File7 玩具に潜む物5
この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません
神王探偵事務所に新たな依頼を頼んだのは高井江梨子、職業はモデル。依頼内容は亡くなった夫の冬彦が当時所持していた大きめの赤いブリキのロボットを探し出す事。
様々な微かな手がかりを手にして正はようやく目当ての物を探し当てると、それはただの玩具ではなく高価な宝石が数々入っている宝石の隠し場所だった。更にその持ち主は黒い噂の絶えぬ政治家の大鯉春之助だという事だったのだが、それを知った翌日に正の耳にその政治家が死亡したという知らせが届く…。
「どういう事だ白石さん、宝石の持ち主かもしれなかった大鯉が死んだって…?」
朝の早い時間帯から正の意識を叩き起し覚醒させるような衝撃の知らせを白石が持ってきて、朝のモーニングココアを飲まずに眠気はもう消え失せている。
大鯉春之助、例の赤いブリキロボットの中にあった数々の高価な宝石の持ち主とされていた政治家。その男が急死、一体何があったのか正は白石へ電話越しで訪ねた。
「昨日の夜の事だ、大鯉は部下の運転する高級車で移動していてそこに遮断機の降りた踏切へとブレーキを踏まずに突っ込んだらしい。そしてそこに運悪く踏切の真ん中まで来てすぐに猛スピードで走行してきた電車と衝突して車は大破。大鯉とその部下も死亡した……」
「遮断機の降りた踏切にブレーキを踏まず?……まさか、自殺か?」
「うむ、警察の方でもそう考えられている。現場に居た人たちの証言ではブレーキを踏んでの減速が見られなかったのだ。むしろスピードを上げた、そんな証言まであるぐらいだ」
事故現場には当時人が結構居て大鯉の事故を目撃していた、その人々からの証言でもブレーキは踏んでいないらしく逆にスピードを上げたという。むしろ大鯉の車が自分から踏切へと突っ込んでいる、そんな印象があり警察でも自殺の可能性が考えられているようだ。
「…白石さんは自殺で納得しているのか?」
「………いや、彼にはまだ宝石について話してはいない。話す前にこの世を去っていったんだ、まだ宝石が大鯉の物と決まった訳でもない、何も追い詰められていないはずの現時点で自殺するような強い動機が今の所無い」
「大鯉に自殺するような動機が無い…だったら目を向けるべきなのは運転手…」
「そうだ、大鯉の部下の方だな。運転していたのは大鯉本人ではなく部下だった、ならばその者にそうするような動機があった可能性がある。運転手の方について大至急調べるべき…とキミならそうするか名探偵」
「ああ、と言っても一般の探偵が現場に行って調べられる事には限界があるけどな」
「それは本業であるこちらに任せておけ、すぐに運転手を調べてみよう」
白石との会話はそこで終えて電話を正は切った。
突然の大鯉の死、彼に自殺の動機が無いのなら車を運転していた運転手に疑い有りと正は考えていた。もう一つどちらにも動機が無くてブレーキが効きづらい車の問題による事故というのもあった、それも車の大破によって事故前にブレーキがそんな状態だったのかどうか調べたり判別するのは不可能に近い至難の業に思えるが。
「正さん、何かあったの?」
正が声に気づく、その声は下から聞こえてきて目線を下へ向ければ涼が正を見上げて訪ねていた。
「ちょっとした相談を受けただけさ、たいした事じゃない」
全部は言わず相談事を電話でしていただけと涼に正は短く説明、警察署の方で詳しい事情を聞いていない明や涼には特に伝える事でもない。今は赤いブリキのロボットを詳しく調べている警察の鑑定結果待ちだ。
こういう時ドラマや漫画の探偵とかならばじっとはせずに現場へ調査に行ったり手がかりを探したりしているだろうが正はそんな世界に居るスーパーな探偵とかではない、本来なら探偵が警察が管理する事故現場を勝手に調査など出来る訳が無いのだ。
白石の許可などがあれば話は別だろうが正に任された依頼は大鯉の犯罪を暴いたり死の真相を調べたりとかではない、それは警察の役目であり正は赤いブリキのロボットを探す事。本当は探し当てた時点で彼の受けた依頼は達成されているのだがロボットの内部にあった宝石によってその後も関わり詳しく調べる必要が出て来た。その過程で大鯉が浮上してきただけの事である。
ただじっと時を待つ、動かず何もしない。
今の探偵神王正の出来る事はそれぐらいだった。
特にする事も無し、スマホを触ったりしながらテレビを見て特に何もやっていなければ兄妹達とテレビゲームをする。
ニュースでは大鯉の事故死による報道がほとんどだったがまだそこまで進展が無いのか真新しい情報は特には無かった、白石達の今後の調べに期待するしかないだろう。
世間が大鯉の方に関心が向いてる間に正の事務所では変わらぬ日常の時が流れ、昼を過ぎて夕方を迎え夜が深くなり一日が終了する。
こういう何も無い時の時間の経過は早い、そんな感覚な気がするが実際は時間はいつも通り動いているはずだ。
一日が終わりベッドへと潜り込む正はそんな他愛もない事を考えつつ夢の世界へと旅立ったのだった。
翌日の午後の昼下がり、正は明、涼と共に事務所の真下にある喫茶店ヒーリングで午後のティータイムを過ごす。正は何時も通りココアを注文して飲んでおり明と涼は共にオレンジジュースだ。
「いらっしゃいませー」
新たに扉が開いて客が来たのを見て店のオーナー兼店長である白石茜が挨拶、するとその客は真っ直ぐ正の元へとやって来る。
「やっぱり神王さん、偶然ですね」
「江梨子さん、それに真央君も」
新たに来た客は江梨子だった、傍に真央も居て彼も共に喫茶店へと来ていた。
「此処が評判の喫茶店だと聞いたもので来てみようかと」
「まあ、それはありがとうございます♪」
評判の良い喫茶店、それで江梨子は此処へとやってきてこれを聞いた茜は笑顔で歓迎。店側からすれば嬉しい限りだろう。江梨子は紅茶を頼み真央はアップルジュースを頼むと真央は明、涼の二人に誘われて涼の隣の椅子へと座って3人で話す。やはり子供同士仲良くなりやすいらしいと正は改めてその光景を見ながらココアを一口飲む。
「神王さん、あれから警察からロボットに関しては…」
「…まだですね。何も来てないです」
正の隣へと座る江梨子は例の赤いブリキロボットについて進展はないか聞いたが正の方では何も聞いていない。あの日白石から大鯉の事故死を聞かされてから知らせは届いておらず待つ日が続いていた。
こういう時に白石が現れて何か知らせを持ってきてくれればいいが。
「茜、コーヒー1杯頼む…おお神王君!」
そこに白石が扉を開けて妹の茜へとコーヒーを注文すると正の姿を発見。正の方は今考えていた事がまさか本当に起こるとは思っておらず少々面を食らっていた、しかし知らせを持ってきたとは限らない。ただのコーヒー休憩だけで終わるのは充分有り得る。
「江梨子さんも一緒でしたか、丁度良い。あのブリキのロボットについての調べが終わった所です」
都合の良い事は早々起きるもんじゃないと正は思っていたのだがたまには起きるものだった。とにかく白石の話を今は聞いてみるべきだ。
「このロボットは冬彦さんがあなた達に遺した物だ、こちら返却しましょう」
警部の白石の手から赤いブリキのロボットは冬彦の息子であり真央へと渡された。当然中身の宝石は無く警察の方で保管している。
「それと、ロボットの中からこんな手紙がありました」
そう言うと白石は一枚の紙を取り出す、正達が見つけた紙とは別のものだ。
「白石さん。それ何処から…」
「ロボットを分解していた時に見つけたらしい。大丈夫だ、ちゃんと元通りに組み立ててある」
話を聞くと正達の知る背中の部分以外から出て来たらしい。ロボットを分解して調べるまではしていなかったのであの時の正達では発見出来なかった、そして元通りにした辺りブリキのロボットに詳しい者が警察署の方に居るようだ。
手紙は白石から江梨子へと渡される。
「これは…冬彦、あの人の字です」
手紙に書かれている字に江梨子は冬彦のだと分かると手紙を読み始める。
「俺はもう長くない、この手紙が読まれている頃には俺はもうこの世にいないだろう。正直まだやりたい事は沢山あった、沢山の玩具を作って自分の玩具屋を開きたかった。それが心残りだ。しかしそれも無理だ、それならせめて残された家族を幸せにしたい。これまで無職で苦労をかけてきた江梨子、欲しい物を買ってやれなかった真央、今まで苦労をかけさせてすまなかった。せめて俺の遺した物で幸せになってくれ。この手紙を見てそれを見つけているのが江梨子か真央、二人のどちらかである事を願う 冬彦」
そこに書いてあったのは遺言、そして更に冬彦はたまたま人が宝石を地面へと埋めていたのを目撃してそれを横取りして自分の作った玩具の中に保管していた。それを告白する内容も書いてあった。それが大鯉の物であったのかもしれない、そういう事についてはこの時の彼が知っていたかどうかは今は知る術など無い。
ただ冬彦という男は彼なりに家族を愛していたようだ。それで横取りした宝石で幸せにするというのはズレているにしても。
「冬彦………あなた、手先は器用なのにこういう所は不器用なのね」
手紙を大事そうに抱える江梨子、それが亡き夫の冬彦への気持ちを表している。
「……」
手紙の内容を聞いて息子の真央は何を思うのか。彼に父親の想いは伝わっただろうか。いや、きっと伝わっているだろう、不器用なりに家族を守り想う男の気持ちが。
「人が埋めた宝石を横取りは立派な窃盗罪だ、しかし……宝石の持ち主が不明な上に冬彦は亡くなっている…」
「そうなると、白石さん。宝石はどうなるんだ?」
「今も誰も名乗り出る者はいない。なので宝石は遺失物扱いとなっているのだ、このまま名乗り出る者がいなければ取得者の物となるだろうな」
「取得者というと……」
宝石を見つけたのは正達、そして江梨子と真央もその場に居る。複数人で宝石、正確には探し当てたのは赤いブリキのロボットなのだが結果的に宝石を見つけた者達。取得者という事になる。
「念のため宝石が本物なのかどうか、よく出来た偽物の可能性もあるので鑑定人に調べてもらったのがが宝石は間違いなく本物。そして宝石の総額はざっと数億円になるそうだ」
「数億!?ってとんでもないお金の量だよね?」
「急に大声出すなって…!確かに数億なんて大金過ぎて見た事なんか無い」
白石の口から宝石の値段について聞かされると涼が思わず声を上げた、明も落ち着かせようとしているが思わぬ大金に動揺が見られる。
「取得者なら、それは高井家の二人だろ。俺達は違う」
そういう権利があるのならと正は二人へと目を向ける、自分達もそうではあるが冬彦は二人へと託すつもりで遺書を書いていたはずだ。大金とはいえそれを横取りしては冬彦の意思を無視する事になる。二人の幸せを願う父親の最後の願い、取得者となって宝石が二人の物になるのならその方が良いだろう。正は取得者の権利は二人の物と語る。
「二人の幸せを願って、か。まあまだ取得者になって獲得かどうかは不明ではあるが…それで幸せになれば結果として冬彦の願いは叶う…元々の持ち主が大鯉であの男の元に戻るよりもその方がずっと良いな」
正と並んで白石も二人の母子を見つめていた、警察官としては宝石はまだ遺失物であり保管しておかなければならないが個人としては二人が獲得して幸せになる方が良い。大鯉の宝石なのかどうかまだ証明は出来てないがその男のあくどい政治資金になるよりずっとその方が良いだろうから。
「それで、お金いっぱい入ったら…僕が玩具屋を開く。ロボットだけじゃなく他の玩具いっぱいのでっかい玩具屋を」
その時黙っていた真央はもしそうなったら将来自分の手で玩具の店を開く事を決意する、それは父親である冬彦のやりたかった夢。
「……うん、良いと思うよ真央」
江梨子は息子の夢を応援、彼女の目にはその姿が亡き夫と重なっているように見えた。
父親の叶えられなかった夢は息子へと受け継がれる、正は真央ならそれが叶えられそうな気がした。
何も根拠は無い、ただの勘ではあるが。
「いいね!真央君が玩具屋開いたら絶対行く!」
「やりたいと言って途中で辞めるとか言うなよ?」
「言わないよ!」
「何か色々あったけど、兄さん達。めでたしって事でいいのかな?」
「んー、うむ。まあ何か皆良い顔をしている事だしそうなるんじゃないか?」
「適当だな……まあ少なくともバッドエンドには見えないけどな」
子供達のやり取りを見守っていた正、白石、茜。そして江梨子は共に笑う。
明に涼、真央を応援してくれる友がいる。
赤いブリキのロボット。その中にあったのは宝石、それと共に亡き男の想い。色々な物がそのロボットに詰められていて最初は開けてはならない不気味な物と思ったが今は開けて良かったのだろう。
伝えられなかった想いが伝わり、夢を引き継ぎ、その彼に友が出来たのだから。
「…大鯉の奴は消した、が奴の大金に変えた宝石までは回収出来なかった」
暗い路上裏で誰もいないのを確認して電話をかける人物、大鯉を事故に見せかけて殺害。それを企てた者だ。
「それで宝石は今は?」
「警察の方で保管されている、高井家の者が取得者になって宝石を獲得するのは時間の問題だろう」
「まあ別にいいだろう、とりあえず好き勝手やって調子に乗っていたバカを始末したのなら良い。そいつの宝石程度くれてやれ」
宝石はやはり大鯉の物のようであくどい金を宝石へと変えて隠していたようだ、彼らは宝石も探していたようだがそこまで重要視はしていなかった。大鯉を亡き者にする方が大事だった。
「分かった、しかし……また奴が関わってくるとはな…」
「奴…と言うと?」
「………探偵、神王正…」
電話越しで呟くようにその人物は正の名前を言う。
そして更に夜は更けてその人物は暗闇と共に姿を消した……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、これでFile7も此処で終わりですが最後なんだという感じであまりスッキリしない終わり方となりました。
影に潜む者達と神王正が相対する時が来るのか?そこまで走りきりたいと思ってます。




