第74話「喰われる力」
三体の異形が、同時に地面を蹴った。
中央の一体はレオへ。
右の一体はカイへ。
左の一体はミナとローディンへ。
「来るぞ!」
レオが叫ぶ。
守護者が前へ出る。
中央の異形の腕が振り下ろされた。
ガァン!
守護者が受け止める。
しかし、もう一方の腕が横から迫った。
レオが鎖を伸ばす。
《死者の鎖》
ギシッ!
腕を絡め取る。
「今だ!」
守護者が身体を捻り、異形を横へ弾き飛ばした。
ズガン!
異形が壁へ激突する。
だが、黒い霧が一気に広がった。
「まだ動く!」
ガイアが叫ぶ。
レオは鎖を構え直した。
「だったら、何度でも止める!」
中央の異形が立ち上がる。
顔のない頭部がレオへ向く。
『……鍵……』
「その呼び方はやめろ!」
レオが走る。
鎖を地面へ走らせ、異形の足元を狙う。
《死者の鎖・封縛》
鎖が両足へ絡みついた。
「捕まえた!」
レオが引く。
だが――
異形が鎖を掴んだ。
黒い霧が鎖へ流れ込む。
「くっ!」
腕に力が吸い込まれていく。
レオの指先が震える。
『レオ、切って!』
「まだだ!」
『危ない!』
「こいつが何を狙ってるのか、確かめる!」
黒い霧がさらに鎖を伝う。
レオの腕へ。
肩へ。
そして胸元へ。
「ぐっ……!」
視界が一瞬暗くなる。
死者たちの声が遠ざかっていく。
『レオ……』
『聞こえるか……』
『レオ……!』
「やめろ……!」
力が抜けていく。
その瞬間。
守護者が異形へ突進した。
白い光が炸裂する。
ドンッ!
異形の身体が後方へ吹き飛んだ。
鎖から黒い霧が消える。
レオは膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
守護者がレオの前に立つ。
「……助かった」
守護者は振り返り、静かにレオを見る。
その胸の紋章が弱く明滅していた。
レオは気付く。
「……お前も力を使いすぎてる」
守護者は答えない。
ただ、再び異形へ向き直った。
「無理するな」
守護者が一歩前へ出る。
「俺も戦う」
その頃。
カイは右側の異形と激しくぶつかっていた。
「こいつ、さっきより速くなってる!」
剣を振る。
異形が身体を捻ってかわす。
カイが踏み込む。
「《裂空斬》!」
斬撃が異形の肩を切り裂く。
黒い霧が噴き出した。
「よし!」
しかし、異形は傷口から黒い霧を吸い込む。
そして傷が消えていく。
「またかよ!」
カイが舌打ちする。
「なら……吸収する暇を与えなきゃいい!」
連続して斬り込む。
一撃。
二撃。
三撃。
異形が後退する。
カイは追い続ける。
「逃がすか!」
四撃目。
異形が腕で受ける。
ガキィン!
その瞬間、黒い霧が剣へ流れ込んだ。
「なっ……!」
カイの腕から力が抜ける。
「しまった!」
異形がカイの身体を掴もうとする。
「カイ!」
セイルが横から飛び込み、剣を振り抜いた。
黒い腕が弾かれる。
「直接触れさせるな!」
「分かってる!」
カイが距離を取る。
セイルが異形を見据える。
「力を奪うたびに強くなっている」
「じゃあ、どうやって倒す?」
「力を与えずに戦うしかない」
カイが剣を見る。
「……斬撃も駄目か」
「攻撃そのものが問題なのではない」
セイルが答える。
「奴に触れさせるな」
「簡単に言うなよ!」
二人が左右に散る。
異形がカイへ向かう。
その背後からセイルが斬り込む。
ガキィン!
異形が振り返る。
その隙にカイが足元を狙った。
「《地走斬》!」
ザンッ!
異形の足が裂ける。
倒れた。
「今だ!」
カイとセイルが同時に距離を取る。
異形はすぐには立ち上がらなかった。
「……効いてる?」
カイが呟く。
しかし。
ズズズ……。
床の裂け目から黒い霧が流れ込む。
異形が再び立ち上がった。
「嘘だろ……」
一方、ミナとローディンも苦戦していた。
「ミナ、右!」
「分かってる!」
異形の腕をミナが炎で牽制する。
ローディンが横から斬り込む。
「《聖断》!」
光の斬撃が異形の身体を吹き飛ばす。
ミナが続けて魔法を放つ。
「《炎槍・連》!」
炎の槍が何本も飛ぶ。
異形は腕で防ぐ。
炎が黒い霧へ吸い込まれる。
「やっぱり魔力も吸う!」
ミナが歯を食いしばる。
「だったら……」
杖を握り直す。
「直接撃たない」
「何をする?」
「周りを使う!」
ミナが壁へ杖を向ける。
「《炎壁》!」
炎の壁が異形の左右に出現する。
逃げ道が狭まる。
「ローディン!」
「任せろ!」
ローディンが走る。
異形が腕を振る。
ローディンは身体を低くしてかわす。
そのまま懐へ入り込む。
「ここだ!」
剣の柄で異形の胸を突く。
異形がよろめく。
ミナが炎の壁を収束させた。
「今!」
炎が左右から挟み込む。
ドォン!
異形が炎に包まれる。
「どうだ!」
炎が消える。
異形は立っていた。
だが、身体には大きな亀裂が入っている。
「効いてる!」
ミナが声を上げる。
しかし異形の身体から黒い霧が噴き出す。
「……まだ終わってない」
ローディンが剣を構える。
三つの戦場。
三体の異形。
そして地下全体に広がる裂け目。
レオは周囲を見渡した。
「このまま戦ってたら、境界が先に壊れる」
ヴァルドが頷く。
「その通りだ」
「なら、三体を同時に止める」
アシュレイがレオを見る。
「可能なのか?」
「やる」
レオは守護者の隣へ立った。
「俺と守護者で中央を止める」
カイが剣を握る。
「右は俺とセイルがやる」
ミナが頷く。
「左は私とローディン」
レオが全員を見る。
「倒す必要はない」
鎖を構える。
「まず、三体を裂け目から離す」
セイルが頷いた。
「それなら、境界への供給を断てる」
「行くぞ!」
三方向で再び戦闘が始まった。
レオの鎖が中央の異形へ伸びる。
カイとセイルが右の異形を挟む。
ミナとローディンが左の異形を追い込む。
三体が同時に黒い霧を放った。
地下空間が黒く染まる。
そして――
裂け目の奥から、巨大な黒い目が開いた。
レオが振り返る。
「……あれは……」
ガイアの声が震える。
『レオ……』
『あれ、怪物の目じゃない』
黒い目が、ゆっくりとレオを見つめる。
『もっと大きな何かが……こっちを見てる』
――第74話・完――




