File7 玩具に潜む物4
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
神王探偵事務所に新たな依頼を頼んだのは高井江梨子、職業はモデル。依頼内容は亡くなった夫の冬彦が当時所持していた大きめの赤いブリキのロボットを探し出す事。
手がかりが無くて苦戦していた時、江梨子の息子である真央のリュックから似たような青いブリキのロボットを見せられ、その背中に暗号のような物が書かれたメモが見つかる。
江梨子から高井家に冬彦の部屋に金庫があり、メモがそれと関係しており赤いブリキのロボットの手がかりと繋がるかもしれない。僅かな可能性へ向かって正はメモと向き合う。
「4桁の番号、か」
「心当たりある番号はとりあえず試してみたのですがどれも駄目でした」
正が此処に来る前、江梨子は金庫の番号を思い当たる限り試していた。だがどれも空振りに終わっており金庫は未だ開かずの状態が続いている、真央の方も4桁の番号に関しては特に思いついていないらしい。
A+2 Jー1 D+1 Fー1
メモの内容はこうだ。4桁の番号、丁度このメモはアルファベットと数字が共に4つある。偶然にしては重なり過ぎている、これが金庫を開ける為の番号に繋がっているかもしれない。
「これは、ひょっとして……」
正はもしかしたらと思って金庫の番号を入力していく。その番号は……
3955
ガシャッ
「…開いた」
「!?」
正が入力した番号、それですぐに開いた事にこの場に居る一同全員が驚く。
「3955で何で………あ!」
その番号で何故開いたのか考えると明はその答えに気付いた。
「え?分かったの明?教えてよー」
涼の方はまだ分かってなさそうな様子のようで明へと答えが欲しいと明の服を引っ張り揺らす。
「別に難しく考える事は無い、アルファベットを数字に変換してそれで足し算と引き算をしただけだ」
「足し算と引き算…あ、Aは最初だから1…?」
「そう、だから1+2となる」
「そっか!アルファベットの歌とかでもAって最初に歌ったりするし」
「となればJが10だからそれを1、引いて9…。Dが4でそれを+1で5、最後にFが6だからそれをー1でこれも5…だから3955か」
先に正がメモの暗号が分かり、明も遅れて分かった。メモは数字をアルファベットに一部変換して数字の足し算引き算よりも分り難くしたようで、これが冬彦の残した物ならわざわざ何故息子の玩具のロボットにそんなメモを隠したのか。その疑問は晴れないがとりあえず金庫はこれで開けられる。
一体この部屋の金庫に何をしまってあったのか、正はゆっくりと金庫を開ける。
「…何だ、これ?」
金庫の中にあったのはブリキのロボット、しかし色からして違う。赤いブリキのロボット、真央の持つ青いブリキのロボットとは違う緑色のブリキロボット。3体目の物だ。
「これは、知らない…家でもこういう色のロボットは見た事ない」
江梨子は元々この緑のブリキのロボットが家にあったかどうか、玩具にあまり関心が無い彼女には分からなかったが真央はこの緑の個体は見た事が無いという。
となると普通に考えればこれは冬彦が二人には秘密で緑のロボットを金庫に入れていたという事になる、他のコレクションと並べずわざわざ金庫にこれを入れるという事はこのロボットに何かあるのかもしれない。何も無ければ金庫に隠す必要など無いはずだ。
「また背中辺りに何かメモでもあるんじゃないか?」
真央の青いロボットの時も背中の部分が開きメモが隠されていた、明の言うとおりその可能性はある。正は緑のロボットの背中を調べ始める、するとそのロボットの背中は開くようになっている。
「背中が開く…開けるぞ」
此処まで来たら何かあるだろう、これだけやって空っぽの外れはゴメンだ。祈る思いで正は緑のロボットの背中を開ける。
その中身には、真央の時と同じように白い紙。何か書かれているのか、正がそのメモを手に取り内容を見る。
書かれているのは住所のようで、そこが一体何なのか。あの赤いブリキロボットと関係あるのか、そう考えつつ他に何か無いかと正はロボットの背中の中身をよく見てみると鍵が貼り付けてあったのが見えて鍵を取り出す。10という数字のタグ付きだ。
「鍵…何処の鍵だ?」
紙には住所なのか場所が書かれている、となると冬彦はこれを持ってこの場所へ行けと言っているのだろうか。
その横で明がスマホでその場所が何処なのか検索していた。
「場所は此処からそう遠い場所じゃない、歩いて行けるみたいだぞ」
「じゃあすぐ行こう!何があるのか気になるし!」
涼はそこにどんなものがあるのか気になってしょうがないようで早く向かおうと正と明を急かしている。当然紙にある場所には行く、金庫に隠していてこの上何があるのか正も気になっている。
「私も行きます!」
「僕も…!」
冬彦が遺したのなら彼は何を思って遺したのか、妻の江梨子。息子の真央も気になり二人も同行を申し出ると正は頷いて了承。5人で揃って高井家を後にし、書かれている場所へと向かって移動を始めた。
移動する足は自然と急ぎ、皆がその場所へと向かって走る。これが秋葉原の大通りのような人通りの多い場所での移動だったら5人揃って走るという光景は目立つだろうが人の通りはあまり無い。
走っての移動なので紙にある場所へ到着はすぐだった。
「此処か?」
正が紙を確認し、前方を見るとそこにあるのはコインロッカー。駅などによくあるタイプの物で珍しくはない。
紙に書いてある住所は此処で間違い無い。家らしき物は無く、このコインロッカーがあるぐらいだ。
これには10の数字のタグが付いている。つまりこれは10番のコインロッカー用の鍵という事ではないのかと正が考えると10番のコインロッカーを探す、それは然程苦労する事なく発見する事が出来た。
一同が見守る中で正は10番のコインロッカーに鍵を差し込む、それは抵抗なく自然と収まり鍵を回せた。
秋葉原警察署
日々色々な犯罪が発生しており、休む間もなく警察官達が日々犯罪に立ち向かい人々を守り続ける。その警察官を率いる警部の白石大樹は書類に目を通していた。
そこに女性警察官がやって来る。
「白石警部、神王君がお見えです」
「ん?おお、そうか。今度はどういうのを持ってきたのか」
「本当によく警部に会いに来る子ですよね、確か探偵でしたっけ?」
「そうだ、見た目は小さい少年だが彼は頼れる名探偵だ。それと子と言っているようだが酒の飲める年だぞ神王正という男は」
女性警察官との会話もそこそこに白石はスーツの上着を持って席を立ち、呼ばれたらしい場所へと向かって行った。
「あの小さくて可愛い子が…人は見かけによらないってあるもんだなぁ…」
その場に残された女性警察官はそういう事を小さく呟いていた事を白石も正本人も知らない。
応接室へと通されていた正、更にその隣に江梨子が揃ってソファーに腰掛けた状態で待っている。明、涼、真央の子供達3人は事務所の方に待たせ、二人だけで警察へとやってきたのだ。
警察の応接室など来た事は江梨子にはおそらく無いのか、弱冠の緊張が見えて正の方は何度か訪れているので慣れていた。
二人が待っていると白石が応接室へと入って来る。
「待たせたな神王君、こちらの方は…?」
「今の依頼人の方だ」
「初めまして、高井江梨子です」
「これは初めまして、警部の白石大樹です」
白石と江梨子はこれが初対面であり挨拶を済ませると白石もソファーへと座り正、江梨子と向き合う形になる。
「それで神王君はその依頼人の方を連れて何故この警察署に?遊びに来たという訳ではあるまい」
正と白石、付き合いはそこそこ長くなってきている。何度か警察署を訪れてる正を白石は知っておりただ彼っが遊びに来た訳ではない何か重要な事を持ってきたのだろうと察して正をこの応接室へと通したのだ。
「白石さんに見てもらいたいものがあるんだ」
「俺に?何だ?」
そう言うと正はリュックを取り出し、そこからリュックを開けてその中身を取り出す。そこから出て来た物は……。
「これは、赤いブリキのロボットか?中々大きめだな…」
白石が目にしたのは赤いブリキのロボット。それはまさしく正が、そして江梨子が探し求めていた物だった。本来ならこの探し物を見つけてほしいという江梨子の依頼は達成されて正の調査はそこで終わるはずが、これで済む訳にはいかなくなった。
「白石さん、そのロボット…背中の部分が開くんだ」
「開く?…高井さん、よろしいでしょうか?」
「ええ」
江梨子から許可を貰うと白石は正に背中が開くと教えてもらって、その背中へと手をかけると背中の部分が小さいドアのように開き何か光り輝く物が入っている。
「これは……宝石…!?」
そこに入っていたのは数々の宝石、一個一個が光っており高価そうな代物だ。このような玩具のロボットに多くの宝石が入っていた事に白石の表情が驚きへと染まる。
「コインロッカーの中に入っていたんだ、元々これを入れていたのは高井冬彦。江梨子さんの夫だ」
「……今はもういませんが」
「それは…心中お察しします。という事は宝石も彼がこのロボットの中に入れてロッカーに入れたと…しかしそれで此処に?彼の物ではないのですか宝石は」
正が説明をしてそれを聞いた白石は宝石が彼の物なのではと江梨子へと視線を向けるが彼女は首を横に振る。
「元々持ってはいないはずですし彼が宝石を買うなんて見た事ありませんし、彼は当時仕事を辞めていて新たな仕事を探してた所でした。そんな無職だった冬彦に高価な宝石を買う余裕があるとは思えません」
「ふむ…」
「それで白石さん、警察の方で宝石が紛失したとか奪われたとかそういうのがあったかどうかの確認をお願いしたい」
正が白石へと宝石についての調べを頼むと白石は警察官として顔を引き締めた。
「…神王君、それはつまり彼が犯罪に関わってる可能性があるかもしれない。銀行強盗か泥棒、その罪が彼にある……」
「………」
「警部さん、是非調べてください」
正が白石へと真っ直ぐ視線を見返した後に答えようとした時にそれより早く江梨子の言葉の方が速かった。
「彼が何をしたのか、私は妻としてその真実と…向き合います」
既に彼女は覚悟を決めていたようだ、冬彦が何をしたのか知る為に。たとえ彼が犯罪の道を進んでいようがそれに逃げずに向き合う、真実から目を背けず掘り起こそうとしている。
「分かりました、調べてみましょう」
そう言うと白石は席を立ち宝石に関しての情報を集めに部屋を後にする。残ったのは正と江梨子だけだ。
冬彦がもしかしたら宝石に関する犯罪、それを行っているのかもしれない。そうなったらその真実は江梨子、そして真央にも辛い事だろう。
正は最早傍で見守るぐらいしか出来る事は無かった。
しばらくすると白石が資料であろう書類を手に応接室へと戻って来た、何やら若干困ったような顔を浮かべているようだった。
「ううむ…何件か宝石強盗に宝石泥棒はあったんだがこのロボットにある宝石と種類や数がどれも合わなかったのだ」
「どれも?そうなのか?」
「念のため宝石店や持ち主へと確認もしたのだが違うと言われた、どれも空振りに終わりだ…」
白石は過去の宝石に関する事件を片っ端から調べ、未だ戻らぬ宝石などの被害を確認していたがロボットにある宝石とはどれも違うという結果だった。どの宝石関連の事件にも無い宝石、しかし何も無い所から宝石が湧いて出て来るなど有り得ないはずだ。
これがどういう事なのか正は考える、宝石は高価な物。それを失ったまま気づかないという事は考えにくい、誰もが気付き戻って来る事を望むものだろう。
例外としては何か口では言えない目的を持った宝石か。
「白石さん、その宝石は…報告したら不味い類とかじゃないか?警察に詳しく調べられたら困るとか」
「!それは…つまり良からぬ目的で、例えば残してはおけない金を宝石へと変えて……うむ。もしかしたら」
「?どうした?」
正の言葉を受けると白石はそういう事かと何やら見つけた様子であり正は書類をパラパラとめくる白石へと尋ねる。
「実は今な、ある政治家について調べているのだがこいつがまあ色々黒い噂があり、そして最近彼に脱税の疑いがあってな。大金を多くの宝石に変えて逃れているらしく、その宝石を探している所だったんだ」
そういえば白石はつい最近正と出会っており正が赤いブリキのロボット探しに苦戦しており、その時に白石もまた政治家の不正を暴く証拠探しで苦戦していた。
「それじゃもしかしてこの宝石は……」
「うむ、あの政治家の物の可能性があるかもしれない。彼の家にガサも入ったが脱税の証拠は見つかっていない、だから何処かに大金を宝石へ変えてバレないように隠したと見ていたのだが…」
最初の江梨子の夫、冬彦の遺したブリキのロボット探しからまさかそこから政治家の不正に絡むような事にまで発展するとは正は想像もしていなかった。それは白石も同じだ、このような玩具からそんな宝石が出て来るなど誰も思ってなかった事のはずだ。
「冬彦が何処でこの宝石を見つけてどういう意図があって隠したのかは不明のままだが、とにかくこのロボットは一度こちらで預かろう、よろしいですかな?」
「ええ、お願いします」
江梨子へロボットを預かる許可を白石は貰うと部下の警察官を呼んで詳しくロボットを調べるように指示を出す。
「冬彦が政治家の宝石を……まさか奪い取って隠したとか?」
「今は…なんとも言えないですね」
現時点では冬彦が政治家を襲撃して奪ったのかどうかは分からない、そしてそれがあっても政治家の方は被害届けの提出などはおそらくしづらいだろう。その宝石が不正の金の物ならば報告したくても出来ないはずだ。それで色々明るみとなってその政治家としての生命が終わるというリスクがあるのならばバレずに隠しておきたいという心情なのだから。
正と江梨子は警察署を出て神王探偵事務所の方へと戻って来た。事務所では明、涼、真央がボードゲームをして遊んでいる。
その光景に正、更に江梨子は真央の前で冬彦が犯罪に関わってるかもしれない。そういう事は言えずにいた、まだ全部が明らかになってないので下手な事を言って混乱はさせないに越した事は無いだろう。
「神王さん、全部が明らかになったら私から真央に話します。どうか真央には…」
「…分かりました」
正に江梨子は頭を下げて今警察署で知った事実については真央には伏せるようにお願いする、自分が言うよりも母親の江梨子が息子の真央へと真実を話す。真剣な江梨子の願いを無下には出来ず正はそれを受け入れた。
探していた父親の遺した玩具が大変な嵐を呼ぶのか、それとも……。
今はただ静観して待つばかりだ。
翌朝を迎え、明が朝食を作る音が聞こえており今回は涼に叩き起こされる前に正は自力で起床した。
事務所には何時もと同じ日常の時間が流れる、そこに一本の電話が鳴り響くまでは。
事務所の電話が鳴って正はそれにすぐ出た。
「はい、神王探偵事務所…」
「神王君か?眠そうな声をしているな、とっくに朝は来ているんだ。もっとシャキッとしたまえ!」
朝から暑苦しいくらいに元気な声が正の耳に響き渡る、この体育会系な感じは白石で間違い無い。
「…朝から俺の朝の弱さについての注意をしに電話をわざわざしたのか?」
「まさか、それでわざわざ君に電話する程暇を持て余してはおらんよ。…知らせておく事があってこうして連絡しているんだ」
後半から白石の声に真剣さが感じられた、何か大事な話があると正は白石の次の言葉を待つ。
「……大鯉春之助、彼が死んだ。昨日警察署で話していた黒い噂の多い政治家だ」
「…!?」
正達が発見した高価な宝石入りのブリキのロボット。その宝石の持ち主かもしれない政治家の大鯉、白石達警察が宝石の発見を切欠に彼に迫ろうとしていた時に死亡した。この知らせに眠気が残る正の頭は一瞬にして覚醒。
あの玩具が輝く宝石を持ってきたのかと思えば今度は人の死にまで関わって来る、ただの玩具のはずがそれは開けてはならぬパンドラの箱を思わせるような奇妙さが出て来た…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、急に寒さから暑さに変わって体調崩しそう…自分の体調はきっちり守って健康のまま執筆活動を続けていきます。
まだまだ探偵神王正の物語は止まりません!




