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探偵神王正の物語  作者: イーグル
29/32

File7 玩具に潜む物2

この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。














神王探偵事務所に新たな依頼を頼んだのは高井江梨子、職業はモデル。依頼内容は亡くなった夫の冬彦が当時所持していた大きめの赤いブリキのロボットを探し出す事。

正が早速依頼で動き出す中、江梨子の息子である真央を預かり明や涼と遊んでる所に涼は真央の背負うリュックが開きかけており玩具のロボットがそこから見えていた…。










事務所の外へと出た正を心地良い風が出迎える。

散歩するには良い気候だが依頼を受けた身で呑気にそんな事をしている場合ではない、江梨子が探す亡き夫冬彦が遺した赤いブリキのロボット。これを探さなければならないのだ。

事務所を出る前にスマホで検索して同じデザインのロボットを探してみたが似たようなのばかりで全く同じ物を探し当てるまでには至らなかった、そう簡単には目的の物には辿り着けないとまるでそのロボットに言われているかのように。


とにかくまずは足で稼ぐしかない、ブリキのロボットが置いてそうな玩具屋なら秋葉原の方に何軒かあるはずだ。

正の足は自然と秋葉原の方向へと向き、歩き始めていた。




昼間の秋葉原、相変わらず多くの人々が行き来していてその中に個性的なコスプレに奇抜なファッションをしてる者も何人か居る。

路上ではメイド姿の女性が看板を持ち呼びかけてる姿も見えるがいずれも注目は集まっていない、他の場所ならともかく秋葉原ならこういった光景は珍しい訳ではなく日常の姿だ。この地域に住み、通う者からすれば何時もの事なのだろう。

正はとりあえず近くにあった玩具屋の店へと入って行った。



「(此処にはあのブリキのロボットは無し…まあ最初から当たる訳がないか)」

店内へと入ると数々の玩具がショーケースにあり、中には数万や数十万といった高額の物まで並んでいる。

玩具集めのコレクターになっていたらその為の金額がとんでもない事になっていたかもしれない、正はショーケースの玩具を見てみる。

自分では欲しいとは思わない、少なくとも何十万出してまで買おうという欲は生まれない。しかし人によっては躊躇せず大金を出して買う、それがマニアやコレクターといった人々なのだろう。


当初の目的である赤いブリキのロボットは此処には無い、流石に一軒目からいきなり見つかるような都合の良い事はないようだ。



それから正は秋葉原の玩具屋を回り探して行き店員にも聞き込むが探してる物は見つからず店員もそのロボットについては分からないそうで何も情報は得られず空振りが続いた。

「はあ…」

手がかりが少なく今回は中々骨の折れそうな依頼だとは思ったが正の想像以上になりつつあるのかもしれない、結構歩き回り玩具屋を巡って収穫が一切無い事に正はため息をついた。

とりあえずこの気持ちを少しでも慰めようと自販機に目が止まるとココアが売られており、小銭を入れてアイスココアのボタンを押した。


チャリ チャリ  ガコンッ



下の取り出し口にアイスココアの缶が落ちてきて正は取り出し、ココアを手にする。ひんやりしており歩き回っていた正には丁度良い、ココアのプルタブを開けようとしていると…。


「神王君!」

正の耳に自分へと向けられた男の声がした、聞き慣れた声。秋葉原警察署の警部、白石大樹で間違い無い。そう思って振り返れば予想通り、スーツの上着を肩にかけた大柄な男。やはり白石だ。

「やあ白石さん」

一言挨拶を済ませれば正はプルタブを開け、ココアを飲み始める。冷たく甘い一時が歩き回っていて収穫の無い正を癒してくれる。

「喫茶店で何時もココア飲んでるだけでは足りず此処でもエネルギー補給かな?」

「まあそうかな、飲まなきゃ持たないもんで」

そう言うと白石も自販機へと向かい小銭を入れて微糖の缶コーヒーを購入。正と共に白石も飲み物を飲む、街行く人々からすれば大柄な男と小柄な少年が揃って自販機で買った飲み物を飲んでるだけ、そんなありふれた光景だがその二人が刑事と探偵というのに気づく者はほぼ皆無と言っていいだろう。

「そうか…まあこちらもこういった息抜きが中々出来ず困ったものだ。どうやらお互い厄介な件になっているらしいな」

「白石さんもか…」

正の方は赤いブリキのロボットの捜索をしていて玩具屋を訪れ探し続けているが白石も白石で何か事件の捜査で忙しく動き回っている様子。警察が忙しく動くような事態の方が正の依頼よりも何倍も、何十倍も大変で厄介なのだろう。


そう思うと正はこの程度で弱音を吐いてる場合じゃないとココアを飲み干し、気を引き締めた。

「おかげで良い休憩になった、感謝するよ白石さん」

「特に何かした訳ではないが再び前に進む力が出て来たようだな、頑張りたまえ名探偵」

「そっちもな、名警部さん」

「おいおい、俺はそんな御大層なもんじゃないぞ」

「それ言うなら俺もだよ」

互いに軽口を叩き合って正と白石は別れ、それぞれ自分の仕事へと戻って行った。歳は離れど友人との休息で英気を養えたおかげか正の足取りは少し軽いものとなっている。



結局秋葉原中の玩具屋を可能な限り歩き回り見て行ったがどれも空振り、手がかりも得られぬまま日は暮れて今日の調査は終了となる。

難解な依頼はいくつかこれまであった、それでも一日目で少なくとも微かな手がかり等を得られる事はあったが今回はそれすらも無い。中々厳しいスタートだ。

空はオレンジの夕焼けが広がり、夜が迫りつつある。正は元の道を歩き事務所を目指す。


仕事が終わりこれから飲みに行くというサラリーマンの集団の横を通り、スマホをひたすら操作して画面に夢中になってる学生とぶつかりそうになるのを躱し、正の家でもある神王探偵事務所に着くまで色々人と交差しすれ違い続けた。


あの赤いブリキのロボットの行方は何処なのか、これだけ聞き込みをしても店員達が知らないのも気になる。似たようなデザインはあれどそのものを知っているという事は無かったという事を思うと大手の会社などではなく個人の手によって作られた可能性の方が高くなってくる。

そうでなければあれだけ多くの玩具の知識を正よりも多く知っているであろう店員達が知らない訳が無いのだから。

死んだ冬彦から妻の江梨子はそれに関して何か聞いてるかもしれないが江梨子はあまり玩具に関心が無く、忘れている可能性がおそらく高い。

何かハッと思い出して自分に伝えてくれる事を期待するしかないが高望みは禁物だ。



「お、帰ってきたか」

「正さんお帰りー」

「お帰りなさい…」

鍵で中へ入り事務所へと帰ってくると真央は兄妹とボードゲームで遊んでおり、喧嘩は特に起きておらず仲は良さそうだ。

ひとまず事務所の方でトラブルは起きてはいないらしい。

母親である江梨子は夜ぐらいに真央を迎えに行く予定で、それまでは事務所で預かるという話を彼女がモデルの仕事に行く前にしている。

「そろそろ飯か、真央。お前も夕飯食べるだろ?」

「僕は……」


ぐ~~


食事を欲する音が腹から鳴っていた、その出処は真央から聞こえる。明に聞かれて彼がどうしようかと考える前に彼の腹は実に正直に主張をしていた。真央も今日は神王探偵事務所で食事をとる事はこれで決まりだ。


「じゃ、カレーでも作るか」

事務所の食事当番を任されている明、今日はカレーライスにする予定で玉ねぎにニンジンにジャガイモのストックはあり、カレールーや鶏肉も買ってある。

明に任せるだけでなく正に涼、そして真央も野菜の皮むきを手伝う。


「考え過ぎて皮どころか身まで削るなよ探偵ー」

「…気をつける」

ジャガイモの皮をむいて包丁で切っていく明は正へと冗談混じりで振り返らず注意を言って、それに流石にそんなヘマはしないと正は言いたいが思考に入り過ぎて皮をむき過ぎるという確率は0ではない。とりあえず料理中は依頼の事は極力考えない方がいいだろう、自分のせいで美味いカレーを台無しにしたくはない。


「ねね、正さん…」

「ん?どうした涼」

ニンジンの皮をむく正に自分もそれを手伝いながらも小声で涼は正へと話しかけた、何か内緒話でもあるのかと思い正は声を伏せて涼と会話をする。

「正さんって今赤いブリキのロボット探してるんだよね」

「ああ、それで今日は秋葉原の方に行って玩具屋を巡ったんだけどな。見事に空振りだ」

依頼の事はあまり他人にペラペラ言うものではないが、涼は事務所に住む人間。彼女とそして明には特に隠す事も無い。むしろ玩具ならこういった子供の方が何かピンと来るものがあるかもしれない、そんな期待が無いと言えば嘘になる。

「真央君、リュック背負ってるよね?」

「ん?そうだな…それが?」

「あのね。そのリュックの中ちょっと見えたぐらいなんだけどロボットっぽいの、入ってたよ」

「!?」


思わず正のニンジンの皮をむく作業の手が止まる。依頼人の子供のリュックの方にロボット、急に入って来た情報に動揺するがなんとか落ち着かせようと一旦思考へと入る。



探し物が依頼人の子供のリュックに入っているかもしれない、確認したいという逸る気持ちが出て来るが涼はあくまでロボットっぽいと言っただけだ。詳しくは見ていないという推測は容易い。

真央が持つただのなんでもない玩具かもしれない、だが探し物のロボット。またはその手がかりに繋がる可能性は無いとは言い切れない、玩具屋をあれだけ探し回って手がかり無しだったのだ。すがれるなら藁でもすがりたい。

しかし正が真央にリュックの中身をいきなり見せろと言っても今日あまり彼と一緒におらず打ち解けきってないのもあり、見せてくれるどころか警戒されるか心証を悪くされそうだ。

なら此処で頼るべきは今日一緒に遊んでいた明と涼の兄妹、特に涼のような女の子なら真央にあまり警戒される事は少ないだろう。明では言葉が強く適していないので彼よりも涼の方が聞き出す方は向いてる可能性はある。

「涼…頼みたい事がある」

「ん?どしたの?」

「あの彼、真央君にリュックの中身見せてもらうようにお願い出来ないか?」

「なんで?あ、そっか。そのロボットっぽいの探してる物かもしれないし、もしそうだったら正さんの依頼一気に解決して一件落着のめでたしめでたし、だね!」

別にそこまでの期待をしている訳ではない、そう言いかかったがやる気になってる涼に水を差すような発言は止めた方がいいと判断して正はその言葉を飲み込む。後は涼の頼みを真央が聞いてくれるのかどうかだ。


とりあえず明の作るカレーを食して英気を養ってからでも遅くはない、美味い食事をとらせてお腹を満たさせれば気が緩むかもしれない。



テーブルにカレーライスやポテトサラダが並び、それぞれが食べ始める。

料理が上手な事は知っていたがやはり美味い。明が拘って玉ねぎを飴色になるまで炒めてルーにコクを生ませたのが効いているせいか。

「家で食べるカレーより美味しい…!」

真央の口にもあったようで彼の食も進む。

「何だ、僕のカレーはお前のお母さんを超えたか?」

「…家では料理作らないよ、お弁当にレトルトとかそういうのばかり」

「……そうだったのか」

冗談半分で言った事を明は少し後悔する、家での彼は母親江梨子の料理を食べずに買ってきたものばかりの食生活だったようだ。

江梨子はモデル、その詳しい仕事内容は知らないが芸能関係となると時間は不規則となって帰る時間が何時になるか分からなくなる。特に売れっ子になればなる程にだ。となると夜迎えに来るという江梨子が予定通りに行けず遅くなる事は充分有り得る。

「家では一人だし……」

「………」

「でも、お父さんの沢山ある玩具を見るのは好き。生きてる頃はよく遊んでくれた…」

真央は孤独だった、共に遊ぶ友人もいないらしく家でも一人。まだ10歳くらいの子供にそういった生活は酷というものだろう。ただそれでも過ごしていけているのは父冬彦の玩具の存在、それが真央の心の支えとなっている。

生前の冬彦は真央とよく遊んでいたようで、正の中で高井冬彦という男がまだ形となっていないが真央にとって良い父親だった。それは間違いなさそうだ。

「お父さんは…玩具好きだったんだな」

「うん、色々玩具持ってたり自分でロボット作ったりもしてた」

「!?」

真央の言葉に正は聞き逃す事は出来なかった。


冬彦が自分でロボットを作っている、つまりそれはあの探している赤いブリキのロボットは何処かで売られている物ではなく冬彦の作ったこの世に二つと無いオリジナルの物。その可能性が一気に大きくなってきた。


「凄いねー!自分でそういうの作れるなんて、真央君もお父さんにロボット作ってもらったりしてたとか?」

「うん、あ……見る?今リュックにあるんだ」

涼が冬彦に対して凄いと思ってる事が真央にとっても嬉しいのか、彼は自らリュックの中身を開けようとしていた。

「え、いいの?」

「皆になら……いいよ」

共に食事したり過ごした効果のおかげか真央は正達を信頼してくれている、涼に頼むどころかその前に真央が自分からリュックの中身を明らかにするのは効果が予想以上だったせいか。これはカレーを作った明と一緒に遊んだ涼のおかげだ。


真央はリュックの中身を開ける……。

まずは此処まで見てくださりありがとうございます。

食事は今回何にしようと悩む事はFileごとにあります、日頃料理を考えて作る主婦や自炊してる皆様が実に偉い!凄いと思いました。

とりあえず一通り思いつく美味い飯は食わせたい!

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