噂のお姉さまに会いたいです。
今回は愛され天使のレイチェル様です。
少女は、レイチェルは驚いていた、ある日突然訪れたその変化に。
と言っても彼女自身が変わった訳ではない、では何に彼女は驚いたのか。
変化があったのは実の兄の振る舞いであり性格だった。
レイチェルより少しだけ早く生まれた兄アルフレッド王子の変化は劇的で、さも当然のように彼女の扱いにまで及んだのだ。
これに驚かない人はいないだろう。
お陰でと言えば可笑しな話だが、それまでのアルフレッドを苦手としていた彼女は苦手な感覚はかなり潜む事になった。
思わず首を傾げた程の激変に戸惑った彼女は考える。
――なんで兄様はかわったの?
彼女がそう思ったのも無理はないと思う、それほどの変化だったのだから。
レイチェルにとってのそれはライオンが子猫になった程であり、ある日突然親の性格が正反対になったと言えば判ってもらえるだろうか。
――なんだか昔に戻ったみたいなの。
そうレイチェルが思うのも当然で、彼女とアルフレッドは年子だったのだが1年程前までは城の人間皆が微笑む程に仲が良かった。
だが、たった一歳程といっても幼少の頃の10ヶ月の生まれの違いの齎す体格などの差は大きい。
一緒に仲良く遊んでいたのが嘘のようにアルフレッドの態度は変わってしまった。
最初は徐々に遊ばなくなった。
泥団子を投げられたり、お気に入りの人形を壊されたりと悪戯をされるようになりレイチェルは悲しくなった。
しかしだ、アルフレッドの変化は更に酷くなってしまうんだ。
それは何故かと言われたら周囲の大人の態度が問題だったとしかいえない。
注意とも言えない弱い言葉ではアルフレッドには全く効果はなかった。
増長したアルフレッドはレイチェルにとって小さな暴君で、兄とは苦手と同意義の存在になっていた。
アルフレッドが叱られない要因は彼が王子だからじゃなかった。
普段の習い事、アルフレッドは教師を勤める貴族達が手放しに褒める程には優秀だったんだ。
だから多少の悪戯程度ならば大人からは叱られない、将来の事を考えれば貴族が王子を褒め立てるのは当然とも言える対応だ、むしろ潔いほどの態度といえた。
勿論全ての大人がそうだった訳じゃない。
唯一周りとは違って厳しい訓練を施す教師だった近衛騎士なんかもいた。
でもこの男性は王子の不満からか変えられてしまう。
この出来事の真実は他の貴族が王子に取り入る為にと虚偽の報告をしたからなのだけれど、幼いアルフレッドには其処までは理解できなかった。
もしも真実を話す人がいれば違ったかもしれない、それほどには彼は優秀だったのだから。
だけどアルフレッドはそれをそのまま理解した、いやしてしまったと言える――
――僕に逆らう者は許されないのか。
そしてレイチェルは不幸な事だった小さな暴君が誕生する事になる訳だ。
そしてその時に急激な変化が訪れた。
苦手から兄を嫌いになる一歩手前での急激な変化だった。
これはレイチェルにもアルフレッドにも幸運な出来事になる。
最近の兄の変化の原因……
それをレイチェルは真剣に考える。
今日はレイチェルの為にと花飾りを作ってくれた。
――びっくりしちゃったの。
だから知りたいと思う、まず最近の大きな変化から考える。
教師役を務めていた貴族たちが全員交代した事が原因なのだろうか?
レイチェルは思ったが、それも突然だったなと驚いた事を思い出す。
ならその原因はなんだろうかと更に悩んだ。
首を交互に傾げるビスクドールのようで可憐で非常に可愛らしい。
――うーん、判らないの、でも先生たちが変わる前になにかあったのよ、それを知ればいいの、ですわ!
教師達が交代する前――
――あ、もしかしたら関係があるのかな。
ふと、兄が呆然としていた時期があった事を思い出した。
そういえばその頃から変化があったのかもと。
そこでレイチェルは少女ながらにそれを知る方法に思い当たった。
いくら城勤めの優秀な侍女達といえど以前は普通の貴族の次女などが殆どで噂や恋などは大好物だ。
レイチェルが知るだけでも彼女達は城の出来事で知らないことなどないのではないかと思うほど。
その昔兄がおねしょをした時にその噂が真実だった事をレイチェルは知って驚いたほどだった。
他にも結婚する騎士と侍女の話などが噂されれば本当に結婚の許しがでるのだ。
なのでレイチェルがその出来事を知るのは簡単だったのは言わずともわかってもらえるだろう。
侍女達にかかってしまえば、“城に関する話”は一日あれば全員が知る情報になるのだ。
内緒だと言いながら一気に広がる仕組み。
『自分が知らなくても彼女達に聞けば何かか知っているかも』と考えたレイチェルは噂好きらしいの自分の新しい侍女に問いかけた、素晴らしい観察眼と人選だった。
「ねえ、チェイシーお兄様に何かあったか知ってる?」
「アルフレッド様ですか、ええ、ひとつ噂話でしたら御座いますよ」
「教えて!」
チェイシーと呼ばれた侍女も城に勤める人間である、だから下手に“外部”に情報は漏らさない、だが彼女は優秀な噂の収集家でもあった、人選としては最高だったのだ。
彼女は“王族”であり、兄と妹という家族なのだから教えても問題は無いだろうと“噂”の内容をレイチェルに教えて良いと判断した、勿論、内緒|ですよと伝えてであるが――
――えっ、ほんとにそんな事があったの?
内容が内容だけにレイチェルが知らないのも無理は無い。
態々王子と公爵家という危険な話を流石に普通の侍女ならば集めないし、広めないからだ。
だがチェイシーは一流の目と耳の仲間達がいた。
レイチェルが驚き目を丸くするには十分な内容はこうである。
兄が出席すると聞いて休んだ先日の茶会、その席で兄と兄の取り巻きとなっていた少年が一人の令嬢にやり込められた詳細、なぜ詳細まで知っているのか、そこは侍女の凄さとしか言えない。
レイチェル達と同年代であるその公爵令嬢は泥団子で悪戯をしようとした兄の行いを紅茶で阻止した上に糾弾し見事に撃退、その後に取り巻きの少年が意趣返しをしようとした悪不作戯も見事に撃退したと言うのだ。
――私なら絶対泥団子を投げられて泣いてるわ。でもこれが原因なのかしら。
「ねえ、それだけ?」
「それだけといいますと?」
「うーん、私、兄様の変わったわけをしりたいのよ」
「フフ、失礼を。レイチェル様もりっぱなレディですね、こうした話題に興味が出るのですから、そうですわね……ひとつ噂ではなく私の考えでよければ」
「なに、教えてちょうだい」
「はい、では恐らくアルフレッド様が変わった一番の原因は不治の病に落ちたのですよ」
え!? とレイチェルは驚いた。お兄様は確かに乱暴者だけども病気になるだなんて大変だわと。
「大変、すぐにお医者様、いえお母様やお父様に――」
「これは失礼を、姫様大丈夫で御座います、不治の病とは物語での表現で“恋の病は医者には治せない”そういう意味合いの言葉でございますよ」
「ホッ、よかったわ、いくら乱暴だからって病気になったらお母様とお父様が悲しむもの」
レイチェルは天使と侍女達が噂するに違わない優しい心の持ち主だ、泥団子を投げつけるような兄を本気で心配した姿に侍女は思わず感じ入る、やはり聞いていた通りの方だと。
「判りにくい言い方をして申し訳御座いませんでした、姫様はよく物語りをお読みになられますからてっきりご存知かと」
「いいえ、初めて聞いたわ、でも恋の病にお兄様が掛かったのなら……そうよ、婚約などで解決しそうよ?」
「いえいえ、例え王子様といえど、かのご令嬢はスカーレット公爵家のご長女、ヒルデガルド様ですからね、そうそう上手く事は運びませんよ」
この時初めてレイチェルはヒルデガルドの存在を知ったのだがそんなにも凄いのかと驚いた。
兄の我侭でもどうにもならないのは凄いと思ったのだ。
「ヒルデガルド様はそんなにすごいの?」
「ええ、噂では先日別の屋敷でも貴族の子息様の魔術の暴走を止めたとかお聞きしました」
――えっ、私と一緒の年で!?
「凄いわ!?」
「そうですね、なんでも王妃様もお気に入りになられておられるとか、ですのでレイチェル様もお茶会にお出になられましたらお会いできますよ、きっと」
会いたい、会ってみたいとレイチェルは思ったようだ。
瞳がキラキラと輝きだしていた。
それからもヒルデガルドについて知っている事を教えてもらったレイチェルは令嬢達に慕われるというヒルデガルドにどうしても会いたいと決意する。
レイチェルがヒルデガルドの存在を知ってから数日後に開かれた王宮の茶会そこで彼女は自らの姉と呼ぶべき人物にめぐり合う事になる。
精一杯のおめかしをしての出会いだった。
「はじめまして姫様、ヒルデガルド・ルビー・スカーレットと申しますの」
「し、しってまう」
その後、彼女はヒルデガルドの妹宣言をする、それに合わせてもう一人の親友であり騎士であるジャンヌと出会う事になるのだがそれはまた別の話の機会に……
ちょっと実験的な書き方です。
一応正式な設定集は保存してますが需要なんてあるのかなあと思ったり思わなかったり。本編の方では蛇足になるし、イメージ補正が崩れると思いましたがその辺りはどうなのでしょうか。
難しいですよねえ、判断が……読みたいと思う人もいれば裏は知りたくないと思う人も……うーん一応は封印ですねえ。
兎に角、今で20人(ポイントと間違えてたぁ)程の方はこんな閑話的な内容でも喜んでいただけたようなので連載の合間に……できるだけ投稿していきますね!