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死界のネクロマンサー  作者: のんびり小僧
第4章「聖王教会編」
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第75話「境界の向こう側」

巨大な黒い目が、裂け目の奥で瞬いていた。


レオは鎖を握ったまま、その目から視線を外せない。


「……あれは何だ」


ガイアが答える。


『分からない。でも、あの三体とは違う』


「なら、三体を倒せば消えるのか?」


『たぶん……違う』


その瞬間、黒い目がゆっくり動いた。


三体の異形が一斉に反応する。


「来る!」


レオが鎖を構えた。


中央の異形が突進する。


守護者が前へ出る。


ドンッ!


白い光と黒い霧がぶつかった。


守護者の身体が押し込まれる。


「守護者!」


レオが鎖を伸ばす。


《死者の鎖》


異形の腕を捕らえた。


「今だ!」


守護者が力を込める。


黒い霧が押し返される。


しかし、裂け目の奥の黒い目が再び瞬いた。


ドクン。


その瞬間、異形の身体が膨れ上がった。


「何だ……!」


レオが鎖を引く。


異形が鎖を振り払った。


バキィン!


鎖が弾かれる。


「力が増した……」


ヴァルドが険しい表情を浮かべる。


「黒い目が、あの異形へ力を与えている」


「じゃあ、あれを止めないと!」


レオが裂け目へ向かおうとする。


「待て!」


セイルが止めた。


「今、あの裂け目に近づくのは危険だ」


「でも!」


「境界の向こう側へ引き込まれる可能性がある」


レオの足が止まる。


その言葉を聞いた瞬間、三百年前の記録が頭をよぎった。


生者の魂を死界へ引き込む存在。


「……そういうことか」


アシュレイがレオを見る。


「何を理解した?」


「俺たちが門を開く必要がない」


レオが裂け目を見る。


「向こう側から、こっちへ干渉できるなら……」


ヴァルドが続ける。


「境界が薄くなれば、向こう側からこちらへ手を伸ばせる」


「そして、そのために三体が境界を喰っている」


セイルが頷く。


「その通りだ」


右側では、カイとセイルが異形と戦っていた。


「こいつ、また速くなってるぞ!」


カイが斬撃を放つ。


異形が身体を傾けてかわす。


セイルが背後から斬り込む。


「挟む!」


ガキィン!


異形が二人の攻撃を同時に受け止めた。


カイが踏み込む。


「だったら上だ!」


跳躍。


頭上から剣を振り下ろす。


異形が腕を上げる。


ガァン!


剣が腕を捉えた。


カイの足が床へ着く。


「セイル!」


「分かっている!」


セイルが異形の背後へ回る。


「《境界断》!」


白い斬撃が背中を切り裂いた。


異形が大きくよろめく。


「今だ!」


カイが地面を蹴る。


「《裂空斬》!」


ザンッ!


異形の身体が吹き飛ぶ。


だが、倒れた場所は裂け目のすぐそばだった。


黒い霧が異形へ集まっていく。


「まずい!」


セイルが走る。


「裂け目から離せ!」


カイも追う。


二人で異形を押し戻そうとする。


しかし異形の身体から黒い腕が伸びた。


「うわっ!」


カイが飛び退く。


セイルが腕を斬り落とす。


黒い霧が散る。


「こいつ、裂け目に近づくほど強くなる!」


「なら、絶対に近づけさせるな!」


左側では、ミナとローディンが異形を追い込んでいた。


「《炎界》!」


炎の壁が異形を囲む。


ローディンが前へ出る。


「ここから先へは行かせない!」


異形が腕を振る。


ローディンが剣で受け流す。


「ぐっ……!」


ミナが叫ぶ。


「今!」


ローディンが横へ飛ぶ。


炎が一気に収束した。


ドォン!


異形が吹き飛ぶ。


その身体が床を転がる。


「やった!」


ミナが息を吐く。


しかし異形は立ち上がった。


「……まだなの?」


「いや」


ローディンが異形を見つめる。


「動きが鈍くなっている」


確かに、先ほどまでとは違う。


異形の身体から漏れる黒い霧も少なくなっていた。


「なら、もう一度!」


ミナが杖を構える。


その時。


黒い目がこちらを向いた。


ミナの身体が硬直する。


「……え?」


頭の中に、知らない声が響いた。


『……力……』


「誰……?」


『……渡せ……』


ミナの魔力が突然揺らぐ。


「きゃっ!」


ローディンが支える。


「ミナ!」


「今……頭の中に声が……」


ローディンが黒い目を見る。


「声?」


ミナが頷く。


「私の魔力を……渡せって」


レオが振り返る。


「ミナ!」


「大丈夫!」


ミナが杖を握る。


「まだ戦える!」


だが、黒い目が再び瞬いた。


ミナの身体から魔力が抜け始める。


「くっ……!」


杖を落としそうになる。


「ミナ!」


ローディンが支える。


「魔力を吸われている!」


レオが鎖を伸ばす。


だが中央の異形が邪魔をする。


「くそっ!」


守護者が中央の異形を押さえる。


「守護者、頼む!」


レオはミナへ向かって走る。


その瞬間。


裂け目から黒い腕が一本、伸びてきた。


レオの足元を狙う。


「レオ!」


カイが斬り込む。


ザンッ!


黒い腕が切断される。


「こっちは任せろ!」


レオは頷く。


ミナの前へ到着する。


「ガイア!」


『分かってる!』


レオがミナの肩へ手を置く。


「俺の力を少し流す!」


「でも、あなたも……」


「構わない!」


レオの魔力がミナへ流れる。


しかし――


黒い目がレオを見る。


ドクン。


今度はレオの力まで引っ張られた。


「ぐっ……!」


死者たちの声が一斉に響く。


『レオ!』


『力を渡すな!』


『あれに近づけるな!』


レオは歯を食いしばる。


「……そういうことか」


「レオ?」


「こいつは……俺たちの力を奪ってるんじゃない」


レオが黒い目を睨む。


「境界を通して、こっち側から引き出してる」


セイルが叫ぶ。


「ならば、境界を閉じる!」


「まだだ!」


レオが答える。


「閉じたら、あの異形も一緒に消えるかもしれない!」


ヴァルドが目を見開く。


「何だと?」


「こいつらは境界そのものと繋がってる!」


レオは裂け目を見る。


「無理やり閉じたら、何が起こるか分からない!」


アシュレイが静かに頷く。


「黒い守護者が言っていたことと同じだ」


生者か、死者か。


どちらかを犠牲にするだけではない。


今度は、境界そのものをどう扱うか。


レオは鎖を握り締める。


「なら、切り離す」


ガイアが驚く。


『どうやって?』


「こいつらと境界の繋がりだけを断つ」


守護者がレオを見る。


レオも守護者を見る。


「できるか?」


守護者は静かに腕を上げた。


白い光が集まる。


「……やるぞ」


レオの鎖にも力が集まる。


白い光と死者の力が重なっていく。


三体の異形が同時に咆哮した。


裂け目の奥の黒い目が、大きく開く。


そして初めて、その声が地下全体に響いた。


『……邪魔を……するな』


レオは鎖を構えた。


「悪いな」


守護者が隣に立つ。


「ここは、お前の好きにはさせない」


三体の異形が一斉に襲いかかった。


レオたちも迎え撃つ。


戦いは、最も激しい局面へ突入した。


――第75話・完――

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