第100話「門の向こうへ」
黒い空間そのものが、レオへ襲いかかった。
「くっ……!」
足元が崩れる。
壁も天井も分からなくなり、黒い闇が渦を巻いていく。
ガイアの声が響いた。
『レオ! その場から動くな!』
「無理言うな!」
黒い腕が何本も伸びてくる。
レオは鎖を放った。
《死者の鎖》
ガキィン!
黒い腕を弾く。
しかし、一瞬止めただけだった。
別の腕が背後から迫る。
「レオ!」
守護者が割り込む。
白い光が爆発した。
ドォォン!
黒い腕が弾き飛ばされる。
だが守護者の身体も大きく後退した。
「大丈夫か!」
『……』
守護者は立ち上がる。
「無理するな!」
ガイアが叫ぶ。
『レオ、あいつの狙いはお前だ!』
「分かってる」
レオは黒い存在を睨む。
「でも、何で俺なんだ」
黒い存在は答えない。
ただ、手を伸ばす。
『……鍵』
「またそれか」
『……お前は……境界に触れた』
レオの表情が険しくなる。
『……死者の声を聞き……境界を越え……魂を導く』
「だから何だ」
『……お前なら……門を越えられる』
レオは鎖を構えた。
「俺は門を越えるために力を使ってるんじゃない」
『……では、なぜ……』
「仲間を守るためだ」
黒い存在が止まった。
「死者も、生者も関係ない」
レオの周囲に魂たちが集まる。
「俺は誰かを犠牲にして、どちらかを選ぶつもりはない」
守護者の白い光が強くなる。
「だから――」
レオが踏み込む。
「お前のところには行かない!」
《死者の鎖・境界連結》
鎖と白い光が重なり、黒い存在へ突き刺さる。
ズガァァン!
黒い存在の身体が大きく揺れた。
『……拒むか……』
「当たり前だ!」
さらに鎖を伸ばす。
黒い存在の腕を縛る。
「お前が何者なのかは知らない!」
一本。
二本。
三本。
「でも、この森の魂を苦しめるなら――」
鎖が一気に締まる。
「俺は止める!」
黒い存在の身体に亀裂が入った。
その瞬間。
地上から巨大な爆発音。
ドォォォン!
「カイ! ミナ!」
ガイアが叫ぶ。
『二人が危ない!』
レオは一瞬迷った。
目の前には黒い存在。
そして地上には仲間。
「……くそっ!」
レオが鎖を引く。
「守護者!」
守護者がレオを見る。
「こいつを頼む!」
『……』
守護者が一歩前へ出る。
白い光が黒い存在を包み込んだ。
「俺は地上へ行く!」
ガイアが叫ぶ。
『それでいい! ここは俺たちに任せろ!』
レオは魂たちを見る。
「みんな、少しだけ待っててくれ!」
『……分かった』
『……必ず戻って』
レオは頷いた。
《魂渡り》
身体が白い光に包まれる。
そのまま黒い空間から消えた。
地上。
カイが膝をついていた。
「くっ……!」
剣を握る手から血が流れている。
ミナも息を切らしていた。
「カイ……まだ立てる?」
「当然だろ」
巨大な黒い木が二人を見下ろす。
その幹に開いた巨大な目。
無数の根が周囲を埋め尽くしている。
「こいつ……」
カイが立ち上がる。
「普通の木じゃないな」
ミナが魔力を集中させる。
「レオが中で戦ってるなら、私たちも負けられない」
「だな」
二人が構える。
その瞬間。
地面が白く光った。
「……!」
レオが現れる。
「レオ!」
「二人とも無事か!」
カイが笑う。
「遅ぇぞ」
「悪い!」
ミナが振り返る。
「中は?」
「まだ終わってない」
レオは巨大な黒い木を見る。
「でも、分かったことがある」
カイが眉をひそめる。
「何だ?」
「こいつは森を支配してるんじゃない」
レオが木の奥を見る。
「森を使って、何かを作ろうとしてる」
「何を?」
レオは答えようとした。
その時――
森の奥から、低い音が響いた。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
巨大な黒い木の根元が割れる。
その奥から、黒い石が姿を現した。
「……あれは」
レオが目を見開く。
黒い石には――
見覚えのある紋章が刻まれていた。
三つの円。
その中央を貫く一本の線。
「境界監視者の紋章……?」
カイが驚く。
「何でここにあるんだ?」
ミナも石を見る。
「でも……黒く染まってる」
レオが近づく。
守護者から感じた白い境界の力。
地下遺跡で見た黒い力。
その二つが、目の前の石の中で混ざり合っていた。
「……これが原因か」
ガイアが低く言う。
『いや』
レオを見る。
『原因じゃない』
「じゃあ何だ?」
『入口だ』
レオの顔から笑みが消える。
「……入口?」
その瞬間。
黒い石から、あの声が響いた。
『……門を開ける』
レオは鎖を構えた。
「お前……」
『……こちらへ来い』
黒い石の表面に、黒い亀裂が走る。
そして――
森の中央に、巨大な黒い扉が現れ始めた。
カイが剣を握り直す。
「……また門かよ」
ミナが魔力を高める。
「レオ……どうする?」
レオは扉を見つめた。
その奥から聞こえてくるのは――
無数の死者の声。
そして、かすかな笑い声。
レオは鎖を握り締める。
「……開けさせない」
黒い扉が、ゆっくりと動き始めた。
――第100話・完――




