第95話「石板に刻まれた真実」
地下遺跡の最深部。
レオは、台座の上に置かれた石板を見つめていた。
表側に刻まれていた言葉。
『死界の門を壊す者は、世界そのものを壊す』
そして、その裏側。
『ただし――』
その先に刻まれていた文字を、レオはゆっくり読み上げた。
「『門を閉じるだけでは、世界は救われない』……」
カイが眉をひそめる。
「どういうことだ?」
ミナも石板を覗き込む。
「門を壊しても駄目。閉じても駄目……?」
ガイアが低く唸った。
『つまり、どちらも完全な答えじゃないってことだ』
レオは石板を裏返す。
その下には、さらに細かな文字が続いていた。
『死界の門は、世界と死界を隔てる壁ではない』
『それは、二つの世界が接触しないための境界である』
『境界が消えれば、生者と死者の区別も失われる』
レオの表情が険しくなる。
「だから、あの声は言っていたのか……」
ミナが顔を上げる。
「どの声?」
「死界の門の向こうにいる存在が言った」
レオは思い出す。
『門を開ければ、世界は一つになる』
「世界を一つにするっていうのは……」
レオが石板を見る。
「生者と死者の境界をなくすことなのかもしれない」
カイが剣を握り直した。
「それが、あいつの目的?」
「まだ分からない」
レオは首を横に振る。
「でも、今までの事件が繋がってきた」
森の魔物。
囚われた魂。
黒い核。
地下遺跡。
黒い欠片。
そして、境界の残骸。
すべてが死界との境界に関係している。
その時――
「……その石板を渡せ」
黒衣の男が口を開いた。
レオが振り返る。
「嫌だ」
「それは、お前が持つべきものじゃない」
「なら、なぜ?」
「その記録を知れば――」
男が言葉を止める。
レオは目を細めた。
「何だ?」
男は答えない。
代わりに、隣にいた男が黒い刃を構えた。
「話は終わりだ」
カイが前へ出る。
「だったら、戦うしかないな」
「カイ!」
「分かってる」
カイが地面を蹴る。
一気に敵との距離を詰めた。
ガキィン!
剣と黒い刃がぶつかる。
「くっ……!」
黒衣の男が後退する。
そこへミナが炎を放つ。
「《フレイム・ランス》!」
炎の槍が男の肩をかすめる。
「ぐっ!」
しかし、別の男がミナへ迫る。
「ミナ!」
レオの鎖が伸びる。
《死者の鎖》
ガシャン!
黒衣の男の腕を捕らえる。
「ここから先は行かせない!」
男が黒い力を爆発させる。
鎖が震える。
「この力……!」
レオは鎖を強く握る。
「死者の力を奪ってるのか!」
男が笑った。
「お前も死者を使っているだろう!」
「違う!」
レオの鎖がさらに増える。
「俺は、死者に力を貸してもらってる!」
無数の鎖が男を押さえ込む。
「死者を道具にはしない!」
男が苦しそうに叫ぶ。
「綺麗事を……!」
その瞬間。
黒い力が一気に膨れ上がった。
ドンッ!
レオが吹き飛ばされる。
「レオ!」
守護者が受け止める。
「……助かった」
守護者が前を向く。
白い光が広がった。
黒い力が押し返される。
ガイアが叫ぶ。
『今だ、レオ!』
「分かってる!」
レオは再び鎖を展開した。
《死者の鎖・縛陣》
床から大量の鎖が伸び、三人の黒衣の者たちをまとめて拘束する。
「ぐっ!」
「動けない!」
カイが剣を構える。
「今度こそ終わりだ!」
しかし――
先頭の男が黒い欠片を取り出した。
レオの目が見開かれる。
「それは……!」
黒い欠片が強く光る。
守護者が反応した。
『……!』
白い光が乱れる。
地下遺跡全体が揺れ始めた。
「何をするつもりだ!」
男が答える。
「この遺跡を封じる」
「何?」
「ここにあるものを、誰にも触れさせない」
黒い欠片が砕ける。
パキィン!
次の瞬間。
遺跡の壁に亀裂が走った。
ゴゴゴゴ……!
天井から大量の石が落ちてくる。
「逃げるぞ!」
カイが叫ぶ。
ミナが石を避ける。
「このままじゃ遺跡が崩れる!」
レオは石板を掴んだ。
「みんな、出口へ!」
五人が走り出す。
その背後で、黒衣の三人も別の通路へ逃げていく。
「待て!」
レオが追おうとする。
しかし守護者が腕を掴んだ。
「……!」
「分かってる」
レオは足を止めた。
崩壊する遺跡。
今は戦っている場合ではない。
「まず、外へ出る!」
五人は全力で走った。
長い地下通路を駆け抜ける。
その途中――
レオの手にある石板が突然光った。
「……?」
石板の文字が変化する。
そこに新たな文章が浮かび上がった。
『門を閉じる鍵は、死者を率いる者の中にある』
レオが息を呑む。
「……俺のことか?」
さらに一行。
『しかし、鍵だけでは門を閉じることはできない』
「じゃあ……何が必要なんだ?」
最後の文字が浮かび上がる。
『境界を守る者と、魂を導く者』
レオは守護者を見る。
守護者も石板を見つめている。
ガイアが静かに呟いた。
『レオと守護者……』
レオは頷いた。
「俺たち二人が必要ってことか」
その瞬間。
背後から轟音が響いた。
ドォォォン!
地下遺跡が完全に崩れ始めた。
「急げ!」
五人は出口へ向かう。
そして――
森の中へ飛び出した。
その直後。
ズドォォォン!
地下遺跡の入口が完全に崩れ落ちた。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがてカイが息を整える。
「……なんとか出られたな」
ミナも頷く。
「でも、黒衣の人たちは逃げちゃった」
レオは手元の石板を見る。
「……それでも、収穫はあった」
「何が?」
レオは石板を見つめた。
「黒い欠片は、門を開く鍵じゃない」
そして守護者を見る。
「門を壊すための力になり得る」
さらに――
「でも、門を閉じる方法も少し分かった」
ガイアが続ける。
『魂を導く者と、境界を守る者』
レオは頷いた。
「俺と守護者だ」
守護者が静かにレオを見る。
その時。
森の奥から――
小さな黒い光が浮かび上がった。
レオが振り返る。
「……まだ何かいる」
黒い光は一瞬だけ輝き――
消えた。
レオは石板を握りしめる。
この森で起きた事件は、まだ終わっていない。
――第95話・完――




