第96話「森に残る黒い力」
地下遺跡が崩壊してから、しばらく。
森には静けさが戻っていた。
レオたちは、崩れ落ちた入口の前に立っている。
「……完全に塞がったな」
カイが崩れた岩を見つめる。
ミナも周囲を確認する。
「さっきまで感じていた黒い気配も、かなり弱くなってる」
レオは手にした石板を見る。
「でも、完全には消えてない」
ガイアが低く答えた。
『俺も感じる』
「どこだ?」
『森の奥だ』
守護者が同じ方向を指差す。
「やっぱりか」
レオは石板を懐にしまった。
「行こう」
カイが振り返る。
「また森の奥かよ」
「原因を残したまま帰るわけにはいかない」
「分かった」
ミナが杖を握る。
「今度こそ全部終わらせよう」
五人は森の奥へ進んだ。
しばらく歩くと、木々の様子が変わり始めた。
葉が黒く変色している。
地面にも、細い黒い筋が走っていた。
「……これ」
ミナがしゃがみ込む。
「魔力?」
レオも地面を見る。
「違う」
指先を近づける。
すると黒い筋が、まるで生き物のように動いた。
「!」
レオがすぐに手を引く。
ガイアが警告する。
『触るな』
「分かってる」
黒い筋は地面を這い、森の奥へ伸びている。
カイが剣先で軽く触れる。
ジュッ。
剣の表面が黒く変色した。
「うわっ!」
カイが慌てて剣を離す。
「危ねえ!」
レオが目を細める。
「この力……生きている」
ミナが驚く。
「黒い魔力が、自分で動いてるの?」
「たぶん」
その時。
森の奥から、かすかな声が聞こえた。
『……たすけて……』
レオが振り向く。
「今、声がした」
ガイアが周囲を見渡す。
『死者の声だ』
レオは走り出した。
「待て、レオ!」
カイたちも後を追う。
声を追って進んだ先。
一本の巨大な木が立っていた。
その幹には、黒い亀裂が走っている。
そして木の根元には――
一人の男が倒れていた。
「人間!?」
ミナが駆け寄る。
男は傷だらけだった。
まだ息がある。
「大丈夫ですか!」
男がゆっくり目を開ける。
「……に……逃げろ……」
「何から?」
男は震える手で森の奥を指差した。
「……黒い……木……」
レオが木を見る。
「この木のことか?」
男が首を横に振る。
「……もっと……奥……」
その直後。
ズズズ……。
地面が揺れた。
巨大な木の根が、ゆっくりと動き始める。
カイが剣を抜く。
「木が動いたぞ!」
黒い亀裂から、黒い霧が噴き出す。
レオが鎖を展開する。
「全員、離れて!」
ドンッ!
黒い根が地面から飛び出した。
カイが斬り払う。
「《裂空斬》!」
根が切断される。
だが――
切断された根から、さらに二本の根が伸びてくる。
「増えた!?」
ミナが炎を放つ。
「《フレイム・ランス》!」
炎が根を焼く。
黒い根は燃えながらも動き続ける。
ガイアが叫ぶ。
『普通の植物じゃない!』
「分かってる!」
レオは死者の鎖を伸ばす。
《死者の鎖・拘束》
根をまとめて縛り上げる。
「止まれ!」
しかし――
鎖に触れた黒い根から、逆に力が流れ込んできた。
「っ……!」
レオの身体に黒い光が走る。
『レオ! 切れ!』
ガイアの声。
レオは即座に鎖を解除した。
「今のは……」
ガイアが答える。
『あいつは、お前の死者の力まで食おうとした』
レオは木を睨む。
「魂を食うだけじゃない」
黒い亀裂が大きくなる。
「力そのものを食ってる……」
守護者が前へ出た。
白い光が広がる。
黒い根の動きが止まった。
だが、完全には消えない。
むしろ――
木の幹の奥から、無数の声が響き始めた。
『……苦しい……』
『……出して……』
『……ここから……』
レオの顔色が変わる。
「魂がいる」
ミナが木を見る。
「この木の中に?」
「そうだ」
レオは一歩前へ出る。
「まだ囚われてる」
カイが止める。
「待て。さっきみたいに力を吸われるぞ」
「分かってる」
レオは拳を握る。
「でも、助ける」
ガイアが静かに言った。
『なら、今回は俺も一緒に行く』
レオが振り返る。
「ガイア?」
『お前一人で魂の中へ入るより、俺が外側から支える』
守護者もレオの隣に立つ。
カイが笑う。
「俺たちは外で木を抑える」
ミナが頷く。
「中のことは任せる」
レオは仲間たちを見る。
「……ありがとう」
五人の役割が決まった。
カイとミナが前へ出る。
守護者が白い光で木の動きを抑える。
ガイアはレオの魂へ意識を繋ぐ。
そしてレオは――
木の黒い亀裂へ手を伸ばした。
「行くぞ」
黒い亀裂の中へ、レオの意識が引き込まれる。
次の瞬間。
目の前に広がったのは――
真っ暗な空間。
その中心に、無数の魂が黒い根に縛られていた。
「……また、こんなに……」
レオの前方。
巨大な黒い根がゆっくりと動く。
その奥から、あの声が響いた。
『……また来たか……』
レオの目が鋭くなる。
「お前……」
聞き覚えのある声。
死界の門の向こう。
黒い核。
そして地下遺跡。
何度も聞いた声だった。
『……鍵……』
レオは鎖を構える。
「今度こそ、正体を教えてもらうぞ」
巨大な黒い根が一斉に動き出した。
――第96話・完――




