File7 玩具に潜む物
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
時刻は午後を回り、空は快晴。秋葉原と神田の中間に位置する神王探偵事務所の外の光景は変わらず日常がそこにあった。
昼食を終えてスマホ片手に何気なく窓を見ていた神王探偵事務所の主、神王正は依頼が来ていない今時間に余裕が充分過ぎるぐらいにありテレビを見たりスマホを見たり居候の兄妹達とゲームをする事ぐらいしかしていない。
仕事の無い暇な探偵などこんなもの、早々に探偵に依頼など簡単にはして来ないだろう。大手ならともかく此処は小さな個人事務所なのだから。
一通りスマホを見て、正はココアが飲みたくなって席から立ち上がろうとしていた。
ピンポーン
そこに事務所のチャイムが鳴り、正はココアを飲む事を中断してドアの方へと向かう。
開けるとそこには二人の人物が立っていた。
「すみません、探偵事務所は此処でしょうか?」
年は20代半ばぐらいだろうか、身長は170ぐらいで茶髪の長い髪を後ろに一つに束ねており黒いレディースパンツにノースリーブの白いシャツという格好。女性というのはスタイルの良さですぐ分かる。一般じゃ中々お目にかかれない美女と言っても差し支え無いかもしれない。
よく見れば正はこの女性を何処かで見たような気がするのだがどうも記憶が曖昧で鮮明には思い出せない。あまり此処で観察するのも失礼だ、とりあえず此処に用があるそうなので事務所内に招き入れるべきだろう。
「此処で合ってますよ、どうぞ中へ」
正は事務所内へと招待。女性が歩き進むとそれに続いて小さな人物も進む。10歳ぐらいの年で明や涼と同年代ぐらいに見える。女性と同じ茶髪で髪は短め。青い短パンに白い半袖Tシャツ、男の子という格好だが中性的な容姿で女の子という可能性もある。名前を聞くまでは断定出来ない。背中には緑のリュックを背負っている。
この二人は姉弟なのだろうか、そんな事を考えつつ二人を事務所に招き入れた後に正はドアを閉めて話を聞きに行く。
女性と子供が来客用ソファーへと座り、正も対面のソファーへと腰掛けて会話の準備は整った。
「当事務所へはご依頼の件でしょうか?」
「ええ、そうです」
正の問いに女性は首を縦にして頷き答える。依頼で此処に来た、正にとっては待ちに待ったお客だ。
「神王探偵事務所の神王正です、こちらどうぞ」
「あ、はい」
正は女性へと名刺を渡す。女性は受け取った名刺に視線を落とし、一通り見てから正面を向き正の顔を見る。
「これは…かみおうしょうと読むんですか、珍しいお名前ですね」
「まあ一般的にはそんな聞き馴染みは無いかなとは思ってます」
神王という苗字、これはあまり見ない苗字だ。そして知る人はこの考えに辿り着くかもしれない、ひょっとしたら合気道の名門で知られる神王なのかと。
目の前の女性はそういう考えに辿り着いてはいない様子、とはいえそういう詮索よりも自身の抱えてる悩みの方が最優先なのは聞くまでも無い。
今回はどういう依頼なのか、正は会話を続ける。
「貴女の名前と職業を」
「高井江梨子です、職業はモデルを少々…」
「モデル…ですか」
モデルと聞いてそのスタイルの良さに納得がいった。彼女、高井江梨子という名前を聞いて正の頭の中で一つの過去を思い出す。確か雑誌の水着グラビアイドルが載ってるページでその姿を見ていてかなり魅力的なせいか高校時代の正は何度もその姿のページを見ていた。
あの彼女が時が経過して自分の個人事務所に来る日が来るとは思ってもいなかった事だ。
「…隣のお子さんは?」
「ああ、私の息子の真央です。ほら、ご挨拶」
「………はじめ、まして」
子供は男の子で江梨子の息子、緊張気味のようだ。改めて彼を見ればやはり明と涼、二人ぐらいの年と思われる。江梨子の年を考えると18歳ぐらいのかなり若い時に真央を産んだのだろう。
とりあえず二人への詮索はそこそこにしておき本題に入った方が良さそうだ、何時までも思考を巡らせては先に進めない。
「では、依頼内容をお聞かせいただけますか?」
「はい…実は探して欲しいものがあるんです」
今回の依頼内容は探し物らしい、此処神王探偵事務所に来る依頼でペット探しと並ぶぐらい多く来る種類の依頼だ。
そして江梨子の発言を考えればそれは物である事は確かだ、これが人だったら探してほしい人と言うはずなのだから。
「これを」
江梨子は一枚の写真を取り出し、正へと手渡す。その写真を正が確認すると、そこにはブリキのロボットの玩具を持つ男の姿が見える。江梨子と同年代ぐらいか、黒髪短髪の男が持つ玩具のロボットは両手で持つ程に大きめだ。色は赤い。
「この男性は?」
「夫の冬彦です、もう亡くなりましたが…」
「それは……辛い事を聞いて申し訳ありません」
写真の男は江梨子の夫高井冬彦、若くしての死。江梨子にとっても真央にとっても辛いだろう。
「ひょっとして探してほしいというものというのは、旦那さんの持つこのブリキのロボットの事ですか?」
「ええ、夫はこれを大切にしていました。それが、何時からなのか家から無くなっていたのです」
探してほしいのはこの大きな赤いブリキのロボット。昭和レトロを感じさせる玩具だ。これがよくある玩具だったら探すのはかなり難しい、だが特別製とかだったら探す範囲は一気に狭まるかもしれない、一般的な売り物か限定かは正には分からない。これは詳しい者に聞く必要があるようだ。
「これがどういうのかは、旦那さんから聞いてはいませんか?」
「いえ…こういうロボットに限らず子供の玩具が好きな人だったので、ただこれを一番大切に手入れしたりしていたのは見ています。だから大切にしていているのかと…」
「なるほど……分かりました、この依頼最善を尽くしましょう」
冬彦が大切にしていたブリキのロボットが無くなっていた、今の所誰かが持っていったのか冬彦自身が何処かに持っていったのかは分からない。とりあえず今高井家に無いのは確かであり正の今回の依頼は冬彦の持つこの赤いブリキのロボットを探し当てる事だ。
正がこの依頼を引き受けるのが決まり江梨子は手続きの書類へと書き込んでいる、その時真央の目は事務所の奥の部屋へ向いていた。
「あー、それ取ったら駄目ー」
「それは無理な話ってもんだろ」
奥の部屋では明と涼がゲームを二人でしている、その声が聞こえて真央の関心はそっちに行く。同じぐらいの子供が遊んでいる、それに対して彼は無関心ではいられなかったのかもしれない。
「真央君、良ければ…あの二人と遊ぶ?」
「………遊びたい」
真央は正に言われるとぼそりと本音を呟く、小さな彼のその言葉は正の耳にしっかり届くと江梨子の方へと向いた。彼女は丁度書類を書き終えたようで実に良いタイミングだ。
「真央、それは此処の方たちに迷惑がかかるから」
「こちらは構いません。あの二人も喜んで了承すると思いますし」
「そうですか?………行って来ていいわよ」
母親である江梨子からの許可が下りると正は明と涼の元へと先に向かい、ゲームをしてる二人へと声をかける。
「明、涼。依頼人のお子さんと遊んでやってくれない?二人の遊ぶ姿見て参加したがってるようだから」
「うん、いいよー」
「預かっておいてやるからそっちはしっかり仕事しろよ?」
「分かってるって」
明と涼の二人も真央と遊ぶ事を了承。これを確認すれば正は真央を呼び、真央は二人の元へと行き一緒にゲームをして遊び始めた。
子供の相手は子供に任せるのが一番良い、正はそっと離れ再び江梨子の元までやってきて改めてソファーに腰掛けた。
「厚かましいお願いですが…私この後仕事がありまして、その仕事が終わるまでに息子の事を預かってもらってもいいでしょうか?勿論追加料金はお支払いします」
「既にお支払いいただいた通常料金で結構です、それはサービスでやらせていただきますよ」
江梨子からの頼みに正は引き受け、あくまでメインは赤いブリキのロボット探しで子守りはサービスだ。自分がそれをやるという訳ではない、流石にそれで追加料金を貰うのは悪いのでそれは断った。
「では、依頼内容は亡くなった旦那さん、高井冬彦さんが大切にしていた赤いブリキロボットの捜索。という事でよろしいですか?」
「はい」
最後に正は依頼内容を確認、これも中々骨の折れそうな依頼だ。今の所手がかりが少ない、誰かが盗んで行ったのか冬彦自身が何処かに持っていったのかもハッキリしていない。
だが盗まれたというのを考えると、正はもう一つ確認しておく事がある。
「後は…その赤いブリキのロボット以外に無くなったものはありませんか?大事な物とか金銭の類とか」
「いえ、それだけで他は特に無くなってはいないと思います。最も私も彼の玩具の全部を把握している訳ではないので正確ではありませんが…」
冬彦の持つ玩具については完全把握はしていない、だが他に無くなってる物は無いと江梨子は言う。金銭とかそういったものが無くなってたらそれはもう頼る所は探偵事務所より警察だ。
そのブリキのロボットがいくら程の価値があるのかは分からない、江梨子も疎いようで価値の不明な玩具を一つ紛失で警察に頼みにくいと思ったのかもしれない。
そこで探偵の出番という訳か。
「あ、そろそろ仕事の時間…!ごめんなさい。行かないと」
江梨子が時間を確認すると仕事が迫っているのに気付きソファーから立ち上がる。とりあえず彼女に聞くのはこんな所か、今はモデルで前はグラビアの仕事。息子の真央を抱えて仕事しながら育てるというのは大変な事だろう。
その彼女の負担を少しでも軽減するのに真央を一時的に預かり今回の依頼をこなす必要がある。
「それでは神王さん、息子の事をよろしくお願いします」
一礼した後に江梨子は慌ただしく事務所を後にし仕事へと向かった。奥の部屋を見れば真央は明、涼と共に特に喧嘩も無くゲームをしている。
このまま任せておいて大丈夫そうと分かれば正は赤いブリキのロボットについてスマホで検索してまずは調べてみる。
検索すると似たようなのはあるが全く同じではない、中々その物に辿り着く事は無い。となると一般的に出回っている物ではなく何処かでオーダーメイドで作られた物という可能性が高くなってくる。
あまり効率は良くないが近くの玩具屋から一軒一軒しらみつぶしに回ってみるしかない、そこで扱ってないにしても同じ業界の者から見れば何か気づく事があるかもしれない。
「ちょっと出かけて来る、留守と真央君を頼んだぞ」
正は二人へと声をかけてから身支度を整えて事務所の外へと出る。
「むうう、中々強い…!」
事務所では明が真央と対戦格闘ゲームをして遊んでいる、明の操作する男性キャラが真央の操作する女性キャラに押されており明が劣勢となっていた。
「……♪」
ゲームが強いようで真央は楽しげにコントローラーを操って技を繰り出し明側の体力ゲージは確実に減るばかり。
「……?」
その時涼は気づく、その視線の先は真央の背負うリュック。それが開きかけており、そこから何やら玩具のロボットらしき物が見えていた……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、偉い久しぶりの投稿となり申し訳ありません!
今回は玩具の捜索という話でどういう話になるのか楽しみにしてもらえると幸いです。




