは一度深呼吸をした。
「またいつ魔人のような脅威が来るか分からない。そんな時に魔法を付与した物がたくさんあれば、犠牲を少なくできるかと思ったの」
「姉さん……」
俺だけでなく、みんなも感動しているようだ。
特にローゼスは凄かった。
「ミリぢゃん! ずばらじい!」
「えぇっ!? ローゼスさん、なにも泣かなくても」
ミリは驚き、あたふたしている。
「大丈夫よ、ミリちゃん」
ラミネがなだめる。
「この人は研究者だけど、前線を支える支援職でもあるから、ミリちゃんの考えに共感してるだけよ」
説明するラミネの横で、ローゼスが何度も頷いている。
「そうだったんですね」
ミリも落ち着いたようだ。
「じゃが、【魔法付与士】は特別な術式も使うはずじゃ。王都の学校にでも行かん限りは学べんぞ」
「王都ですか……。でも学校に通うようなお金はないし、住む場所のツテもないですし」
ミリは困った様子だ。
「そこは心配いらないよ」
ローゼスが口を開く。
「王都なら僕はもちろん、ラミネも人脈がある。住む場所には困らないさ。そして学費のことだけど――」
ローゼスは一呼吸置いて続けた。
「王立ニフティナ学園。この国で一番の魔法に特化した学園なんだけど、成績優秀者は学費が減額、または免除される制度があるんだ」
「……でも、平民の私が優秀者になんてなれるんでしょうか?」
「もちろん簡単ではないけど、不可能ではないよ。仮に優秀者になれなくても、学費はそこまで高いわけじゃないから」
「でも、学費だって私は払えないですし」
「確か、王立の学園は血縁者、もしくは一親等以内の家族以外の支援は禁止されていたわよね?」
ラミネも尋ねる。
「例外はあるけど、その通りさ」
ラミネの疑問を肯定し、ローゼスは続けた。
「でも、そこも心配いらないはずさ」
「心配いらないって、私達だと支援できないわよ?」
ラミネは不思議そうな表情を浮かべる。
「最近、驚いた血縁者がいたじゃないか」
「「「「「!」」」」」
俺も含め、全員がピンときた。
「もしかして、マリオル辺境伯様のことですか?」
ミリが尋ねる。
「そう。マリオル様なら血縁者だから支援できる」
「でも今まで交流なんてなかったのに、急に支援だけいただくなんて……」
ミリの心情はもっともだ。
「もちろん、学園に行くことを無理に勧めるわけじゃない。あくまで、そういう道もあるってだけだよ」
「そうよ。道はたくさんあるの。でも、自分一人で進める道はそんなに多くないわ。助け合うからこそ、道は増えて大きくなるの。それは覚えておいてね」
ローゼスとラミネの言葉を最後に話し合いは終わった。
学園については、ミリもしばらく考えることにしたようだ。
しばらくするとガレルがやってきた。
約束していた実戦形式の訓練相手をしてくれるとのことで、俺とミリ、そしてリゼは広場へ向かった。
そこには【ファーストシード】のメンバーが揃っていた。
メンバー全員が訓練に付き合ってくれるらしい。
訓練自体は短時間ではあったが、とても充実したものになった。この話は別の機会にしよう。
訓練を終えると、ガレル達は再び護衛のため村を出た。
二日後、ミリに呼ばれてリビングへ向かう。
俺とミリは向かい合うようにテーブルに着いた。
「あのね、ゼインくん」
ミリが口火を切る。
決意を宿した眼差しで続けた。
「私、学園に行こうと思う」
緊張しているのだろうか。
ミリの身体は少し震えていた。
「そっか。俺は良いと思うよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。この二日間、姉さんなりに考えた上での答えでしょ?」
「うん」
「じゃあ、応援するよ」
「ありがとう。ゼインくん」
ミリの目から雫がこぼれ落ちる。
恐らく、自分が出ていくことで俺を一人にしてしまうことに、後ろめたさを感じていたのかもしれない。
「じゃあ、ローゼスさん達に相談に行こう。あと、マリオル様に支援をお願いする手紙も書かないと」
「うん!」
ミリは涙を拭った。
その表情は、先ほどより少し柔らかくなっていた。
俺とミリはリゼの家へ向かった。
そしてミリは、ローゼス達に自分の思いを明かした。
「そうか。よし! 王都での暮らしなら任せてくれ!」
「私も色々と当たってみるわ」
ローゼスもラミネも、すぐに受け入れ協力してくれるようだ。
「ミリちゃん、王都に行っちゃうんだね。寂しくなるな」
リゼは今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「リゼリアちゃん」
ミリはリゼを優しく抱きしめた。
「まだ行けるって決まったわけじゃないわ。でも、自分で選んだ道を歩いてみたいの」
「うん」
しばらく二人は抱き合っていた。
まるで本当の姉妹のように。
そしてローゼスから助言をもらいながら、マリオル宛てに手紙を出した。
返事が届くのは、早くても一週間はかかるようだ。
どのような結果になるかは分からないが、しばしの別れは近いのかもしれない。
もっと姉さんとの日々を大切にしようと、俺は心に決めた。
一週間後、マリオルから手紙が届いた。
内容は、ミリが学園へ通うために必要な資金をすべて援助するというものだった。
「辺境伯様が後ろ盾なら安心ねぇ」
「安心?」
「ええ。王都にはもちろん貴族がいるわ。その良し悪しはピンキリよ」
「貴族……」
ミリは小さくつぶやく。
この村にいて貴族と関わることなど、そうそうない。
前に来たセルシュやマリオルがイレギュラーなのである。
「でも、辺境伯様が血縁者だって知れ渡れば、ちょっかいを掛けてくる貴族はそういないわ」
「少しはいると?」
「どの国にも頭の足りない人達はいるのよ? ゼインくん」
「ハハハッ」
前の世界で痛感しているので、乾いた笑いしか出なかった。
「でも、今から不安に思っていても仕方ないわ」
「ちゃんと貴族とは距離を置ける場所に住まいの目星はつけてあるから大丈夫だよ」
ラミネとローゼスは、不安そうなミリに優しく声を掛ける。
「ありがとうございます」
ミリは深く頭を下げた。
「さぁ、学園入学試験は二カ月後だよ。忙しくなるよ!」
「「えっ!? 二カ月後!?」」
ミリだけでなく、さすがに俺も驚いた。
「試験は筆記試験と実技試験の二つ。でも、ミリちゃんはレリーナに座学も実技も教えてもらっていただろう?」
「ええ。はい」
「それなら軽く復習するだけで大丈夫だと思うよ。分からないところは僕もできる限りサポートするから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
それからミリは勉強に打ち込んだ。
光陰矢の如し。
時間が過ぎるのは早く、入学試験まで一週間となった。
王都までは馬車で四日ほど掛かるため、ミリは早めに王都へ向かうことになった。
見送りの刻――。
「じゃあ、姉さん。頑張って」
「ミリちゃんなら大丈夫だよ!」
「ありがとう。ゼインくん、リゼリアちゃん」
三人で抱き合う。
試験の合否は、その日のうちに発表されるらしい。
そして合格すれば、ミリはそのまま王都で暮らすことになっている。
「リゼリアちゃん。これ、もらってくれる?」
ミリはリゼリアへブレスレットを差し出した。
それはゼインのブレスレットと対になるものだった。
「え? でも、これはゼインくんとの……」
「ええ。でも私は王都へ行っちゃうから。リゼリアちゃんとゼインくんがお互いに持っていたほうがいいと思うの」
「……ありがとう」
リゼはブレスレットを受け取った。
「ゼインくん。何かあったらリゼリアちゃんを守ってね」
「もちろん」
ゼインは力強く頷いた。
「じゃあ、行きましょうか」
ラミネが声を掛ける。
試験が終わるまで、ラミネが付き添うことになっている。
数人の冒険者を護衛につけ、ミリを乗せた馬車は王都へと旅立った。
俺とリゼは、馬車が見えなくなるまで手を振り続けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回はミリが中心となる回でした。
ゼイン達は村に残り、ミリは王都へ――ここから物語は少しずつ視点や世界が広がっていきます。
また、今回省略したガレル達との実戦訓練は、いずれ閑話として描く予定です。 本編では描き切れないエピソードも少しずつ補完していければと思っています。
次回もよろしくお願いいたします。




