第99話「黒い森の暴走」
黒い森全体が震えていた。
地面が盛り上がり、木々の根が次々と地表へ飛び出していく。
「くそっ!」
カイが剣を振り抜く。
《裂空斬》
巨大な根が真っ二つになる。
だが――
切断された根は地面へ落ちる前に蠢き始めた。
「再生するのかよ!」
「カイ、右!」
ミナの声。
横から迫っていた根へ、炎の槍が突き刺さる。
《フレイム・ランス》
ドォン!
根が焼け落ちる。
「助かった!」
「まだ来るよ!」
ミナが前を見る。
森の奥から、無数の根が押し寄せていた。
その中心には、巨大な黒い木。
先ほどまで普通の木々に隠れていた幹が、今では山のような大きさになっている。
カイが剣を握り直す。
「……あれを止めないと、レオのところにも影響するな」
「うん」
「なら、俺たちの仕事だ」
ミナが頷く。
「絶対にレオのところまで行かせない」
二人は同時に駆け出した。
その頃。
黒い空間の中では――
レオと守護者が、巨大な黒い目と対峙していた。
無数の黒い腕が迫る。
「来るぞ!」
レオが鎖を放つ。
《死者の鎖》
一本、二本、三本。
黒い腕を次々と拘束する。
しかし数が多い。
一本を止めれば、別の腕が横から襲ってくる。
「多すぎる!」
守護者が前へ出る。
白い光が広がった。
黒い腕が白い光に触れた瞬間、動きを止める。
レオはその隙を逃さなかった。
「今だ!」
《死者の鎖・連撃》
鎖が一斉に黒い腕を貫く。
バシュッ!
黒い腕が崩れ落ちる。
だが、黒い目は動じない。
『……無駄だ』
「何?」
『……森がある限り……私は消えない』
レオは周囲を見る。
無数の根。
黒い木。
囚われた魂。
「森そのものが、お前の力なのか」
『……違う』
黒い目がゆっくりと瞬く。
『……森は……器だ』
「器?」
『……魂を集めるための……器』
レオの表情が険しくなる。
「じゃあ、この森にいる魂は全部……」
『……力になる』
「ふざけるな!」
レオが鎖を叩きつける。
しかし黒い目から放たれた黒い衝撃波が、レオを吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
地面を何度も転がる。
「レオ!」
ガイアの声。
『立て!』
レオは腕を押さえながら立ち上がる。
「……まだだ」
『無茶するな』
「無茶でもやる」
レオは黒い目を睨む。
「この森にいる魂を全部解放する」
黒い目がわずかに揺れた。
『……できると思うのか』
「やってみなきゃ分からないだろ」
その時。
地上から巨大な衝撃音が響いた。
ドォォォン!
「カイ!」
レオが振り向く。
ガイアが答える。
『まだ生きてる!』
「よかった……」
『ただ、かなり苦戦してるぞ』
レオは目を閉じる。
森全体から、魂の声が聞こえてくる。
『……助けて……』
『……ここから……出して……』
『……もう……苦しい……』
レオは静かに息を吐いた。
「守護者」
『……』
「俺が魂を解放する」
守護者がレオを見る。
「その間、俺を守ってくれ」
白い光が強くなる。
「頼む」
守護者が頷いた。
レオは両手を広げる。
「聞こえるか!」
無数の魂がレオを見る。
「お前たちの力を奪う奴は、俺が止める!」
魂たちがざわめく。
「だから――」
レオの身体から大量の鎖が広がっていく。
「自分の意思で、ここから出てくれ!」
《死者の鎖・魂解放陣》
白い光が黒い空間全体へ広がった。
黒い根が一斉に動き出す。
『……やめろ』
黒い目の声が初めて大きくなる。
『……それを……するな!』
「やっぱり嫌なんだな」
レオが笑う。
「だったら、なおさらやる!」
鎖が魂を縛る根へ次々と絡みつく。
一つ。
また一つ。
黒い根が砕ける。
『……返せ……』
「返すのはお前だ!」
魂が黒い根から解放されていく。
そのたびに黒い森の力が弱まっていく。
一方、地上。
「うおおおおっ!」
カイが巨大な根へ突っ込む。
《裂空斬・弐》
ズガァン!
巨大な根が切断される。
「まだだ!」
次の根が迫る。
ミナが手をかざした。
「任せて!」
《炎界》
炎の壁が広がり、根の進行を止める。
「カイ! 今!」
「おう!」
二人が同時に走る。
目指す先は、巨大な黒い木。
「これが本体なら――」
カイが剣を振り上げる。
「叩き切る!」
だが、その瞬間。
黒い木の幹に巨大な目が開いた。
「……!」
ミナが息を呑む。
「こっちにも……目が?」
地面から無数の根が飛び出した。
カイが剣を構える。
「ミナ!」
「分かってる!」
二人は背中合わせになる。
「来い!」
その頃。
地下では、レオの魂解放が続いていた。
だが――
黒い目の奥から、今までとは違う黒い光が生まれる。
ガイアが叫ぶ。
『レオ!』
「分かってる!」
『違う! あれは今までの力じゃない!』
黒い光が巨大な形を作る。
人のような姿。
しかし顔はない。
レオは鎖を構えた。
「……何だ、あれ」
黒い存在が一歩、前へ出る。
そして――
『……お前を……門の向こうへ……』
レオの目が見開かれた。
「……門?」
黒い存在が手を伸ばす。
『……連れて行く』
次の瞬間。
黒い空間そのものが、レオへ襲いかかった。
――第99話・完――




