急な訪問と衝撃の告白
話は前回から数カ月経ったところから始まります。
前を向き始めたゼインとミリですが、また何やら物語が動き出そうとしています。
それから数カ月が経った。
未だにヴァッシュとレリーナに関する情報はないが、俺とミリも少しずつ明るさを取り戻していった。
ある日、リゼの家に姉弟でお邪魔していると、
「みんな! 急いで村の入口まで来るんだ!」
村長が息を切らしながら飛び込んできた。
「ど、どうしたんですか? 村長」
「そうよ。そんなに慌てて、何かあったの?」
ローゼスとラミネが声を掛ける。
「ハァ、ハァ……どうしたもこうしたもない。王族の紋章を掲げた馬車がこちらへ向かっていると、先ほど商人から聞いたんだ! 何もできんが、せめて入口でお出迎えせねば!」
そう言い終えると、テーブルの上にあった水をぐいっと飲み干し、
「わしは他の家にも知らせてくる! ローゼス! ラミネ! お前たちもすぐ他の家の者に知らせてくれ!」
そう言い残し、慌ただしく出て行った。
「王族……まさか、アイツが来たのかしら?」
「たぶん……というより、きっとあの人だろうね」
ローゼスとラミネは何か心当たりがあるようだった。
「あの、王族の方なんですよね? ローゼスさんやラミネさんはご存じなんですか?」
「そうだね。恐らく僕たちの知っている人物だとすれば、来ても不思議じゃないかな。でも相手は王族だからね。僕たちもお出迎えしないと」
「私とローゼスは他の人たちに知らせに行くから、あなた達は先に村の入口へ行ってて頂戴」
「「「はーい!」」」
俺、ミリ、リゼは返事をすると、村の入口へ向かった。
入口へ着くと、すでに住民のほとんどが集まっていた。
そして村長が先頭へ出る。
しばらくすると、遠くから五台の馬車が姿を現した。
近づくにつれ、その豪華な装飾が目に入る。
周囲には馬に乗った騎士らしき者たちと、徒歩で護衛についている冒険者らしき者たちの姿もあった。
(ん? あれは……)
そう思って目を凝らすと、歩いていた一人の男性が控えめに手を振った。
「あっ!」
その人物はガレルだった。
さらによく見ると、ライネ、アルド、リネアの姿もある。
(護衛として依頼を受けたのかな。でも王族の護衛なんて、よほど腕の立つ冒険者じゃないと任されないんじゃ……)
そんなことを考えているうちに、
村人たちは自然と左右へ分かれ、
馬車が通れる道を作った。
その間を通り抜け、馬車は村の中へと入ってくる。
村人全員が頭を下げた。
やがて五台すべての馬車が止まり、ようやく顔を上げる。
一台目の馬車には、手の甲を正面へ向け、大きく五指を広げた右腕の紋章が刻まれていた。手の甲部分には青い宝石がはめ込まれている。
二台目以降の馬車には、剣と盾が並び、その上に獅子の顔が描かれた紋章が刻まれている。獅子の眼の部分は赤い宝石が埋め込まれている。
そして一台目の馬車から、立派な髭を蓄えた五十代ほどの壮齢の男性が降りてきた。
続いて三台目――ちょうど中央の馬車の扉を騎士が開くと、一人の若い男性が姿を現す。
年齢は二十代後半ほどだろうか。
若い男性が降り立つと、先ほどの壮齢の男性は、その一歩後ろへ静かに控えた。
すると騎士が高らかに告げる。
「皆の者! こちらは我がアンダルト国第一王子、セルシュ王子殿下であらせられる! そして後ろに控えられる御方が、アンダルト国北方を治められるマリオル辺境伯様である!」
(王族だけじゃなく、辺境伯まで!?)
村人たちは慌てて再び頭を下げた。
「おいおい。そんなに大声で紹介しなくてもいいじゃないか。みんな萎縮してしまうだろ?」
若い声の主は王子だろう。
「い、いえ。しかし……」
騎士は困ったように口ごもる。
「まあ良いではありませんか。彼は己の役目を果たしたに過ぎません」
今度は落ち着いた渋い声。
こちらがマリオル辺境伯だろう。
「まあ、それもそうか。君、ありがとう。下がっていいよ」
「はっ!」
騎士は返事をすると、鎧を鳴らしながら持ち場へ戻っていった。
「それじゃあ皆、顔を上げてくれ」
王子の言葉で村人たちは顔を上げる。
改めて見ると、王子は銀髪に銀色の瞳を持つ端正な青年だった。
一方、辺境伯はがっしりとした体格ながら目元は優しく、金髪に金色の髭を蓄えている。
まるで金髪のサンタクロースのような人物だった。
一歩前へ出た村長が口を開く。
「これはこれは、セルシュ様にマリオル辺境伯様。ようこそ私どもの村へお越しくださいました。王子様と辺境伯様がお見えになるとは思っておらず、何のおもてなしもできず申し訳ございません」
「いや、気にしなくていい。急な訪問にもかかわらず、こうして皆で迎えてくれたことを嬉しく思う。なあ、マリオル殿」
「ええ。実に素晴らしいことです」
「ありがとうございます。それと、無礼を承知で一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。何でも聞いてくれ」
村長の問いを王子は快く受け入れた。
「なぜこの村へお越しになられたのでしょうか? お世辞にも、この村が王子様や辺境伯様をお迎えするほどの場所とは思えませんので」
「そうだね。会いたい人がいるからかな。それに知り合いもいるしね」
そう言って王子は、ある方向へウインクを送る。
その先にはローゼスとラミネが立っていた。
「ローゼス! ラミネ! 久しぶりだね!」
「おいおい。王子様がそんな態度でいいのかい?」
「本当ね。あの頃からちっとも変わらないわ」
「アッハッハ! だからこそさ。君たちとの間に王族も何もない。ただのセルシュだよ」
どうやら三人は昔からの知り合いらしい。
「セルシュ王子。もしや、その方々が?」
マリオルが尋ねる。
「ああ、そうだよ。冒険者として活動していた頃、何度も背中を預け合って戦った仲間さ」
セルシュは改めてローゼスとラミネを紹介した。
「ところでセルシュ王子とマリオル辺境伯様は、なぜこの村へ?」
今度はローゼスが尋ねる。
「おいおい。僕のことはセルシュでいいさ。不敬罪になんてしないよ」
「皆の前でもあるからね。そこは分別をつけさせてもらうよ」
「相変わらずだね」
「あら? 私は気にしないわよ、セルシュ。それで、何をしに来たのかしら?」
「おいおい、ラミネ」
ラミネのさっぱりした態度に、ローゼスが少し慌てる。
「アッハッハ。君も相変わらずだ。そうだね……ここでは少し話しづらい。人払いのできる場所があるといいんだけど」
笑みを浮かべていたセルシュ王子の表情が、ふっと真剣なものへと変わる。
「……分かった。家で話そう」
その後、村人たちは解散し、王子様一行はローゼスの案内で家へ向かった。
その際、
「ゼインくん、ミリちゃん。悪いけど、リゼリアをあなたたちの家で預かってくれないかしら?」
とラミネに頼まれる。
「はい、もちろんです」
俺たちは二つ返事で引き受けた。
「じゃあお願いね」
そう言ってラミネも自宅へ向かっていった。
「何の話をするんだろうね?」
リゼが不思議そうに尋ねる。
「分からないけど、人払いをするくらいだから、よほど重要な話なんじゃないかな」
「……なんだろう。パパとママ、大丈夫かな」
リゼは少し不安そうに呟いた。
「きっと大丈夫さ」
「さあ、ゼインくん、リゼリアちゃん。私たちも帰りましょう。帰ったら魔法の修行でもする?」
「うん! するする! ゼインくん、行こう!」
「分かったよ」
先ほどまでの不安はどこへやら。
俺たちも自宅へと戻った。
ローゼス家では、セルシュとマリオルだけが家の中へ入った。
セルシュの指示により、護衛の騎士たち、そしてガレル達は家の周囲に配置されていた。
「いやいや、いい家じゃないか」
「ありがとうございます」
セルシュの言葉に、村長は礼を述べる。
「おや? これは……アイアンボアの毛皮ですかな?」
一着の毛皮のコートに目を留めたマリオルが尋ねた。
「ええ。孫の夫に贈ってもらったものです」
「そうでしたか。お孫さんは良い夫を見つけられましたな」
「ありがとうございます」
再び村長は頭を下げる。
「孫の夫と言っても、まだ婚約中なんですよ」
「お互いまだ八歳ですから、結婚まではもうしばらく先になります」
ローゼスとラミネが補足する。
「ほう、そうでしたか。いやはや、それでも立派な少年であることには変わりありませんな」
「本当ですよ。セルシュにも見習ってほしいものです」
「まったくだね」
「ははっ。私も同感ですな」
「おいおい。これでも僕なりに頑張ってるんだよ」
その場はしばし笑いに包まれた。
やがてセルシュが表情を引き締める。
「さて、もう少し世間話でもしていたいところだけど、時間が惜しい。早速、本題に入ろうか」
その一言で場の空気が変わった。
「ローゼス。君にも頼んでいた魔界のゲートの件だけど」
「何か進展があったのかい?」
「いや、まだまだ先は長そうだ。ローゼスの方はどうだい?」
「……僕の方も、まだ時間が掛かりそうだ」
ローゼスは拳を強く握り締めた。
「そうか。まだ数か月しか経っていないんだ。そんな急に成果が出るものじゃないさ」
「分かってる……分かってるけど」
握る手にさらに力が入る。
「あなた、大丈夫よ。あなたならきっとできるわ」
ラミネはそっとローゼスの手を包み込んだ。
その温もりに、ローゼスの表情も少し和らぐ。
「ああ、そうだね。焦ったところで空回りするだけだ。ありがとう、ラミネ」
見つめ合う2人。
「甘い空気のところ悪いけど、ローゼス。今日は君にこれを渡しに来たんだ」
2人はパッとセルシュの方へ向き直る。
やれやれと言った感じの村長。
そしてセルシュは二冊の古びた本をテーブルへ置いた。
どちらもかなり年季が入っており、表紙の題名は掠れてほとんど読めない。
「これは?」
ローゼスは興味深そうに本を見つめながら尋ねる。
「王家の宝物庫に保管されていた書物さ。もしかすると、この中に魔界について記されているかもしれない」
「!」
ローゼスの目が大きく見開かれた。
「なら、なぜ王都で調べないんだ?」
「もちろん王都でも調べたさ。でも解読できなかったんだ。かなり古い書物で、不思議な言語で書かれていてね」
「少し見せてもらっても?」
「構わないよ」
ローゼスは一冊を手に取り、ゆっくりとページをめくる。
隣からラミネも覗き込んだ。
「……初めて見る言語だ。というより記号のようにも見える。君はどうだい?」
「私に聞くの? 私だって初めて見るわ」
ラミネは少し呆れたように答える。
「でも……」
「でも?」
「どこかで似たような文字を見た気がするのよ」
「「本当か!」」
ローゼスとセルシュの声が重なった。
「え、ええ。でも随分前のことだと思うわ。似ているだけかもしれないし、勘違いかもしれないけど」
二人の勢いに少し気圧されながらラミネは答える。
「どんな些細なことでもいい。思い出したら教えてくれ」
「分かったわ」
ラミネは静かに頷いた。
「でも、なぜこの本に魔界のことが書かれていると思ったんだ?」
ローゼスがセルシュへ問い掛ける。
「それは――この書物が、王族の祖先である勇者ムサシが遺したものだからだ」
「なんだって!」
ローゼスは驚愕した。
「勇者が遺した書物……それは確かに凄いわね」
ラミネも驚きを隠せない様子だった。
「凄いなんてものじゃない。本来なら王族以外は目にすることすら許されない。場合によっては一族まとめて死罪もあり得る」
「し、死罪……」
村長の顔がみるみる青ざめる。
「ローゼスの言う通りだ。しかし勇者ムサシを含む勇者パーティは、人類で唯一魔界へ赴き、魔王を討ち果たした者たちだ。この書物に魔界へ繋がる手掛かりが残されていても不思議ではない。現時点では一番の希望なんだ」
セルシュは静かに説明した。
「……確かに。だが国王様はご存じなのか?」
「父上は頑固だからね。王都の研究機関で解読するのさえ渋々さ。外部へ持ち出すことには首を縦に振らないだろう」
「そうか……」
ローゼスはしばらく考え込む。
そして静かに口を開いた。
「時間が惜しい。すぐ複写に取り掛かってもいいか?」
「もちろんだ」
セルシュは迷うことなく頷いた。
ローゼスは本を抱えるとマリオルへ軽く会釈をし、そのまま足早に自室へ向かった。
「あの人のことだから、一時間もしないうちに複写は終わるわ」
「だろうね。王都一の頭脳の持ち主だから。解読も、もしかしたら……」
「ローゼス殿とは、それほどまでに優秀なお方なのですか?」
二人の会話を聞いていたマリオルが尋ねる。
「優秀なんてものじゃないさ。彼が王都で働いてくれたおかげで、この国は他国より何十年も先を行く設備を整えられた。生活面だけじゃない。軍事面でもね」
「それはそれは。そのような人物を存じ上げなかったとは、自身の無知が恥ずかしいですな」
「あの人、自分から表舞台には絶対に立たなかったんです。研究成果も全部ほかの人に譲っちゃって」
ラミネは苦笑しながら肩をすくめた。
「それだけの功績があれば、大出世していてもおかしくないでしょうに」
マリオルは不思議そうだった。
「それが嫌だったみたいです。出世したら責任ばかり増えて、研究する時間がなくなるからって」
「ほう。それはまさに生粋の研究者ですな」
マリオルは感心したように頷いた。
「だからこそ、彼は信頼できるのさ」
セルシュの言葉を聞きマリオルも納得していた。
「ところでセルシュの目的は本を渡すことだとして、辺境伯様はなぜこの村へ?」
今度はラミネが尋ねた。
「そうですな。実は――」
「おっと。その説明をする前に、一人呼んでもいいかい?」
セルシュが言葉を挟む。
「私は構いませんよ」
「私も大丈夫よ」
「ワシも構いませぬ」
マリオル、ラミネ、そして村長の了承を得ると、セルシュは小さく頷いた。
「ありがとう。さて、聞いた通りだ。入って来てもいいよ。騎士たちには先に話してあるから、そのまま入ってきてくれ」
セルシュは誰かに向かって声を掛けた。
すると――
トントントンッ。
玄関からノックの音が響く。
「はいはい」
ガチャッ。
ラミネが扉を開ける。
「やっぱり、あなただったのね」
「ああ。俺だ」
入口の前に立っていたのはガレルだった。
家の中へ入ると、ガレルはセルシュへ視線を向ける。
「セルシュ……でいいよな?」
「ああ。問題ないよ」
セルシュは笑みを浮かべて答えた。
「なぜ俺が話を聞いていると分かった?」
ガレルは率直に尋ねる。
「君のパーティに兎人族の娘がいただろう? だから恐らくと思ってね」
セルシュは穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。
「相変わらず勘が鋭いな」
「勘が鈍いと王族なんて務まらないさ」
二人は顔を見合わせて笑う。
「ふむ。この方も冒険者のようですが?」
マリオルが興味深そうに尋ねた。
「ああ。改めて紹介するよ。彼はガレル。彼も僕が冒険者だった頃、背中を預け合って戦った仲間さ」
「ガレルと申します。冒険者パーティ【ネクストシード】のリーダーをしております」
「そうでしたか。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ガレルとマリオルは挨拶を交わした。
「さて、ローゼスは仕方ないとして、重要な面子は揃ったね」
セルシュは周囲を見渡す。
「では、マリオル辺境伯。説明をお願いします」
「はい」
セルシュに促され、マリオルは静かに口を開いた。
「まずは、かいつまんでお話しいたします」
その場にいた全員が自然と姿勢を正す。
「皆さんが助け出そうとしてくださっているレリーナですが――」
マリオルは一呼吸置き、静かに続けた。
「レリーナは、私の娘なのです」
「「「……はぁっ!?」」」
あまりにも突然の告白だった。
ラミネ、ガレル、そして村長は言葉を失い、驚愕の表情を浮かべる。
部屋の空気は一瞬で張り詰めた。
お読みいただき、ありがとうございます。
初めて読んで頂いた方も、引き続き読んで頂いている方も思っているはずです。
「長い」、、と。
いつになったらタイトルに追いつくのだと。
私もそう思っています。
しかし、この前置きを私は大事にしていきたいです。
と言いつつ、この時点でゼインは8歳。
事件が起こるのは目と鼻の先です。
もう少しだけ、前置きにお付き合いください。
さて、今回はいろいろな情報が出てきました。
王族に辺境伯。勇者の書物。
そして辺境伯とレリーナの関係。
これがどう物語に影響してくるのか。
私も楽しみです。
これからもゼイン達を見守って頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。




