神殿と二柱の神
休息日。
リゼに誘われ、ゼインは神殿を訪れ、
そこでとある再会をすることとなります。
魔法の稽古を終えた俺は、レリーナへ質問をしてみた。
「お母さん。モンスターのことで聞きたいんだけど、いい?」
「えぇ、いいわよ」
「前に“モンスターの中に魔物がいる”って話をしてたけど、何が違うの?」
「そうね。モンスターは下級の存在。そして、そのモンスターの中から下級をまとめる個体が現れることがあるの。それが“魔物”と呼ばれる存在ね」
「じゃあ、魔物の上もいるの?」
「いるわ。魔物になると、体内に赤い魔石が作られるの。そして、その魔石を他の魔物から取り込み続けると、“魔人”と呼ばれる存在へ進化するの」
「魔人……」
「魔人の強さは、取り込んだ魔石の量や質に左右されるわ」
「そうなんだ。なら、もっと強くならないと」
「それはリゼリアちゃんのため?」
「それもあるけど、僕はみんなを守りたいんだ」
そう。
リゼも、家族も、友達も。
大切な人たち全員を。
「ふふっ。いい目標ね。お母さんも応援するわ」
レリーナは満足そうに微笑むと、家の中へ戻っていった。
そして俺は、リゼを家まで送り届け、その日の終わりを迎えた。
次の日は休息日。
俺はリゼに誘われ、とある場所へ向かっていた。
その場所は森の中にあるらしく、ヴァッシュが引率してくれている。
「リゼ。いったいどこへ行くの?」
「ふふーん♪ 私たち結婚の約束したでしょ?」
「うん、そうだね」
「それをね、神様に報告しに神殿へ行くの。見守っていてくださいって!」
リゼはスキップしながら上機嫌だ。
「お父さん。神殿と神様って?」
初耳だったので、俺はヴァッシュへ尋ねる。
「神殿っていうのは神様を祀っている場所。そしてジョブを得る儀式にも使われる神聖な場所なんだ」
「ジョブ?」
「その辺りは、また時期が来たら説明するよ。……そして、いまから向かう神殿に祀られているのは、“マレイナ”という女神様だ。村長曰く、“恵みの神”らしい」
「恵みの神:マレイナ様」
(そういえば、“祈りを捧げれば会える”って神様が言ってたような……)
神様との会話を思い出す。
だが、どうにも一部分だけハッキリしない。
(なんかモヤモヤするけど……忘れてるってことは大したことじゃないのかな)
そう考えていると――
「ゼインくん、着いたよ!」
リゼの声で我に返った。
目の前には石造りの神殿が建っている。
大きさとしては六メートル四方ほどだろうか。
思っていたより小さな建物だった。
「じゃあ入ろうか。2人とも、ここが神聖な場所だってことは頭に入れておきなさい」
「「うん」」
ヴァッシュの言葉に頷く。
ギィー……
ヴァッシュが木製の扉を開いた。
神殿の中へ入ると、左右には椅子のようなものが並べられており、奥には神台が置かれている。
「ほら。あれがマレイナ様だよ」
ヴァッシュが指差した先には、女神を模したと思われる石像があった。
だが、かなり年月が経っているのだろう。
所々がひび割れ、欠けてしまっている。
「じゃあ2人とも。この台の前に膝をついて祈りを捧げてごらん」
「「うん」」
俺とリゼは神台の前へ進み、膝をついて祈りを捧げる。
祈りと言えばこれかな、と思い、手を組む。
そして心の中で唱えた。
(わたし――ゼインは、隣にいるリゼリアと婚約しました。この先、幸多き未来が訪れるよう、どうか見守っていてください)
そして、さらに続ける。
(神様、見ていますか? 私はなんとか元気にやっています。お会いできる時を楽しみにしています)
――その瞬間。
「!?」
祈りのために目を閉じているはずなのに、視界が白く染まった。
「なっ、なんだ!?」
そう声を上げると――
「“なんだ”とは不躾だね。君が会いたいと言ったのに」
「え?」
白く染まった視界が、徐々に色を取り戻していく。
すると目の前には、美しい女性が立っていた。
「神様……?」
「あぁ。神様だよ」
神様はにっこりと微笑んだ。
「その姿は……」
「これかい? 君と会った時にイメージしてもらっただろう? 他の神たちからも羨ましがられてね。私も気に入っているから、この姿でいることが多いんだ」
神様の姿は、初めて会った時に俺がイメージしたままだった。
「お元気そうで良かったです。その姿も気に入って頂けたみたいで嬉しいです」
「私も会いに来てくれて嬉しいよ。見てるばかりじゃつまらないからね」
「ん? 見てる?」
「それはそうさ。転生した人たちがどうなっているかくらいは確認してるよ」
「プライバシーってご存知ですか?」
「それくらい弁えてるさ。常に見ている訳じゃないよ」
「そうですか。でも何のために?」
「転生者だって善人もいれば悪人もいるだろう? その人の人生を左右するかもしれない場面を見ているんだ」
「なるほど。では、人生を左右する場面で悪事に手を染めた場合は?」
「程度によるけど、看過できない場合は神罰が下る。逆に善行の場合はサポートすることだってある」
「そんな簡単に干渉できるんですか?」
「そうでもないよ。神々の間で議会を開き、出席した神の九割が支持しなければ干渉はできない決まりなんだ」
「神様って、いったい何人いるんですか?」
「さぁ?」
「さ、さぁ?」
「だって神様なんて、生まれては消えてを繰り返してるんだ。君の前の世界にだって神様はいただろう? でも全員の名前を言えるかい?」
「そう言われると……言えません」
「そうだろう? そんなものさ」
神様は少し寂しそうに笑った。
「そんなことより、婚約したんだって?」
「ははっ。実はそうなんです」
「そうかそうか。この世界にも大分慣れてきたと見えるね」
「なにか能力でもくれたら、もっと良かったんですけど」
「それはやってないって言っただろう? 能力は自分で開花させてこそ美しいんだよ」
「分かりましたよ」
(なにか貰えるかと思ったけど、甘くないか)
「でも、そうだね。せっかく久しぶりに会えたんだ。婚約祝いとして、2人に私の加護をあげよう」
「加護ですか?」
「そう。神からの加護は恩恵を与える。私の場合は“相性の良い魔法およびスキルの強化”だね」
「チートはしないって言ってたのに、いいんですか?」
「このくらいならチートでも何でもないさ」
そう言って神様は、指をパチンと鳴らした。
「はい。これで加護が付与されたよ。あと、ついでにこの子からも加護をもらったら?」
神様が後ろへ視線を向ける。
すると――
「ひゃぁぁ!」
小さな光の玉が、慌てたように飛び回っていた。
「あのー……そちらは?」
「君たちがお祈りしていたマレイナだよ」
「えっ!? そうなんですか!?」
俺は思わず驚きの声を上げた。
「す、すいません。気づかなくて……」
「い、いえ! 私の方こそ小さくてごめんなさい〜!」
マレイナも恐縮しきっている。
(なんか気弱い神様だな……)
すると神様が何かを思いついたように言った。
「そうだ! マレイナもゼインにイメージしてもらいなよ」
「えぇ!? そんな! 私なんか小さいままでも……」
光りの玉もといマレイナは一段と小さくなった。
「…あのー、僕のイメージで良いなら」
俺の言葉を聞くとマレイナは俺の目の前に飛んできた。
「ほ、ほんとですか? じゃ、じゃあお願いします!」
(ほんとはして欲しかったのね)
「じゃあいきますね」
俺はマレイナ様をイメージし始める。
(そう言っても、神様の時も具体的にイメージしたわけじゃないし……)
(でも“恵みの神様”だよな。恵みと言えば自然……)
(あとは、マレイナ様がなりたい姿なら――)
神様の時よりは冷静にイメージできた気がする。
だが、やはり具体的な形にするのは難しかった。
しかし――
グニャ……
神様の時と同じように、光の玉だったマレイナ様の姿が変化し始める。
やがて現れたのは――
翡翠色の髪と瞳。
幼さの残る可愛らしい顔立ち。
スカイブルーを基調とした装い。
身長は百五十センチほどだろうか。
だが、その胸元には存在感のある二つの膨らみがあった。
(ろ、ロリ巨乳!? いや、あれこそ王乳【キングニュー】……!)
マレイナは自分の姿を見ると、
「わぁ〜! ありがとうございます! 私がなりたかった私ですぅ!」
小さな身体でぴょんぴょん跳ねながら喜び始めた。
そのたびに胸元も大きく揺れている。
「それは良かったです」
「ふーん。可愛いじゃないか。でも君、胸は大きい方が好みなのかい?」
「いえ! 胸は大きさではありません! 存在そのものが神秘なのです! 神だけに!」
「いや……ちょっと何言ってるか分からないけど」
神様は少し呆れているようだった。
「では、お礼に私の加護も差し上げますね〜! えいっ!」
マレイナが手を上げる。
「もしかして今ので加護が?」
「はい! 私の加護は、“食べられるものが分かる”ようになる加護ですぅ!」
(結構便利かも)
「ありがとうございます!」
俺がお礼を言うと、マレイナは嬉しそうに笑った。
すると神様が口を開く。
「さて、そろそろ時間だ。現実世界へ戻すよ」
「神様。またお会いできますか?」
「そうだね。毎回は無理だけど、祈りをくれた時には会えるさ」
「なら良かった。これからもよろしくお願いします」
「ああ。よろしく。君たち2人の未来が幸多きものになるよう祈っているよ」
「私も祈っていますぅ!」
その言葉を最後に、再び視界が白く染まっていく。
そして――
「はっ!」
気づくと、俺は神殿へ戻っていた。
「ゼインくん! 大丈夫?」
リゼが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あぁ。大丈夫だよ。ありがとう」
「なら良かった!」
リゼは安心したように笑った。
「じゃあ2人とも、そろそろ帰ろう」
「「はーい!」」
俺とリゼは立ち上がり、出入口で待つヴァッシュの元へ向かった。
神殿を出ると、俺たちはマレイナ様の像へ一礼する。
そして扉を閉め、村へ戻った。
すると村の入口に、見知った人物が立っていた。
「よぉ、ヴァッシュ」
「やぁ、ガレル。どうしたんだ?」
その人物は冒険者のガレルだった。
ガレルとヴァッシュは握手を交わす。
そしてガレルが話を切り出した。
「前に冒険者ギルドへ、森の異変について調査依頼を出したことがあっただろ?」
「ああ。数年前だったな」
「その頃と状況が変わってな。正式に調査依頼が下りたんだ」
「いまになってか? また何でだ?」
ヴァッシュは腑に落ちない様子だ。
「実はな。王都近くに“魔人”が現れたって情報が入った」
「なに!? 魔人だと!?」
声は抑えていたが、ヴァッシュは明らかに動揺していた。
「ああ。それで調査依頼が下りたんだ。最近、森の様子はどうだ?」
「モンスターの数が増えているな。以前、魔物らしきものがいたこともあった」
「なんだと……。やはり何かがおかしいようだな」
ガレルは険しい表情を浮かべる。
「迷ったが……これは渡しておく必要があるな。本当は渡したくないんだが」
そう言って、ガレルは一通の封筒を差し出した。
ヴァッシュはそれを受け取り、裏を見る。
すると、その表情が曇った。
「……王家の紋。勅令か」
神様再登場回です。
そして新たにマレイナ様も登場しました。
ほのぼのした空気の中にも、少しずつ世界の異変が見えてきています。




