第76話「境界断ち」
三体の異形が一斉に襲いかかった。
中央の異形がレオへ。
右の異形がカイとセイルへ。
左の異形がミナとローディンへ。
そして、裂け目の奥では巨大な黒い目がレオたちを見つめている。
「来るぞ!」
レオが鎖を構えた。
中央の異形が腕を振り下ろす。
ガァン!
守護者が受け止めた。
しかし、もう一本の腕がレオへ伸びる。
「させるか!」
《死者の鎖》
鎖が異形の腕へ巻き付く。
ギシッ!
レオが引き寄せる。
「守護者!」
守護者が踏み込む。
白い光をまとった拳が異形の胸へ叩き込まれた。
ドンッ!
異形が後方へ吹き飛ぶ。
だが、着地した瞬間には再び立ち上がった。
「やっぱり簡単には倒れないか……」
ガイアが叫ぶ。
『倒す必要はないよ!』
「分かってる!」
レオは異形ではなく、その背後を見る。
黒い霧の糸。
異形と裂け目を繋いでいる。
「狙うのは、あれだ!」
ヴァルドが目を見開く。
「境界との接続を断つつもりか!」
「そう!」
レオは鎖を分岐させる。
一本が異形を捕らえる。
もう一本が黒い霧の糸へ向かう。
「《死者の鎖・分断》!」
鎖が霧の糸へ迫る。
しかし――
ギィン!
何かに弾かれた。
「くっ!」
レオの身体が後ろへ吹き飛ぶ。
守護者が受け止める。
「ありがとう」
守護者が裂け目を見る。
白い光を放つ。
その光が霧の糸を照らした。
すると、糸の周囲に無数の黒い文字が浮かび上がる。
エレナが息を呑む。
「古代文字……」
「読めるか?」
「一部だけなら……」
エレナが目を凝らす。
「これは……『喰らう者を境界へ繋ぐ』」
アシュレイが続ける。
「なら、その繋がりは自然にできたものではない」
ヴァルドが頷く。
「誰かが作った?」
「違う」
アシュレイが裂け目を見る。
「もっと正確には……境界そのものが、あの存在をこちらへ繋ぎ止めている」
レオが振り返る。
「境界が?」
「そうだ」
アシュレイの表情が険しくなる。
「奴らは境界を壊しているように見える。だが実際には、境界から力を吸収しながら、こちら側へ存在を固定している」
レオは理解した。
「だから、三体を倒しても……」
「また別の形で現れる可能性がある」
「だったら、繋がりを断つしかない」
レオが再び立ち上がる。
その頃、右側ではカイが異形と激しく斬り結んでいた。
「セイル、こいつの動き読めるか!」
「三秒後に右腕!」
「分かった!」
異形が腕を振る。
カイは先に踏み込んだ。
「そこだ!」
ガキィン!
剣が腕を弾く。
セイルが背後へ回る。
「今!」
「おう!」
カイが斬り上げる。
ザンッ!
異形の肩が裂ける。
黒い霧が噴き出した。
しかし、異形はその霧を吸い込もうとする。
「させない!」
セイルが剣を突き立てる。
「《境界杭》!」
床から白い光が立ち上がった。
異形の身体が一瞬だけ硬直する。
「カイ!」
「任せろ!」
カイが剣を振り抜く。
だが、異形の身体には浅い傷しか残らない。
「くそっ!」
セイルが叫ぶ。
「深追いするな!」
「分かってる!」
二人は異形を裂け目から引き離していく。
左側でも、ミナとローディンが同じように戦っていた。
「ミナ、下がれ!」
「分かってる!」
異形の腕が地面を薙ぐ。
二人が左右へ飛ぶ。
ローディンが一気に接近する。
「《聖断》!」
斬撃が異形の身体を捉える。
ミナが杖を掲げる。
「《炎輪》!」
炎の輪が異形を包む。
「今なら!」
炎の輪を縮める。
異形が動きを止めた。
だが、黒い霧が炎を侵食する。
「まだよ!」
ミナは魔法を解除した。
「ローディン!」
「分かっている!」
ローディンが異形を裂け目とは反対側へ誘導する。
「こっちだ!」
異形が追う。
「よし……!」
ミナが息を吐く。
三体すべてが裂け目から離れ始めていた。
「レオ!」
セイルが叫ぶ。
「今ならできる!」
レオが頷く。
「守護者!」
守護者が前へ出る。
レオの鎖と守護者の光が重なる。
白い光の中に、無数の死者の姿が現れた。
『力を貸す』
『境界を守る』
『導いてくれ』
レオは目を閉じる。
「ありがとう」
鎖が一本に集まる。
その先端が、黒い霧の糸へ向く。
「これで……断つ!」
《死者の鎖・境界断ち》
ズガァン!
鎖が霧の糸へ突き刺さった。
黒い文字が一斉に砕ける。
ギギギギギ……!
裂け目が激しく震える。
三体の異形が同時に振り返った。
『……邪魔……』
黒い目が大きく開く。
黒い霧がレオへ向かって一気に流れ込む。
「レオ!」
守護者が前へ出る。
しかしレオは首を横に振った。
「大丈夫だ!」
「……!」
「今度は俺が受ける!」
レオは鎖を自分の周囲へ巻き付ける。
死者たちの力が一斉に集まる。
黒い霧が身体へ触れる。
ズズズ……。
力が吸われていく。
「ぐっ……!」
だが、レオは耐える。
『レオ!』
ガイアの声。
「まだ……!」
黒い霧がさらに濃くなる。
「まだ終わってない!」
鎖が白く輝く。
「俺は……死者の力を奪わせない!」
レオの周囲に無数の死者が現れた。
彼らが鎖を掴む。
一人。
十人。
百人。
死者たちの力がレオへ集まる。
そして――
黒い霧が押し返された。
「今だ!」
守護者が両手を広げる。
白い光が裂け目を覆う。
レオが鎖を引く。
「断てぇぇぇっ!」
バキィィィン!
黒い霧の糸が切れた。
三体の異形が同時に苦しみ始める。
『……ッ……!』
身体から黒い霧が大量に噴き出す。
「成功した!」
エレナが叫ぶ。
だが、異形は消えない。
「まだいる!」
カイが構える。
レオも息を整える。
「……繋がりは切れた」
アシュレイが異形を見る。
「なら、ここからが本当の戦いだ」
三体の異形が、ゆっくりと立ち上がった。
先ほどまでとは違う。
裂け目から力を吸い上げていない。
それでも――
三体とも、まだ戦える。
そして中央の異形が、初めてレオへ真正面から向き直った。
『……喰う……』
レオが鎖を構える。
「今度は、こっちの番だ」
守護者が隣に立つ。
三体の異形も同時に構えた。
地下聖域に、再び激しい戦いの気配が満ちていく。
――第76話・完――




