魔法への第一歩
初めての稽古を終えた翌日。
さっそく魔法への第一歩を踏み出します。
ヴァッシュとの初稽古を終えた翌日。俺はベッドから動けずにいた。
動こうとすると、身体が筋肉痛という名の悲鳴を上げ、それがそのまま口から漏れ出る。
「痛たたたたたっ!!」
そんなわけで次の稽古まで少し時間を空け、身体を回復させつつ、レリーナから魔法を教わることにした。
「お母さん。魔法を教わるための試験って、具体的にはどんなものなの?」
そう。魔法を教わるためには、まずレリーナからの試験を突破しなければならない。
「難しいものではないわよ。魔法の基礎知識を確認するだけだから」
「その基礎知識って、どう勉強すればいいの?」
「それは、お姉ちゃんも使ったお母さんお手製のこの本でお勉強してもらうわ」
そう言うと、1冊の本を取り出した。
本のタイトルは【たったこれだけ!今日から君も魔法使い!】。
(タイトルは胡散臭いけど、子どもはこういうの好きだよな)
「ゼイン。いま胡散臭いって思ったでしょ?」
「えっ!?いや、全然!」
「そう。まぁいいわ。試験はこの本からしか出さないから、ちゃんと勉強すれば大丈夫。もちろん、分からないところはお母さんに聞いてもいいわよ」
「わかった。でも、ちょっと時間かかるかも」
何せ身体を動かせないので、レリーナの説明もベッドに寝ながら聞いている状態だった。
「そこは大丈夫。【リカバー】」
レリーナが魔法を唱えると、身体の痛みが軽くなった。
「あっ!動ける!まだちょっと痛いけど」
「まだ無理に動いてはダメよ。あくまで動きをサポートしているだけで、回復しているわけではないわ」
「なるほど。でも起き上がれるなら勉強もできるよ。ありがとう、お母さん」
「ふふっ。じゃあ頑張ってね」
そう言ってレリーナは場を離れた。
「よし、やるか」
気合を入れて、本を開く。
魔法の種類や使用に必要な要素、注意事項などが書かれている。
(意外といけるかも?)
しばらくすると、
「ゼインくん!お昼ご飯だよ!」
ミリの声が聞こえた。
いつの間にかお昼になっていたようだ。
「もう少ししたら食べるから、そこに置いておいて」
持ってきてくれた昼食を近くのテーブルに置くよう促す。
「ゼインくん、お勉強も大事だけど、ちゃんと休むのも大事だよ」
ミリも俺の身体を心配してくれているようだ。
「……そうだね。分かったよ」
「うん!じゃあ、食べ終わった頃にまた来るね!しっかり食べてね!」
そう言い残し、ミリは部屋を出ていった。
俺はベッドの端に腰掛け、テーブルへ向かう。
そしてスープを一口。
「美味しい」
スープに溶け出した野菜の優しい甘さが口に広がる。
パンを浸して食べるのがお気に入りだ。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
そう言い終えたところでミリがやってきた。
「ちゃんと食べてえらいね、ゼインくん」
そう言いながら俺の頭を撫でる。
ミリは美人で優しい。
まさに理想のお姉ちゃんと言えるだろう。
「じゃあゼインくん。勉強頑張ってね。でも無理しちゃダメだよ」
「分かったよ。ありがとう、お姉ちゃん」
「……ゼインくん。もう一回言って」
「へ?……ありがとう」
「そのあと」
「お、お姉ちゃん?」
ミリは俯いて身体をワナワナと震わせている。
そして――
「やっぱりゼインくんからの『お姉ちゃん』最高!もう天使!」
そう言いながら、勢いよく抱きついてきた。
「は、ははっ。そ、それなら良かった」
(いい姉だけど、愛がすごい)
それから5分ほど経った。
「ふぅ。ゼインくん成分ももらったことだし、私もお母さんに魔法を教えてもらいに行くね」
そう言うと、少し名残惜しそうにしながらも部屋を後にした。
「……よし、僕も頑張ろう」
そして勉強を再開した。
やがて夕方になり、レリーナがやってきた。
「どう?勉強は進んでる?」
「うん!ところでお母さん」
「なぁに?分からないところがあった?」
「ううん。この本、すごく分かりやすかったよ。だから試験を受けたいなって」
「えっ!?もう受けるの?もう少し勉強してからでもいいのよ?」
「多分、大丈夫。受けてみたい」
「……そう。分かったわ。準備してくるから待っててね」
そう言い残し部屋を出たレリーナは、10枚ほどの紙を手にして戻ってきた。
「試験は私が出す問題に答える形にするわね。問題は全部で30問。9割以上正解で合格よ」
「うん。分かった」
そして試験が始まった。
「第1問。魔法には大まかに分けて何種類あるでしょう?また、その分類は?」
「4種類で、攻撃魔法・防御魔法・回復魔法・支援魔法」
「第2問。魔法を使用するために必要なものは?そしてそれを補う手段は?」
「魔法を使用するにはMPが必要。MPを補うにはMP回復薬や、MPが切れる前に回復魔法を事前に発動しておくこと、またはMPを分けてもらうこと」
その後も順調に進み、最終問題へ。
「最後の問題。魔法を重ねてかけることを何という?また最高でいくつまで重ね掛けできる?重ね掛け時の注意点は?」
「2つの場合はダブル、3つはトリプル。そして最高は4のクワトロ。注意点は各魔法が干渉し、効果を打ち消し合うことがあること」
「……」
「ど、どうかな?」
(かなり自信はあるんだが)
「ゼイン」
「な、なに?」
「すごい!全問正解よ!」
レリーナは持っていた問題用紙を投げ出し、抱きついてきた。
お姉ちゃんとは違った、包み込むような抱擁。
「じゃあ、魔法の修行も――」
「えぇ。さっそく明日から始めましょう!」
(よしっ!)
心の中でガッツポーズを決める。
その日の夕食は、身体もだいぶ楽になってきたので、皆で食卓を囲んだ。
レリーナはヴァッシュに嬉しそうに報告する。
「あなた!ゼインったら凄いのよ!今日の朝から勉強を始めたのに、夕方には試験を受けて、しかも全問正解なの!」
「へぇ!それは凄い!」
「そうなの!?私は勉強だけでも3日かかったのに!」
ヴァッシュと一緒に聞いていたミリも驚いた様子だった。
「明日からゼインも魔法の修行に入るわ。ミリと一緒に見てあげるからね」
「じゃあ剣の方も計画を立て直そう」
「やったぁ!ゼインくんと一緒だ!」
それぞれの反応を見せながら、賑やかな夕食を終えた。
次の日。
「じゃあ2人とも始めるわね」
「「はい!」」
魔法の修行が始まった。
「魔法で一番大切なのはイメージ。まずは自分の身体を魔法が巡っているイメージをしてみて。ミリも復習が大切だから一緒にね」
(イメージか。身体を巡る……巡ると言ったら血液?)
そうイメージすると、身体がほんのり温かくなるのを感じた。
「2人とも上手よ。じゃあ次はその流れを調整してみて。流れる量や場所をね」
(量は蛇口、場所はバルブかな)
イメージを続けると、先程まで全身が温かかった感覚が、部位ごとに温かい部分とそうでない部分に分けられるようになってきた。
「ミリもそうだったけど、ゼインも飲み込みが早いわねぇ。じゃあ少し早いけど、実際に魔法を使ってみましょう。ミリ、お手本を見せてあげて」
「うん!ゼインくん見てて!」
そう言うと、手の平を向かい合わせ――
「ファイア」
と唱える。
その瞬間、ミリの手の平の中心に野球ボールほどの火の玉が出現した。
「すごい!」
「じゃあミリ。MPを調整してみて」
「うん」
すると火の玉の大きさが変わり、やがて消えた。
「ふぅ。ゼインくんどうだった?」
「お姉ちゃんすごいよ!」
「えへへ、そうかなぁ」
ミリは嬉しそうにしている。
「うん。ミリ、とても上手だったわ。じゃあ次はゼインもやってみて。初めては火だと危ないから、水からね。イメージしながら【ウォーター】って唱えてみて」
「分かった」
(ホースから水が出るイメージで……)
「ウォーター!」
そう唱えて手を前に向けると――
手の前に水の球体が現れた。
(やった!成功だ!)
そう思ったその時――
ドバァァァァ!!
「うわっ!」
大量の水が溢れ出した。
「ゼイン!MPを調整するのよ!」
(そうだ!蛇口、蛇口!)
すると水の勢いは徐々に弱まり、やがて止まった。
「ゼイン(くん)、大丈夫?」
2人が心配そうに声をかける。
「う、うん。大丈夫。ちょっとビックリしただけ」
「そう。良かったわ。MPを結構消費したはずだけど……ゼインはもともとMPが多い体質なのかもしれないわね」
「体質?」
「そう。魔法の修行によってMPの容量は増えるけど、体質的にもともとの量が多い人もいるの」
「そうなんだ。勉強になったよ」
「じゃあ今日はこのくらいにしておきましょうか。明日は剣の日だから早く休んでね」
「うん」
こうして剣と魔法の修行が本格的に始まっていった。
修行を始めて数カ月。
今日は休息日で、久しぶりにリゼリアと過ごすことになった。
リゼリアはうちに来るなり、
「ゼインくん!」
と詰め寄ってくる。
「ど、どうしたの?リゼリア?」
(何か悪いことでもしたか?でも最近は修行で会ってなかったはずだし)
心当たりはない。
その答えはリゼリアが教えてくれた。
「ゼインくん!修行ばかりで全然会ってくれない!」
「へ?」
修行が始まるまでは、ほぼ毎日のように一緒に過ごしていた。
「遊ぶならサシャ達もいるし」
「そうじゃないの!」
「でも修行を見てただろ?」
「気づいてたの!?」
「まぁ。でもあんなにコソコソしなくても」
修行を始めて数日すると、リゼリアは物陰からその様子を見ているようだった。
「だって……ゼインくんと一緒にいたいけど、邪魔しちゃ悪いと思って」
少ししょんぼりした様子だ。
「邪魔にはならないから、危なくないところから見る分には大丈夫だよ」
「危なくないところ……ゼインくんと一緒……」
リゼリアはぶつぶつと何かを考え始める。
そして――
「そうだ!!」
思いついたように声を上げた。
「どうしたの?」
「いいこと思いついたの!レリーナさんはいる?」
「うん。庭にいるはずだけど」
「ちょっと行ってくる!」
そう言って部屋を飛び出し、階段を駆け下りていく。
しばらくすると、再びドアの開閉音とともに、2人分の足音が階段を上ってきた。
部屋に入ってきたのはリゼリアとレリーナ。
2人ともニコニコしている。
「どうしたの2人とも。そんなにニコニコして」
「ふふーん。実は私もレリーナさんに魔法を教えてもらえることになったの!」
「えぇっ!?」
リゼリアの言葉に思わず声が出る。
「ふふっ。もちろん試験に合格したらね。さっき本も渡したから」
ほのぼのと話すレリーナ。
「でも、急にどうして?」
「だって、ゼインくんと一緒にいる時間を増やすなら、同じことをした方がいいもん。剣は無理だけど、魔法なら一緒にできる!」
そう胸を張る。
「じゃあリゼリアちゃん。試験、頑張ってね」
「はい!」
そう元気よく返事をすると、颯爽と帰っていった。
「ふふっ。楽しみね、ゼイン」
「ははっ、そうだね」
その数日後。
魔法の修行の場にリゼリアが加わった。
「ゼインくん!これで一緒だね」
「そうだね」
「リゼリアちゃん。一緒に頑張ろうね」
「うん!ミリお姉ちゃん、よろしくね!」
和気あいあいとした雰囲気の中、修行が始まった。
リゼリアは俺やミリよりも魔法の扱いが上手いようで、レリーナは感心していた。
「すごいわ!リゼリアちゃん!このまま頑張れば、私なんかよりずっと魔法が上手くなるわよ!」
「ほんと!?バンシキ姫にそう言ってもらえるなんて!」
リゼリアは嬉しそうだ。
(ところでだ)
「あのー、その『バンシキ姫』ってなに?」
「えっ!?ゼインくん知らないの?」
「え?う、うん」
「お母さんに聞いたんだけど、冒険者をしていた頃のレリーナさんの二つ名で、使えない魔法はないって言われるくらいの使い手で、なおかつその知識から“万識姫”って呼ばれてたんだって!」
「そうなの!?お姉ちゃんは知ってた?」
「私も初めて聞いた」
「あらあら。さすがにそれは言い過ぎよ」
驚く俺たち姉弟と、気恥ずかしそうなレリーナ。
(俺たちの両親って一体……)
その答えは、思いがけない形で知ることとなる。
魔法と剣の修行が本格的に始まりました。
これからのゼインの成長を、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。




