第77話「三体との死闘」
黒い霧が、ゆっくりと薄れていく。
裂け目との繋がりを失った三体の異形。
それでも、三体とも消えることなく立っていた。
レオは荒い息を吐きながら、鎖を握り直す。
「……まだ戦えるのか」
ヴァルドが頷く。
「奴ら自身が持つ力だけで動いている」
アシュレイが異形を睨む。
「ならば、今までよりは弱い」
「弱くなったからって、油断はできない」
カイが剣を構える。
「さっきまでよりは、ずっと戦いやすいはずだ」
セイルも剣を構えた。
「それでも触れれば力を奪われる」
ミナが杖を握る。
「じゃあ、距離を保ちながら戦う」
ローディンが頷いた。
「それがいい」
三体の異形が同時に動いた。
「来る!」
レオの声と同時に、戦闘が再開した。
中央の異形がレオと守護者へ迫る。
レオが鎖を伸ばす。
《死者の鎖》
異形の腕を狙う。
しかし、異形は身体を捻ってかわした。
「速い!」
そのままレオへ接近する。
守護者が割り込む。
ガンッ!
拳と腕がぶつかる。
二人が同時に後退する。
レオは鎖を地面へ打ち込んだ。
「《死者の鎖・拘束》!」
鎖が床を這い、異形の足へ絡みつく。
ギシッ!
異形の動きが止まった。
「今だ!」
守護者が突進する。
白い光をまとった一撃が、異形の胸へ叩き込まれた。
ドンッ!
異形が吹き飛ぶ。
だが、空中で身体を捻り、着地した。
「やっぱり硬い……!」
レオが息を整える。
「なら、もっと強く!」
死者の気配が集まる。
鎖の数が増える。
三本。
五本。
十本。
一斉に異形へ向かう。
異形が腕を振る。
何本かの鎖が弾き飛ばされる。
それでも残った鎖が身体へ絡みつく。
「捕まえた!」
レオが力を込める。
異形が鎖を掴む。
黒い霧が鎖へ流れ込む。
「……!」
レオは即座に鎖を切り離した。
「危なかった……」
だが、その一瞬の隙に異形が接近する。
腕がレオの顔へ迫る。
ガキィン!
守護者が受け止める。
「助かった!」
守護者が押し返す。
レオはその背後から鎖を伸ばす。
今度は異形の腕ではなく、胴体を狙う。
「《死者の鎖・縛陣》!」
鎖が何重にも巻き付く。
異形の動きが止まった。
守護者が拳を握る。
白い光が集中する。
「今だ!」
ドンッ!
強烈な一撃。
異形の胸が大きくへこんだ。
黒い霧が噴き出す。
「効いた!」
しかし――
異形は倒れない。
身体を震わせながら、ゆっくり立ち上がる。
「……まだか」
その頃、右側ではカイとセイルが激しい攻防を繰り広げていた。
「セイル、右!」
「分かっている!」
異形の腕が振られる。
二人が同時にかわす。
カイが踏み込む。
「《裂空斬》!」
ザンッ!
肩を斬り裂く。
セイルが反対側から斬り込む。
「《境界断》!」
二人の攻撃が同時に入る。
異形がよろめく。
「今だ!」
カイが追撃する。
しかし異形が突然身体を低くした。
「なっ!」
長い腕がカイの足を狙う。
セイルが剣で弾く。
ガキィン!
「無茶をするな!」
「悪い!」
カイが距離を取る。
セイルが異形を観察する。
「こいつ、学習している」
「学習?」
「同じ攻撃を繰り返すたび、こちらの動きを読んでいる」
カイが苦笑する。
「厄介な奴だな」
「なら、同じ攻撃をしなければいい」
「それ、簡単に言うけど……」
カイが剣を構え直す。
「やってみるか!」
カイが走る。
異形も迎え撃つ。
カイは斬らない。
一歩踏み込み、すぐに後退。
異形が腕を振る。
そこへセイルが斬り込む。
「《境界断》!」
異形が腕で防ぐ。
カイがその腕を蹴り上げる。
「今!」
セイルが身体を回転させる。
「《環断》!」
斬撃が異形の脇腹を捉えた。
黒い霧が噴き出す。
「効いた!」
異形が後退する。
カイが笑う。
「やっぱり連携だな!」
左側ではミナとローディンが異形を追い詰めていた。
「ローディン、動きを止めて!」
「任せろ!」
ローディンが正面から斬り込む。
異形が腕を振る。
剣で受け流す。
「今!」
ミナが杖を振る。
「《炎槍・連撃》!」
複数の炎槍が異形へ飛ぶ。
一発目。
二発目。
三発目。
異形がかわす。
だが、四発目が足元を捉えた。
「そこ!」
ローディンが踏み込む。
「《聖断》!」
斬撃が胸を切り裂く。
異形が大きく後退した。
ミナが息を吐く。
「あと少し……!」
だが、異形の身体から黒い霧が一気に噴き出した。
「えっ?」
霧の中から腕が伸びる。
ローディンがミナを突き飛ばした。
「伏せろ!」
ガキィン!
腕がローディンの剣を弾き飛ばす。
「ローディン!」
異形の手が迫る。
ミナが杖を握る。
「させない!」
「ミナ、撃つな!」
ローディンが叫ぶ。
「魔力を吸われる!」
「分かってる!」
ミナは杖を異形ではなく床へ向けた。
「《炎壁》!」
異形の足元から炎の壁が立ち上がる。
視界を奪われた異形が一瞬止まる。
ローディンが剣を拾う。
「今だ!」
二人が同時に動く。
「《聖断》!」
「《炎槍》!」
光と炎が重なる。
ドォン!
異形が吹き飛ぶ。
「やった!」
しかし、三体の異形はまだ倒れていなかった。
三体とも、身体中に亀裂を走らせながら立ち上がる。
レオが三体を見渡す。
「……強いな」
カイが笑う。
「お前がそれ言うか?」
「俺たちだけじゃない」
レオは仲間を見る。
「みんなで戦ってるから、ここまで来られてる」
ガイアが笑う。
『うん。それでいいんじゃない?』
レオは頷いた。
「もう一度いくぞ!」
全員が構える。
その瞬間。
三体の異形が、突然動きを止めた。
「……?」
黒い霧が三体の身体から漏れ出す。
そして三体が互いに近づいていく。
「まさか……」
ヴァルドが青ざめる。
「まだ何かするつもりか」
三体の身体が触れ合う。
黒い霧が一つになる。
「まずい!」
セイルが叫ぶ。
「離れさせろ!」
レオが鎖を放つ。
《死者の鎖》
三体を引き離そうとする。
しかし――
ガキン!
鎖が弾き飛ばされた。
三体の周囲に黒い渦が生まれる。
「何だ……これ」
レオが後退する。
渦の中心で、三体の力が一つに集まっていく。
そして裂け目の奥にある巨大な黒い目が、ゆっくり閉じた。
まるで、次に現れるものを待っているように。
ヴァルドが呟く。
「……三体を倒すだけでは終わらない」
アシュレイが構える。
「奴らは最初から……」
三体の姿が黒い霧に包まれていく。
「一つになることを前提に動いていた」
レオは鎖を握り締める。
「だったら……」
黒い渦を睨む。
「一つになる前に止める!」
レオたちは再び戦闘態勢に入った。
しかし、黒い渦の中心から巨大な腕が伸びてくる。
――第77話・完――




