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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第5章「冥夜の旅団」
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第82話「森の魔物」

町を出て、しばらく歩く。


森へ近づくにつれて、道は細くなっていった。


案内役の男が不安そうに周囲を見回す。


「この先だ」


カイが腰の剣に手を添える。


「本当にこの辺りで魔物が出たのか?」


「そうだ。昨日も、この辺りで家畜が襲われた」


ミナが地面を見る。


「……何か引きずった跡がある」


土の上に、長く伸びた傷跡。


その周囲には、巨大な足跡がいくつも残っていた。


カイがしゃがみ込む。


「かなりデカいな」


レオも足跡を確認する。


「四本足……いや」


少し先を見る。


「途中から二本足になってる」


ミナが眉を寄せた。


「変じゃない?」


『普通の魔物じゃない可能性があるな』


ガイアの声が響く。


カイが周囲を見る。


「ガイア、何か分かるのか?」


『まだ断定はできない。ただ、この森には妙な力が残っている』


「魔力?」


『それだけじゃない』


ガイアの声が低くなる。


『死者の気配だ』


レオの表情が変わった。


「死者……?」


守護者が突然立ち止まる。


レオも足を止める。


「どうした?」


守護者は答えない。


ただ、森の奥を指差す。


その先から――


何かが聞こえた。


「……グルル……」


低い唸り声。


男が青ざめる。


「来るぞ……!」


木々の向こうで何かが動いた。


枝が揺れる。


葉が落ちる。


そして――


巨大な魔物が姿を現した。


狼に似た四本足。


しかし、その体は通常の狼より二回り以上大きい。


背中には黒い毛が逆立ち、口から鋭い牙が覗いている。


カイが剣を抜く。


「こいつか!」


魔物が地面を蹴った。


「来る!」


一瞬で距離を詰めてくる。


カイが横へ飛んだ。


魔物の爪が地面をえぐる。


「速い!」


カイが振り返りざまに斬りつける。


「せいっ!」


剣が魔物の肩を捉えた。


だが――


ガキンッ!


「なにっ!?」


刃が弾かれた。


魔物の毛皮は異常なほど硬かった。


カイが後退する。


「硬すぎるだろ!」


ミナが杖を構える。


「なら、魔法で!」


炎が集まる。


「《フレイム・ランス》!」


炎の槍が魔物へ飛ぶ。


魔物は横へ跳んだ。


炎の槍が木を吹き飛ばす。


「避けた!」


魔物は着地すると、今度はミナへ向かって走った。


「ミナ!」


レオが手を伸ばす。


「《死者の鎖》!」


地面から鎖が飛び出し、魔物の前脚へ絡みつく。


「止まれ!」


魔物の動きが止まった。


だが――


「グオオオオッ!」


力任せに鎖を引きちぎろうとする。


レオの腕に負荷がかかる。


「こいつ……!」


カイが横から斬り込む。


「レオ、抑えてろ!」


「分かった!」


カイの剣が魔物の脚を狙う。


しかし魔物は身体を捻り、剣をかわした。


そのままカイへ噛みつく。


「くっ!」


カイが剣を横に構える。


牙と剣がぶつかった。


ギリギリと音が響く。


「こいつ……力まで強い!」


ミナが別の魔法を準備する。


その時。


守護者が動いた。


一歩。


それだけだった。


しかし、魔物が突然後退した。


「……?」


カイが目を丸くする。


魔物は守護者を見つめている。


怯えているようにも見えた。


『妙だな』


ガイアが呟く。


レオも魔物を見る。


「守護者を怖がってる?」


守護者が一歩前へ出る。


魔物が唸る。


「グルル……」


しかし、逃げない。


その瞬間。


レオの中へ、微かな声が入り込んできた。


『……たす……けて……』


レオが息を呑む。


「今……声が……」


カイが振り返る。


「どうした?」


「この魔物の中に……」


レオは魔物を見つめる。


「死者がいる」


ミナの表情が変わった。


「死者が?」


『俺も感じた』


ガイアが続ける。


『この魔物は、ただの魔物じゃない』


魔物の胸元。


黒い毛の隙間から、わずかに黒い光が漏れていた。


レオが目を凝らす。


「……何だ、あれ」


黒い光が脈打つ。


魔物の身体が突然震え始めた。


「グ……グオオオオオッ!」


レオの鎖を引きちぎる。


「まずい!」


魔物が暴れ始めた。


木々をなぎ倒し、地面を爪でえぐる。


カイが構える。


「完全に暴走してるぞ!」


ミナも杖を構え直す。


「どうするの、レオ!」


レオは魔物を見つめる。


中にいる死者の声。


苦しそうな声。


そして、胸に埋め込まれた黒い光。


「……あれを壊す」


カイが頷く。


「分かった!」


レオは再び手を伸ばした。


「俺が動きを止める」


ミナが続く。


「私は援護する!」


カイが剣を構える。


「俺が懐に入る!」


三人が同時に走り出す。


その後ろで、ガイアが低く呟いた。


『気をつけろ』


「何かあるのか?」


『あの黒い力……』


ガイアが森の奥を見る。


『この森の中に、同じものがまだある』


レオの足が止まりかけた。


その直後。


森の奥から――


「グルルル……」


一匹ではない。


二匹。


三匹。


さらに奥から、無数の唸り声が響いた。


カイが振り返る。


「……嘘だろ」


木々の隙間。


そこに、無数の赤い目が浮かんでいた。


レオは杖を握り直す。


「……一匹じゃなかったのか」


守護者が静かに前へ出る。


そして、森の奥を見つめる。


冥夜の旅団の初仕事。


それは、想像していた以上の戦いになろうとしていた。


――第82話・完――

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