第102話「扉を閉じる戦い」
黒い扉が激しく震えていた。
ギギギギギ……!
扉の隙間から漏れ出す黒い霧。
その向こうでは、巨大な二つの目がレオたちを見つめている。
「……あいつを絶対に出すな」
レオが鎖を握り直す。
カイが剣を構えた。
「分かってる」
ミナも魔力を集中させる。
「扉を閉じればいいんだよね」
「そうだ」
ガイアが周囲を見渡す。
『問題は、あの手だ』
扉を掴んでいる巨大な黒い腕。
切っても、焼いても再生する。
守護者が腕へ白い光を向ける。
『……』
白い光が黒い腕を包む。
ジュウウウ……。
黒い腕の表面が崩れ始めた。
「効いてる!」
だが、完全には消えない。
むしろ黒い腕から黒い霧が噴き出し、守護者へ絡みつく。
「守護者!」
レオが鎖を伸ばす。
《死者の鎖・拘束》
黒い霧を絡め取る。
しかし――
鎖が黒く染まり始めた。
『レオ! 離れろ!』
ガイアの警告。
「まだだ!」
『吸われるぞ!』
「分かってる!」
レオは鎖を握り締める。
「だからこそ――!」
鎖へ魂たちの光が集まる。
《魂連結》
黒く染まりかけた鎖が再び白く輝いた。
「これなら!」
鎖が黒い霧を引き剥がす。
守護者が自由になる。
『……』
「大丈夫か?」
守護者は頷いた。
「よし」
その瞬間。
黒い腕が振り下ろされた。
「危ない!」
カイが飛び込む。
《裂空斬》
ズガァン!
巨大な腕を横から斬りつける。
黒い腕が大きく揺れた。
「ミナ!」
「任せて!」
《フレイム・ランス》
炎の槍が傷口へ突き刺さる。
ドォン!
黒い腕が燃え上がる。
「今だ、レオ!」
レオは扉へ向かって走った。
「守護者!」
白い光が扉全体を包む。
レオも鎖を伸ばす。
《死者の鎖・境界連結》
鎖が扉の周囲へ絡みつく。
ギギギ……。
扉が動き始める。
少しずつ。
ほんの少しずつだが、閉じていく。
「いける!」
カイが叫ぶ。
しかし――
扉の奥から声が響く。
『……無駄だ』
「!」
黒い目がこちらを見た。
『……この扉は……お前たちが閉じるものではない』
レオが睨み返す。
「だったら何だ」
『……選ばれた者だけが……閉じる』
「誰に選ばれる?」
沈黙。
そして――
『……境界に』
レオの胸元の紋章が突然輝いた。
「っ!」
強烈な痛みが走る。
「ぐっ……!」
膝をつく。
カイが駆け寄る。
「レオ!」
「来るな!」
レオの胸から黒い光が漏れ始めた。
ガイアが叫ぶ。
『レオ! その力を受け入れるな!』
「分かってる!」
『違う! あいつは力を送り込んでるんじゃない!』
「じゃあ何だ!」
『お前の中にある力を――引き出そうとしてる!』
レオは息を呑む。
自分の中から、何かが引っ張られている。
死者たちとの繋がり。
守護者との繋がり。
そして――
境界そのものとの繋がり。
「……これが」
レオは胸を押さえる。
「俺の力の正体……?」
『……まだだ』
黒い目が笑う。
『……お前は……まだ知らない』
「何を!」
『……なぜ……お前が……選ばれたのか』
レオの目が鋭くなる。
「それを知りたいなら――」
鎖を強く握る。
「なおさら、お前の言う通りにはならない!」
魂たちの光が爆発的に広がる。
《死者の鎖・魂連結・極》
無数の魂が鎖を支える。
「俺が選ぶ!」
鎖が一気に扉を引く。
ギギギギギ……!
扉が大きく閉じていく。
黒い腕が必死に抵抗する。
カイが走った。
「押し込むぞ!」
ミナも続く。
「うん!」
二人が黒い腕へ攻撃を集中させる。
《裂空斬》
《炎界・圧縮》
ドォォン!
黒い腕が大きく揺れる。
守護者が白い光を放つ。
その瞬間。
黒い腕に大きな亀裂が入った。
「今だ!」
レオが叫ぶ。
「全員、力を貸してくれ!」
カイが剣を振り上げる。
「任せろ!」
ミナが魔力を集中させる。
「絶対に閉じる!」
ガイアが叫ぶ。
『やれ!』
守護者の白い光が最大まで強まる。
そして――
全員の力が一点に集まった。
ドォォォォォン!
黒い腕が砕け散る。
扉が一気に閉じる。
バタンッ!
完全な静寂。
森を覆っていた黒い霧も止まった。
「……終わった?」
ミナが息を切らしながら呟く。
レオは扉を見る。
「……いや」
カイが眉をひそめる。
「何だ?」
レオは扉の表面へ手を伸ばす。
触れない。
その直前で止める。
「まだ……向こうにいる」
扉の奥から、最後の声が聞こえた。
『……また……会おう』
そして黒い扉に、一筋の亀裂が残った。
完全には閉じていない。
レオは鎖を握る。
「……終わってないな」
ガイアが静かに答えた。
『ああ』
守護者も扉を見つめている。
森には再び静寂が戻った。
しかし――
地面の下。
閉じたはずの扉のさらに奥で。
何かがゆっくりと動いた。
――第102話・完――




