第79話「三つの核」
巨大な異形の腕が振り下ろされる。
ドォン!
地面が砕け、衝撃波が地下空間を走った。
「散れ!」
レオの声に、全員がそれぞれの方向へ飛び退く。
三つの頭を持つ異形がゆっくりと顔を上げた。
中央の頭がレオを見る。
右の頭がカイとセイルを見る。
左の頭がミナとローディンを見る。
まるで、それぞれの相手を認識しているかのようだった。
ガイアが低い声を漏らす。
『三つの意識……まだ残ってる』
レオは異形の胸を見る。
そこには三つの黒い核が重なっていた。
「一つずつ壊すんじゃない」
セイルが続ける。
「三つ同時に攻撃する必要がある」
「なら、俺たちも三組に分かれる」
レオが指示を出す。
「俺と守護者は中央」
「俺とセイルは右!」
カイが即答する。
ミナも杖を構えた。
「ローディンと私は左!」
ローディンが頷く。
「それでいこう」
ヴァルドが叫ぶ。
「気をつけろ! 融合したことで、三体それぞれの能力が強化されている!」
「分かってる!」
レオが走り出す。
「行くぞ!」
三方向から一斉に攻撃を開始した。
中央へ向かったレオの前に、巨大な腕が伸びてくる。
「《死者の鎖》!」
鎖が腕へ絡みつく。
ギギギッ!
異形が力任せに鎖を引っ張る。
「くっ……!」
レオの身体が前へ引きずられる。
守護者が横から飛び込み、腕を殴りつけた。
ドン!
異形の腕が揺らぐ。
「助かった!」
守護者が再び踏み込む。
白い光をまとった拳が異形の胸を狙う。
しかし中央の頭が口を開いた。
黒い霧が吐き出される。
「守護者!」
守護者が腕で防ぐ。
だが、白い光が少しずつ削られていく。
「……!」
レオはすぐに鎖を伸ばした。
「《死者の鎖・盾陣》!」
死者たちの力が守護者の前に集まる。
黒い霧が鎖の壁にぶつかる。
ギギギギッ!
「今だ!」
守護者が霧を振り払い、中央へ突進する。
レオも続く。
「核は……あそこ!」
三つの核のうち、中央の核が強く脈動していた。
「《境界断ち》!」
白い力をまとった鎖が核へ向かう。
しかし――
ガキィン!
別の腕が割り込んだ。
「なっ!」
中央の頭だけではない。
右の頭がこちらへ顔を向けていた。
異形は三方向を同時に見ている。
「三つの意識が全部繋がってる……!」
一方、カイとセイル。
「来るぞ!」
巨大な腕が二人を薙ぎ払う。
カイが跳ぶ。
セイルが滑り込む。
「《境界杭》!」
ドン!
黒い杭が床へ突き刺さる。
異形の右側が一瞬だけ硬直する。
「今だ、カイ!」
「おう!」
カイが走る。
「《裂空斬》!」
斬撃が右側の胸を切り裂く。
しかし、深く入らない。
「硬すぎる!」
セイルが異形の動きを見る。
「核は胸の奥だ!」
「じゃあ、そこまで斬る!」
カイが再び踏み込む。
異形の腕が襲いかかる。
ガキィン!
剣で受ける。
腕の力に押され、カイの足が床を滑る。
「ぐっ……!」
「カイ!」
セイルが斬り込む。
「《境界断》!」
異形が腕を引く。
カイが体勢を立て直す。
「助かった!」
「礼は後だ!」
セイルが核を見る。
「一度だけ隙を作る」
「どうする?」
「私が止める」
セイルが剣を構える。
「お前が核を斬れ」
カイが笑う。
「任せろ!」
セイルが異形へ突っ込む。
「《境界杭・連》!」
一本。
二本。
三本。
黒い杭が次々と床へ突き刺さる。
異形の右側が拘束される。
「今!」
カイが跳ぶ。
「《裂空斬・二連》!」
一撃目。
二撃目。
同じ場所を正確に斬り込む。
バキッ!
胸の表面に亀裂が入った。
「入った!」
だが、核そのものには届かない。
「あと一歩……!」
その時、右の頭がカイへ向いた。
口が開く。
黒い霧が集中する。
「カイ、避けろ!」
セイルが叫ぶ。
しかし、カイは動かない。
「ここで逃げたら、次がない!」
剣を両手で握る。
「だったら……!」
霧が迫る。
「正面から行く!」
カイが踏み込んだ。
一方、左側。
ミナとローディンは炎と聖なる力を使いながら異形を追い詰めていた。
「ローディン、左!」
「了解!」
異形の腕をローディンが受け止める。
「ぐっ……!」
ミナが炎を集中させる。
「《炎界・収束》!」
炎が一つの槍へ変わる。
「今!」
ローディンが腕を弾く。
ミナが放つ。
「《炎槍・穿》!」
炎槍が胸へ突き刺さる。
ズドン!
左側の核が露出した。
「見えた!」
ローディンが走る。
「《聖断》!」
斬撃が核へ迫る。
しかし異形が身体を捻った。
斬撃が核の横を通り抜ける。
「くっ!」
ミナが叫ぶ。
「もう一度!」
「時間を稼ぐ!」
ローディンが正面に立つ。
異形の腕が何度も襲ってくる。
一撃。
二撃。
三撃。
ローディンは剣で受け流し続ける。
「まだだ……!」
腕が肩をかすめる。
血が流れる。
「ローディン!」
「気にするな!」
さらに一撃。
ローディンの膝が沈む。
「ぐっ……!」
それでも立ち上がる。
「今度はこちらの番だ!」
剣を振り上げる。
「《聖断・裂》!」
斬撃が異形の腕を切り裂いた。
ミナが走る。
「ありがとう!」
杖を両手で握る。
「今度こそ……!」
炎が渦を巻く。
「《炎槍・極》!」
炎の槍が左の核へ突き進む。
ズドォン!
核の表面に大きな亀裂が走った。
「あと少し!」
その瞬間。
三つの核が同時に光った。
「……何?」
ミナが動きを止める。
異形の胸から黒い衝撃波が放たれた。
「伏せろ!」
ローディンがミナを抱えて倒れ込む。
衝撃波が二人の頭上を通り抜ける。
そして中央。
レオも衝撃波を受け、吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
地面を転がる。
守護者がすぐに駆け寄る。
「大丈夫だ……!」
レオは立ち上がる。
「三つの核が……互いに守ってる」
ガイアが答える。
『一つに攻撃すると、残り二つが力を送ってるんだ』
レオが三つの核を見る。
「だから、同時に攻撃しなきゃいけない」
セイルが叫ぶ。
「全員、準備しろ!」
カイが黒い霧を振り切りながら立ち上がる。
「準備ならできてる!」
ミナも杖を構える。
「私も!」
ローディンが血を拭う。
「まだ戦える」
守護者がレオの隣に立つ。
レオは三組の仲間を見る。
そして――
「三つ同時に叩く」
鎖を構える。
「次の一撃で、核を壊す!」
しかし、その瞬間。
三つの核が激しく脈動した。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
黒い霧が地下全体を覆っていく。
ヴァルドの顔色が変わった。
「待て……」
アシュレイが振り返る。
「どうした?」
ヴァルドは震える声で答えた。
「これは……奴らが攻撃するための準備じゃない」
「じゃあ何だ?」
ヴァルドが裂け目を見る。
「……向こう側から、力を引き込もうとしている」
巨大な黒い目が、再び裂け目の向こうに現れた。
今度は目だけではない。
その奥に、何か巨大な影が立っている。
レオは鎖を握り締めた。
「……あいつまで関わってくるのか」
ガイアが答える。
『レオ……急いで』
「分かってる」
レオが仲間へ叫ぶ。
「全員、次の一撃に全部を込めろ!」
三組が同時に構える。
巨大な異形も、三つの核を激しく輝かせる。
互いの力がぶつかる。
そして――
決着へ向けた一撃が始まった。
――第79話・完――




