第78話「異形融合」
巨大な黒い腕が、黒い渦の中心から伸びてくる。
レオは反射的に飛び退いた。
「全員、下がれ!」
ドォン!
腕が地面を叩き潰す。
石床が砕け、無数の破片が飛び散った。
カイが剣で破片を弾きながら叫ぶ。
「なんだよ、あれ!」
セイルは黒い渦を睨みつけた。
「三体の身体が……混ざっている」
渦の中で、三体の異形が一つに重なっていく。
腕。
脚。
胴体。
本来なら別々だった身体が黒い霧によって繋ぎ合わされていた。
ミナが息を呑む。
「融合してる……」
ローディンが剣を構える。
「融合が完成する前に止めるぞ!」
「分かってる!」
レオが両手を広げる。
「《死者の鎖》!」
無数の鎖が一斉に飛び出した。
黒い渦を包み込む。
ギギギギッ!
鎖が渦を締め上げる。
「止まれぇ!」
レオが力を込める。
死者たちの声が周囲に響いた。
『押さえろ』
『まだだ』
『力を貸す』
鎖がさらに増える。
しかし――
バキッ!
一本。
また一本。
鎖が砕かれていく。
ガイアが叫ぶ。
『レオ! 無理に抑え込まないで!』
「でも、このままじゃ……!」
『あれは力を外から受けるほど、融合を進めてる!』
レオの表情が変わる。
「……外からの力を利用してるのか」
ヴァルドが頷く。
「その通りだ」
アシュレイも続ける。
「奴らは攻撃を吸収するだけではない。融合そのものに、周囲の力を利用している」
レオは鎖を見た。
「じゃあ、俺の力も……」
「利用される可能性がある」
一瞬、沈黙する。
カイが剣を下ろした。
「だったら、力をぶつけなきゃいい」
レオが振り向く。
「カイ?」
「さっきまでと同じじゃない」
カイは剣を握り直した。
「力で押し切るんじゃなくて、あいつらを直接引き離す」
セイルが頷く。
「理にかなっている」
「セイル、あの三体……いや、今は一体か。どこを狙えばいい?」
セイルは黒い渦を観察する。
「中心だ」
「中心?」
「三つの力が重なっている場所がある。そこを断てば融合を阻止できる」
カイが笑う。
「よし。それなら俺たちの出番だ」
「私も行く!」
ミナが前へ出る。
ローディンも並ぶ。
「俺たちも援護する」
レオは頷いた。
「俺は融合そのものを抑える」
守護者がレオの隣に立つ。
白い光が身体から滲み出した。
「守護者……頼む」
守護者が静かに頷く。
レオが再び鎖を伸ばす。
今度は黒い渦そのものを縛らない。
三体が重なっている中心だけを狙う。
「《死者の鎖・一点縛》!」
鎖が渦をすり抜ける。
そして中心へ。
ギュッ!
一瞬、融合の動きが止まった。
「今だ!」
カイとセイルが同時に走る。
「《裂空斬》!」
「《境界断》!」
二つの斬撃が交差する。
しかし――
ガキィン!
黒い腕が二人の前に割り込んだ。
「くっ!」
カイが後退する。
セイルも距離を取る。
異形の身体から、さらに二本の腕が生える。
「腕が増えた……!」
ミナが驚く。
ローディンが前へ出る。
「数が増えただけだ!」
斬撃を繰り出す。
一撃。
二撃。
三撃。
異形が腕で受け止める。
ローディンの剣が押し返される。
「ぐっ……!」
異形の腕が振り下ろされる。
ミナが炎を放つ。
「《炎壁》!」
炎の壁が二人の前に立つ。
腕が炎を突き破る。
「まだ!」
ミナが杖を振る。
「《炎槍・連射》!」
炎槍が異形の腕へ突き刺さる。
一発。
二発。
三発。
腕が止まる。
「ローディン!」
「任せろ!」
ローディンが踏み込む。
「《聖断》!」
光の斬撃が腕を切り裂いた。
黒い霧が噴き出す。
その隙にカイとセイルが再び中心へ向かう。
「今度こそ!」
カイが跳ぶ。
「《裂空斬》!」
セイルも続く。
「《境界杭》!」
二つの攻撃が中心へ迫る。
しかし――
異形の胸から巨大な口のような裂け目が開いた。
「なっ……!」
その裂け目が二人を飲み込もうとする。
セイルが空中で身体を捻る。
「カイ!」
「分かってる!」
カイがセイルの身体を蹴り飛ばす。
セイルが後方へ飛ぶ。
その直後、カイの身体が黒い裂け目へ引き寄せられた。
「カイ!」
レオが叫ぶ。
カイが必死に剣を地面へ突き刺す。
「くっ……!」
身体が少しずつ引きずられていく。
「レオ!」
「今行く!」
レオが鎖を伸ばす。
だが、ガイアが叫ぶ。
『待って!』
「何だ!」
『あれに直接鎖を入れたら、カイまで一緒に吸われる!』
レオが止まる。
カイが叫ぶ。
「レオ! 俺は大丈夫だ!」
「でも!」
「考えろ!」
カイが剣を握る。
「お前はいつも、死者の力だけで戦ってるわけじゃないだろ!」
レオの目が見開かれる。
「……!」
カイは笑った。
「俺たちを頼れ!」
レオは拳を握る。
「……分かった!」
レオは鎖をカイへ直接伸ばさなかった。
代わりに地面へ打ち込む。
「《死者の鎖・地縛》!」
鎖が床を這う。
カイの足元を通り、地面そのものを固定する。
「これなら!」
カイが剣を引き抜く。
「助かった!」
セイルが叫ぶ。
「カイ、中心はまだ狙える!」
「当然!」
二人が再び構える。
その時だった。
異形の身体が大きく震える。
ドクン。
ドクン。
黒い渦が膨張する。
ヴァルドが叫ぶ。
「まずい!」
アシュレイが顔を上げる。
「融合が最終段階に入った!」
黒い霧が一気に吹き飛ぶ。
レオたちは腕で顔を覆った。
そして――
霧の中から、一つの巨大な影が姿を現した。
三体だった異形。
その姿は完全には一つになっていない。
三つの頭。
六本の腕。
異なる形の脚。
そして胸の中心には、三つの黒い核が重なっている。
ガイアが呟く。
『……完全な融合じゃない』
レオが息を呑む。
「三つの核が……まだ別々に存在してる」
セイルが剣を構える。
「つまり、まだ切り離せる」
カイが笑う。
「なら、やることは決まったな」
ミナも杖を構える。
「三つの核を同時に攻撃する」
ローディンが頷く。
「全員で合わせるぞ」
守護者が前へ出る。
レオは鎖を握り締めた。
「俺たち全員の力で……」
巨大な異形が咆哮する。
地下空間全体が震える。
レオが叫んだ。
「三つを、もう一度引き離す!」
巨大な腕が振り下ろされる。
全員が散開した。
本当の死闘が始まった。
――第78話・完――




