File7 玩具に潜む物3
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
神王探偵事務所に新たな依頼を頼んだのは高井江梨子、職業はモデル。依頼内容は亡くなった夫の冬彦が当時所持していた大きめの赤いブリキのロボットを探し出す事。
手がかりを求め秋葉原の玩具屋を正は一通り巡ったが空振りが続き、何も得られぬまま一日目の調査は終了しようとしていた時に事務所で一時的に預かっている江梨子の息子である真央のリュックにロボットらしきものがあると知り、その招待が今明らかになる…。
真央はリュックを開けてその中身を取り出す、そこから取り出されたのは大きめのブリキロボットだ。
「ロボット…いや、けどこれは色が…」
サイズとしては写真で見せてもらった赤いブリキのロボットに近い。だがこれは明らかに赤ではない、このロボットの色は全体的に青くて赤い部分など無いからだ。
つまりこれは探している物とは違う。
「これ、お父さんの手作りで僕の誕生日プレゼントで貰ったの」
大切に持っており外に出る時もリュックに入れて持ち歩く。余程真央のお気に入りなのだというのが分かる、よく見れば赤いブリキのロボットではないが色以外はよく似ている。まるでそれは兄弟か家族を思わせるかのようだ。
「(何も関係無かったのかこれは…?)」
現物そのものとまでは行かなくても大きな手がかりになる事を正は期待していたが見た所ただのブリキのロボット、特に変わった所は見られない。
「こういうロボット間近で見るの初めてー、触ってもいい?」
「うん」
青いブリキのロボットに興味津々の涼に真央は信用してるせいか涼へと大切なロボットを手渡す。
「扱い気をつけろよ、壊れたら直るかどうか分からないし」
「分かってるよー。…ん?」
明に注意されつつ珍しそうに色々な角度から涼はロボットを見てみるとその背中を見ていて何かに気づく。
「このロボットの背中、開きそうじゃないかな?」
「あ、背中は特に壊れやすいから気をつけろってお父さんから言われて…!」
パカっ
真央が慌ててその事を言う前にロボットの背中が開く。すると床の方に何かが落ちていった、それを正は拾い上げる。
メモ書きに使われるような白い紙だ、ひょっとしたら何か書かれてるのではと紙を正が見てみると…。
A+2 Jー1 D+1 Fー1
書かれてあったのはそのような内容の物だった、アルファベットと数字が+とーを挟んだ形で並んでいる。
「あれ?何これ…?」
その紙を見るのは真央も初めてらしく内容については分かっていない様子だった、反応の見る限り真央本人が書いてこれを入れたという線は無いだろう。
「何かの暗号かパスワードか?…全然分からないぞ」
パッと見ただけでは何の事なのか明は分からず、それは正も同じ。探偵といえどすぐ見ただけでこういう事か、などとそんな天才的な閃きが起こる事は無い。
何処の暗号かパスワードなのかという問題だけでなく誰が真央のロボットの背中にこのような紙を置いたのか。
このロボットを作ったのは父親である冬彦だという話、ならば彼が生前にメモを書き残してロボットの背中に入れた可能性はある。だが何か書き残すのであれば真央に伝わるよう分かりやすく伝えれば良いはず、それがこんな訳のわからない数字とアルファベットを書いた紙を残すというのはどういう事なのか。
「(真央以外の誰かがこのメモを見る可能性も当然ある……それを防ぐための暗号?)」
正は深く考えこんでいた、ただでさえロボットの背中という隠し場所にメモはあったのに暗号などにして更に分り難くする必要がある。それはメモを書いたのが冬彦ならばの話だ、しかし現時点では真央の持つロボットにメモを書いて隠すような人物は他に見当たらない。家族構成について詳しい事は真央に聞けば分かるだろう。
「真央君、キミの家で暮らすのは今はお母さんとキミ…で間違いないかな?おじいさんとかおばあさん、他の兄妹とか」
「僕は一人っ子であの家で暮らしてるのはお母さんと僕の二人だよ」
正から聞かれ、真央は家で暮らしているのは自分と母親。そして兄妹はいないと伝える。これで範囲は絞られる。
母親の江梨子がメモを入れられる可能性はあるがわざわざ真央のロボットの背中に何故そんな物を書き残す必要があるのか、だからと言って冬彦もそれと同じ事が言える。書き残したい事があるなら江梨子の目にも届く分かり易い場所に置いて分かり易い事を書き残しそうに思えるが。
とりあえず現時点では誰が書き残し、一体何のメモなのか見当もつかない。これがあの探しているブリキの赤いロボットに関係しているのかも分からない状態だ、そんな中でこのメモの解読に時間を割いていくのは効率が悪い。
「このメモは預かってもいいかな?」
「うん、何のメモなのか分からないから…」
持ち主である真央に許可を貰いメモは正の手元に置いておく事になった。後で江梨子にもこのメモを見せてみるか、筆跡など妻である彼女が見れば冬彦の物だと分かるかもしれない。もしくは江梨子自身が書いた可能性もあるが。とにかく聞いてみなければ何も分からない、今は微かな手がかりでもいいから欲しい。
時刻は夜9時を迎え、夜も更けてくる。これから更に遅くなるのか、下手したら今日は迎えに来るのは無理になるのか。そんな事を考えていると事務所のチャイムが鳴った。
「遅くなりました、すみません」
真央を迎えに来た江梨子は頭下げて謝罪、真央は母親の傍まで駆け寄る。
「今日は秋葉原の玩具屋を巡ってみたんですがたいした結果は得られませんでした、ただ…」
「?ただ…なんでしょう?」
先程真央の持つ青いロボットの背中から出て来たメモを正は江梨子にも見せた。
「このメモ、真央君の持つ青いロボットの玩具の背中から出てきました」
「真央の?」
「青いロボットに関してはご存知でしたか?」
「ええ、それは真央の誕生日の時に冬彦がプレゼントした物ですから。でもメモなんて…」
「それでメモの方をよく見てほしいのですが…」
正に言われて江梨子はメモの内容をよく見てみる、例のアルファベットと数字の暗号めいた物。それに何かピンと来るものがあればいいのだが。
「…何の事なのか全然分かりませんね、暗号かパスワードか何かですか?」
「現時点じゃ分かりません、ただそれを書いたのは冬彦さんなのか貴女に見てほしかったんです。あの人の筆跡なのかどうか」
「………」
流石にメモの内容までは江梨子も分からず、結局メモが何のメモなのかは不明のままだ。後はこれを書いたのが誰なのか、それが分かれば良いのだが。
「彼の…筆跡だと思います」
「本当ですか?」
「ええ、数字の書き方とか冬彦の字に見えます」
江梨子の目にはこれは冬彦の字、つまりこのメモを書いたのは冬彦。彼がメモを書き残した事になる。そうなると彼は一体メモを通して何を伝えたかったのか、遺言か何かならば妻の目にも届きやすい場所に遺しそうに思えるがあまり人目にふれさせたくない類の内容、それで暗号にする必要があって分かりにくい状態にしたのかもしれない。
「じゃあ、赤いブリキのロボットへの手がかり…何かありそうじゃないか?このメモに」
「何かと言われてもな、金庫の番号とかパソコンのパスワードとかそういうのが関係しているとか…」
「パソコンのパスワードとかは私も分かりますから、金庫……あ」
明と正がメモについて会話をしている時に江梨子が何かに気づくような声を上げた。
「家に金庫があります、冬彦の物で番号とかそういうのが一切分からないままずっと開けられてない物が…」
「金庫?っていう事はこのメモはもしかして!?」
「……開ける為の物、だったら良いけどな」
涼はひょっとして、という感じでメモを見つめて正はそうだったら良いと断定はせずそうあってほしいと希望する。これでこの暗号について考えなければならなくなった、赤いブリキのロボットにこれが繋がっているのであれば避けては通れぬ道だ。
「ひとまず今日はもう遅いから休みましょう。仕事で江梨子さんもお疲れでしょうから」
「あ、気を使わせてしまってごめんなさい。それではまた明日に、今日は真央をありがとうございました」
江梨子は正達へと頭を下げると真央を連れて事務所を出て家へと帰っていった。時刻はもうすぐ午後10時を迎えそうになっている。
流石に今手がかりがそこにあるかもしれないとはいえ今から高井家に行くのは時間帯としてはあまりに遅すぎるし迷惑がかかるだろう、まだ調査は一日目でそこまで焦る必要は無い。
「明日メモの解読行くならあたしも行きたい、ブリキのロボット探すの手伝うよー」
「涼が行くなら僕も。一人にしておけないからな」
明日は高井家に行く予定の正に涼と明の二人も同行すると言い出す、別に今回の依頼でそんな危険な事は特には無い。それに玩具に関する事なら子供の方が何かと鋭くて正には気づかない事に気づくかもしれない。
「分かった、明日は3人で高井家に行くか」
正は二人がついて来る事を許可し、それぞれ就寝の準備へと入り事務所の灯は消えて3人とも夢の世界へと旅立つ。
明日で赤いブリキのロボットに辿り着く、または近づけるかどうか。それは金庫の中身次第だ。
「正さん、朝ー!」
「ぐ……」
雀の鳴く朝、窓から差し込んでくる朝の日差し。明が起きて朝食の支度をしており涼はまだ夢の世界真っ只中の正のベッドへとダイブ。涼に勢いよくのしかかられて正は強制的に現実世界へと戻される、寝ぼけ眼で正は起きる。
「今日は真央君の家行くんだからちゃんとしようよー」
「……ん、ああ」
涼にそう言われると正の意識は徐々に覚醒、今日は高井家へと行って例のメモが金庫と関係して開けられるかどうか確かめるんだった。
完全に目を覚まそうと正は洗面所へと行って冷たい水を顔に浴びる。
リビングへと行き、目覚めのココアを1杯飲む。これが正の習慣。飲まなければ始まらない、愛用のカップにココアを注いで飲めば馴染みの甘さが伝わる。この1杯が正は好きだ。
今日も美味い、これで探偵として良い仕事が出来そう。不思議とそう思わせてくれる、そんな安心感があった。
時刻は朝の8時、テレビでは女性アナウンサーがニュースを読み上げている。交通事故、火事。殺人事件、一つの依頼の間に世の中では様々な事が起こっており朝から事故や事件の深刻なニュースを聞いて気が滅入るばかりだ。
朝食を済ませたら出かける支度をして今回は正だけでなく明、涼も高井家へ同行する。改めて今日の予定を確認すると正はスマホで電話する。4回程のコールの後にその相手は電話へと出た。
「はい」
「ああ、江梨子さん。神王です」
電話の相手は江梨子、今日高井家に午前行く事を前持って家主に伝えておけば急な訪問にならず迷惑にならないだろう。
「今日の午前10時程にそちらへ伺うと思いますがよろしいでしょうか?」
「分かりました、お待ちしています」
正と江梨子で今日の午前10時に高井家で会う事を確認すれば電話を終えると、そこに良いタイミングで明は朝食を作り終えていてテーブルにトーストやベーコンエッグが並ばれ3人分のココアが用意される。
「朝のココア美味しいねー♪」
「牛乳では駄目なのか」
「俺は朝はこれじゃないと頭が働かないんだよ」
朝のパンに牛乳は合わせずココアなのは正の拘り、明は牛乳飲まないからお前身長その年で低いんだろうと思ったがこれから仕事が控えておりココアで集中力を高めてそうなので水差すような発言は控えておいてトーストにかぶりつく。ピーナッツバターを付けてのトーストが明は好きだ。涼はジャム、正はブルーベリーと好みはそれぞれ異なる。
朝食でお腹は満たされ、その後は片付けて各々出かける準備をする。
「準備は良いか?そろそろ行くぞ」
上着のジャケットを着た正は振り返り二人を見れば明に涼、共に外へ出る事は可能で共に正に対して頷いて答えた。
事務所を出て3人は高井家を目指す。
江梨子と真央の住む高井家は荻窪の方にあるようで電車に乗って西東京方面に向かう、今日の電車はそこまで混んでおらず満員電車で押しつぶされるような事もなく荻窪まで問題なく辿り着く事が出来た。
高井家は荻窪駅から徒歩5分程の所にあるという話、詳しい住所は最初に江梨子と真央が来た時に江梨子が書いている。その住所を目指して歩いて行けばいいだけだ。
やがて立派な二階建ての一軒家が見えて来る、教えられた住所によれば此処のはず。中々良い家に住んでいるようだ。
表札を見れば高井の字、間違い無い。此処で合っている。
ピンポーン
正はインターホンを鳴らす。少し待つと扉が開かれ、そこから江梨子の姿が見えた。
「神王さん、お待ちしていました」
江梨子は3人を中へと招き入れ、江梨子を先頭に3人は家の廊下を歩く。やがて部屋の前まで来ると、そこには真央の姿があった。彼も金庫の中身が気になるのか、見届けようとしている。
「この部屋ですか?」
「ええ、冬彦の部屋で金庫はこの中です」
主のいない部屋、そこに金庫は置かれている。流石玩具好きとあって彼の部屋は数多くの玩具が棚やショーケースに飾られていた、この部屋だけ玩具屋じゃないかと思わせる程だ。
問題の金庫は部屋の奥に置いてある、冬彦がこの世を去り開けられる方法を知るのは彼。そして金庫の鍵の開け方を知る者。
正は金庫を見ると4桁の番号を入力する事で開くタイプの物だと分かった、4桁の数字と言われてもすぐ思いつく物は無い。生年月日や誕生日など分かり易いので設定してくれれば開けやすいが。
「……(このメモが関係してるのか、4桁の番号と結ぶ物は…)」
A+2 Jー1 D+1 Fー1
再び正はメモの内容を見る。アルファベットと数字、冬彦が遺した物ならば何か関係はしているかもしれない。この暗号について、正は解読に取り掛かる。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、今回はちょっとした謎解きとなっております。
喧嘩とかグルメばかりでなくやはり探偵小説なのでこういうのも出していこうという事でこうなりました。
とりあえず頭良くない自分でなんとか考えてのこれです。




