仲間からの支え
あの3人がゼインの元へやってきます。
支え合える仲間がいるのは、とても素晴らしいことですね。
朝。
ある意味では待ちわびた朝だった。
しかし、清々しさなど微塵もない。
あるのは言葉にしがたい疲労感だけだ。
(相当こたえてるな)
ヴァッシュとレリーナが行方知れずだという報せは、ゼインに大きな心労を与えていた。
「姉さんは大丈夫かな……」
昨日の様子を見る限り、自分よりもミリの方が心配だった。着替えを済ませて部屋を出ると、一階から物音が聞こえてくる。
階段を降りると――
「あっ! ゼインくん、おはよう!」
笑顔でキッチンに立つミリの姿があった。
「おはよう、姉さん。ずいぶん早いね」
「へへっ、目が覚めちゃって。ゼインくんも早起きだね。いつもこの時間に起きてたの? 通りで朝はもういなかったわけね」
「修行が始まってからはこの時間かな」
「そうなんだ。いま朝食を作ってるから、もう少し待っててね」
そう言うと、ミリは視線を手元へ戻した。
「姉さん」
「なぁに?」
「その……大丈夫?」
「……」
ミリの手が止まり、しばしの沈黙が流れる。
やがてミリは静かに口を開いた。
「大丈夫……ではないかな。まだ受け止めきれてない自分がいる」
「……うん」
「でもね。塞ぎ込んでいても何も進まない。だから少しずつ前に進もうって思ったの」
「姉さん……」
(やっぱりミリは強いな)
「それにゼインくんも頑張ってるんだから、お姉ちゃんがしっかりしないとね」
ミリはゼインに向かってウインクをする。
そして再び朝食作りに取り掛かった。
「何か手伝おうか?」
「え? 嬉しいけど大丈夫?」
「簡単なことならできるよ」
「じゃあ、この野菜を切ってくれる? スープに使いたいの」
「分かった」
姉弟で準備を進めたことで、朝食はあっという間に完成した。
朝食を済ませると、分担して掃除や洗濯をこなす。
一通りの家事を終える頃には、ミリの顔に疲れが見え始めていた。
椅子に腰掛けたと思ったら、そのまま眠ってしまった。
ミリにそっと上着を掛け、俺は家を出た。
向かったのは、いつも剣の修行で使っている広場だ。
「ローゼスさんも来るし、今日は二十周にしておこう」
そう呟き、村の外周を走り始めた。
小さな村なので、ヴァッシュとレリーナのことはすでに知れ渡っているらしい。
道中で会う人たちにも次々と声を掛けられた。
皆心配してくれているようで、野菜なども持たせてくれた。
村人たちの優しさに触れながら外周を終え、広場へ戻る。
すると、そこには見知った顔があった。
「よぉ! ゼイン! 今日も稽古か? 精が出るな!」
「ちょっと! そんなに大きな声出さなくてもいいでしょ!」
「このくらい普通だろ?」
「僕も少し大きめだと思うな」
(相変わらず賑やかだな)
「ヤド、サシャ、カンジョウ。三人ともどうしたんだ?」
俺が尋ねると、まずヤドが答えた。
「いや、別に会う予定はなかったんだけどよ。ここに来る途中で会ったんだ」
続いてサシャ。
「そうなの。最初に私とカンジョウが合流して、最後にヤドが合流したの」
最後にカンジョウ。
「こんな偶然もあるんだねって、さっき話してたんだ」
「へぇ、珍しいこともあるんだな。それで、みんなどうしたんだ?」
再び尋ねると――
「「「ゼイン(くん)に会いに来た(の)」」」
三人の声が綺麗に重なった。
「俺に会いに?」
きょとんとする俺を見ながら、サシャが続ける。
「ゼインくんのお父さんとお母さんが行方知れずだって聞いて」
「……そっか。やっぱり話が届くのは早いな」
「だからゼインは大丈夫かと思ってよ。外周してるって聞いたからここで待ってたんだ」
「僕ら三人とも考えていたことが同じだったみたいでね。心配してたんだ。ゼインは大丈夫かい?」
三人とも俺のことを心配して来てくれたらしい。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ありがとう、三人とも。大丈夫……って言っていいのか分からないけど、稽古ができるくらいには元気だよ」
それを聞いた三人の表情がほころんだ。
「それを聞いて安心したよ。これ、うちの宿でも使ってる枕なんだ。睡眠は大事だからな。良かったら使ってくれ」
ヤドは背負っていた大きなリュックから枕を取り出して手渡した。
「ありがとう。すごく柔らかいな。これで寝たら気持ちよさそうだ」
「だろ? ミリさんとリゼリアちゃんの分もあるから持って行ってくれ。ちなみにリゼリアちゃんの枕は表側がYESで裏側が――やっぱりYES! これでお前らの夜も……イダッ!」
「何やってんのよアンタは!」
サシャの拳がヤドの後頭部に炸裂した。
「ははっ。まぁデザインはともかく、有り難くいただくよ」
「へへっ」
ヤドも頭を押さえながら笑っていた。
「私からはこれよ」
サシャが差し出したのは数枚の紙だった。
目を通してみる。
「これは……レシピか?」
「そうよ。うちで人気のラビットの香草焼きと山菜スープのレシピ」
サシャは得意げに胸を張った。
「えっ!? いいのか? そんな貴重なレシピを」
「ちゃんとパパにも特別に許可はもらってるわ。家でもうちの料理を食べて元気になってほしいのよ」
サシャの父は昔、王都でも腕を振るっていた凄腕の料理人だ。
いまでも弟子入りを希望する人が村を訪れるほどである。
そんな人物がレシピを他人に教えるなど、普通では考えられない。
「こんな貴重なものを頂けるなんて……」
「当然だけど、レシピ通り作ってもパパの料理には到底届かないわ。そして次は私がその味を受け継ぐの。だからちゃんとうちにも食べに来なさいよ」
「ああ。もちろん」
サシャは満足そうに笑った。
「じゃあ、僕からはこれを」
カンジョウが差し出したのは二つのブレスレットだった。少しくすんでいるが、元は金色だったのだろう。
それぞれに赤と青の小さな石が埋め込まれている。
「これはブレスレットか?」
「そうだよ。でも、ただのブレスレットじゃないんだ。ちょっとこっちを着けてみて」
勧められるまま、俺は赤い石の方を腕にはめた。
「じゃあ僕はこっちを」
青い石の方はカンジョウが身に着ける。
「これはすごい機能があってね。心の中で、もう片方のブレスレットを思い浮かべる。そうすると――」
そう説明した直後、カンジョウのブレスレットの石が青く光った。
「「「おぉ……!」」」
俺とヤド、サシャの口から感嘆の声が漏れる。
やがて光は静かに消えた。
「じゃあ次はゼインがやってみて」
言われるまま、カンジョウのブレスレットを思い浮かべる。
すると今度は、俺の腕のブレスレットが赤く光った。
「「おぉ!」」
ヤドとサシャが再び声を上げる。
そして光は消えた。
「使い方は分かったけど、どういう意味なんだ?」
「これは相手が健在かどうか分かるブレスレットなんだ。相手が元気なら今みたいに強く光る。怪我や病気で弱っていると光も弱くなるんだよ」
「へぇ……そうなのか。でも結構いい物なんじゃないか?」
「この前、父さんと行った骨董市で見つけたんだ。売ってた人は機能を知らなかったみたいでね。かなり安く買えたんだよ」
カンジョウも商人の跡取りとして着実に成長しているらしい。
「ちなみに、本当の価値はいくらくらいなんだ?」
「そうだねぇ。あくまで僕の見立てだけど、金貨二十枚くらいかな」
「「「金貨二十枚!?」」」
俺だけでなくヤドとサシャも目を丸くした。
この世界には銅貨、青銅貨、銀貨、金貨の四種類がある。
銅貨一枚が十円。
青銅貨が百円。
銀貨が千円。
そして金貨が一万円。
つまり、このブレスレット一つで約二十万円だ。
「一つ金貨十枚……それでも十分高いけど」
「えっ?違う違う。一つ金貨二十枚だよ」
「「「一つ金貨二十枚!?」」」
再び三人の声が重なった。
「……いや、流石にもらえないって」
(合わせて金貨四十枚はちょっと……)
「いやいや。だから安く買えたって言ったじゃないか。二つで金貨三枚だよ」
「「「おおぅ……」」」
それでも十分高価だ。
だが先ほどの金額を聞いた後では、ずいぶん安く感じてしまう。
「僕が持っているより、ゼインとミリさんが持っていた方がいいと思ってね」
(……そうか)
もしかしたら家族二人だけになるかもしれない。
そんなことは考えたくもない。
だが可能性がないわけではない。
カンジョウなりに考えてくれたのだろう。
「……」
少し考えたあと、俺は答えた。
「カンジョウ。ありがたく受け取るよ」
「うん!」
そしてブレスレットを受け取った。
「三人とも、本当にありがとう」
俺は深く頭を下げた。
「そんなこと気にするなよ! 俺たちの仲だろ?」
「そうよ。当然じゃない」
「うん。僕たちはずっと支え合ってきたんだから」
三人とも満面の笑みを浮かべる。
「……」
目頭が今までにないほど熱くなる。
「……ありがとう」
三人の姿が少し滲んで見えた。
三人と別れたあと、修行をこなした。
「もうそろそろか」
ローゼスが来る時間が近づいている。
「早めに帰って昼食にしよう」
俺は家路についた。
ヤド、サシャ、カンジョウ。
今後もこの3人との関係性を描いていけたら良いなと思っています。
次回はローゼスからヴァッシュとレリーナについて語られます。
ぜひお読みいただけると嬉しいです。




