第81話「冥夜の旅団」
聖王教会本部を離れて、数時間。
レオたちは街道を歩いていた。
レオの隣にはカイとミナ。
その少し後ろを、守護者が静かについてくる。
そして――
『ようやく教会から離れたな』
ガイアの声が響く。
「そうだな」
『あそこは長居する場所じゃない』
カイが振り返る。
「ガイア、まだ教会嫌いなのか?」
『好きになる理由がないだろ』
「まあ、それはそうか」
ミナが小さく笑う。
「でも、ローディンは悪い人じゃなかったよね」
「そうだな」
レオも頷く。
ローディンは聖王教会の騎士だった。
レオたちを監視する役目を与えられていたが、戦いでは何度も共に戦った。
それでも、彼は教会側の人間だ。
今はそれぞれの道を進んでいる。
セイルも同じだった。
境界監視者の一員として、死界の門を見守り続ける。
ヴァルドとアシュレイも、三百年前の事件を背負いながら、それぞれの目的へ向かっていった。
今、レオたちと共にいるのは――
レオ。
カイ。
ミナ。
ガイア。
そして守護者。
五人だった。
カイが突然、口を開く。
「なあ、レオ」
「ん?」
「俺たちって、正式な名前あったっけ?」
「名前?」
「そう。教会の騎士でもないし、冒険者のパーティってわけでもない」
ミナも考える。
「確かに、ずっと『レオたち』だったね」
『俺も名前があったほうがいいと思うぞ』
ガイアが口を挟む。
レオが苦笑する。
「ガイアまで?」
『俺だって仲間だからな』
「それは分かってる」
カイが笑う。
「じゃあ、五人の名前を決めようぜ」
「五人……」
レオは歩きながら考える。
自分。
カイ。
ミナ。
ガイア。
守護者。
それぞれ違う。
生きている者。
契約によって繋がる者。
そして境界に存在する者。
共通しているのは、同じ道を歩いていることだった。
「……冥夜」
レオが呟く。
カイが振り返る。
「冥夜?」
「夜のような暗い場所でも、前へ進む」
レオは空を見る。
「俺たちが歩いてきた道は、明るいものばかりじゃなかった」
死者。
死界。
教会。
黒き境界派。
何度も危険に遭遇した。
それでも、歩みを止めなかった。
「だから……冥夜の旅団」
ミナが微笑む。
「いい名前だね」
カイも頷いた。
「俺も賛成」
『俺も異論はない』
ガイアが答える。
守護者も静かに頷いた。
レオが三人と一体を見る。
「今日から俺たちは――」
一拍置く。
「冥夜の旅団だ」
カイが拳を握る。
「決まりだな!」
ミナも笑う。
「五人の旅団」
『ようやく俺も正式に数えられたな』
「最初から仲間だろ」
レオが笑う。
守護者は何も言わない。
ただ、レオたちの隣へ歩み寄った。
その姿を見て、カイが笑った。
「こいつもちゃんと旅団の一員だからな」
レオが頷く。
「ああ」
五人は再び歩き始める。
しばらくすると、街道の先に町が見えてきた。
カイが目を輝かせる。
「まずは飯だな!」
ミナが呆れた顔をする。
「そればっかり」
『俺も腹が減った』
「ガイアまでかよ!」
レオが笑う。
「じゃあ、今日はゆっくり休もう」
五人が町へ向かう。
その時だった。
町の入口付近から、一人の男が走ってきた。
「頼む! 助けてくれ!」
レオたちが足を止める。
男は息を切らしながら訴えた。
「森に魔物が出たんだ!」
カイの表情が変わる。
「魔物?」
「何日も前から出ている。最初は一匹だったのに、今では数が増えてるんだ!」
ミナが尋ねる。
「被害は?」
「家畜を襲われた。それだけじゃない。森へ入った人間も戻ってきていない」
レオは町の向こうに広がる森を見る。
守護者も森を見つめている。
『レオ』
ガイアの声が低くなる。
「……分かってる」
「何か感じるのか?」
カイが聞く。
レオは森から視線を離さない。
「まだ分からない」
そして、男を見る。
「森へ案内してくれ」
男は目を見開いた。
「引き受けてくれるのか?」
「困っているなら、放っておけない」
カイが剣を抜く。
「旅団最初の仕事だな」
ミナも杖を握る。
「うん」
ガイアが笑う。
『結成したばかりで、さっそく仕事とは忙しいな』
レオは守護者を見る。
守護者は静かに森へ視線を向けている。
「行こう」
五人は森へ向かって歩き出した。
冥夜の旅団。
その名を掲げてから、最初の戦いが始まろうとしていた。
――第81話・完――




