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あの日の出来事

ローゼスからヴァッシュとレリーナについて語られる回です。

果たしてあの日、2人はどうなってしまったのか。

帰宅すると、ちょうどミリが昼食の準備を始めるところだった。


「姉さん、ただいま」


「おかえりなさい、ゼインくん! ローゼスさんが来る前にお昼にしようと思って。すぐ作っちゃうね」


そう言ってミリはキッチンへ向かう。


「姉さん、これ」


「ん? これは……レシピ?」


俺はサシャにもらったレシピを手渡した。


「うん。サシャに貰ったんだ。ラビットの香草焼きと山菜スープのレシピ」


「ええっ!? サシャちゃんのお店のレシピ!? ど、どうして?」


ミリも驚いている。

俺はヤド、サシャ、カンジョウとのやり取りを話した。


「そっか……。みんな気に掛けてくれてるんだね」


ミリの目から雫がこぼれ落ちる。


「じゃあ、せっかくだからこの山菜スープを作ろうかな」


「僕も湯浴みを済ませたら手伝うよ」


「ありがとう、ゼインくん」


そして湯浴みを済ませたあと、ミリと一緒にレシピを見ながら山菜スープを作った。

昼食の準備を終え、テーブルにつく。


「「いただきます」」


二人でさっそくスープを一口飲む。


「「……! 美味しい〜!!」」


思わず二人して声を上げた。


「山菜スープがこんなに美味しくなるなんて!」


「凄いね。さすがサシャのお店のレシピだよ」


材料自体は特別なものではない。

だがレシピには切り方や火を通すタイミングなどが細かく書かれていた。

多くの手間をかけることで、味の深みがまるで違うものになっている。

不思議と心が少し軽くなった気がした。

早めの昼食を終え、部屋を軽く片付ける。

すると――

トントントンッ。

玄関がノックされた。


「はい」


ドアを開けると、


「やぁ、ゼインくん。こんにちは」


入口の前にローゼスが立っていた。

そして、


「私達も来ちゃったの。一緒で良いかしら?」


その後ろからラミネとリゼが顔を覗かせる。


「こんにちは。もちろん構いませんよ。どうぞ」


俺はローゼス一家を招き入れた。

リゼは俺の横まで来ると、ぴたっとくっついてくる。


「ど、どうしたの? リゼ」


「……ゼインくん。元気そうで安心した」


どうやらリゼも心配してくれていたらしい。


「ありがとう、リゼ。さぁ、リゼも椅子に座ろう」


「うん」


テーブルではすでにローゼス、ラミネ、ミリが席についていた。

俺とリゼも席につく。


「じゃあ、さっそく話を始めるよ。あの日のことを」


ローゼスが静かに切り出した。


「魔人討伐のため、僕は後方支援。ラミネは中衛。そしてヴァッシュとレリーナは前線に配置された」


俺、ミリ、リゼは話に聞き入る。

ラミネは目を閉じていた。

当時のことを思い返しているのだろう。

ローゼスはそのまま続ける。


「多くの犠牲を出しながらも、僕達は魔人に傷を負わせることができた。……しかし、魔人はゲートを開いた」


「ゲートとは何ですか?」


「ゲートは魔人だけが開くことのできる扉だ。そして、その先は魔人の住む世界に繋がっていると言われている」


「魔人の住む世界……」

(そんなものが存在するのか)


「魔人はゲートを開いてどうしたんですか?」


「最初は増援を呼ぼうとしたようだった。だがレリーナの魔法でそれを防ぐことができた」


するとラミネが言葉を継ぐ。


「もし増援が来ていたら、私達は負けていたわ。ヴァッシュが魔人相手でも引かずに時間を稼いで、レリーナが魔法を構築する。二人は本当に凄かったの」


当時の光景を思い出すように語った。


「増援が無理だと分かると、魔人は向こうの世界へ逃げることを選んだ。ゲートの中へ入っていったんだ。それほど追い詰められていたんだろう。だが、回復されれば次も大惨事になる。そう考えたヴァッシュとレリーナは、魔人を追ってゲートへ入ってしまった」


「そ、そんな……。大丈夫なんですか?」


ミリが不安そうに尋ねる。


「それは何とも言えないんだ。今までゲートの先へ行った人間なんていないからね。文献にもそういった記述はなくてね」


「……そうなんですか」


ミリは俯いてしまう。


「私も前線にいられたら二人を止められたかもしれないのに。ごめんなさいね」


ラミネが申し訳なさそうに頭を下げた。


「いえっ、そんな! ラミネさんは悪くないですよ。父さんも母さんも、みんなのためを思っての行動ですから」


俺は慌てて声を掛ける。


「でも、今のところは安心してほしい」


ローゼスの言葉にミリが顔を上げた。


「僕とラミネがつけているこのブレスレット。これは対になるブレスレットを思い浮かべることで、相手が健在かどうか分かるんだ。僕のはヴァッシュと、ラミネのはレリーナと対になっている。見ていてごらん」


ローゼスとラミネはテーブルの上に腕を乗せる。

すると、それぞれのブレスレットの石が強く光った。


「父さんと母さんは、まだ大丈夫なんですね」


「そういうこと。でも、よく光の意味が分かったね」


「ああ。それは……」


俺はカンジョウから同じ物を貰ったことを説明した。


「いやぁ、カンジョウくんは凄いな。これを骨董市の中から見つけ出すなんて将来有望だね」


「ちなみにカンジョウの見立てだと、二つで金貨四十枚らしいんですけど本当ですか?」


「うーん。今ならそのくらいするのかな。どうだろう?」


ローゼスはラミネを見る。


「どうだろうって……あなたが作ったんだから、あなたの方が分かるでしょうに」


「えっ!? 作った? ローゼスさんが!?」


「ははっ。作ったと言っても原理を考えただけさ」


ローゼスは照れくさそうに頭を掻いた。


「パパって凄かったんだね!」


リゼも感心している。


「話が逸れちゃったね。つまりヴァッシュとレリーナは無事だということ。ただ、連絡手段がないから詳細は分からないけどね」


「だから行方知れずって言い方だったんですね。父さんと母さんの無事が分かっただけでも良かったです。ね? 姉さん」


「うん。本当に良かった」


ミリは安堵の涙を流した。


「ゲートを開かない限り、向こうとこちらを行き来することは出来ない。でも僕も含めて、王都でも研究を急いでいるよ」


「「ありがとうございます」」


俺とミリは頭を下げた。


「さて、二人とも。これからのことだけど」


ローゼスに代わり、ラミネが話し始める。


「あなた達は年齢の割にしっかりしているけれど、それでもまだ子どもよ。ヴァッシュとレリーナがいない間は、私達が面倒を見るわ」


ラミネは優しく微笑んだ。


「とは言っても、今まで通り生活してもらって構わないの。困ったことがあったら、いつでも私達に相談してちょうだい」


「えー! 一緒に住まないの?」


リゼが不満そうな声を上げる。


「さすがにそこまで家は広くないもの。でも、夕食は一緒に食べるようにしましょう」


「やった〜!」


リゼは飛び跳ねながら喜んだ。


「いいんですか? そこまでお世話になって……」


ミリは少し申し訳なさそうに尋ねる。


「家族みたいなものなんだから当然じゃない。困った時は助け合うものよ」


ラミネの言葉に、ローゼスも静かに頷いた。


「じゃあ――」

「「よろしくお願いします」」


俺とミリは揃って頭を下げた。

それからしばらくの間、今後について話し合った。

週に二回は一緒に夕食を食べること。

そしてジョブ取得後の進路については、遠慮なく相談すること。

主にその二つが決まった。


「少し長くなってしまったね」


話が一段落したところで、ローゼスが口を開く。


「最後に、この二つのブレスレットは君達に預けようと思うんだけど、どうかな?」


俺とミリは顔を見合わせ相談する。

そしてミリが答えた。


「そのブレスレットは、ローゼスさんとラミネさんが持っていてください」


ローゼスとラミネは少し驚いたようだった。


「理由を聞いてもいいかな?」


「とても高価な物ですし、子どもの私達だけで管理するのは不安なんです。でも、ローゼスさんとラミネさんが持っていてくれるなら安心できますから」


ミリは真っ直ぐに答えた。


「なるほど」


ローゼスは納得したように頷く。


「じゃあ、このまま僕達が預かっておこう」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、僕達はそろそろお暇するよ」


ローゼスが立ち上がる。


「さっきも言ったけれど、困ったことがあったらいつでも相談してね」


ラミネも優しく声を掛けてくれる。


「私も助けるからね!じゃあね、ゼインくん!ミリちゃん!」


こうしてローゼス一家は帰っていった。

ローゼス達を見送った後、俺とミリは再びテーブルへ向かった。

先ほどまでの緊張感が解け、静かな時間が流れる。

しばらくして、ミリがぽつりと呟いた。


「パパとママ……遠くにいるけど、生きてた」


「うん」


俺は静かに頷く。


「みんなのために危ない場所へ行くなんて、パパとママらしいね」


「本当にね」


自然と笑みがこぼれた。

だけど、その次の瞬間。


「本当に……本当に、よかった……」


ミリの瞳から大粒の涙が溢れた。

今まで必死に我慢していたのだろう。

肩を震わせながら泣くミリを見て、俺はそっと抱き寄せた。

ミリも俺にしがみつく。

父さんと母さんがいつ戻ってくるのかは分からない。

明日なのか、一年後なのか。

それとももっと先なのか。

それでも――二人は生きている。

いつの日か、また家族四人で笑い合える日が来る。

そう信じて、俺達は希望を胸に前を向き始めた。

お読みいただきありがとうございます。

ヴァッシュとレリーナが生きているという事実がゼインとミリとって大きな希望になっていることでしょう。

そして魔人の住む世界とは一体…。

そこも今後のお話で書いていければと思います。


なかなか定期での投稿が難しいですが、

今後もゼインを含めた登場キャラ達を見守っていただけると嬉しいです。

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