第87話「魂の反撃」
黒い空間。
レオは巨大な核を見上げていた。
その周囲には、無数の魂が漂っている。
魂と核を繋いでいた黒い鎖は、レオの《死者の鎖》によって一部が切断されていた。
しかし――
まだ多くの魂が捕らわれている。
『……無駄だ』
黒い核から声が響く。
『死者は力になる』
「違う」
レオは鎖を握り直す。
「死者は道具じゃない」
黒い影がレオへ襲いかかった。
「《死者の鎖》!」
青白い鎖が黒い影の腕を受け止める。
ギィン!
「ぐっ……!」
黒い影の力が強い。
鎖が少しずつ押し込まれる。
『お前も同じだ』
「何?」
『死者の力を使っている』
黒い影が笑うように揺らめく。
『ならば、お前も我らと同じだ』
レオは黙った。
確かに、レオは死者の力を借りている。
だが――
「俺は、死者から奪ってない」
鎖に力を込める。
「力を貸してくれって頼んでるんだ!」
その瞬間。
周囲の魂たちが一斉に輝いた。
『そうだ……』
『俺たちは……』
『自分の意思で……』
青白い光がレオへ集まってくる。
黒い影が後退した。
『馬鹿な……』
レオの鎖がさらに強くなる。
「みんな!」
レオが叫ぶ。
「自分の力を取り戻せ!」
魂たちが一斉に動いた。
黒い鎖を掴む。
『返せ!』
『俺たちの魂を!』
『もう……お前には渡さない!』
魂たちが黒い鎖を引き始める。
ギギギギ……。
黒い鎖に亀裂が入る。
一つ。
二つ。
次々と鎖が砕けていく。
黒い影が叫ぶ。
『やめろ!』
「今だ!」
レオが鎖を振るう。
「《死者の鎖・解放》!」
青白い鎖が一気に走る。
バキィン!
大量の黒い鎖が砕け散った。
解放された魂たちが光へ変わっていく。
だが――
黒い核が激しく脈打った。
ドクン!
空間全体が揺れる。
レオが踏ん張る。
「まだ終わってない……!」
核の表面に亀裂が走った。
そこから大量の黒い触手が伸びてくる。
『ならば……全てを喰らう』
触手が魂たちへ向かう。
「させるか!」
レオが前へ出る。
《死者の鎖》が何重にも重なり、巨大な壁となった。
ドガガガガッ!
触手が鎖へ突き刺さる。
レオの身体に激痛が走る。
「ぐあっ……!」
『レオ!』
ガイアの声が聞こえる。
『無理するな!』
「まだ……!」
レオは膝をつきながらも鎖を維持する。
「まだ、みんなが残ってる!」
その頃、外。
森の主が咆哮を上げていた。
「グオオオオオッ!」
巨体が暴れ、木々が次々となぎ倒される。
カイが攻撃をかわす。
「くそっ! レオはまだ戻らないのか!」
ミナが魔法を放つ。
「《炎槍・連撃》!」
炎槍が巨獣の脚へ集中する。
「少しでも動きを止める!」
だが、森の主は炎を振り払い、ミナへ突進する。
「ミナ!」
カイが割り込む。
剣で爪を受け止める。
「ぐっ……!」
そのまま地面を滑る。
「カイ!」
守護者が横から飛び込む。
白い光をまとった拳が森の主の身体へ叩き込まれた。
ドンッ!
巨獣がよろめく。
ガイアが叫ぶ。
『胸の黒い核だ!』
「分かってる!」
カイが立ち上がる。
「でも、レオが中にいる!」
『だから直接壊せない!』
ミナが森の主を見る。
「じゃあ、どうすれば……」
ガイアが考える。
『黒い力を弱めながら、レオが戻れる道を作る』
カイが笑う。
「それならやることは決まったな」
ミナも頷く。
「私たちで時間を稼ぐ」
守護者が一歩前へ出る。
白い光がさらに強くなる。
ガイアが続ける。
『俺はレオとの繋がりを維持する』
カイが剣を構える。
「なら俺たちは、こいつを抑える!」
ミナが杖を掲げる。
「行くよ!」
三人と二つの力が同時に動いた。
カイが正面から斬り込む。
「《裂空斬・弐》!」
ミナが左右から炎を放つ。
「《炎界》!」
守護者が森の主の前脚を受け止める。
ガイアの力がレオへ繋がる。
その瞬間。
黒い空間にいたレオの前へ、一筋の光が現れた。
「……みんな?」
光の向こうから仲間たちの気配を感じる。
カイ。
ミナ。
ガイア。
守護者。
レオは拳を握った。
「そうか……」
黒い核を見る。
「俺は一人じゃない」
レオの周囲へ、解放された魂たちが集まってくる。
『行け』
『俺たちも手伝う』
『あの核を壊してくれ』
レオは頷いた。
「分かった」
無数の魂がレオの鎖へ宿る。
青白い光が、今までとは比べ物にならないほど強くなる。
黒い影が叫ぶ。
『やめろォォォッ!』
レオが踏み込む。
「これが――」
鎖を振り上げる。
「死者と共に戦う力だ!」
「《死者の鎖・魂連撃》!」
無数の鎖が一斉に黒い核へ突き刺さった。
ドゴォォォン!
核に大きな亀裂が走る。
外の森の主も同時に咆哮した。
「グオオオオオオオッ!」
胸の黒い光が激しく揺らぐ。
カイが目を見開く。
「効いてる!」
ミナが叫ぶ。
「レオ!」
その声が届いた。
「聞こえてる!」
レオは答える。
黒い核が砕け始める。
だが――
核の奥から、巨大な黒い腕が伸びてきた。
レオの顔から笑みが消える。
「……まだいたのか」
黒い腕がレオへ迫る。
その腕の奥から、あの声が響く。
『……こちらへ来い』
レオは鎖を構える。
「行くわけないだろ!」
――第87話・完――




