3人の実戦修行
前回は、レリーナの出生や勇者パーティの真実など、大きな秘密が明らかになりました。
今回は、ゼイン達の新たな修行のお話です。
セルシュ達の訪問から2ヶ月が過ぎた。
「うーん……」
ローゼスは頭を抱えていた。
未だに王都、もといセルシュから勇者の手記が解読できたという報せはない。
ローゼス自身も一刻も早い解読を目指しているが、未だに手掛かりすら掴めずにいた。
何かの文字なのか。 それとも記号なのか。 あるいは暗号なのか。
様々な文献を調べながら、ローゼスは頭を悩ませていた。
「あなた、大丈夫?」
そんな様子を心配し、ラミネが食事を運んでくる。
「ああ、ありがとう。何かの文字だとは思うんだけどね。国中の言語を調べても手掛かりがなくて……少し苦労しているよ」
ローゼスは笑って答えた。
しかし、その目元にはくっきりとしたクマが出来ている。
「あなた。少し寝た方がいいわ」
「いや、こうしている間にも魔界にいる2人に何が起こっているか分からない。一刻も早く解読しないと」
「あなた……。ごめんなさい」
「え?」
ラミネが謝罪した直後。
ローゼスの首元に軽い衝撃が走った。
そして――
ローゼスは意識を失った。
ラミネは気を失ったローゼスを近くのソファへ横にする。
「あなたが倒れたら、誰が解読できるのよ」
そう呟き、ラミネは部屋を後にした。
ラミネは村の広場へ向かった。
そこには、ミリ、ゼイン、リゼの3人が準備をして待っていた。
「あら、あなた達。早いわね」
「ラミネさん、こんにちは」
「こんにちは」
ミリとゼインが挨拶をする。
「ママ、パパは大丈夫?」
リゼが心配そうに尋ねる。
「ちょっと休んでもらっているわ。少し寝れば元気になるはずよ」
ラミネの答えに、リゼは安心したように頷いた。
「ローゼスさんには、ご苦労をお掛けします」
ゼインとミリは頭を下げる。
「そんなことないわ」
ラミネは首を横に振る。
「もちろん、あなた達の両親を助けることが一番の目的よ。でも、王族しか目にすることを許されない書物を解読できるということも、ローゼスにとっては嬉しいことなのよ」
そう言って、ラミネは肩をすくめた。
「そんなに難しいんですか?」
「そうねぇ……。ローゼスは国中の言語を調べても分からないって言っていたわ」
「ローゼスさんほどの人でも分からない言語なんてあるんですね」
ゼインは驚いたように呟く。
「本当ねぇ……。こんな時、レリーナがいてくれたら助かるんだけど」
ラミネは小さくため息をつく。
「まあ、私達が考えても仕方ないわね。早速、始めましょう」
「「「はい」」」
今日は、以前話していた実戦形式での修行をラミネにお願いしたところ、二つ返事で引き受けてくれた。
ガレル達はタイミングが合わず、今回は話をすることが出来なかったが、いずれまた村へ来るそうなので、その時に頼むことになった。
「じゃあ、まずはあなた達の実力を知りたいから、掛かってきて頂戴。遠慮はいらないわよ」
3人は頷き合う。
そして、
前衛にゼイン。 中衛にミリ。 後衛にリゼ。
それぞれの位置についた。
「じゃあ、まずは私から」
ミリが一歩前に出る。
「【グラビティ】!」
「……!」
ラミネの身体に重力が掛かる。
「あら……結構くるわね」
口ではそう言いながらも、ラミネの表情には余裕があった。
「【スラッシュ】!」
その隙を逃さず、ゼインが剣で斬りかかる。
キィィン――
剣と剣がぶつかる音が響く。
「さすがゼインくんね。ヴァッシュから剣術を習っているだけあるわ」
「ありがとうございます。でも、こうもあっさり止められるとは思いませんでした」
「ふふっ。こう見えても、元トップクラスの冒険者だからね。まだまだ負けないわよ」
ラミネが剣を払う。
ゼインの身体が後方へ流れる。
その瞬間――
「今だ!」
ゼインが叫んだ。
「うん!」
リゼが頷く。
「【オーバーヒーリング】!」
ゼインの合図と同時に、リゼが魔法を発動する。
ラミネの身体が淡い緑色の光に包まれた。
「あらあら?」
ラミネは自分の身体を包む光を見ながら首を傾げる。
「私を回復するより、ゼインくんに掛けてあげた方がいいんじゃない?」
「それはどうでしょうね?」
ゼインはそう言うと、再び剣を構える。
「もう一度、【スラッシュ】!」
体勢を立て直し、ラミネへ向かって斬りかかる。
キィィン――
再び剣がぶつかる。
しかし、ラミネは余裕の表情を崩さない。
「何を企んでいるか分からないけど、私には通じないわよ?」
「くっ……!」
ゼインは一度距離を取る。
「【シャドウダイブ】!」
トプンッ。
ゼインの姿が影の中へ沈んでいく。
「これがレリーナから聞いていた、あなたのオリジナルね」
ラミネは、ゼインが編み出した魔法を知っているようだった。
そしてゼインは影の中から攻撃を繰り出す。
しかし――
ラミネはその攻撃を難なくかわしていく。
そして、
「……?」
ラミネの表情が少しずつ変化していく。
「どうしたのかしら?こんなに早く疲れが来るなんて」
ラミネは片膝をついた。
すると、影の中からゼインが姿を現す。
「ようやくですね」
「さすが元トップクラスの冒険者です」
「これが、あなた達が狙っていたことなの?」
ラミネは未だに理由が分からない様子だった。
「ええ。ただ、説明は後にします」
ゼインは剣を構える。
「まずは、1本取らせてもらいます」
そして剣を振り上げた、その瞬間――
「あらあら」
ラミネが微笑む。
「勝ちそうな時こそ、油断は大敵よ。【バーニングアーマー】」
「!」
ラミネが魔法を唱える。
すると、ラミネの身体が赤い魔力に包まれていく。
その姿は、まるで炎の鎧をまとっているようだった。
「アチチッ!」
ゼインは反射的に距離を取る。
「【ファストステップ】!」
「いい判断だわ」
ラミネは感心したように頷く。
「疲れているから威力は抑えているけど、それでも当たれば確実に火傷していたでしょうね」
「ちょっとママ!」
リゼが声を上げる。
「ゼインくんがケガしたらどうするの!」
「あら?」
ラミネは首を傾げる。
「何を言っているの? 実戦形式で修行したいと言ったのはあなた達でしょう?敵が、私みたいにあなた達へ手加減してくれると思うの?」
「それは……」
リゼは言葉に詰まる。
「その通りです」
ミリが口を開いた。
「ラミネさん、そのまま続けてください」
そしてリゼを見る。
「リゼリアちゃん。ゼインをサポートするよ」
リゼは頷いた。
「じゃあ姉さん、リゼ。頼んだよ」
ゼインは2人へ声を掛ける。
そして、ラミネへ向かって駆け出した。
「【ミスト】!【ウィンドアーマー】!」
ミリが2つの魔法を唱える。
すると、ゼインの身体を覆うように水蒸気の膜が生まれた。
少しでも、ラミネの発する熱に対抗するためだろう。
「【オーバーヒーリング】!」
続けてリゼが魔法を唱える。
今度はラミネではなく、ゼインへ向けて。
すると、ゼインの動きが明らかに変化した。
身体が軽い。
力が湧いてくる。
ゼインは一気にラミネとの距離を詰める。
そして――
「【居合い】」
構える。
「それはヴァッシュから聞いているわ」
ラミネは剣を構え直す。
「お手並み拝見ね」
「【バーニングスラッシュ】!」
ラミネの剣が炎をまとった。
そのままゼインへ向けて振り下ろされる。
そして――
ギャイィィン!!
今までよりも強い、金属同士がぶつかる音が響く。
次の瞬間。
ボロッ……。
ラミネの持っていた剣が崩れ落ちた。
「あら……壊れちゃった」
ラミネは困ったように笑う。
「これは私の負けね」
ゼインは剣を収めようとする。
しかし、
ゼインの剣もまた、折れていた。
「いえ」
ゼインは首を横に振る。
「僕たちの負けです」
「ラミネさんの剣は、ラミネさんの魔力に耐えられていませんでした。ちゃんとした武器なら、僕は一刀両断されています」
「ふふっ」
ラミネは微笑む。
「随分と謙遜するわね。でも、あなた達の連携は凄かったわ。冒険者になったとしても、十分に高ランクを目指せると思うわよ」
「ありがとうございます」
そこへ、ミリとリゼもやってきた。
「ゼインくん!」
リゼはゼインの姿を見ると、安心したように駆け寄る。
「無事でよかったぁ……」
そして、そのままゼインに抱きついた。
「リゼ。僕は大丈夫だよ」
(嬉しいけど……ちょっと恥ずかしいな)
ゼインはそう思いながら、優しくリゼの頭を撫でる。
「ゼインくん、お疲れ様」
ミリも微笑みながら声を掛ける。
「惜しかったね」
「ありがとう、姉さん」
するとミリは、ゼインの頭を撫で始めた。
「姉さん……恥ずかしいよ」
「ふふっ。遠慮しないの」
そんなやり取りが数分続いた。
「じゃあ、教えてもらおうかしら」
一段落したところで、ラミネが尋ねる。
「リゼリア。私とゼインくんに使った魔法は何なの?」
「【オーバーヒーリング】っていうの」
リゼが答える。
「でも、考えたのはゼインくんだから、ゼインくんに聞いた方がいいかも」
「そうなの?」
ラミネはゼインを見る。
「じゃあ、ゼインくん。教えてもらえる?」
「はい」
ゼインは頷く。
「【オーバーヒーリング】は、身体の細胞を活性化させる魔法です」
「細胞を活性化?」
ラミネは首を傾げる。
「はい。簡単に言えば、治癒魔法である【ヒーリング】をより強力にしたものだと思ってください」
「でも……おかしいわ」
ラミネは考え込む。
「【ヒーリング】より強力なら、普通は回復力が増すはずでしょう?でも実際には、全く逆だった。身体に疲労感が、どんどん蓄積していくような感覚だったわ」
ラミネは先ほどの戦いを思い返しながら言う。
「細胞は、適切に働けば回復力を高めることができます」
ゼインは説明を続ける。
「ですが、働きすぎれば身体の酸素や栄養を過度に消費してしまいます。その結果、身体は疲弊しやすくなるんです」
「なるほど……」
ラミネは納得したように頷く。
「だから、ゼインくんは逆に動きが良くなったのね?」
「はい」
ゼインは頷く。
「僕の場合は、細胞の活動量を自分の身体に最適な状態に調整しました。とはいっても、誰でも出来ることではないと思います」
「あら?こんなに便利な魔法なのに?」
ラミネは驚いたように尋ねる。
「確かに、使いこなせれば味方への強化にもなりますし、敵への弱体化にも使えます。でも、細胞の活動量を操るには、とても繊細な魔力操作が必要です。味方に使ったつもりが弱体化させてしまったり、敵を回復させてしまったりしたら大変ですから」
「それはそうね」
ラミネは頷く。
「それだけではありません。細胞の活動量が多すぎれば、最悪の場合……命を落とします」
「!」
ラミネの表情が変わった。
「よく、そんな魔法を使おうと思ったわね」
「リゼだから出来たことです」
ゼインはリゼを見る。
「リゼの魔力操作の技術は、母さんも太鼓判を押していましたから」
「えへへっ」
隣でリゼが照れ笑いを浮かべる。
「私も試してみたけど……」
ミリが口を開く。
「治癒魔法の適性が必要だし、それだけじゃなく魔力のコントロールも必要。リゼリアちゃんだから出来たんじゃないかと思います」
ミリもゼインの説明に同調する。
「えへへ〜」
リゼはさらに嬉しそうに笑った。
「そんなに凄いことをしているのね」
ラミネはリゼを見る。
「リゼリア。いつの間にか成長したわね」
「そうだよ!」
リゼは胸を張る。
「私だって成長してるんだから!」
「ふふっ。そうね」
ラミネは優しく笑った。
「それに、ゼインくん」
「はい?」
「あなた、ヴァッシュやレリーナから聞いていた以上に、とんでもないわね」
「そ、そうですか?」
ゼインは戸惑う。
「ええ」
ラミネは頷く。
「新しい魔法や剣技を作るなんて、普通は出来ないわ」
「ましてや、それを子どもが考えたなんて……誰も思わないでしょうね」
「恐縮です」
ゼインは苦笑する。
「それで、ラミネさん」
「僕たちの力量はどうでしたか?」
「……」
ラミネは腕を組み、しばらく考える。
そして――
「とても素晴らしかったわ!」
笑顔で答えた。
「まさか、私も魔法を使うことになるとは思わなかったもの」
「「「ありがとうございます!」」」
3人は嬉しそうに声を揃えた。
「じゃあ、さっきの魔法が『紅の剣士』の由来なんですね!」
ゼインが何気なく言う。
その瞬間。
「ええ。そうよ」
ラミネは答える。
「でもね、ゼインくん。それは、あまり言ってほしくないかな」
「……はい」
ラミネは口元こそいつも通り微笑んでいた。
しかし――
目は笑っていなかった。
(((今後は気をつけよう)))
3人は同じことを思った。
それから3人は、定期的にラミネと実戦形式での修行を重ねた。
戦い方。 魔法の使い方。 仲間との連携。
少しずつ、確実に成長していった。
そして――
季節は巡り。
ゼインは10歳になった。
ここから、運命の歯車が大きく動き出す。
ご覧いただきありがとうございました。
今回はゼイン達の実戦形式での修行を描きました。これまで積み重ねてきた修行の成果が、少しずつ形になり始めています。
そして最後にゼインは10歳となりました。
ここから運命の歯車が大きく動き始めます。
引き続きゼイン達を見守って頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します。




