第80話「三つの核、砕ける」
地下聖域を覆う黒い霧。
三つの核を持つ異形は、胸の奥で不気味な光を放っていた。
レオは鎖を握り締める。
「……全員、準備はいいか!」
カイが剣を構える。
「いつでもいける!」
セイルも静かに頷いた。
「狙いは右の核」
ミナが杖を掲げる。
「左は私が!」
ローディンが剣を握る。
「中央はレオたちに任せる!」
守護者がレオの隣に立つ。
白い光が、その身体を包んだ。
ガイアの声が響く。
『向こう側から流れてくる力が、さらに強くなってる!』
レオは裂け目を見る。
巨大な黒い目。
その奥にある巨大な影。
「あいつに力を渡させない」
レオは鎖を構えた。
「ここで終わらせる!」
異形が咆哮した。
地下聖域全体が揺れる。
「行くぞ!」
三方向から、同時に走り出した。
カイとセイルが右側へ。
ミナとローディンが左側へ。
レオと守護者が中央へ。
最初に動いたのは右側だった。
「《境界杭・三連》!」
セイルが三本の杭を地面へ打ち込む。
異形の右半身が一瞬止まる。
「今だ!」
カイが跳ぶ。
「《裂空斬・連》!」
斬撃が何度も胸へ叩き込まれる。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
右の核を覆っていた黒い殻が砕けていく。
「あと少し!」
異形が腕を振り上げる。
カイへ叩きつけようとする。
セイルが前へ出た。
「させない!」
ガキィン!
剣で受け止める。
「カイ!」
「分かってる!」
カイが剣を振り上げる。
「これで……!」
「《裂空斬・極》!」
ズバァン!
右の核に亀裂が走った。
一瞬、黒い光が漏れる。
「まだだ!」
カイはさらに踏み込む。
「うおおおおっ!」
ドン!
剣が核を直撃した。
右の核が大きく砕けた。
同時に左側。
「ミナ!」
「任せて!」
ミナが杖を振る。
「《炎界・収束》!」
周囲の炎が一点へ集まる。
巨大な炎の槍が形成された。
ローディンが異形の腕を引きつける。
「こっちだ!」
異形がローディンへ襲いかかる。
一撃。
二撃。
ローディンは必死に受け流す。
「ぐっ……!」
三撃目。
剣が弾き飛ばされる。
「ローディン!」
「撃て!」
ローディンが叫ぶ。
「今しかない!」
ミナは一瞬だけ迷った。
そして杖を振り下ろす。
「《炎槍・極》!」
巨大な炎が異形へ突き刺さる。
ズドォォン!
炎が左胸を貫いた。
黒い殻が砕ける。
「見えた!」
左の核が露出する。
ローディンが地面に落ちた剣を拾う。
「《聖断・裂》!」
光の斬撃が炎の中を走った。
左の核に亀裂が入る。
「もう一撃!」
ミナが炎を集中させる。
「《炎槍・穿》!」
炎槍が核を貫いた。
左の核も砕け散った。
「やった!」
だが――
異形はまだ動いていた。
中央に残った核が、激しく脈動する。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
ヴァルドが叫ぶ。
「中央の核が残っている!」
レオは守護者とともに異形へ迫っていた。
「分かってる!」
中央の頭が口を開く。
黒い霧が一気に吐き出される。
レオは鎖を地面へ突き刺す。
「《死者の鎖・盾陣》!」
鎖が壁となり、霧を受け止める。
だが、黒い霧が鎖を侵食していく。
「くっ……!」
ガイアが叫ぶ。
『レオ! 守護者の力を使って!』
レオは守護者を見る。
「……いけるか?」
守護者が頷く。
白い光がレオの鎖へ流れ込む。
鎖が白く輝いた。
「これなら……!」
レオは鎖を握り直す。
「《死者の鎖・境界断》!」
白い鎖が黒い霧を切り裂く。
異形の胸へ突き進む。
中央の核が露出する。
しかし、異形が最後の抵抗を見せた。
三つの頭が同時に咆哮する。
黒い力が周囲へ爆発する。
「レオ!」
カイが叫ぶ。
「離れろ!」
「いや!」
レオは動かなかった。
「ここで終わらせる!」
守護者が前へ出る。
白い光を全身へ集める。
レオも力を集中させる。
「みんな!」
「おう!」
「任せて!」
「行け!」
カイ、ミナ、ローディン、セイルがそれぞれの力を中央へ送り込む。
レオの鎖がさらに輝く。
死者たちの声が響く。
『進め』
『終わらせろ』
『生きる者たちのために』
レオの目が開く。
「これで……!」
鎖が中央の核を包み込む。
「終わりだ!」
「《死者の鎖・境界断・終》!」
ドォォォォン!
巨大な光が地下聖域を包み込んだ。
異形の身体に無数の亀裂が走る。
中央の核が砕ける。
三つの核が同時に崩壊した。
黒い霧が消えていく。
異形の身体も、ゆっくりと崩れ落ちた。
そして――
完全に消滅した。
静寂が戻る。
誰もすぐには動かなかった。
カイが剣を下ろす。
「……終わったのか?」
セイルが周囲を確認する。
「三つの核は消えた」
ミナが息を吐く。
「本当に……終わった」
ローディンが剣を収める。
「少なくとも、今はな」
レオは裂け目を見る。
そこには、まだ小さな亀裂が残っていた。
「……門そのものが完全に消えたわけじゃない」
ヴァルドが静かに答える。
「当然だ」
アシュレイも裂け目を見つめる。
「だが、先ほどまでの危険な状態ではない」
セイルが歩み寄る。
「境界は落ち着きを取り戻し始めている」
レオは守護者を見る。
守護者の白い光も、少しずつ弱まっていた。
「ありがとう」
守護者は何も言わない。
ただ、いつものようにレオの隣に立つ。
ガイアが小さく笑った。
『ずっと一緒にいるってことじゃない?』
レオも笑う。
「そうだな」
その時だった。
地下聖域の奥から、声が聞こえた。
「……終わったようだな」
全員が振り返る。
黒い紋章を持つ男が立っていた。
黒き境界派の残党。
カイが剣を構える。
「まだいたのか!」
男は武器を抜かなかった。
「戦うつもりはない」
ローディンが睨む。
「信用できると思うか?」
「信用する必要はない」
男は床へ視線を落とす。
「我々が求めていたものは、すでに確認できた」
レオが尋ねる。
「俺のことか?」
「そうだ」
男は答えた。
「お前は、三百年前のネクロマンサーとは違う」
ヴァルドが黙って男を見る。
「そして……」
男は守護者へ視線を向ける。
「二人目の守護者とも違う」
レオが眉を寄せる。
「何を知っている?」
男は首を横に振った。
「まだ何も分かっていない」
「じゃあ、何のために来た?」
「確かめるためだ」
男は黒い紋章に手を当てる。
「死者を率いる力と、境界を閉じる力」
そしてレオを見る。
「その二つが、再び揃ったことを」
レオは黙っていた。
男は背を向ける。
「我々も一度、戻る」
カイが剣を構えたまま言う。
「逃がしていいのか?」
セイルが首を横に振る。
「今は追う必要はない」
レオも頷く。
「俺たちは門を守ることを優先する」
男は振り返らない。
「……それでいい」
黒い霧に包まれ、その姿が消える。
ローディンが呟く。
「奴らは、まだ諦めていないな」
ヴァルドが答える。
「おそらくな」
レオは裂け目を見る。
「なら、俺たちも終わらせないといけない」
ミナが振り返る。
「この場所を?」
「違う」
レオは仲間を見る。
「三百年前から続いてる、この問題そのものを」
カイが笑った。
「また面倒なこと言い出したな」
「嫌なら帰っていいぞ」
「誰が帰るかよ」
ミナも笑う。
「私も付き合う」
ローディンが肩をすくめる。
「教会としても、ここまで関わった以上は放置できない」
セイルは静かにレオを見る。
「境界監視者も見届ける」
レオは頷いた。
その時、地下聖域の天井から光が差し込んだ。
夜明けが近い。
長い戦いを終えたレオたちは、ゆっくりと地上へ向かって歩き始める。
三百年前から続いていた謎。
死者と生者。
聖王教会。
黒き境界派。
そして死界の門。
まだ全てが終わったわけではない。
それでも――
今は、前へ進める。
レオは歩きながら、守護者へ視線を向けた。
「行こう」
守護者が静かに歩き出す。
ガイアの声が響く。
『次は、どこへ行く?』
レオは空を見上げた。
「まずは……仲間たちと旅を続ける」
その先に何が待っているのか。
まだ誰にも分からない。
だが、レオたちは歩き続ける。
生きている者と、死んだ者。
その両方の声を聞きながら。
――第80話・完――




