第84話「黒い力」
森の奥から響く咆哮。
その直後、捕らえられていた魔物たちが一斉に身体を起こした。
「まだ動くのか!」
カイが剣を構える。
鎖に縛られた魔物たちの胸元で、黒い光が激しく脈打っている。
一つ。
また一つ。
黒い光が互いに反応する。
レオが目を細めた。
「やっぱり……あの黒い力がこいつらを動かしてる」
『しかも、さっきより強くなっている』
ガイアの声が低くなる。
ミナが杖を構え直した。
「じゃあ、あの力をどうにかしないと魔物を倒しても意味がない」
「そういうことだ」
レオが鎖を握り直す。
「なら、まず黒い力との繋がりを断つ」
魔物の一匹が鎖を引きちぎった。
「グオオッ!」
「来る!」
カイが前へ出る。
「《裂空斬》!」
魔物の爪と剣がぶつかる。
ガキィン!
「くっ……!」
カイの身体が押し戻される。
「さっきより重い!」
魔物がさらに踏み込む。
カイは剣を滑らせ、爪を受け流した。
「なら、こっちも上げる!」
低く身を沈める。
「《裂空斬・弐》!」
斜め下から振り上げた剣が魔物の胸を捉える。
だが、黒い光が盾のように広がった。
ガァン!
「防いだだと!?」
カイが後退する。
ミナがすぐに援護へ入った。
「カイ、下がって!」
杖の先に炎が集まる。
「《炎槍・連撃》!」
炎の槍が次々と飛んでいく。
魔物は左右へ跳びながらかわす。
一発。
二発。
三発。
そして四発目が脚を捉えた。
「グオッ!」
魔物がよろめく。
「今!」
カイが踏み込む。
しかし、その瞬間。
魔物の胸の黒い光が強く輝いた。
傷ついた脚が急速に再生していく。
「……再生まで?」
ミナが息を呑む。
『あの黒い力が魔物の生命力そのものを補っている』
ガイアが分析する。
『いや……生命力だけじゃない』
レオが魔物を見る。
「死者の力まで混ざってる」
黒い光の中に、微かな白い光が混じっていた。
レオには分かる。
それは死者の魂だった。
「……こいつらの中に、死者の魂が取り込まれてる」
ミナの表情が曇る。
「じゃあ、あの魔物を倒したら……」
「中の魂まで消える可能性がある」
レオは鎖を握る。
「だから、力だけを引き剥がす」
カイが笑う。
「簡単に言うなよ」
「分かってる」
レオが魔物へ手を向ける。
「だから俺がやる」
鎖が地面から伸びる。
今度は魔物の身体ではなく、胸の黒い光へ向かっていく。
「《死者の鎖》!」
鎖が黒い光へ巻きついた。
その瞬間。
「グオオオオオオッ!」
魔物が激しく暴れ始めた。
レオの身体も引っ張られる。
「ぐっ……!」
『レオ!』
ガイアが叫ぶ。
「大丈夫!」
鎖を離さない。
魔物の中から、いくつもの声が聞こえてくる。
『苦しい……』
『ここから……出して……』
『暗い……』
レオの表情が変わる。
「聞こえる……」
死者たちが助けを求めている。
「待ってろ」
レオは力を込める。
「必ず出してやる!」
黒い光が激しく抵抗する。
その瞬間、守護者が動いた。
白い光がレオの鎖へ流れ込む。
黒い力が大きく揺らぐ。
『今だ!』
ガイアが叫ぶ。
「《死者の鎖・解放》!」
鎖が一気に締まる。
黒い光から、白い光が次々と抜け出していく。
一つ。
二つ。
三つ。
無数の魂が魔物の身体から解放された。
黒い光が弱まる。
魔物も力を失い、地面へ倒れた。
「……終わった?」
ミナが近づく。
レオは魔物を確認する。
「生きてる」
カイが剣を下ろす。
「よし……」
しかし。
森の奥から、再び黒い光が走った。
倒れていた魔物の胸に、黒い光が戻ろうとする。
「まだだ!」
レオが鎖を伸ばす。
だが、黒い光は地面へ潜り込んだ。
「逃げた……?」
『違う』
ガイアが即座に否定する。
『戻ったんだ』
「どこへ?」
ガイアは森の奥を見た。
『あそこだ』
木々の向こう。
巨大な黒い光が、ゆっくりと浮かび上がる。
まるで森そのものが脈打っているようだった。
守護者が前へ出る。
「……」
その身体から白い光が強くなる。
レオも気づいた。
「守護者が警戒してる」
カイが剣を握る。
「ってことは、あれが本命か」
ミナが頷く。
「行こう」
レオが歩き出す。
しかし――
森の奥から、地面を揺らすほどの音が響いた。
ドン……。
ドン……。
何かが近づいている。
カイが構える。
「今度は一匹じゃないな」
レオは死者の声を探る。
だが、聞こえてくるのは――
悲鳴だけだった。
『逃げろ……』
『来る……』
『あれは……魔物じゃない……』
レオの目が見開かれる。
「魔物じゃない……?」
黒い光の向こう。
巨大な影が立ち上がった。
その姿は、まだ木々に隠れて見えない。
だが、二本の赤い目だけがこちらを見つめていた。
『グルルルル……』
ガイアが低く呟く。
『どうやら、この森の主が出てきたみたいだな』
レオは鎖を構える。
「……全員、気をつけろ」
冥夜の旅団の前に、新たな敵が姿を現そうとしていた。
――第84話・完――




