第98話「黒い目」
黒い空間の奥。
巨大な目が、ゆっくりと開いた。
レオは鎖を構えたまま動かない。
「……あれは」
ガイアの声が響く。
『レオ、近づくな』
「分かってる」
目はレオを見ていなかった。
その視線は、レオの背後。
守護者へ向けられている。
「……守護者を見てる?」
白い光が強くなる。
守護者が一歩前へ出た。
『……』
声を発することはない。
だが、その身体から放たれる力が明らかに変わった。
レオは守護者の前に立つ。
「守護者に何をするつもりだ」
巨大な目がゆっくり瞬きをする。
『……三百年……』
低い声が響く。
『……まだ……そこにいるのか……』
レオの表情が変わった。
「三百年前から守護者を知っているのか?」
返事はない。
代わりに黒い根が一斉に動き出した。
「来るぞ!」
レオが鎖を展開する。
《死者の鎖》
無数の根を絡め取る。
しかし――
バキッ!
黒い根が鎖を引きちぎった。
「くっ!」
横から別の根が迫る。
守護者が腕を掲げた。
白い光が壁となって広がる。
ドォン!
根が弾き飛ばされた。
『レオ!』
ガイアが叫ぶ。
『今のうちに中心を狙え!』
「分かった!」
レオが駆け出す。
黒い塊へ向かう。
だが、巨大な目がこちらを向いた。
『……魂を返せ』
レオが足を止める。
「……何?」
『……その魂は……こちらのものだ』
「ふざけるな!」
レオが鎖を振り抜く。
「魂は誰かの所有物じゃない!」
《死者の鎖・魂連撃》
大量の鎖が黒い塊へ突き刺さる。
ドォォォン!
黒い塊が大きく揺れる。
閉じ込められていた魂たちが一斉に光り始めた。
『……レオ……』
『……もう少し……』
『……お願い……』
「分かってる!」
レオはさらに力を込める。
「みんなの力を貸してくれ!」
無数の魂がレオの周囲に集まる。
その瞬間。
黒い目が大きく開いた。
『……やめろ』
初めて声に明確な焦りが混じった。
「今まで散々苦しめてきたんだろ」
レオが鎖を握り直す。
「だったら――」
黒い光と白い光がぶつかる。
「ここで終わらせる!」
その時だった。
外側から轟音が響いた。
「レオ!」
カイの声。
「木がさらにデカくなってる!」
ミナも叫ぶ。
「根が地上まで伸びてる!」
ガイアが舌打ちする。
『このままだと森そのものが飲み込まれるぞ!』
レオは黒い塊を見る。
そして、守護者を見る。
「……守護者」
『……』
「力を貸してくれ」
守護者が静かに頷いた。
白い光がレオの鎖へ流れ込む。
《死者の鎖》が白と黒、二つの光を帯びる。
「これなら……!」
レオが黒い塊へ向かって踏み込む。
しかし、巨大な目から黒い光線が放たれた。
「っ!」
守護者が前へ出る。
ズガァァン!
直撃。
白い光が砕け散る。
「守護者!」
守護者の身体が大きく揺れる。
「くそっ!」
レオが駆け寄ろうとする。
だが――
守護者が手を伸ばし、レオを止めた。
『……』
「……戦えるってことか?」
守護者は再び立ち上がる。
その胸の奥に、白い光が灯った。
ガイアが低く呟く。
『あいつ……三百年前と同じことをしようとしてる』
「何を?」
『境界を食ってるんだ』
レオは目を見開く。
「……境界を?」
『死者の魂だけじゃない。守護者の力も、森の生命力も……全部だ』
黒い目が再びこちらを見る。
『……境界を……壊す……』
レオの背筋に冷たいものが走る。
「お前は……門を開けたいんじゃない」
黒い目が揺れる。
「境界そのものを消そうとしてるのか」
『……』
沈黙。
それが答えだった。
レオは鎖を構え直した。
「だったら、絶対に止める」
黒い目の奥から、無数の黒い腕が現れる。
外では森全体が大きく揺れ始めた。
カイが叫ぶ。
「レオ! 急げ!」
ミナも魔法を構える。
「私たちも時間を作る!」
ガイアが笑う。
『行くぞ、レオ』
レオは仲間たちの気配を感じながら、黒い目を睨んだ。
「冥夜の旅団――全員で止める!」
黒い森が、大きく震えた。
――第98話・完――




