明かされる真実
今回は王子との会談が始まります。
ゼイン達にとって大きな転機となる回ですので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
リゼの家の周囲には騎士たちが取り囲むように配置されている。
そして入口にはガレルが立っていた。
「やあ。三人とも、久しぶりだな」
「「「お久しぶりです」」」
俺たちはガレルと軽く挨拶を交わす。
「さあ、お二人がお待ちだ」
「じゃあ、入りましょう」
ガレルとラミネに促され、家の中へ入る。
リビングでは長椅子にセルシュが座り、その少し後ろにマリオルが立っていた。
俺は片膝をつき、頭を下げる。
ミリとリゼは片足を斜め後ろへ引き、背筋を伸ばしたまま両膝を曲げ、静かに腰を落として頭を下げた。
「面を上げ、楽にせよ」
セルシュの言葉に従い、俺たちはゆっくりと顔を上げ、立ち上がる。
「余がアンダルト国第一王子セルシュである。順に名を名乗りなさい」
促されるまま、三人は順番に名乗った。
「ミリと申します」
「ゼインと申します」
「リゼリアと申します」
「ミリ、ゼイン、リゼリアだな。良い名だ」
「「「有難き幸せ」」」
三人が声を揃えた、その時だった。
「……くくっ、アハハハッ!」
突然セルシュが笑い出した。
あまりに突然のことに、俺たちは固まってしまう。
「あのねぇ、セルシュ。三人とも困ってるじゃない」
ラミネが呆れたように言う。
「まったくだ。でも、確かに今のセルシュは笑えるな」
ガレルも口元を緩めた。
「アハハッ、ごめんごめん。三人とも驚いたよね。どうにも堅苦しい雰囲気って苦手なんだ。本当に楽にしてくれていいよ」
セルシュは笑顔のまま俺たちに声を掛ける。
「いえ、ですが……」
ミリが戸惑いながら答える。
「大丈夫。不敬罪になんてしないさ。君たちとは全く縁がないわけじゃないからね」
「えっと……それはどういうことですか?」
「私から説明するわ」
おどけるセルシュと困惑する俺たちを見かねて、ラミネが助け舟を出した。
そして、セルシュとラミネたちとの関係について説明が始まる。
「私たちと一緒にいた頃から、セルシュは王族と言っても考え方は庶民寄りなの。だから本当に気楽に接して大丈夫よ。ヴァッシュやレリーナとも面識があるわ」
「おちゃらけた奴だが、約束だけは守る男だ」
ガレルが付け加える。
「では、お言葉に甘えます」
俺たちの緊張も、少しだけ和らいだ。
「うんうん。子どもは素直でいいね」
セルシュは満足そうに頷いた。
「では、私もご挨拶をさせていただこう」
マリオルが口を開く。
俺たちが再び頭を下げようとすると、
「いやいや、私にもそんなことは不要だよ。楽にしてくれ」
と、慌てて制止した。
「では改めて。アンダルト国北のノイトス領を治めるマリオルだ。よろしく頼む」
「「「よろしくお願いします」」」
三人で頭を下げる。
「さて、早速本題に入ろう。では、マリオル殿」
「はい」
セルシュに促され、マリオルは一歩前へ出た。
「ラミネさん達から聞いていたが、ミリちゃん。そしてゼインくんがレリーナの子だね?」
「「はい」」
俺とミリは返事をした。
マリオルは俺たちの顔を見ると、優しげな笑みを浮かべた。その目には、わずかに涙が滲んでいるようにも見えた。
「確かに……よく似ている。特にミリちゃんは、あの娘が幼い頃にそっくりだ」
「えっと……」
困惑するミリに代わり、俺が尋ねる。
「母とお知り合いなんですか?」
「おっと、すまないね。急にこんなことを言われても困るはずだった」
マリオルは目頭を軽く押さえると、改めて俺たちへ向き直った。
「単刀直入に言おう。君たちの母親、レリーナは――私の娘なんだ」
「「「……えぇーっ!?」」」
俺とミリだけでなく、隣で聞いていたリゼまで驚きの声を上げた。
「君たちまでその様子ということは、レリーナからは何も聞かされていなかったのだね」
「は、はい。……ん? 君たちまで?」
俺が聞き返すと、
「私たちも、さっき聞いて同じように驚いたのよ。今思えば、冒険者だった頃から違和感はあったわ」
「うんうん。立ち居振る舞いが庶民とは違っていたからな。それでようやく腑に落ちた」
ラミネとガレルが話す。
(母さんは、今まで身分を隠していたのか。一体なぜ……?)
「あの、マリオル様。よろしいでしょうか?」
「何だね、ゼインくん。私のことはマリオル、いや、孫なのだから『おじいちゃん』でも構わんよ」
「えっと……では、マリオル様」
「……まあ、初めて会ったのだ。それが普通であろう」
マリオルは少しだけ肩を落とした。
「マリオル殿。少しずつ距離を縮めていけば良いではないか」
セルシュが苦笑しながら声を掛ける。
「そうですな」
マリオルも少し元気を取り戻したようだった。
「あの、マリオル様。なぜ母は今まで身分を隠していたのでしょうか?」
マリオルはしばらく考え込む。
「……恐らく、我が一族に課せられた使命が関係しておるのだろう」
「使命ですか?」
「そうだ。ゼインくん、そしてミリちゃんも勇者の物語は知っているかな?」
勇者の物語。
勇者ムサシを含む五人のパーティが魔王を討伐したという伝説。
子どもなら一度は親から聞かされる有名な物語だ。
「「はい」」
俺とミリが頷くと、マリオルは静かに続けた。
「その勇者パーティは、勇者のほかに聖女トリル、拳士ゴードル、魔法師ニフティナ、獣人ライガスで構成されておる」
一呼吸置き、
「そして我が一族は、その魔法師ニフティナの末裔なのだ」
「「「「「はいっ!?」」」」」
俺たち三人だけでなく、ラミネとガレルまでも驚きの声を上げた。
(あっ、この二人も初耳だったのか)
そう思うと、少しだけ安心した。
「ちなみに、王家は勇者ムサシの末裔だよ」
「「えーっ!」」
ミリとリゼは大きく驚いた。
だが俺は、そこまで驚かなかった。
大体予想していたからだ。
「おや? ゼインくんは驚かないんだね」
セルシュが不思議そうに尋ねる。
「そうですね。恐らくそうなのではないかと思っていました」
「なーんだ。つまらないの」
セルシュは唇を尖らせる。
「セルシュ。話の腰を折らない」
ラミネがぴしゃりと言う。
「分かったよ」
注意されると、セルシュは少しだけ不貞腐れたような顔をした。
「ははっ。王子らしいですな。では話を戻しましょう」
マリオルは小さく笑って続ける。
「その勇者の物語には、隠された真実があるのです」
「隠された真実?」
俺は思わず聞き返した。
「そう。勇者パーティには、もう一人仲間がいたのです」
部屋の空気が一変する。
「その者の名は――死体運び屋ギュレット」
空気が張り詰めるのを感じた。
「なぜ死体運び屋が勇者パーティに? それに、なぜ物語では語られていないの?」
今度はラミネが尋ねる。
「なぜパーティへ加わったのかは分かりません。しかし我が一族を含め、勇者パーティの末裔たちには代々語り継がれている話なのです」
「なるほど。それで、そのギュレットは何をやらかしたのかしら? 物語から消されるなんて、よほどのことなのでしょう?」
「そうですな。物語では勇者パーティは魔王を倒し、平和になった世界で幸せに暮らしたとされております」
マリオルは静かに首を振る。
「しかし真実は違いました。」
「魔王を倒したあと、魔界から戻って来たのは、瀕死の勇者以外の仲間たちを背負ったギュレットだけだったのです。」
「当時の国王が勇者の行方を尋ねると、ギュレットは『俺が殺した』と言い放ったそうです」
「ギュレットが……勇者を殺した?」
様々な疑問が頭に浮かぶが、マリオルはそのまま話を続けた。
「なぜそのようなことになったのか、詳細は分かっておりません。しかし、その言葉を残したギュレットは姿を消しました。背負われていた四人は、何とか一命を取り留めたそうです」
「そんなことが……。しかし、一族の使命とは?」
俺は尋ねる。
「そのネクロポーターの末裔を探し出すこと――そして滅することだと伝えられています」
マリオルの言葉に、その場の空気が重くなる。
「あれ? そんなに物騒だったかな? ネクロポーターの末裔を探すって話だった気がするけど」
セルシュが首を傾げる。
「各末裔に同じような使命が伝えられていることは存じております。しかし我が一族では、『勇者を殺した者を探し出す』ということは、『滅するため』だと解釈されてきたのでしょう」
「それは物騒だけど、その使命をどう解釈したのかは当時の人にしか分からないからね。僕からは何とも言えないな」
セルシュは肩をすくめた。
「その使命のために、母は今まで身分を隠して暮らしていたと?」
俺はマリオルに尋ねる。
「あくまで可能性だがね。本当のことは、本人に聞くほかないだろう。だが、皆を使命に巻き込みたくなかったのかもしれん」
「そうですか……」
レリーナが家族にまで秘密を隠し、何をしようとしていたのか。
謎は深まるばかりだった。
「私もいいですか?」
今度はリゼが手を挙げた。
「もちろんだよ、お嬢ちゃん」
マリオルが優しく答える。
「えっと……レリーナさんは本当は貴族様なんですよね? どうして冒険者をしていたんですか?」
それは俺も気になっていたことだった。
「ふむ。親の私が言うのも何だが、レリーナは昔から何にでも興味を持ち、自分で確かめなければ気が済まない性格でしてな。冒険者であれば自由に世界を見て回れると考え、家を出たのです」
「マリオル様は止めなかったんですか?」
「もちろん、貴族としては止めるべきだったのでしょう。しかし、あの娘が何かを求めて行動している時は、本当に楽しそうな顔をしておりましてな。貴族という枠に縛られれば、権力と引き換えに多くの自由を失う。そうなれば、あの娘の笑顔も失われてしまうかもしれない。そう思うと、止めることができませんでした」
「マリオル様は……後悔されていますか?」
俺は静かに尋ねた。
「……」
しばしの沈黙。
そしてマリオルは穏やかに微笑んだ。
「いや、後悔はしておりません。ゼインくんやミリちゃん。そしてラミネさんにガレル殿。皆さんと出会って分かりました。あの娘は、とても幸せな時間を過ごしていたのだと」
その笑顔には、父親としての温かさが滲んでいた。
その時――
「待たせてすまない。複写が終わったよ」
ローゼスが部屋へ戻ってきた。
「いやはや、相変わらずローゼスは仕事が早いのぅ」
「いえ。村長にも手伝っていただいたおかげです」
どうやら姿の見えなかった村長も、複写を手伝っていたようだ。
「ご苦労さま。やっぱりローゼスはすごいね。ちなみに、何が書かれているか分かったかい?」
「いや、さすがにさっぱりだ。解読にはかなり時間が掛かるだろう」
「そうか。王都でも引き続き研究を進めよう」
セルシュは頷く。
「では、私たちもそろそろ戻るとしよう。マリオル殿もよろしいかな?」
「では、その前に一つだけよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
セルシュの許可を得て、マリオルは俺たちへ向き直った。
「ゼインくん、ミリちゃん。よければ私の治める領へ来ないかね?」
「「えっ?」」
突然の誘いに、俺とミリは思わず顔を見合わせた。
「子ども二人だけでは苦労も多いだろう。父君と母君が戻るまでの間だけでも、私の領で暮らさないか?」
「えっと……その……」
ミリは戸惑い、言葉に詰まる。
隣ではリゼが俺の服の裾をぎゅっと握っていた。
「姉さん」
俺は静かに声を掛ける。
ミリと目が合う。
狼狽えていた表情も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
言葉は交わさなかった。
それでも互いに頷き合い、答えは決まった。
「マリオル様。身に余るお言葉、本当にありがとうございます。ですが、私と弟は生まれ育ったこの村で、両親の帰りを待とうと思います」
ミリは真っ直ぐに答えた。
「二人だけでやっていけるのかね?」
マリオルが静かに問い掛ける。
今度は俺が口を開く。
「ご心配くださるお気持ちは本当にありがたいです。ですが、僕たちには支えてくれる人たちがたくさんいます。父さんや母さんからも、しっかり稽古をつけてもらいました。これからも、この村で皆さんと支え合いながら暮らしていきたいと思います」
俺とミリは真っ直ぐマリオルを見つめた。
「君たちの想いは分かった。残念ではあるが、それほどまでにこの村が大切なのだろう。これからも皆と支え合いながら生きていきなさい」
「「はい! ありがとうございます!」」
俺とミリは深く頭を下げた。
隣ではリゼも安心したのか、緊張した表情から今にも泣き出しそうな顔へと変わっていた。
「だが、困ったことがあればいつでも私のもとへ来なさい。君たちは大切な孫なのだから」
「「はい!」」
二人の返事を聞くと、マリオルは満足そうに頷いた。
「お時間を取らせてしまいましたな。セルシュ様、お待たせしました」
「気にするな。では、行こう」
そう言ってセルシュは立ち上がる。
「次は俺が先導します」
ガレルはそう言うと扉を開け、
「セルシュ王子殿下ならびにマリオル辺境伯様がお戻りになられる! 各自、準備に取り掛かれ!」
と号令を掛けた。
その声に合わせ、護衛たちも一斉に動き出す。
ガレルを先頭に、セルシュとマリオルを囲むように隊列を組み、馬車の待つ広場へ向かっていった。
「では皆の者。急な訪問にもかかわらず迎えてくれて感謝する!」
セルシュはそう告げると馬車へ乗り込み、続いてマリオルも自身の馬車へ乗り込んだ。
馬車は再び村人たちの間をゆっくりと進み、村を後にする。
やがて馬車の姿が見えなくなると、村人たちもそれぞれの日常へと戻っていった。
「じゃあ私たちも帰りましょうか。今日は色々あって疲れたでしょう? ミリちゃん、ゼインくん。今日はうちで夕食を食べていきなさい」
「「はい! ありがとうございます!」」
夕食の席で、ローゼスがふと思い出したように尋ねる。
「そういえば、マリオル様が孫と言っていたけど、どういうことなんだい?」
「それがね……」
ラミネが説明を始める。
そして、ローゼスと村長の驚きの声が家中に響き渡ったことは、言うまでもなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はレリーナの正体や勇者パーティにまつわる真実が明らかになりました。
ここから物語も少しずつ核心へ近づいていきます。
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次回も宜しくお願い致します。




