第97話「黒い森の魂」
暗闇の中。
レオは一人、立っていた。
周囲には無数の魂。
白く淡い光を放つ者。
苦しそうにうずくまる者。
黒い根に絡め取られ、身動きできない者。
「……こんなに」
レオが周囲を見渡す。
『……助けて……』
『……苦しい……』
『……もう、眠りたい……』
声が重なっていく。
レオは拳を握った。
「待ってろ」
《死者の鎖》
鎖が伸び、魂を縛る黒い根へ絡みつく。
だが――
バチィッ!
鎖が弾き飛ばされた。
「くっ!」
黒い根がレオへ向かって伸びる。
レオは横へ飛んだ。
ドンッ!
地面を黒い根が突き破る。
「やっぱり、簡単にはいかないか」
背後からガイアの声が聞こえる。
『レオ、聞こえるか』
「ああ」
『外ではカイとミナが木を抑えている。守護者も持ちこたえてる』
「どれくらい?」
『長くは持たない』
レオは黒い根を見る。
「なら、急ぐ」
再び鎖を展開する。
今度は一本ではない。
数十本の鎖が周囲へ伸びる。
《死者の鎖・群縛》
黒い根を次々と拘束していく。
「今だ!」
鎖を引く。
ギギギ……。
黒い根が軋む。
しかし――
黒い根から黒い光が鎖へ流れ込んだ。
「っ!」
レオの腕が震える。
『吸われてるぞ!』
「分かってる!」
鎖を解除しようとした瞬間。
一つの魂がレオの前へ飛び出した。
「待って!」
レオが手を伸ばす。
「その力を使って!」
魂がレオを見る。
『……私たちも……戦える』
「え?」
『私たちは……奪われた』
『だから……返してほしい』
レオは目を見開く。
魂たちが次々と立ち上がる。
『私たちの力を……』
『私たち自身のために使わせて』
レオの胸に力が流れ込む。
温かい。
今までとは違う。
奪った力ではない。
魂たち自身が差し出している力だった。
「……分かった」
レオは鎖を握る。
「一緒に取り戻そう」
白い光が鎖へ宿る。
《死者の鎖・魂連結》
今度は黒い根が鎖を吸収しようとしても、逆に押し返されていく。
「これなら……!」
レオが走る。
黒い根の中心へ向かう。
その奥に巨大な黒い塊が見える。
まるで心臓のように脈動している。
ドクン。
ドクン。
「これが……黒い力の中心か」
ガイアが叫ぶ。
『レオ、そこだ!』
「分かってる!」
黒い塊から無数の根が飛び出す。
レオは鎖を振る。
「《魂連結・連鎖撃》!」
バシュッ!
一本。
二本。
三本。
黒い根が次々と切断される。
だが――
黒い塊の奥から、巨大な黒い腕が現れた。
『……邪魔をするな』
レオの動きが止まる。
「またお前か」
『……鍵……』
「俺は鍵じゃない」
『……鍵だ』
「違う!」
レオは鎖を構える。
「俺はレオだ!」
黒い腕が迫る。
「俺の仲間も――」
鎖が光る。
「俺が救う!」
ドンッ!
黒い腕と鎖が激突した。
衝撃でレオの身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
その瞬間。
魂たちが一斉にレオを支えた。
『立って』
『まだ終わってない』
『私たちはここにいる』
レオはゆっくり立ち上がる。
「……そうだな」
黒い腕を睨む。
「俺一人じゃない」
外からも声が聞こえた。
『レオ!』
カイだ。
『こっちは任せろ!』
ミナの声も続く。
『絶対に負けないで!』
さらに――
『レオ』
ガイア。
そして守護者の白い光が、暗闇の奥まで届いた。
レオは笑った。
「……みんな、ありがとう」
黒い腕が再び襲いかかる。
今度は避けない。
レオは鎖を両手に握る。
「お前が何者なのかは、まだ分からない」
鎖が無数に分裂する。
「でも――」
魂たちの光が集まる。
「この魂たちは渡さない!」
《死者の鎖・魂連撃》
無数の鎖が黒い腕へ殺到した。
ドドドドドッ!
黒い腕が大きく揺れる。
『……なぜ……』
レオが叫ぶ。
「死者は、お前の力じゃない!」
最後の鎖が黒い腕を貫く。
「俺たちの仲間だ!」
バキィィン!
黒い腕に亀裂が走った。
しかし――
黒い塊そのものには、まだ傷一つない。
そして黒い塊の奥から、別の気配が生まれる。
レオの表情が変わった。
「……まだいる?」
ガイアの声が低くなる。
『レオ……』
「分かってる」
黒い塊の奥。
そこに――
巨大な一つの目が開いた。
――第97話・完――




