第86話「囚われた魂」
森の奥に響き渡る咆哮。
巨大な獣――森の主は、身体を震わせながらレオたちを睨みつけていた。
胸の中央に浮かぶ黒い光。
その中には、無数の魂が閉じ込められている。
レオには、それがはっきりと感じ取れていた。
「……苦しんでる」
カイが剣を構える。
「どうすればいい?」
「まず、あの黒い光を弱める」
ミナが杖を握る。
「でも、壊したら中の魂まで消えるんじゃない?」
「だから慎重にやる」
ガイアが低い声で続ける。
『俺が黒い力の流れを探る』
「頼む」
『分かった』
ガイアの力がレオへ流れ込む。
レオの視界が変わった。
森の主の身体を流れる黒い力。
その中心には巨大な核がある。
そこから無数の黒い線が伸び、身体中へ広がっていた。
そして――
その線の一本一本に、魂が絡みついている。
「……見えた」
ミナが尋ねる。
「何が?」
「黒い力の中心だ」
レオが胸を指す。
「ただ、そこへ直接攻撃すると魂まで傷つく」
カイが唸る。
「厄介だな」
森の主が突然前脚を振り上げた。
「来る!」
ドォン!
地面が砕ける。
レオたちはそれぞれ左右へ飛んだ。
カイがすぐに反撃する。
「《裂空斬》!」
斬撃が森の主の前脚を切り裂く。
「グオオッ!」
傷口から黒い煙が噴き出した。
ミナが気づく。
「今!」
「待って!」
レオが叫ぶ。
森の主の傷口から、魂の姿が一瞬だけ見えた。
苦しそうに顔を歪めている。
「攻撃しすぎると魂まで巻き込まれる!」
カイが剣を止める。
「じゃあ、どうするんだ!」
レオは森の主を見つめる。
「……俺が中へ入る」
「は?」
カイが目を丸くする。
「どうやってだよ」
「死者の力を使う」
ガイアがすぐに察する。
『危険だぞ』
「分かってる」
レオは目を閉じる。
周囲に漂う死者の気配へ意識を向ける。
「聞こえるか?」
無数の声が重なる。
『助けて……』
『苦しい……』
『出して……』
「今から助ける」
レオの身体から青白い光が広がった。
守護者が一歩近づく。
白い光がレオを包む。
「守護者……力を貸してくれるのか」
守護者が頷く。
『なら、俺も支える』
ガイアの声が重なる。
三つの力が一つになった。
レオの身体が青白い光に包まれる。
「レオ!」
カイが叫ぶ。
「絶対に無茶するなよ!」
「分かってる!」
レオは森の主へ手を伸ばした。
「《魂渡り》」
次の瞬間。
レオの意識が森の主の身体へ引き込まれた。
真っ暗な空間。
上下も左右も分からない。
無数の魂が漂っている。
「ここが……」
レオは周囲を見る。
魂たちは黒い鎖に繋がれていた。
「みんな、聞いてくれ」
一つの魂がレオへ近づく。
『……人間……?』
「そうだ」
『どうして……ここに……』
「助けに来た」
魂たちがざわめく。
『助けて……』
『外へ……』
『もう苦しい……』
レオは拳を握る。
「必ず出す」
その瞬間。
空間全体が揺れた。
ドクン。
ドクン。
巨大な黒い核が遠くに浮かび上がる。
レオは目を細める。
「あれが中心か」
黒い核から、無数の鎖が伸びている。
しかし、その鎖は普通の鎖ではなかった。
魂そのものから生えている。
「……これを切ればいい」
レオが手を伸ばす。
すると――
黒い影が現れた。
人の形をしている。
顔はない。
ただ、二つの赤い目だけが浮かんでいる。
『触れるな』
低い声が響く。
レオは構える。
「お前は何だ」
『この魂は……我らの力だ』
「魂は誰かの物じゃない」
『ならば……奪ってみろ』
黒い影が襲いかかる。
「くっ!」
レオが横へ飛ぶ。
黒い腕が地面をえぐった。
「死者の力を使ってるのか……?」
『違う』
影が腕を広げる。
『死者そのものを力へ変えている』
レオの表情が険しくなる。
「……許さない」
影が再び襲いかかる。
レオは両手を前へ出す。
「《死者の鎖》!」
青白い鎖が飛び出し、黒い影の腕へ絡みつく。
しかし、影は鎖を掴んだ。
『その力も……喰らう』
鎖が黒く染まり始める。
「なっ……!」
『レオ!』
外からガイアの声が聞こえる。
『その場所に長くいるな! 黒い力がお前まで取り込もうとしてる!』
レオは歯を食いしばる。
「だったら……急ぐ!」
鎖へさらに力を込める。
「みんな!」
魂たちがレオを見る。
「俺に力を貸してくれ!」
一瞬。
無数の魂が光った。
『……分かった』
『一緒に……』
『助けて……』
青白い光が一気に広がる。
黒い影が初めて後退した。
『馬鹿な……』
レオは鎖を握り締める。
「死者は、お前の力じゃない!」
そして――
「俺たちの仲間だ!」
青白い鎖が、黒い核へ向かって伸びていく。
だが。
黒い核の奥から、別の声が響いた。
『……また……死者を率いる者か』
レオの動きが止まる。
聞き覚えのない声。
しかし――
どこか、死界の門の向こうから聞こえた声に似ていた。
『……ならば……お前も……こちらへ来い』
黒い核が巨大化する。
レオの身体が引き寄せられる。
「くっ……!」
外では、森の主が突然暴れ始めていた。
カイが叫ぶ。
「レオに何か起きてる!」
ミナが杖を構える。
「どうするの!?」
守護者が森の主へ向かって走る。
ガイアの声が響く。
『レオを戻すぞ!』
カイが剣を握り直す。
「分かった!」
ミナも続く。
「絶対に連れ戻す!」
三人と一体が森の主へ立ち向かう。
一方――
黒い世界の中。
レオは巨大な核を見つめていた。
「……お前が、この力を操っているのか?」
黒い核が脈打つ。
『……来い』
レオは鎖を握る。
「断る」
青白い光がさらに強くなる。
「俺は――仲間を連れて帰る!」
――第86話・完――




