第101話「黒い扉」
黒い森の中心。
巨大な黒い扉が、地面からゆっくりと姿を現していた。
ギギギギ……。
古びた金属が擦れるような音。
扉の表面には、三つの円と一本の線。
境界監視者の紋章。
しかし、その中央は黒く染まっている。
カイが剣を構えた。
「これ……地下遺跡にあった紋章と同じだよな」
「うん」
ミナも扉から目を離さない。
「でも、何か違う」
レオが一歩近づく。
守護者が突然、腕を伸ばした。
『……』
「止まれってことか?」
守護者は頷く。
レオは足を止めた。
「この扉……普通の門じゃない」
ガイアが低い声を出す。
『そうだ』
「何か分かるのか?」
『境界の力が濃すぎる』
ガイアは扉を睨む。
『開けば、向こう側とこちら側が繋がる可能性がある』
レオは拳を握った。
「死界への門と同じなのか?」
『似ている』
「同じじゃない?」
『ああ。これはもっと不安定だ』
その時。
扉の向こうから声が聞こえた。
『……レオ……』
レオの目が見開かれる。
「……俺の名前を?」
カイが振り返る。
「知ってるのか?」
「分からない」
再び声が響く。
『……鍵を……』
「またそれか」
レオが扉へ近づく。
「俺を鍵と呼ぶ奴が多すぎる」
『……開けろ……』
「断る」
即答だった。
カイが苦笑する。
「迷いねぇな」
「開けていい理由がない」
ミナも頷いた。
「そうだね」
しかし扉は止まらない。
ギギギギ……。
隙間から黒い霧が流れ出す。
守護者が前へ出た。
白い光が広がる。
黒い霧が白い光に触れた瞬間――
ジュッ!
霧が消滅した。
『……拒むか』
声が響く。
レオは扉を睨む。
「当たり前だ」
『……ならば……力ずくで……』
扉の隙間から黒い腕が飛び出した。
「来るぞ!」
カイが踏み込む。
《裂空斬》
ズバッ!
黒い腕を切断する。
だが、切断された腕は地面に落ちる前に再び形を変えた。
「まだ動くのか!」
ミナが手をかざす。
《フレイム・ランス》
炎の槍が黒い腕を貫く。
ドォン!
黒い腕が燃え上がる。
「今!」
レオが鎖を伸ばす。
《死者の鎖・拘束》
鎖が黒い腕を縛り上げる。
だが――
黒い腕から大量の黒い光が噴き出した。
「っ!」
レオの鎖が軋む。
『レオ!』
ガイアが叫ぶ。
『その腕、力を吸ってる!』
「またか!」
レオは鎖を解除する。
直後、黒い腕が地面を叩いた。
ドォン!
地面が大きく揺れる。
カイが踏ん張る。
「この扉……開けるだけじゃない」
ミナが扉を見る。
「こっち側の力まで吸ってる」
「だったら――」
レオは守護者を見る。
「守護者」
『……』
「閉じる力を貸してくれ」
守護者が前へ出る。
白い光が扉へ向かって伸びていく。
レオも鎖を展開する。
「俺もやる」
《死者の鎖・境界連結》
白い光と鎖が扉を包む。
ギギギギ……。
動いていた扉が、少しずつ閉じ始める。
「いける!」
カイが叫ぶ。
「このまま閉じろ!」
しかし――
扉の奥から巨大な黒い手が現れた。
「なっ……!」
手が扉の両側を掴む。
閉じようとしていた扉が止まる。
「そんな力が……!」
ミナが魔法を放つ。
《炎界》
炎が黒い手を包む。
しかし黒い手は炎ごと押し返した。
カイが走る。
「だったら俺が!」
《裂空斬・弐》
ズガァン!
黒い手に大きな傷が入る。
だが、傷口から黒い霧が噴き出し、瞬時に塞がる。
「再生までしやがるのか!」
レオは鎖を握り締める。
「……みんな」
「何だ?」
「俺があの手を止める」
カイが振り返る。
「一人でやる気か?」
「違う」
レオが笑う。
「全員でだ」
ミナが頷く。
「分かった」
カイも剣を構える。
「最初からそう言え」
守護者が白い光を放つ。
ガイアも力を貸す。
『行くぞ、冥夜の旅団』
レオが叫ぶ。
「今だ!」
四人と一体の力が一点へ集中する。
《裂空斬》
《フレイム・ランス》
《死者の鎖・境界連結》
そして守護者の白い境界の力。
全てが黒い手へ叩き込まれた。
ドォォォォン!
黒い手が大きく揺れる。
亀裂が走る。
だが――
完全には砕けない。
むしろ黒い手の奥から、さらに巨大な何かが動いた。
レオの表情が変わる。
「……まだ奥にいる」
扉の向こう。
暗闇の中から、二つの巨大な目が開いた。
そして――
『……久しいな……』
レオの身体が固まる。
この声。
何度も聞いた。
死界への門。
黒い森。
黒い空間。
その声と同じだった。
「……お前なのか」
扉の向こうから、低い笑い声が響く。
『……ようやく……ここまで来たか』
レオは鎖を握り締める。
「今度こそ聞くぞ」
扉を睨む。
「お前は、一体何者だ」
黒い扉の奥から答えが返ってくる。
『……まだ……その時ではない』
直後。
扉が激しく震え始めた。
――第101話・完――




