第83話「群れ襲来」
森の奥から、唸り声が重なっていく。
一つ。
二つ。
十。
それ以上。
木々の隙間から姿を現したのは、先ほどの魔物と同じ姿をした獣たちだった。
黒い毛並み。
鋭い牙。
そして胸元に浮かぶ、黒い光。
カイが剣を握り直す。
「……多すぎないか?」
ミナも周囲を見回す。
「少なくとも二十匹はいるよ」
『もっといる』
ガイアの声が響く。
「まだいるのか?」
『森の奥に反応が続いている。こいつらだけじゃない』
レオは魔物の群れを見据えた。
「町の人たちが襲われたのも、こいつらか」
案内してきた男が震えながら後退する。
「俺は町に戻る……」
「それがいい」
レオが頷く。
「ここから先は俺たちがやる」
男は何度も頷き、来た道を走っていった。
直後。
一匹の魔物が地面を蹴った。
「来るぞ!」
カイが前へ出る。
「《裂空斬》!」
横薙ぎの一撃が魔物の胸を切り裂く。
魔物が吹き飛び、木の幹へ激突した。
「一匹!」
だが、左右から二匹が同時に迫る。
「くっ!」
カイが剣を構え直す。
その前にミナの炎が走った。
「《フレイム・バースト》!」
炎が二匹を包み込む。
しかし――
「まだ動いてる!」
炎の中から魔物が飛び出した。
「嘘!」
ミナが後退する。
レオが手を伸ばした。
「《死者の鎖》!」
鎖が地面から飛び出し、一匹の前脚を捕らえる。
「カイ!」
「任せろ!」
カイが踏み込む。
「《裂空斬・弐》!」
今度は首元を狙った。
ザンッ!
魔物が倒れる。
だが、別の魔物がカイの背後へ迫っていた。
「カイ!」
守護者が動く。
黒い爪が振り下ろされる直前、守護者が腕を突き出した。
ガァンッ!
魔物の爪が弾き返される。
カイが振り返る。
「助かった!」
守護者は答えず、次の魔物へ向き直る。
一体。
二体。
三体。
守護者は次々と攻撃を受け止め、群れの動きを食い止めていく。
『今だ、レオ!』
「分かってる!」
レオが両手を広げる。
地面から無数の鎖が伸びた。
「《死者の鎖・群縛》!」
鎖が魔物たちの脚や胴へ絡みつく。
「これで動きを止める!」
しかし――
黒い光が一斉に輝いた。
鎖が軋む。
「なっ……!」
魔物たちの力が一気に増す。
一本。
また一本。
鎖が砕けていく。
『黒い力が互いに繋がってる!』
ガイアが叫ぶ。
「繋がってる?」
『一匹が力を受ければ、他の奴らにも流れている!』
レオは魔物たちを見る。
胸元の黒い光。
確かに、すべてが同じような間隔で脈打っていた。
「つまり……一匹ずつ倒しても、他から力を補われるのか」
ミナが杖を構える。
「じゃあ、同時に攻撃すれば?」
「やってみよう!」
カイが走る。
「ミナ、右!」
「分かった!」
二人が左右へ分かれる。
カイが一匹へ斬りかかり、ミナが別の一匹へ炎を放つ。
「《炎槍・三連》!」
三本の炎槍が魔物へ突き刺さる。
同時にカイの剣が別の魔物を捉えた。
「せいやっ!」
二匹が同時に倒れる。
しかし――
胸元の黒い光が消えない。
倒れた二匹の黒い光が、周囲の魔物へ吸い込まれていく。
ミナが目を見開く。
「やっぱり……!」
倒れた魔物の力を、別の魔物が吸収している。
カイが舌打ちする。
「倒せば倒すほど、残った奴が強くなるってことか!」
『厄介だな』
ガイアの声が低くなる。
レオは周囲を見回した。
「なら、全部をまとめて止める」
カイが笑う。
「できるのか?」
「やるしかない」
レオは地面へ手をついた。
「死者たち……力を貸してくれ!」
地面から無数の青白い光が浮かび上がる。
この森で命を失った者たち。
獣。
人間。
名も知らない死者たち。
彼らの力がレオの周囲へ集まっていく。
『レオ』
ガイアの声が重なる。
『俺も力を貸す』
「頼む、ガイア!」
ガイアの力がレオへ流れ込む。
その瞬間、死者の鎖が変化した。
鎖の表面に青白い光が走る。
「《死者の鎖・連環》!」
一気に地面を走った鎖が、魔物たちを次々と捕らえる。
一匹。
二匹。
五匹。
十匹。
「グオオオオッ!」
魔物たちが一斉に暴れる。
レオの腕が震える。
「ぐっ……!」
カイが駆け寄った。
「レオ!」
「大丈夫だ!」
ミナも反対側から魔法を放つ。
「《炎壁》!」
魔物たちの進路を炎の壁で塞ぐ。
「これ以上、近づけさせない!」
守護者が前へ出る。
その身体から白い光が広がった。
魔物たちの黒い光が、一瞬だけ弱まる。
ガイアが気づく。
『守護者の力だ!』
レオも理解した。
「黒い力を弱められるのか!」
守護者が頷く。
「なら……今だ!」
レオが鎖へ力を注ぎ込む。
「全員、力を合わせる!」
カイが剣を構える。
「任せろ!」
ミナも杖を握る。
「いくよ!」
ガイアの力がさらに重なる。
守護者の白い光が森を照らす。
そして――
魔物たちの胸元にある黒い光が、一斉に揺らいだ。
だが。
森のさらに奥。
まだ見えない場所で――
巨大な黒い光が一度だけ脈打った。
「……!」
レオが振り向く。
ガイアも同時に気づいた。
『レオ……今のは』
「ああ」
森の奥から、低い咆哮が響く。
グオオオオオオオ……。
カイが剣を構える。
「まだ何かいるぞ」
レオは森の奥を見つめた。
「……こいつらを操っている何かがいる」
黒い光が、再び脈打った。
そして目の前の魔物たちが、一斉に咆哮を上げる。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
――第83話・完――




