見送りと魔法適性
ノルドの見送りと本格的な魔法の訓練が始まるお話です。
リゼと婚約した次の日。
俺たち家族は、リゼの家族と一緒に村の入口へ来ていた。
今日はノルドさんが街へ戻るため、その見送りに来ているのだ。
「じゃあノルド。これからもしっかりやりなさいよ」
「くれぐれも身体に気をつけて」
ラミネさんが激を飛ばし、ローゼスさんが心配そうに声をかける。
「わかってるよ。訓練も自分のことも、ちゃんとやるから」
ノルドさんは少し困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔で応えた。
「モンスター相手でもあれだけやれたんだ。自信を持って頑張れよ」
「ふふっ、ノルドくんの成長が見れて良かったわ。これからも頑張ってね」
「はい! ありがとうございます! ヴァッシュさん、レリーナさん!」
ヴァッシュとレリーナから言葉をもらい、ノルドさんは嬉しそうにしている。
「ノルドお兄ちゃん! コレあげる!」
ミリはノルドさんへ袋を手渡した。
「これは?」
「開けてみて!」
ノルドさんが袋を開けると、中には木の実が入っていた。
「カルパの実じゃないか! それをこんなに」
「ノルドお兄ちゃん、この木の実好きだったでしょ? 街へ行く間にお腹が空いちゃったら食べてね」
「今の時期に、こんなに集めるのは大変だったろう? ありがとう」
ノルドさんはミリの頭を優しく撫でた。
「ノルドさん、僕とリゼからはこれを」
「これは?」
差し出された物を、ノルドさんは不思議そうに見つめる。
「これはビッグキャタピラーの糸で編んだもので、“ミサンガ”って言います」
「ミサンガ?」
「はい。自然に切れるまで肌身離さず身につけていると、願いが叶うって言われてるんです」
「へぇ。それは面白そうだね。どこに付けるのがいいんだい?」
「手首とか足首がオススメですよ」
「じゃあ……こうかな?」
ノルドさんは左足首にミサンガを付けた。
「ここなら訓練の邪魔にもならないだろう。2人ともありがとう」
ノルドさんはにこやかに礼を言う。
「実は、何かプレゼントをしたいって言い出したのはリゼなんです」
「ちょっと! ゼインくん!」
リゼは俺の隣で慌てている。
「リゼリアが?」
「はい。何かノルドさんにプレゼントしたいって相談を受けて、僕が提案させてもらったんです」
「リゼリア、本当かい?」
ノルドさんは目を丸くしながら尋ねる。
「いやっ、その……うん」
リゼは慌てつつも、最後は素直に頷いた。
「ありがとう! リゼリア!」
「い〜! 離して〜!」
嬉しさのあまり抱きつくノルドさんと、嫌がるリゼ。
(この光景もしばらくお預けか)
この場にいる全員が、きっと同じことを感じていただろう。
「ハッハッハ。兄妹仲が良いのは結構だが、ノルド。そろそろ時間みたいじゃ」
村長の視線の先には、街へ向かう馬車がすでに停まっていた。
「そうですね。またね、リゼリア。ゼインくん。リゼリアを頼んだよ」
「はい。任せてください、お義兄さん」
「ハハッ。改めて頼んだよ、義弟くん。じゃあ、みんな。行ってきます」
名残惜しそうにリゼから離れたノルドさんは、みんなへ挨拶をして馬車へ向かっていく。
それぞれが声を送る中、リゼはノルドさんの背中を見つめていた。
「リゼ」
名前を呼びながら、彼女の肩に手を置く。
リゼは俺の顔を見ると、意を決したような表情に変わり、再びノルドさんへ視線を向けた。
そして、ノルドさんが馬車へ乗り込む直前――
「いってらっしゃい! お兄ちゃん!」
リゼの声が響いた。
ノルドさんはこちらを振り返り、笑顔で手を振ると、そのまま馬車へ乗り込む。
その表情には、寂しさと嬉しさの両方が滲んでいるようだった。
そして馬車は街へ向けて出発した。
俺たちは、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
馬車が見えなくなると、
「皆さん、見送りまでしていただいてありがとうございます」
ローゼスさんは、俺たち家族へ頭を下げた。
それに続いて、ラミネさん、リゼ、村長も頭を下げる。
「おいおい。俺たちはもう家族みたいなものだっただろ? しかもゼインとリゼリアは婚約もしたんだ。家族を見送るのは当然さ」
ヴァッシュは、俺たち家族を代表するように答えた。
そしてそれは、家族全員の思いを代弁した言葉でもあった。
その後もしばらく会話を交わし、解散する流れとなる。
今日は魔法の稽古の日なので、リゼは少し時間を置いてから家へ来るそうだ。
家で待っている間、俺はヴァッシュに尋ねてみた。
「お父さんはノルドさんと森へ行ってたけど、モンスターの様子はどうだったの?」
「ん? あぁ。対処できないほどじゃないが、やはり増えているな」
「生息してる種類とかは?」
「種類は今のところ変わってないかな」
「そうなんだ」
(生態系自体は大きく変わらず、総数だけ増えてるのか?)
「やけに熱心だが、どうしたんだ?」
ヴァッシュは不思議そうに尋ねる。
「ノルドさんにもリゼのことを頼まれたからね。しかも数年前からモンスターの様子もおかしいみたいだし」
「なるほど。敵を分析するのは良いことだな。お母さんにも稽古の時に聞いてみるといい」
「うん。そうする。ありがとう、お父さん」
会話を終えてしばらくすると、ヴァッシュは村の巡回へ向かった。
ヴァッシュが出て行って数分後――
「お邪魔します!」
リゼがやって来た。
「リゼ、いらっしゃい」
「いらっしゃい、リゼリアちゃん!」
ミリは嬉しそうにリゼへ抱きつく。
「ミリちゃん、苦しいよ〜」
「だってリゼリアちゃん可愛いんだもん♪」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
2人がじゃれ合っていると、
「あら、みんな揃ったのね。少し早いけど始めちゃいましょうか」
庭の方からレリーナがやって来た。
何やら準備をしていたらしい。
「3人とも。さっそくお庭に来て頂戴」
レリーナに促されるまま、俺たちは庭へ出た。
そこには4つの魔法陣らしきものが並んでいる。
「さて、これは何でしょう?」
唐突にレリーナが問いかける。
「ゼインくん、これなんだろう?」
「うーん……4つっていうのが気になるな。お姉ちゃんは分かる?」
「自信はないけど、魔法の種類に関係あるかも」
「「なるほど」」
相談した結果、“魔法の種類ごとの魔法陣”という結論になった。
それを聞いたレリーナは、
「大正解!」
と拍手をした。
「リゼリアちゃん、魔法の種類は何があったかしら?」
「攻撃、防御、治癒、支援の4つです」
「正解! これはね、各魔法の適性を調べる魔法陣なのよ」
「適性?」
俺は聞き返した。
「そう。魔法ごとの相性が分かると、稽古の指標にもなるから効率が良くなるの」
「なるほど」
「じゃあ早速、ミリ。その魔法陣の上に乗って頂戴。私が合図をしたら次の魔法陣へ移動してね」
「分かった!」
そう言うと、ミリは近くの魔法陣の上へ乗った。
すると――
ポゥ……
魔法陣が淡く光を帯びる。
「はい、じゃあ次ね」
レリーナの合図で、ミリは次の魔法陣へ移動する。
その調子で全ての魔法陣を回っていった。
魔法陣によって、光り方が強いものもある。
「はい、お疲れ様。ミリは支援魔法との相性が一番良いみたいね。それを軸にした稽古内容を考えていきましょう」
「うん! 分かった!」
(ミリはいつも元気だなぁ)
「ミリちゃんはいつも元気だね」
どうやらリゼも同じことを思っていたらしい。
「じゃあ次にリゼリアちゃん。ミリと同じように乗っていってね」
「はい!」
元気よく返事をすると、リゼは魔法陣の上へ乗っていく。
ミリと同様、全ての魔法陣が光る中、一番の輝きを放っていたのは――
「リゼリアちゃんは治癒魔法との相性が良いみたい。治癒魔法の使い手ってなかなかいないから重宝されるわよ」
「ほんとに!? ゼインくんにももっと好きになってもらえる?」
「ふふっ、ほらゼイン。返事は分かってるわよね?」
言い方は優しいが、何か強い圧を感じる。
リゼも期待した目で俺を見ていた。
(すごいプレッシャーだな……)
「まったく。とんでもない」
「え……」
俺の言葉に、リゼは愕然とした表情になる。
だが俺は続けた。
「魔法なんかなくたって、リゼのことは大好きだよ」
「ゼ、ゼインく〜ん! 私も大好きだよ〜!」
リゼは泣きながら抱きついてきた。
「女の子を泣かせるなんて、いけない子ね。でも良い答えだったと思うわよ」
レリーナも感心した様子だ。
「そう? ちゃんと素直に言った方が良かったんじゃないかな?」
ミリにはあまり刺さらなかったらしい。
(確かにちょっとキザだったよな……)
「じゃあ最後はゼインね。魔法陣に乗って頂戴」
「うん」
(これは異世界転生でお馴染みの“隠された才能”が分かっちゃうやつか!?)
――そう期待した時期もありました。
「ゼインは防御魔法との相性が良いみたいね」
「へぇ。そうなんだ」
(すごく期待してた訳じゃない。神様だってチート的なのはしないって言ってたし……。でもさぁ、やっぱり少しは期待しちゃうじゃん)
そんな俺の様子を見ながら、レリーナは続ける。
「でもゼインは支援魔法との相性も良いみたい。2つ相性が良いなんて、これも珍しいのよ」
「そうなんだ。相性がいまいちな魔法は使えないの?」
「全く使えない訳じゃないわ。ただ、習得に時間がかかったり、使用するMPが多くなったりするの」
「なるほど。ちなみにお母さんはどの魔法との相性が良いの?」
「私? そうねぇ。強いて言うなら支援魔法かしら」
「そうなんだ……ん? “強いて言うなら”って?」
「私、大体の魔法は使えちゃうから」
「なっ!?」
「お母さんすごーい!」
「さすが万識姫!」
感心するミリとリゼ。
(ここにチートいましたよ、神様)
そして各々の適性が分かった俺たちは、レリーナが考えた個別の特訓を行うことになった。
「あっ、そうだ!」
レリーナが思い出したように話し始める。
「MPは使い切るギリギリを残しておいてね。じゃないとMP容量が増えないから」
「使い切っちゃダメなの?」
「MPの容量が減ると、身体がMP容量を増やそうとするんだけど、その増やす過程にもMPが使われるの。だから使い切っちゃうと、うまく容量が増えないのよ」
「なるほど。ギリギリってどのくらい?」
「そうねぇ。容量が10だとしたら2くらいかしら」
「分かった。それを目安にやってみるよ」
「えぇ。でもみんな、無理はしないようにね。あとでどのくらい出来るようになったか見せてもらうから、その分のMPも考えておいてね」
「「「はーい!」」」
数時間後――
「じゃあ3人とも、どこまで出来るようになったか見せて頂戴。まずはミリから」
「はい! じゃあゼインくん、ちょっと手伝って?」
「ん? いいけど」
「じゃあそこに立っててね。いくよ――【バーティカル】」
「?」
(特に変わった感じはしないな)
「ゼインくん、どう?」
「どうって言われても……あまり変わった感じは――」
そこでレリーナが口を開く。
「ゼイン、ちょっとジャンプしてみて。思い切り跳んじゃダメよ? 軽くでいいから」
「え? う、うん」
言われるまま軽くジャンプしてみる。
すると――
「!? うわっ!」
軽く跳ねたつもりなのに、一メートル近く垂直に跳び上がった。
驚いて空中でバランスを崩してしまう。
「「ゼインくん!」」
ミリとリゼの声が響く。
「なんのっ!」
身体を捻って体勢を立て直し――
スタッ。
無事に着地した。
数秒後、
「ゼインくん凄い!」
「ゼインくん、良かった〜!」
ミリは興奮気味に感心し、リゼは安堵した表情を浮かべている。
「さすが、お父さんと稽古してるだけあるわね」
レリーナは感心した様子だった。
確かに、ヴァッシュとの稽古が役立った。
「お母さん、今のは?」
俺はレリーナへ解説を求める。
「ミリが唱えた【バーティカル】は、跳躍力を強化する魔法なの。ミリも上手に使えていたわね」
「えへへ」
ミリは照れくさそうに笑った。
「じゃあ次はリゼリアちゃんね」
「は、はい!」
リゼは少し緊張した様子で返事をすると、俺の近くまで来て手の平を向けた。
「ゼインくん、いくよ。【ヒール】」
そう唱えると、リゼの手の平が淡い碧色に光る。
すると俺は、身体がほんのり温かくなっていることに気づいた。
心地よい温かさに、自然と眠気まで覚える。
その心地よさに目を閉じていると――
「はい、そこまでよ」
レリーナの声が聞こえ、俺はハッと目を開けた。
なんだか身体も軽くなった気がする。
「ゼイン、何か変化は感じた?」
「うん。なんか気持ちよくて眠っちゃったよ。お母さんの声で起きたら、身体が軽くなってる気がする」
「それが【ヒール】の効果。もっとMPを上手く扱えるようになると、軽い傷くらいなら治せるようになるわ。リゼリアちゃんも流石ね」
「ありがとうございます!」
リゼは嬉しそうに頭を下げた。
「じゃあ最後はゼインね」
「うん。じゃあ早速――【プロテクト】」
俺は魔法を唱える。
「じゃあお姉ちゃん、リゼ。そこにある小石を僕に投げてみて」
「え!? 当たったら痛いよ?」
「そうだよ! ゼインくんがケガしちゃう!」
2人とも心配そうだ。
「大丈夫。これは防御力を上げる魔法だから。それにお父さんと稽古してるし、避けられるよ」
「「う〜……」」
2人は悩んだ末、やってくれることになった。
「じゃあいくよ、リゼリアちゃん」
「うん、ミリちゃん」
「「せーのっ、えいっ!」」
2人が同時に小石を投げる。
小石は真っ直ぐ俺へ飛んできたが、俺はしっかり腕でガードした。
だが――
(全然痛くない)
ほとんどダメージがない。
「ゼインくん大丈夫!?」
リゼが再び心配そうな顔をする。
「大丈夫だよ。全然痛くないから」
「良かったぁ……」
その言葉を聞いて、リゼは安心したように胸を撫で下ろした。
(じゃあ次だ)
「【バーティカル】」
今度は俺が、自分自身へ支援魔法をかける。
すると予想通り、ミリの時と同じ感覚が身体を駆け巡った。
(支援魔法って自己強化にも使えるのか)
「ゼインも成功ね。みんな素晴らしいわ! それにゼイン、支援魔法の使い方もちゃんと理解できたみたいね」
レリーナは感心した様子だった。
「一段落したところで、今日はここまでにしましょう」
「「「ありがとうございました!」」」
こうして魔法の稽古を終えた。
今回は魔法適性と初めての実践訓練回でした。
それぞれの得意分野が少しずつ分かって来ました。
ゼインの戦術も今後広がっていくかもしれません。




